表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の崩壊と人類の希望  作者: しいな
1/2

学園へようこそ

普段から人間は、ただ何気無い日常を過ごしている。


望んだ物はすぐに買うことができ、やりたいと思った事をすぐにすることができる。


これが我々にとっては「当たり前」というものなのだ。


だからこそ、「当たり前」は失ってからこそ、そのものの大きさを知ることが出来るのだ。






桜が咲き乱れ、春を実感することができるこの頃。


春といえば青春の始まり。


そして今日は、私立未来ヶ丘学園の入学式だ。


「少し早く着いたけど、遅刻するよりかはマシかぁ」


校門の前で軽く伸びをし、そのままの足取りで門をくぐる。


入学式が始まる時間の三十分も前に学園に着いたが、初日から遅刻をして笑い者になるよりかはいいだろう。


「にしても、ほんと綺麗に咲いたよなぁ……」


俺は後ろを振り返ると、一面に咲き乱れた桜を見た。


普段はあまり外の景色を気にしたりはしないのだが、今年は特に綺麗に咲いていると思う。


だからこそ、余計に目を引かれるものだった。


「おっと……入学初日から校庭でぼーっとしてっと変な人みたいに見られるか」


ふと我に返ると、ほかの人に見られる前に俺は教室へと向かうことにした。






下駄箱へ行き、上履きに履き替えると自分のクラスが発表されている張り紙を見た。


入学式の時の定番ではあるが、前に同じ学校だった人と同じクラスになれたかなとか、知ってる人がいるかなと探したりするものだ。


が、生憎と俺はあまり人と絡まないタイプだったため自分の名前を見つけるとすぐさまその教室へと向かっていった。


「ぼっちだとこういうところが楽でいいよな……いいのかわからないが……」


学園内は割とわかりやすい構造をしていて、教室までは迷わずに行くことができた。


それこそ、学校によって違うが中には校舎内の構造が迷宮のようなところもある。


俺は別に方向音痴というわけでもないが、初めて来た学校に迷わずに行けるかとなると実際自信をもってはいと答えられたものではない。






教室に着くと、俺を含めて教室内には四人いた。


軽く視線を巡らせてみると、勉強熱心な眼鏡をかけた青年、やんちゃそうなロングヘアの茶髪女子。


さらには凄く大人に見える大柄の男子と、逆に中学生に見えるような男子がいた。


あまり人を見ためで判断すること自体はいいこととは言えないが、やはり入学式の日となると細かいところも気になってくるものだ。


俺は陰キャと呼ばれるような属性でもないが、かといってリーダーシップを発揮するような陽キャでもない。


ただ普通にクラスで勉学に励み、卒業さえできればそれでいいと思っていた。


(早く入学式始まらないかな……)


