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世界の崩壊と人類の希望  作者: しいな
2/2

絶望の世界へようこそ


頭の上でスマホのアラームが鳴る。


学園からマンションまではそんなに遠くないため、七時にアラームが鳴るようにセットしていたのだ。


「んん……起きるか……」


俺は眠い目を擦りながら身体をゆっくりと起こすと、軽く伸びをしてから洗面所に向かっていった。


基本的に朝は何も食べないか、カップ麺で済ませる生活をしている。


だから、仮に寝坊してもあまり遅刻する心配はないのだ。


俺は洗面台に立つと蛇口を捻り、水を出して顔を洗った。


「一人暮らしも意外と慣れたもんだな……」


うがいを済ませ、いつも通りカップ麺を作るためにお湯を沸かしながら着替えた。


カップ麺にお湯を注ぎ、いつもの様にテーブルに持っていき椅子に座るとテレビをつける。


これが俺の日課なようなものだ。


『ただいま街中では大規模な暴動事件が起き、多数の死者や負傷者が発生してる模様です。近隣の方は、直ちに安全な場所に避難してください』


テレビをつけると、すぐさまニュースが飛び込んできた。


最近物騒な事件が立て続きに起きていたから少しずつ慣れていたが、こうまで大規模なものは無かった。


(ほんと物騒な世の中になったよな……)


俺は出来上がったカップ麺の蓋を開けると、ニュースを横目で見ながら勢いよく啜っていくのだった。




「さて……と」


食事を終えるとすぐさまテレビを消し、荷物を持って登校する準備をした。


ニュースでやっていた暴動事件がかなり近い場所なのが少し気にはなったが、学園にさえ入ってしまえば大丈夫だろうと頭の中で片付ける。


ガチャッ、と扉独特の音を立てながら外へ出ると、ちょうど川上と出会った。


「あ、おはよ」


川上がこちらに気づくと、昨日よりかは慣れているのか笑いながら挨拶してくれた。


「ああ、おはよ」


俺は短く返すと、自分の家の鍵を閉めた。


学園に行ってるとはいえ、暴動事件もあり家をもぬけの殻にするのは少し心配だが、鍵をしておけば問題は無いだろう。


「よかったら、一緒に行かない?」


川上がこちらへ近づいてきて問いかけてきた。


昨日たくさん雑談した甲斐あってか、川上自身もだいぶ打ち解けた様子だった。


それ故か、気がつけば敬語が抜けていた。


学園の方も、昨日に続いて今日も身体測定だけの時間割とだいぶ楽なものだったし、お互い体操着だけと手軽な荷物だけだった。


「ああ、いいぞ」


俺はエレベーターのボタンを押してただ待っていた。


嬉しそうな表情を浮かべながら川上は俺の横に立つと、再び話題を振ってきた。


「あっ、そういえば石川くん。今日の朝ごはん何食べた?」


「カップ麺だな」


簡潔に、これ程わかりやすい回答はないだろうというように答えてやると川上は少しムッとした表情をしていた。


「またカップ麺なの?栄養偏りすぎ」


「俺は自炊とかはしないんだ。手軽でいいだろ」


エレベーターで一階まで降りると、そのまま二人で学園へと歩き出した。


しかし本当に今日は外が騒がしい。


救急車やパトカーのサイレンが鳴り響き、どことなく通行人も慌ただしい様子だった。


「そういえば石川くん見た?今朝のニュース」


そんなことを考えていると川上から再び尋ねられた。


「ああ、この近くで発生してる暴動事件のやつか?」


「ほんと怖いよねぇ……早く収まってくれるといいけど」


「そうだな。俺の方まで被害を受けるのはごめんだしな」


ふと時計を確認すると、雑談のし過ぎだったのか歩くペースが遅く下手をすれば遅刻しそうな時間だった。


流石に入学二日目から遅刻をする訳には行かないと思い、少し歩くペースを速めた。






学園に着くと、かなり時間がギリギリだったのか既に大半の生徒が見当たらなかった。


校門前には遅刻者を説教するであろう先生が立っており、時間ギリギリだぞと言うような表情を向けてきた。


「石川くん……速いよ……」


少ししてからヘロヘロになりながら川上が着いてきた。


最初のうちは速めに歩いていたのだが、やはりどうにも時間が気になり始め結局最後には学園にまで走っていたのだ。


川上はなんとか俺についてこようと必死に走っていたものの、やはり段々と差が開き途中から置いてきたのだ。


「別に無理して着いてこなくてもよかったんだぞ?」


「急がないとどっちにしても遅刻してたじゃん!!」


川上はかなり疲労してるようだったが、実際俺に追いつこうと本気で走っていなければ確実に遅刻はしていたと思う。


俺は教室に向かって再び歩き出した。






教室につき、俺は自席に座った。


(川上のやつ、ほんとに前の席だったんだな)


