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第二章⑧ 出会いは常にマイナススタート


「お前が護国寺直斗か。柳生先生から話は聞いている」


 出会って開口一番、護国寺は若干ならぬ敵意を滲ませた挨拶を受けた。

 護国寺と宝島は午前中に授業を切り上げて、十三時から『課外実習』のため外へと出ていた。ちょっとしたサボりみたいで気分が高揚する。


 約束通り商店街の手前で待っていた三年生――芦原(あしはら)(だい)()と合流したところ、先述のセリフを吐かれたというわけだ。


(それにしても俺の第一印象最悪じゃないか?)


 今となっては昔のことのようだが、転校初日の宝島らクラスメイトの評価は悪かった。仕方ないこととはいえやはり傷付く。

 僅かに心にダメージを負った護国寺に代わり、宝島が一歩前へと出て頭を下げる。


「こうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてですね。私は宝島乙姫って言います。こっちの彼は……もうご存知のようですから割愛します」

「ああ、知っているとも。二年が誇る秀才ちゃんに、言霊を制御できない未熟者だろ?」


 葦原が下級生二人を交互に見ながら言った。護国寺だけでなく宝島に対しても不満の色を含んでいるようだった。

 平日の昼間とはいえ人通りの多い商店街。それだけに学生服姿の三人の姿は浮いている。それもコトノハ高校の生徒となれば人は避けて通る。居心地の悪さを感じていると、葦原が苛立った様子で言う。


「……とにかく、俺から言えるのはただ一つ。俺の邪魔をしないでくれ。二年のお守りなんて真っ平なんだ」

「はあ……?」

「俺からお前らに手解きすることなんて何一つないし、目で見て盗めと言うつもりもない。俺の言いたいことが分かるか?」

「はい(はい?)」


 有無を言わさぬ強めの口調につい頷いてしまう護国寺。実際は何のことかまるで分かっていないのに。

 そんな彼の表情を見て、宝島は静かに息を吐いて補足する。


「つまり、『俺は一人で行動するからお前らも勝手に動け』ってことですよね?」

「そうだ。そっちの方が断然効率が良いに決まってる。俺は煩わしさから解放されて、お前らは素人なりに聞き込みができるしな」


 要は護国寺たちと一緒にいたくないとのことだ。幼馴染がこれを言えば「一緒にいるとこを見られて誤解されたくないし……」と可愛げも生まれるかもしれないが、会って間もない人に言われると普通に傷付く。

 宝島は大して熱の籠っていない反論をする。


「だけど、『無気力病』の黒幕は『松』ランクの可能性があるって話ですよ? もしも取り押さえるって場面になったら、先輩一人でできるんですか?」

「はっ。そうなる前にちゃんと作戦練って包囲網を敷くさ。だいたい世界中のどこにいるかも分からない奴が、俺たちの捜査範囲にいるわけがないだろ。今回の案件は規模が違うが、即ち学生身分がどうこうできる範疇を越えてるとも言える。手がかりの一つ見つけただけでも表彰ものだろう」


 葦原の言う通り、『無気力病』は世界中で発症している。ゲンレイは日本にしかいないとはいえど、渡航している可能性だって充分ある。仮に日本にいたとしてもコトノハ高校周辺にいる確率はかなり低い。

 好意的に解釈すれば「だから力む必要なんてない」というツンデレ風先輩の出来上がりだが、現実はそう可愛くできていない。精々「徒労ご苦労様」くらいにしか思っていないだろう。似たようなことを言っていた柳生とはまったく意図が違うのだ。


 じゃあな、と葦原は呼び止めにも答えず雑踏の中へと消えて行った。

 ぽつん、と残された護国寺と宝島。彼は気を取り直す意味を込めて溌剌とした声を出す。


「さ、さあっ! 今日から気合入れていこうか! 早速捜査開始だっ!」

「……まずは何からするの? 護国寺刑事」

「へ? そ、そりゃあもちろん……聞き込みだ。捜査の基本は足を使うことってドラマで言ってたし」

「ほー。んで? どこの誰に聞き込みをするのかしらん?」

「…………。なあ、ひょっとして俺を虐めてないか?」


 バレたか、と宝島が舌を出した。葦原から雑にあしらわれたことに気分を害したのでは、と考えていたがどうやら杞憂のようである。

 彼女は軽くストレッチをしながら口を開く。


「にしても噂通りの人ね、葦原先輩。出世欲が強くて、それを脅かす人には冷たく当たる……。私はともかくあなたはコトノハでも随一のゲンレイだから、強く警戒してるんでしょうね」

「そういうことか……」


 道理で宝島にも冷たく接するわけだ。【十字砲火】という攻撃的な言霊に加え、正義心が強く模範的な生活を送っている。しかも容姿も良いとなれば将来ゲンレイのイメージアップ戦略に引っ張りだこになるかもしれない。国家機関に属すれば彼女は瞬く間に上へと駆け上がっていくことだろう。


「でもよかったのか? 葦原さん一人で行かせて。危険なんじゃ……」

「うーん、それは私もちょっと思ったけど、説得したところで受け入れてもらえるとは思えないし、いきなり犯人に行きつくなんてまず考えられないからねぇ。それにあの人、三年の中じゃかなり強いって聞くし、まあ何とかなるでしょう」


 アキレス腱を伸ばし終えた彼女は、よしと呟いて背筋をピンと伸ばした。引き締まった腰に手を当てて、護国寺の方を改めて見やる。


「さて。それじゃあ私たちも動くとしましょうか」


 そう意気込む彼女を前に、護国寺はきょとんとした顔になる。


「……え? 宝島も『課外実習』は初めてなんだよな? なのに何をすべきか分かってんの?」

「もちろん。まずは『無気力病』の被害者たちの関係者を当たるつもり。被害者本人は喋れるかどうか怪しいっぽいし、発病前後に変わったことがなかったかを周囲の人に聞き込みするのよ」


 黒幕が直接介入してきたのなら、家族や友人などの近しい人たちが目撃しているかもしれない。そこから同じ目撃情報が複数重なればその人物こそが黒幕である可能性が高くなる。

 はえー、と舌を丸くする護国寺。心なしか宝島の背中が大きく見える。


「とりあえず前もってPDAに送ってもらっていた事前情報を見ながら、近場にある病院を巡りましょう。警戒されると拙いから関係者を装ってね」


 言って、彼女は意気込んだ様子で前へと歩き出した。



見たことないんですが、PDAってどういう代物なんでしょうか?

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