俺はほかのクラスメイトと話すことなく、自席に座るとただ時計を眺めていたのだった。






二十分くらいたった頃だろうか。


気が付けばクラスは生徒で埋まってきていた。


うちのクラスは丁度四十人。


そのうち十八人が男子という感じだ。


うちの学園は割と珍しく、女子のほうが合格人数が多い形式だ。


やや男子に厳しいところもあるが、それでも俺が合格できたのは自分の実力が高かったからだと考えておこう。






予鈴のチャイムが鳴り、生徒は皆自席に座った。


しばらくすると教室の扉が開き、担任が入ってきた。

担任の先生は女性だった。


「今日からこのクラスの担任になりました、川上滴(かわかみしずく)です。今年一年間よろしくお願いします」


黒髪のロングヘアで、かなりスタイルのいい先生だった。


見た感じは仕事は何でもこなすような、少し厳しそうな人だ。


「今日の予定を伝えておきます。今から皆さんには体育館に行ってもらい、入学式に参加してもらいます。その後は教室に戻り、ホームルームの後本日は下校です」


普段からこんな楽なスケジュールだと俺も嬉しいんだがな、と心の中で思いつつも先生が移動を始めるように言うと、俺は誰かと話すわけでもなく一人で体育館へと向かった。






「……であるからして、我が学園の生徒は……」


どこの学校でもそうだが、校長の話が長過ぎる。


むしろ、よくも飽きずに大人数の前で話すことがあるなと内心呟きながら俺は入学式に参加していた。


定期的にある朝礼とかでは居眠りしてる人もチラホラと見えるものだが、流石に入学式で居眠りをしている人はいなかった。


俺を除いて、だ。


気がつけば校長の長話も終わり、校歌斉唱になった。


あまり音楽が得意ではない俺は、歌詞の書いてあるプリントを凝視しながら全力で口パクをしていた。


(早く終わらねえかなぁ……)


この学園では校歌が四番まである為、なかなか終わらないのだ。


それこそ今は歌詞カードがあるからいいものの、これを暗記するとなるとかなり大変そうだった。


曲が終わり、これで入学式が一通り終わった。


居眠りしていた事もあってあまり体感では長く感じなかった。






「それでは、今から皆さんに自己紹介をしてもらいます」


式が終了すると、俺達は自分のクラスへと戻ってきた。


すると担任から入学初日の関門の一つであるものが言い渡されたのだ。


ここでやる自己紹介では、目立たなすぎると今後ぼっちにされ、逆に目立ちすぎると陽キャ扱いされるかいじめの標的にされかねない。


すなわち、いかに普通に、平凡に自己紹介を済ませるかが鍵になってくるのだ。


(ここは失敗する訳にはいかない……)


俺はなんて言おうかと考えているうちに、ほかのクラスメイトが自己紹介を始めた。


だが、俺にはそれを聞いてる余裕はなかった。


なぜなら、自分の自己紹介を考えなければいけなかったからだ。

頭の中でああでもない、こうでもないと悩みに悩んでいると、気がつけば俺の番まで回ってきていた。


結局まともは打開策は思いつかなかったので、ただ普通にやることにした。


俺は席から立つと自己紹介を始めた。


「俺の名前は石川拓也(いしかわたくや)だ。よろしく頼む」


他の人はネタを盛り込んだり、できるだけ覚えてもらおうと必死にしていたが、俺はそんなことをせずに簡潔に名前だけ言った。


自己紹介の時の周りから注目されるという状況が苦手なため、簡潔に伝えたのは正解だったなと思いつつ自席に着いた。


「それでは、今日の活動はこれで終わりです。明日は身体測定があるので、体操着を忘れずに持ってきてください」


クラスメイト全員が自己紹介を済ませると、先生は明日の連絡を手短に済ませた。


やはり今日は入学式ということあってか、学校自体も終わるのが早かった。


クラス内では解散後もすぐに帰る生徒はあまりおらず、連絡先を交換したりお喋りをしたり、早速学園生活を満喫している様子だった。


(さっさと帰るか……)


俺は誰かと絡んだりせず、気が付かれないように教室を後にした。


そもそも俺は、クラスメイト全員と友達になりたいとかそういう目標を持っている訳でもないし、普通の学園生活を過ごすことが出来ればそれでいい。


だから、わざわざ話しに行ったりとかすることは無かった。






校舎から出て通学路に出ると、相変わらず綺麗に咲いた桜が目に入った。


(朝も思ったけど、今年はまた一段と綺麗に咲いたよな……)


