【0004】ヨシロウ 0003
彼に渡した電気代のことは、しばらくすると忘れていた。
思い出したのは三ヶ月ほど経った後、ヨシロウが「財布を落とした」と言った時だった。
その週末はヨシロウの部屋で過ごしていた。
「たまには部屋で映画を観て過ごすのもいいんじゃないか」というヨシロウの提案でDVDをレンタルし、スーパーで夕食の買い物をしていた。
その途中で彼が「お金、立て替えてもらってもいいかな」と言い出したのだ。
DVDのレンタル代はヨシロウが払っていたので、トモミは少し不思議に思いながら「大丈夫ですよ」とこたえた。
トモミは、自分の食べたいものが作れる程度での腕前はある。
その日の夕飯を作るのはトモミだったので、最初から自分でお金を出すつもりだった。だからわざわざ断られなくても……と考えていた。
予定メニューは、豚肉の生姜焼きと総菜のポテトサラダ、豆腐と葱の味噌汁。それからヨシロウの酒の肴の刺身と、スナックなどをカゴに入れた。
朝食用のパンや牛乳、ビール数本を一緒に買っても数千円で済む。
「ごめん、これもいい?」とヨシロウがウィスキーの小瓶を持って来た時も、彼の好きな銘柄を知れたことが嬉しいと思っていた。
会計を済ませて二人で荷物を袋に詰めている時トモミは、夫婦とはこんな感じなのかも知れないと考えた。外食するような生活がいつまでも続けられるとは思わない。ならば、こんな付き合いもいいかも知れない……
そう考えながら最後に食パンを袋に入れていると、ヨシロウが突然「実は昨日、財布を落としちゃってさぁ……」と、ぼそぼそした声で話し始めたのだ。
「え、大丈夫でした?」
トモミは驚いてヨシロウの横顔を見上げる。
ヨシロウは周囲を気にしたのか、「歩きながら話そうか」と、店外へ出た。




