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第一章④ 捨てる神あれば拾う神あり

 その日の昼休み。国語や数学といった通常授業を受け、ようやく待ちに待った昼食タイムが訪れた。空腹なのではなくて、単にこの教室から抜け出して一服できる時間という意味で待ち侘びていたのだ。

 柳生の言ったような質問攻めなど一切なく、むしろ誰も近寄りさえしてくれなかった。HR時あれほど突っかかってきた宝島でさえ目も合わせてくれない。悲しい。


(そりゃそうだよなあ……。名の通ったワルが転校してきたみたいなもんだし、君子危うきに近寄らず状態になるのは仕方ないか)


 そう理解しているものの、柳生の的外れな期待値上げのせいで余計落ち込んでしまう。

 この際仕方のないことだと割り切り、護国寺は自作のお弁当を手に居辛い教室から抜け出そうとする。


「へい転校生! 俺らとよかったら飯食いながら駄弁らねえ?」


 その脚を止める声があった。

 声の主は今朝護国寺と宝島とのやり取りに口を挟んでくれた男子生徒と、その傍らに優等生っぽい生徒が立っていた。


 もしや自分に声をかけてきたのか? 突然のことに戸惑っていると、ツーブロックの少年が軽い調子で笑いかけてくる。


「そうお前だよお前、護国寺クン。ああそうか俺らの名前が分かんねえのか。俺は嵐山匠。んでこのほそっこいのが奥村アキラ。まあこれからよろしく頼むわ」

「……ああ。こちらこそよろしく」


 待て待て何感極まっているのだ護国寺直斗。良い意味で期待を裏切られたからといって涙ぐむ奴があるか。

 しかし歓迎されていないと思って(というか事実されていない)ばかりいたが、捨てる神あれば拾う神あり、ということだろうか。サンキュー神様。


 その後二人に連れられて屋上へと向かった。扉は施錠されておらず誰でも出入り可能なようだった。前の学校では屋上は固く閉ざされていたから新鮮である。


「おお……!」


 思わず感嘆の息を漏らす。市街を一望できるこの場所からの景色は圧巻と言わざるを得ない。解放感が凄まじい。夜になれば生活の光で溢れ、より美しく映えることだろう。

 どうですか? と奥村が感想を求めてくるので、護国寺は率直な答えを述べた。


「凄いな……。元いたとこじゃとてもお目にかかれない景色だ」

「だろう? 夏休みになったらここで皆と花火を見るのが恒例らしいぜ。すっげえらしいマジで! 俺も今年初めて見るから待ち遠しくてよー」

「……? 去年は見なかったのか?」


 嵐山は今二年生だから、去年も花火を見ることができたはずだ。ちょっとした引っ掛かりを反射的に尋ねてしまう。

 誰かが持ち込んだのだろう、ブロックで固定されているブルーシートの上に座り込み、コンビニ袋の中身を広げつつ嵐山は答えた。


「ん? おおそれな。俺も去年の十月頃から転校してきたんだよ。護国寺と一緒」

「そうだったのか。奥村は?」

「僕はずっとゲンレイ用の学校に通ってるよ。生まれつき言霊を宿していたからね。僕みたいな人はそうそういないけど」


 へえ、と相槌を打つ。今まで護国寺が言霊関係に疎かっただけで、実はそれなりにゲンレイの受け入れ体制は整いつつあるらしい。専用でなくとも地域の小・中学校と提携したり、プライバシーを守る活動も進められているようである。

 三者三様の昼食を摂っていると、思い出した風に嵐山が切り出した。


「そういや、今朝は災難だったなー。オトヒメに絡まれるなんてさ」

「気を悪くしないでくださいね? 彼女、ああ見えて生真面目な性格で」

「ああ何となく分かってたよ……」


 言われて、ふっと当時のことを思い返す。

 初対面の人への態度としては失礼な部類に当たるのだろうが、何もかも諸手を上げて歓迎しろとはとても言えない。人として許されざる行いをしたことは非難されて当たり前なのだ。どうしたって偏見は生じてしまう。


