【0013】ヨシロウ 0012
「あの、ごめんなさい。ヨシロウさん」
キッチンから顔を出したトモミをきょとんとした顔で見返したヨシロウは、「どうしたの? 使い方わからない?」と問う。
「いえ、そうじゃなくて……わたし、ご飯のことを忘れてて」
「ご飯?」
ヨシロウは首を傾げ、少ししてから「ああ! 別に、俺はいらないから大丈夫だよ」と笑ってテレビに視線を戻した。
トモミは困惑する。
だって、メニューは生姜焼きと味噌汁なのだ。白米がついていないとおかしいのではないか――自分自身も失念していたが、改めて考えれば普通は白米が付くだろうし、トモミもできれば生姜焼きは白米で食べたかった。
調理に戻ろうとしないトモミに気付いたヨシロウは、「ひょっとしてトモが食べたいの?」と、目をしばたたかせる。
「絶対じゃないけど、あった方がいいかな、って……」
機嫌を窺うような口調でトモミがこたえると、「じゃあ炊けばいいんじゃない」と、ヨシロウはあっさり返事をした。
「それじゃ――」
「でも、しばらく放置してたから、洗わないといけないかも」
「え……」
ヨシロウは言うべきことは言ったという様子で、またテレビに視線を戻し缶を傾ける。トモミは困惑したままキッチンに引っ込み、奥の丸椅子の上に乗せられている小さな炊飯器の蓋を開けた。
「うわ……」と思わず小さく声をあげる。
テレビの音が割と大きめだったため、ヨシロウには聞こえていなかったと思うが、トモミは背後をふり返って息をひそめた。
カラカラに乾き切った米粒の欠片のようなものが、炊飯器の釜の内側についたままだった。
予想していた最悪の自体ではなかったが、しばらく水に浸け置かないと洗うこともできない。ご飯は諦めよう――釜と内蓋をシンクに下ろしながら、トモミはため息をついた。