俺は一本の桜の木の下でまじまじと桜を見ていた。


春になると勝手に咲き、そして散っていく。


一年に一度必ず起こるその事柄に目を向けたのは、気がつけば数年ぶりだったようにも感じた。


「桜……好きなんですか?」


俺が桜を見続けていると、不意に背後から声をかけられた。


俺は後ろを振り向くと、そこには白髪のショートヘアな小柄な女の子が立っていた。


「桜、好きなんですか?」


さっきよりもハッキリとした口調で再度問いかけてきた。


「好きかはわからないが、綺麗だとは思う。久しぶりにこんなにじっくり見たしな」


俺は桜の方を横目で見つつ、少女の問いに答えた。


「そうですか……私も好きです」


最初は無表情だった少女が微笑みを浮かべてきた。


どうやら、彼女もまた緊張していたらしい。


「その制服ってことは、お前も俺と同じ学園生か?」


彼女が着ていた制服はうちのものだとひと目でわかったし、リボンの色からして彼女もまた新入生だ。


うちの学園では一年が赤、二年が青、三年が緑色のリボンやネクタイをしている。


「…………」


彼女は驚いたような表情をしながらこっちを見ていた。


「どうした?なにか衝撃的なことでも言ったか?」


俺は固まっている彼女の顔の前で手を振ってみる。


「私……あなたの前の席なんだけど……」


段々と細くなっていく声を聞くと、どうやら覚えられていなかったことに驚いていたらしい。


「す、すまないな……あの時は自分がなんて言おうか必死に考えてて他に気を回せなかったんだ」


俺は彼女に詫びを入れると、彼女はため息をついた。


「まあいいです……私の名前は川上舞です。よろしくお願いします」


すっ、と彼女が手を差し出してきた。


「俺の名前は……」


「石川拓也さん……ですよね?」


俺が名乗ろうとした瞬間、川上は声を重ねてきた。


「あ、ああ……そうだ。よく覚えていたな?」


俺は川上の手を取り握手をした。


いくら俺がほかのクラスメイトの自己紹介を聞いていなかったとはいえ、普通は名前なんて直ぐに覚えられるものだろうか。


俺は川上の記憶力に驚きつつも手を離した。


「みんな覚えてもらおうと必死だったのに、石川くんだけ名前しか言わないからむしろ覚えやすかったんです」


川上は小さく笑いながら歩き始めた。


「私も家、こっちの方向なんです。途中まで一緒に帰りませんか?」


少し距離ができたところで川上はこちらを向き、再び声をかけてきた。


「まあいいが……おまえ家どの辺なんだ?」


「私の家は歩いて十分程のところにあるマンションです。学園に入る時に一人暮らしも始めたんですよ」


俺は川上の隣に並ぶと、軽い雑談をしながら歩き始めた。


「俺も一人暮らしを始めてな、丁度同じ十分くらい歩いたところのマンションに住んでるんだ」


「奇遇ですね。ちゃんとご飯食べてます?」


「自炊はしてないな……ほとんどがコンビニ弁当かカップ麺だ」


「栄養バランス悪いですよ……」


お互いに気があったのか、気がつけばかなり盛り上がっていた。

思えば、俺も誰かとこんな話で盛り上がったのなんていつぶりだろうと思っていた。






「……マジか」


「マジ……みたいですね」


雑談で盛り上がり、気がつけば家の下まで着いた。


俺らはまた明日話そうと言いながら別れを済ませると、マンションに入ろうとした。


その時だった。


俺のマンションは三十階まであり、一つのフロアに二部屋あるといった構造だ。


「ま、まあ……偶然ってすごいな……?」


「そうですね……」


そう、何にここまで驚いているのか。


俺と川上は同じマンションだったのだ。


「まあ、この辺一軒家が多いし徒歩十分でマンションって言ったらここしかないけどな……」


川上が言っていたことをふと思い出していた。


『私の家は歩いて十分程のところにあるマンションです。学園に入る時に一人暮らしも始めたんですよ』


完全に条件が当てはまっていたのだ。


「じゃあ……俺十七階だからここで……」


俺は一足先にエレベーターに乗ろうとした。

だが、ここで再びふと思い出す。


つい最近、俺のお隣さんも引っ越してきた人だった。


そしてその人は学生であり、一人暮らしをしているようだった。


「なあ川上、お前……十七階ってことは無いか……?」


俺はやや小さな声で川上に尋ねてみた。


さすがにそんな偶然が重なることは無いだろうと内心思いつつも、もしかしたらと思う部分もあったのだ。


「……十七階です」


そして、その予想は呆気なく正解してしまった。






エレベーターで十七階まで上がると、俺らは軽く別れを済ませ自宅へと入っていった。


(こんな偶然が重なることもあるんだな……)