俺は目の前の席に座った川上を見ていると、妙に周りから視線を感じた。


意識を向けてみると、クラスメイト達がヒソヒソと話しているのが聞こえた。


(ふむ……どうやら昨日の行動は失敗だったか)


自己紹介の時に俺だけ名前しか名乗らなかったり、放課後に交流もせずに帰ったりとした行動の数々がどうやら気に入らなかったらしい。


そんなもの、自分の好きにすればいいと思うのだが現実はそう甘くなかったようだ。


そんなことを考えていると、教室に先生が入ってきた。


「皆さんおはようございます。今日は全校で身体測定を行います。それぞれ指定の時間になったら、更衣室で着替えてください。身体測定が終わったあとのことは、また後で伝えます」


先生はそれだけ伝えると、自分の仕事へと戻って行った。


身体測定となると、全校中の先生が持ち場について測定をしている。


「さて……」


俺は自分の体操着を持つと、更衣室へと向かっていった。


登下校は川上と話しながら移動したりすることもできるが、流石に更衣室に異性同士で行くことはできない。


他に話す人もいない俺は、一人で更衣室へ向かうしかなかったのだ。






体操着に着替えると、クラスごとに別れている集合場所に行った。


俺らのクラスはまず最初に視力を測るようだ。


「私目悪いんだよね……」


不意に背後から声をかけられ、少し驚いたが直ぐに声の主がわかった。


「眼鏡をしていないのはコンタクトかなにかか?」


「うん。前は眼鏡だったんだけど、コンタクトの方が色々と楽だからね」


「そういうものか?まあ、一番楽なのは目が悪くならないようにすればいい話なんだけどな」


少し偉そうに言い過ぎたかと思いつつも、適当に会話をしていた。


川上とは何かと気が合うのか、他の奴とは違い普通に話すことができた。


そんなふうに話をしていると、川上の順番がやってきた。


「やだなぁ……」


終始嫌だということしか言っていなかったように思ったが、観念したのか渋々検査を受けに行った。


川上の次は俺だということもあり、俺も直ぐに呼ばれた。






「結果はどうだった……?」


検査を終え、部屋を出ると川上が弱々しく聞いてきた。


この様子だと川上はあまりいい結果ではなかったらしい。


「俺は両方ともA判定だったぞ」


「凄いなぁ……私コンタクト外したら両方ともDだったよ……」


「まあ、視力は矯正できるんだしそこまで落ち込むことは無いんじゃないか?」


あまりにも川上が落ち込んでいるものだから、つい慰めてしまった。


「お母さんに色々言われるんだよー……ゲームのやりすぎだーとか携帯の使いすぎとかって……」


「減らせばいいんじゃないか?」


「それができないの!!」


結局いつも通り意地悪なような会話になったが、川上も普段のテンションに戻ってきたみたいでよかった。


まあ、俺のアドバイスも間違ってはいないと思ったんだけどな。






最初に受ける診断をクラスごとに分けるのはなかなかに良かったらしく、歯科、眼科といったものもすぐに終わった。


俺は何も検査に引っかからなかったが、身長や体重を測る列に並ぶと、どうにも川上がソワソワと落ち着きが無くなっていた。


「トイレなら向こうだぞ?」


「違うよ!!」


俺はこれかと思ったことを聞いてみたが、物の見事に外してしまったらしい。


しかし、それ以外は何も思いつかなかったのだ。


「妙にソワソワしてるが、何かあったか?」


「私女の子だよ……?」


「ふむ……ではあれか、女子だけがなるという……」


「違うしそれ以上は言っちゃダメだよ!!」


唯一思いついたものも速攻で否定され、正直少し困惑していた。


「身体測定で体重測ると、必ずほかの先生にも知られるじゃない……?」


「なんだそんなことか。知られるのが嫌なら痩せておけばいいだろ?」


「石川くん……ほんと平然と言い退けるよね……」


川上はもはや呆れていた様子だった。


別に間違ったことを言っているつもりは無いのだが。


「次の人どうぞ」


身長を測る先生が呼ぶと、川上は観念したように歩いていった。


身長を測った次に体重を測るため、そこまで来てしまうともうすぐなのだ。


川上が身長を測り終えると、俺も自分の身長を測りに行く。


「あっ」


なかなか見ないなと思っていたら、どうやらうちの担任は身長を測っていたようだ。


「あっ、とは何ですか。早くそこに立ってください」


先生は少しムッとした表情を見せた。


俺は先生に怒られる前に測りの前に立つと、先生が身長を測った。


「石川くん176cm……体重の測定に行ってください」


記憶用紙に俺の身長を書き込むと、直ぐに退くよう言われた。


(俺、もしかしたら先生にも嫌われたか?)


俺は体重をの測定をしに列へ並ぶと、既に測り終わった川上が上機嫌な様子でこっちを見ていた。


「石川くんー!」


「あまり俺にばかり話しかけてると変な勘違いされるぞ」


「やましいことなんてないよ!?」


ちょっとした意地悪のつもりだったが、今の一言だけで川上はかなり恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。