 それに関しては本当に仕方ないものと割り切っている。いずれはきちんと分かり合いたいとは思うけれど、今慌てて動いても好印象を持たれることはないだろう。

 どころか護国寺は宝島のことを素直に尊敬していた。凶悪犯かもしれない相手に向かって堂々と啖呵を切るその姿は凛々しく、若干見惚れてしまったほどだ。……詰め寄る言動に容赦がなくて恐怖を覚えたのも確かだが。


「彼女……宝島さんはどういう人なんだ? 真面目だってことは分かったけど」


 だから尊敬できる人を少しでも知りたいと思ったのは、ごく自然な欲求なのだろう。気付けばそう問いかけていた。

 そうですね、と奥村が顎に手を添えて、


「一言で片づけるなら『ゲンレイの模範生』、でしょうかね」

「? 人としてじゃなくて?」

「あの物怖じしない度胸は確かに美点ですけど、僕としては色んなゲンレイの見本となってほしい人です。……護国寺くん、この学校は何のためにあると思いますか?」


 思いがけない問いかけに一瞬詰まるも、護国寺は聞いた通りの言葉をそのまま声に出す。


「言霊の正しい使い方と使い道を学ぶ場所、だろ?」

「その通り。一つ付け加えるなら、将来的に世間に対するゲンレイのイメージアップを図るためでもあります」


 ??? と護国寺と嵐山が揃って首を傾げる。奥村は苦笑を浮かべながら説明を続ける。


「コトノハ高校卒業生の中で、一定の水準を満たし希望した生徒だけ国家組織に入ることができるんですよ。ゲンレイだけによって構成された特殊部隊、とでも言いましょうか」

「ゲンレイだけの……」

「なんか中二っぽいよな? な?」


 嵐山が同意を求めてくる。分からないでもない。

 ごほん、と奥村が咳払い一つで脱線しかけた話を元へと戻す。


「その部隊は凶悪犯罪に手を染めるゲンレイたちに対抗する目的と、功績を積み上げゲンレイの印象を良くする目的とがあります。広告塔みたいなものですか」

「客寄せパンダっぽくて気に食わねえけどなあ。なあ?」

「嵐山くんさっきから話の腰折ろうとするのやめてもらえません? ていうかわざとやってるでしょう」


 ウガーッと嵐山を掴みかかる奥村。今度こそ話が逸れてしまった間に、護国寺は自分なりに話をまとめてみることにした。


(話の流れからすると、要するに宝島さんはゲンレイの顔となって世間の印象を良くしようと動いている、ってことだろうな。それなら他の奴らにも見習ってほしいってのと合致するし)


 彼女ならルックスも秀でているし、国が広告塔を置くなら宝島を推していく可能性だってある。出会ってほんの僅かだが、それでも彼女には向いている役割だと思った。本人がそれを望むのならなおさら。

 その後もつい話が弾んでしまい、談笑は予鈴の音がなるまで続いた。


「おっともうこんな時間か。あ、そだ護国寺、アドレス交換しとこうぜ。学校からPDA貰ってんだろ?」


 そう言って彼は通信端末を取り出して赤外線ポートを向けてくる。それに対し護国寺は申し訳なさそうに肩を落とし、


「悪いけど……、まだPDAが届いてなくてさ。明日届くらしいからそのときでもいいか?」

「また柳生先生がミスったんですかねぇ。良い人ですけど、稀に、よく凡ミスしますからね」


 稀なのか頻繁になのか、多分後者だろう。前者は奥村なりの気遣いに違いない。


 苦難ばかりと思っていた転校先での生活も案外、何とかなるのではないかと思えてきた。

 屋上へと上がる前と去った後とでは、護国寺の心情は大きく変化していたのであった。



初バトルまでもう少し!

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