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第二王子と幼なじみ  作者: みあ
本編
7/20

6.次の一手は強引で

「どうして、リックさまがいらっしゃるのでしょう……」

 その日、マリアベルは愕然と立ち尽くす羽目になった。

 今は侍女のお仕着せ姿ではなく、マリアベルは上質で落ち着いた色合いのドレスを身につけている。

 用事があるため、今日は一日休みをもらっていた。


 今回休みを取ったのは、かつての主である王女から招待状が送られたからだ。

 王女といってもすでに降嫁されて久しく、恐れ多くもマリアベルは彼女の友人ということで時折降嫁先に招かれることがあるのだ。


 というわけで、本日のマリアベルの休日はルガッタ公爵家に降嫁なさった元王女――フィーアと過ごすためにあったはずだ。

 しかし、公爵家を訪れるにふさわしい準備を整え、指定された馬車に乗り込もうとした途端に目に飛び込んだのが第二王子エリックの姿なのだった。


「……もしや、今度はフィーア様の名をお使いに?」

 まさかと思いながら、マリアベルは問いかける。

「いいえ。目的地が一緒なのでご一緒しようかと」

 にこりと微笑んだエリックはマリアベルの手を引き自分の隣に座らせると、御者に声をかけ出発するように命じた。


 それはあっという間の出来事でマリアベルにはなすすべがなく、動き始める馬車の中、王子の横から動くわけにもいかなくなった。


 王城の馬車ではあるが王家の紋が付いているものではなく、エリックもまた上質ではありそうだが貴族として一般的な衣を身にまとっている。

 そういった意味では隣にいる人は正体を知らぬ者には王子のようには見えないだろう。

 ただ、真白いシャツに瞳と同色のタイを結んでいるだけでも、隠しきれない気品を感じ取ることは出来る。



「リックさまはルガッタ家にどのようなご用件ですの?」

 ため息をつきたい気持ちをこらえて、マリアベルは努めて冷静に問いかける。

 それでも口にした言葉に若干の呆れがにじんでしまったことは、許容範囲だと思いたい。


「父上のご依頼で、少しばかり」

 国王の存在を匂わされれば、マリアベルは「そうですか」と相づちを打つより他ない。

 どのような用件かと重ねて尋ねられる立場ではなかった。

 ルガッタ家の当主は王がもっとも頼りにする家臣であるから、内々に渡りを付けることもあるのだろうなと事実を飲み込む。

「姉上やマリアには悪いのですけど、お邪魔させて下さいね」

「どういうことでしょう」

「父上は、今回母子画をお望みでして」

「ああ……」

 それだけでマリアベルには話が読めた。


 フィーアは元王女だが、王家から出た以上王家専門の画家に肖像画を依頼するわけにもいかない。公爵家にももちろんお抱えがいるだろうけど、国王であっても直接声をかけるのははばかられる。

 国王が気楽に派遣できる画家は息子だけという寸法だ。

 忙しいだろうにそれを了承するエリックは相変わらずのようだと微笑ましく思う。

「でしたら、私の方がお邪魔なのでは?」

「まさか。僕が何のために手を回した思ってるのです」

 マリアベルは首を傾げる。

「手を回した……?」

「父上をそそのかすのは簡単なものですけど、アルトを説得するのは骨が折れました」

 父よりも義兄が手強いと言い切るエリックの言葉はいかがなものかと感じたが、関わるのがフィーアであれば頷ける話だ。

 マリアベルは苦い笑みでそれを受け止める。


 愛する娘と孫をちらつかせれば国王陛下は簡単にあしらえるだろう。陛下は身内にはとても甘くていらっしゃる――息子相手だからこそ、娘関連の甘言にたやすく乗ったのだろう。

 下手な相手には隙は見せない方だと臣下としてマリアベルは信じたいところだ。


 対して、アルトベルン卿はといえば、こちらも妻に対して多大なる愛情を抱えていらっしゃる。

 一言で言うと、過保護だ。

 ご本人が心配性な質だからと、彼は常に先回りして妻を真綿でくるむように護っている。

 かねてからそうであったのだが、妻が身ごもってからそれは顕著だった。

 そもそも交友関係が手広くない元王女が、産後さらに社交を狭めているのはそれが原因だ。


 彼が妻に対してそこまで神経質になるのも仕方のない話ではあった。

 フィーアは長らく療養生活をしていた病弱な人だった。彼女が王都に戻った時には快癒していて、マリアベルの知る限り現在まで多少の不調はあっても大きく体調を崩すようなことはなかったけれど、なにがあるかわからないのが出産というものだ。

 健康体で伯爵家で働いていたというマリアベルの母が亡くなったのだって、子を産んだ後のことなのだから。


「どのように説得なさったんです?」

「彼にも一枚、母子画を提供しようと」

「ルガッタにもお抱え画家はいるのでは?」

 マリアベルの問いかけにエリックはふふっと笑う。

「姉上がよく知らない画家の前で自然な表情を出せるとお思いで?」

 マリアベルが返答する前に、「難しいところですよね」とエリックは続けた。

「僕相手でもどうなるかは五分五分ですけど、ルガッタお抱えの画家よりは自然な母子を描けると自負しています。

 マリアが姉上とお話ししている間に、僕はスケッチをしています。会話には混じるつもりがありませんから、僕のことは置物だとでも思っておいて下さいね」


 マリアベルにしろ彼の姉にしろ、エリックを置物扱いするのは無理なことだと思ったが、自信満々の彼に否定を返す強さはマリアベルにはない。

 ひきつった笑みでとりあえずうなずいて、明確な返答を避ける。

 彼がいようといまいと、会話の中身は変わらないだろうから問題はさほどないはずだ。

 華やかできらびやかな異母弟に観察される羽目になるフィーアが気疲れしないことをマリアベルはこっそり祈ることにした。

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