「俺は今から体重を測るところだ。もう少し待ってろ」


俺は自分の番が回ってくると、体重計に乗った。


身長とは違い、体重を知られたがる人なんてそうそういないため、こっちの方はわざわざ言われることは無い。


担当の先生が記録用紙に書き込むと、俺は川上の元へ戻った。


「それで、川上はどうだったんだ?」


上機嫌な様子だし、決して悪い結果ではなかったんだろうなとある程度予想しつつ聞いてみた。


「気になる?気になっちゃう?!」


珍しく俺から話しかけたせいか、上機嫌だからかは知らないが妙に川上はテンションが高かった。


「別にそこまででもないな」


「そこは興味持って!入学前よりか痩せてたんだ!!」


川上が嬉しそうに俺にそう言いつつも、さりげなく俺の記録用紙を覗き見ようとしていた。


「そういうのは勝手に見るんじゃなくて聞くものだろ」


「痛っ!?」


記録用紙を軽く丸め、それで川上の頭を叩いてみたが思ったよりも威力はあるようだった。


「まあいい、俺は昔と変わらず平均的といったところだったな」


「カップ麺ばかり食べてるのに平均的……羨ましいっ」


川上が妬ましそうな視線を送ってきたが、俺は気にせず教室へ戻って行った。


先程測ったもので全ての身体測定が終了したため、後は着替えて教室で待機するだけだ。






更衣室で着替えを済ませ、教室へ戻ってくると中には既にクラスメイトが戻ってきていた。


別に遅れた訳でもないが、教室に入った時に視線を向けられる感覚がどうにも好きじゃないのだ。


「全員揃っていますか?」


俺が教室へ戻ると同時位のタイミングで先生も入ってきた。


俺としては今日はこのまま下校という流れが嬉しいのだが、流石にそれはないだろうなと思っていた。


「全員揃っているようなので連絡を始めます。今から皆さんにはひとつの冊子を配ります。中には部活動紹介と活動場所、仮入部の日時が書いてあるのでよく読んでください」


配られてきた冊子には、それぞれの部活動の独特なセンスが詰め込まれているようなものばかり書いてあった。


だが、正直部活動自体入るつもりもない俺からしてみれば必要のないものだった。


「石川くんはどこに入るの?」


前の席の川上が小声で俺に聞いてきた。


別に授業をしているという訳でもないし少しくらい話しても構わないのだろうが、先生がいる空間の中で人と話すことに慣れていない俺は上手く言葉にできていなかった。


とりあえず、後で教えてやるということだけを身振りで伝えた。


「それでは、今日は解散になります。部活動の見学に行く人は自由に行ってください。それ以外の人は気をつけて下校するように」


説明が終わると、相変わらず先生はすぐに職員室へと向かっていってしまった。


仕事はしっかりこなすタイプだとは思うが、一つ一つの時間を無駄にしたくないという感じなのだろう。


「よかったら、一緒に部活見て回らない?」


川上がカバンを持って俺のほうへ寄ってくる。


「残念だが、俺は部活に入るつもりはないんだ」


「えー、勿体ないよ?」


「知らん」


部活動に入って青春を謳歌しようとか、そういったことには全く興味が無いのだ。


そんなことを言っていると、突然携帯が鳴り始めた。


連絡先を交換しているのは親だけだったため、誰から連絡が来たのかはすぐにわかった。


「もしもし、どうかしたのか?」


『どうかしたのかじゃないわよ、あんたの家の近くで物騒な事件が立て続きに起きてるじゃない。大丈夫なの?』


「ちゃんと鍵もかけてきたし大丈夫だよ。万が一何かあっても、学園の中に居れば何とかなるって」


『それならいいんだけどねぇ……』


母さんは少々心配性なところがあるから、ことある事に俺に連絡をくれた。


