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Murder Chronicle  作者: 上田龍象
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KILL00.先天性無痛症



 世界は悪に満ちている。

 だから誰かがそれを打ち消さなければならない。


 …………よく漫画やラノベの主人公、又は父親が言ってそうな言葉。


 俺の親父は正義のヒーローに憧れたが、なりきれずに前述したことを果たせなかった。

 だから俺は、その親父の遺志を受け継いで、正義のヒーローになってみせる!

 くらい言ってそうな言葉。


 だが実際、現実世界にそんなセリフを吐き、正義のヒーローになる人間はそういない。

 いるのは性根が腐った連中ばかりだ。

 手柄を立てるためには目の前で起こっている事故にすら目を向けないクソ警官。

 加害者なのにもかかわらず、被害者に対して裁判を起こし、賠償金を奪い去ろうとするクソ野郎。

 社員たちにセクハラ、パワハラをした挙句、労働基準法違反まで起こしているブラック企業。

 この世界は、そんな人間の恥晒しで満ちている。

 善人なんてひとかけらしかいない。

 それがこの世界の現状だ。

 だからこそ自分は今この瞬間、難病持ちであるにもかかわらず、同じ高校の複数人のチンピラに殴られたり蹴られたりしているのであろう。

 しかもよりにもよって、人目がつかない路地裏で。

 本当なら、ネットとかで調べ上げ、それなりに身に着けた護身術などで対応してもいいのだが、いかんせん面倒くさい。

 じゃあ何のために調べたんだよって話になるが。

 そもそも抵抗する理由があまり見つからない。

 確かにボコられて骨折でもしたらヤバいが、今までで骨折したことはないし。

 抵抗して、この時間が長引くのも嫌だし。

 結論として、早く家に帰って寝たい。

 それが今暴力を受けている奴のセリフか。とか言われそうだな。でも本音だし。

 てか、背中の衝撃すごいな。踵落としでもしてんのかな?

 今自分はうずくまってる状態だから、多分そうなんだろう。

 うずくまっている人間に対して馬乗りになって殴るならまだわかるけど、馬乗りになってない状態で殴るってかなり不自然じゃない? そう考えると踵落とし説、濃厚だよね。

 などと考えているうちに、うずくまっている俺に対しての蹴り系の暴力がやんだ。

 うずくまったまま少し見上げると、そこには息が上がっているチンピラ男子3人が路地裏の壁に寄りかかっていた。

 一人は金髪、もう一人は茶髪、そしてもう一人は銀髪ピアス。

 下校途中で金貸せと絡んできて、断ったとたん路地裏で俺に暴力を加え始めたTHE・不良。

 その3人がこちらを見下ろしながら、肩でぜぇぜぇと息をしていた。

 ちなみに3人とも高校のブレザーをよれよれに着崩していた。ダサい。

「こ、こいつ、こんだけやっても呻き声一つ上げねぇぞ……!」

 不良3人組の一人、銀髪ピアスがありえないものでも見るかのようにこちらを見下ろしていた。

「……そんな、まるで人を化け物を見るような目で見られても困るんですが」

 よいしょ、とおっさん臭い掛け声と共に身体中についた汚れを払いながら立ち上がる。

 すると不良3人がほぼ同時に「ひっ!?」という情けない声を上げた。

 そんなビビり始めた(?)不良たちに、ポケットにしまっていた財布から3万を抜いて差し出す。

「そんなに欲しいなら持ってけば? 1人1万ずつな」

 そう告げて、不良のリーダーっぽい金髪のよれよれブレザーの胸ポケットに3万を押し込む。

 その行動に金髪はしばらく呆けていたが、やがてハッとし、

「め、滅相もございません! 3万なんていらないです!!」

 と胸ポケットに押し込まれた3万を抜いて、こちらに押し返してくる。

「……遠慮しなくてもいいんだぞ? 後々面倒くさくなると嫌だし」

「い、いえ、結構ですっ!? そ、それに今考えれば、圧倒的に俺たちが悪かったですし、ほんと、すみませんでした!!」

 金髪はそう言って頭を下げると、傍らで震えていた茶髪と銀髪を引き連れて逃げるように路地裏から表通りに走り去ってしまった。

「…………やっぱ人間って、不良に限らず自分より弱いと思っていた奴が自分の考えを上回ったりしてると、ビビったり怖がったりしちゃうもんなんだな……」

 悪になりきれていない中途半端な悪。純然たる悪よりよっぽど始末が悪い。


 少年は、半ば呆れに近いような目で、逃げ帰っていった不良たちの後を見つめるのだった。

「……てか、あの不良たち、俺よりも一学年上だったよな……」

 呆れの視線は、より強くなった。

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