【0010】ヨシロウ 0009
「大変だったんですね」と、トモミはヨシロウを気遣った。
「まあね……参ったのはさ、この週末で電気代とかガス代とか払おうと思ってたんだけど、できなくなっちゃったってことでさ」
「あぁ、それで多めに下ろしたんですね」
トモミがうなずくと、彼はため息をついた。
「そうなんだよ……食べる物はカードや社食を使えばどうにかなるけど」
彼の会社の社食は、会計時に社員カードを読みとって給料から天引きする方法も取れるらしい。
「便利なんですねぇ」
「そんなに大きい会社じゃないけど、こういうところは助かってるよ」とヨシロウもようやく笑顔になる。
「でもさ」と、ヨシロウは箸を止めた。
「公共料金は現金じゃないといけないから……どうしようかと悩んでるんだ」
トモミは首を傾げる。給料の半額を引き出したとしても、まだ口座には残高があるはずだ。何を悩むことがあるのだろう。
ヨシロウはトモミの表情を読んだように「実はね」と肩をすくめた。
「口座には、引き落とし分くらいしか残してなかったんだ。ここの家賃とか携帯電話代とか」
「あぁ……そうなんですか」と相槌を打ったが、ピンと来なかった。
入社一年目のトモミの給料は二十万円台の前半で、手取りはもう少し少なくなる。そこから家賃や携帯電話、公共料金を引くと確かに口座には半分ほどしか残らないが、それでも引き落とされる金額は十万程度だった。
ヨシロウは今の会社に入って五年目だと聞いていたが、営業職であり業績によって成果報酬も付くということなので、少なく見積もっても三十万円以上の手取りになるのではないかと考えていたのだ。
それくらいでなければ、毎週車を出してデートで外食したり、ホテル代まで持ったりするような余裕はないだろう。