入学式だけで今日は楽に終わるだろうと勝手に想像していたが、何故か凄い疲労感を感じていた。


同じ学園生で、クラスメイトがお隣さんなんてそうそうないだろと思いつつ俺はベッドに横になると、午後になったばかりではあったがそのまま眠りについてしまった。






(緊張した……)


自宅に戻ると、しばらく私は玄関から動けずにいた。


まさか後ろの席の男子が隣で同じ一人暮らしをしている人だなんて思わなかった。


(明日からも仲良くできるといいな……)


私は頭の片隅でそう思いながら、今日済ませておくべき家事に取り掛かった。


炊事に洗濯に食器の洗い物……学生とはいえ一人暮らしをするなら全て自分でやらなければいけない。


引っ越してきた時は少し不安だったが、意外とやれば出来るものだと思っていた。


『自炊はしてないな……ほとんどがコンビニ弁当かカップ麺だ』


晩御飯の準備をしつつ、石川くんの言葉を思い出していた。


(いつか、おすそ分けを持っていってもいいかもしれないですね)


私はこれからの学園生活が楽しくなればいいなと思いつつ調理を続けていた。






「んっ……」


しばらくして俺は目を覚ますと、ゆっくりと身体を起こした。


窓の外を見ると既にあたりは暗くなっていて、かなりの時間昼寝をしていたことを理解した。


「飯食うか……」


俺はキッチンの方へ向かうと、やかんに水を入れ火にかけ、戸棚を開けてカップ麺を取り出しフタを開けてお湯が沸くのを待っていた。


一人暮らしを始める前までは母親が毎食作ってくれていたが、それも今では自分でやらなければいけないのだ。


こうして自分で全てやらなければいけない状況になると、今までどれほど親に苦労をかけてきたかが身に染みてわかるものだ。


そんなことを考えていると、やかんから湯気が出てきた。


俺は火を止めカップ麺にお湯を注ぎ、それをテーブルまで持っていくとテレビをつけて椅子に座った。


テレビではちょうどニュースをやっていた。


『次のニュースです。本日、車同時で衝突するという事故が発生しました』


最近ニュースではよく物騒なものがある。


治安が悪いとかそういうことはよく分からないが、前よりも物騒な事件が増えた気がしていた。


『衝突したのは軽自動車とワゴン車で、軽自動車の方は軽傷。ですが、ワゴン車の車内は血痕が多く、また運転手は事故の後に逃走した模様です』


これで何件目だろうか。

最近では事故にあったりした人が居なくなったりしていることが多く、当事者がわからないということが続いていた。


「物騒な世の中になったよな……」


あまりそういった話は好きではなかった。

だから俺は、テレビを消し静かになった空間の中でただ一人カップ麺をすすり始めた。






『しかし、本当に事件や事故が相次ぎますよね』


『そうですね。事件に関しては最近は暴行事件や殺人事件もあります。今一度身の回りの安全を確認するなど対策をすることも大切かもしれませんね』


『……ここで速報です。ショッピングモール内で大規模な暴行事件が発生しています。付近にいる方は至急、避難してください』


ここ最近では、一番のニュースだっただろう。


だが、この時はまだニュースを見たものでさえ知らないだろう。


このニュースの映像に、血塗れになり動く人間が多数いたことを。


そして、その人間達が、世界を壊していくということを……

どうも皆さん、しいなです。

この度は私の小説を読んで下さり、ありがとうございます。

この作品は、元々自分で書いていたものを一から書き直し、最後まで書き切ってみようとしたものです。


これから頑張っていきますので、応援していただけると幸いです。

どうか最後まで、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