【0006】ヨシロウ 0005
スーパーからヨシロウのマンションまでは、徒歩で五分ほどの道のりだった。
ポケットから鍵を取り出した彼はトモミに微笑み掛ける。
「でもまぁ、そこはキャバクラでもまだ良心的な値段なんだよ」
靴を脱ぎながらヨシロウは話を続ける。
いくら良心的なキャバクラだとしても、二人で飲むなら最低でも三万以上は掛かっているのではないか、とトモミは考える。
そして指名料もヨシロウ持ちだとして、それ以外の女の子たちの飲んだ分なども……そこまで想像して、トモミは背筋が寒くなった。
「それでさ、タクシーに乗って、料金を払おうとした時に財布がないことに気付いたんだ」という、ヨシロウの気落ちしたような声。
「え……じゃあタクシー代はどうしたんですか?」
「カードは別にしていたんだよ。だからその時はカードで支払った。それもなかったら路頭に迷っていたかもしれないなぁ」
少し大袈裟な言い方をしてヨシロウは力なく笑う。でもトモミにはどうしても笑えなかった
「警察には届けたんですか?」と、トモミはもう一度問い掛けた。
彼女にとって一番気掛かりなことであり、彼にとっても重大なことであるはずなのに話が回りくどい。
「まずはキャバクラに電話したんだ」
ヨシロウは買って来たビールを一本袋から取り出すと、刺身のパックと一緒に雲形テーブルの上に並べた。
「醤油が付いてないな……悪いけど持って来てくれる?」
ヨシロウのマンションは玄関を入るとすぐに十二畳ほどの部屋になっており、奥の方に狭いキッチンとバス、トイレなどがついている1Kだった。
トモミはやきもきしながらキッチンへ向かい、醤油と小皿と箸を持って来る。
ほんの数歩の距離を往復している間に、ヨシロウはローソファに腰を下ろし、刺身のパックを開けていた。