【0012】ヨシロウ 0011
「それより、ビール飲まないの?」
喋り終わってスッキリしたという様子で、ヨシロウは再度ビールを勧める。
トモミは先ほど彼が缶を飲み干したことを思い出し、冷蔵庫から新しい缶を取って来た。
「あ、ありがとう……トモは飲まないの?」
空の缶を代わりに手渡しながらヨシロウは問う。トモミは小さく微笑んだ。
「ごはん、作ってからにしようかと思って」
「そうか……俺はじゃあテレビ観ながら待ってるね」
ヨシロウはプルタブを引き上げながらうなずいた。
トモミはどこかほっとしたような気持ちになりながら、キッチンへ向かった。
ヨシロウも料理をするらしいが、マンションについているキッチンでは満足なものは作れないと言っていたことがある。
単身者用の部屋だからか、IHクッキングヒーターは一応二口あるものの幅が狭く、グリルも切り身魚を二匹並べるのがせいぜいという大きさだった。
ほとんど正方形のシンクと、それよりも幅の狭い調理台。調理台の奥にはセットで購入したらしい包丁スタンドが陣取っている。
トモミは調理の手順を考えた。
クッキングヒーターにはフライパンと片手鍋を並べて置けるようなスペースがないのだ。先に味噌汁を作って、それを奥に避けておき、生姜焼きを作ってから味噌汁を温め直すのが最善だろう。
さて取り掛かるか、と冷蔵庫から豚肉のパックを取り出した時、ふと小さな炊飯器が目に入った。
「やだ、ご飯のこと忘れてた」
ヨシロウはお酒を飲むため、外食時はほとんど白米を食べず――定食やコースの場合は食べるが――買い物中にもひと言も触れられなかったため、トモミもうっかり失念していたのだ。
これから米を洗って給水させ、炊飯すると、食べられるのは早くとも一時間以上後になってしまう。
トモミの顔から血の気が引いた。