俺からしてみれば心配のし過ぎだと思う時もあるが、それでも親とこうして会話ができるのは嬉しいことだった。


そんなことを話していると、電話の先から何科が割れる音が聞こえた。


『あなた?また食器割っちゃったの?』


「父さんも元気にしてるか?」


『元気過ぎるわよ。前まで風邪っぽいとか言ってたのに今朝になってから凄い活発になっちゃって。とりあえずあんたも気をつけてね』


「ああ、わかった。父さんにもよろしく伝えといてくれ」


親との貴重な会話の時間が終わると、俺は教室を見渡してみた。


ニュースでもずっと報道しているせいあってか、学園内でも家族と電話をしている生徒は多かった。


「お家の人?」


相変わらず川上は人のことをなんでも知りたがってる様だったが、もはやそれにも慣れてきた。


「ああ、俺の家族だ」


「仲がいいんだね?」


少し羨ましそうに川上は呟いた。


「お前の家族は優しくないのか?」


「ううん、とても優しいよ?でも、お姉ちゃんが厳しい人でね……」


段々と弱々しくなっていくのを聞いて、こいつでもこんなふうになることもあるんだなと思った。


「ま、そういうこともあるさ。でも、いつかは分かり合えるといいな?」


「うん……」


そんなことを話していた、次の刹那――


学園内にいる生徒の携帯電話が全て、大音量で警報が鳴りだした。


「なんだ……?」


誰かひとりの携帯がなる分にはまだしも、クラス全員となると流石に驚いた。


「これ……何……?」


川上が自分の携帯を見ながら、信じられないものを見ているような顔をした。


俺も自分の携帯を取り出すと、その内容を読んでみた。


『警告。警告。先日から立て続きに発生していた暴動事件及び殺人事件は、意図的なものではなくウィルスによってのものであることが判明。また、暴行及び殺害後に被害者がいなくなり、後日加害者となって発見されている場合には何者かによって噛まれ、全身の皮膚が腐敗しているなどの症状がある。空気感染の可能性もまだ不明。大至急、頑丈な建物に避難せよ』


「……なんだよ、これ」


「わからない……」


俺らだけではなく、クラスメイトや学園にいる生徒、更には教員までもが驚いた表情をしていた。


「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」


驚愕で動くことさえできていなかった俺らを他所に、校庭から悲鳴が上がってきた。


俺は急いで窓から外を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「……嘘……だろ……?」


校庭を見ると、悲鳴をあげたと思われる女子が返り血を浴びていた。


そしてその先に、部活動で練習をしていたであろう先輩同士が、お互いに『喰い合っていた』。


昨日や今日の朝は、こんなことを考えていただろうか?


俺はただ、普通に勉強してここを卒業し、普通に生きていく。


ただそんなことを望んでいたのだ。


だが、それも叶わない。


学園の外は、車が衝突し、人が喰われ、路上は血痕まみれで、人が人を殺していく。


目の前にただ広がっていたのは――








――絶望の世界だった。

第二話を読んでくださりありがとうございます。

しいなです。


世界の崩壊と人類の希望を今まで書いていたところまでリメイクしつつ、そこからオリジナルにするというふうに考えているのですが、これが思ったよりも難しいと思いました。


ですが、リメイクしつつも書きあげるつもりですので、最後までお付き合いくださると幸いです。


これからもよろしくお願いします。


それでは、また次回をお楽しみに。

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