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第二王子と幼なじみ  作者: みあ
本編
3/20

2.王子の幼なじみで、姉代わり


 各国に影響力のある大国の王女であった母を持つツァルト国の双子王子には、当然ながら将来の側近候補や妃候補の学友が大勢いた。

 マリアベルはその学友のうちには含まれないが、王子とはいわゆる幼なじみ関係にあった。


 そう至ったのには、幼かったマリアベルには知らされない様々な事情があったのだろう。今になっても彼女は正確な事情を推測はできても確信は持てない。

 まず間違いなく言えることは、そこにはたくさんの人間の様々な思惑があったということだ。


 事実だけを端的に述べるならば、マリアベルが高貴な幼なじみを得たのは彼女の叔母であるマイラが後宮入りをすることになったからであり、それに先だって叔母がマリアベルを養子にしていたからだった。

 叔母のマイラはマリアベルの養母になるには若すぎたが、残念ながら彼女の後見になれるような人間が他になかったのだ。


 ツァルト国の伯爵位を戴いていたストラード家は、マイラとマリアベル以外の本家の人間を不幸にも馬車の事故で亡くしたのだ。

 由緒正しい伯爵家にはそれなりの親戚はいたが、保護者を失った哀れな幼い少女を引き取ろうという気概があるものはなかった。


 それはそうだろうなとマリアベルは思ったものだった。彼女は幼くともおぼろげながら自分の立場を理解していたのだ。

 マリアベルは伯爵家嫡子が使用人に手を出して生まれた娘だった。娘ならばいずれ政略にも使えるかもしれぬと当主であった祖父の手により一応は籍には入れてもらえたものの、扱いはよくなかった。

 産後の肥立ちが悪く儚くなった母が仕えていた伯爵家令嬢――つまるところ、マリアベルの叔母のマイラだけが彼女の唯一の庇護者だった。


 しかし当時はそのマイラも、伯爵家を担うにはまだ頼りない娘だった。

 そんな事情を抱えた叔母が何故側妃という形で王家に入ることになったか、マリアベルは今でも不思議でたまらない。


 さらに言えば。

 国王が側妃の養い子まで後宮に受け入れたことも不思議だった。また、それを認めた王妃の度量の大きさも相当のものがある。

 本来であれば王の寵を争う関係である側室の義理の娘を現在に至っては侍女として受け入れている方曰く、「わたくしは人を見る目があるの」だそうだが。

 なかなかできることではない。マリアベルは王妃のことを尊敬している。


 側妃の養い子を王族の近くに招くことへの貴族たちの反感はさぞや大きいものであったろうが、他ならぬ王の正室が――それも高貴なる大国の元王女が認めたのだから、きっと当時その声は声高に響くことはなかったのだろう。

 少なくとも、幼く世間知らずであったマリアベルの耳にすぐには伝わらない程度に押さえられていた。


 そうまでして王妃がマリアベルを認めてくれた理由を、現在のマリアベルはよく知っているつもりだ。

 きっと王妃は息子たちに――幼い双子王子に姉代わりの存在を与えたかったのだ。

 王妃はけしてそうであるとは言わないけれど、恐らくは。


 度量の大きい王妃が認めているのは、マリアベルだけではない。

 誰もが容易に悟れるほど国王の寵愛を受けたもう一人の側妃ファーラと、その娘――陛下の唯一の娘である王女フィーアもまた、王妃の認めるところなのだから。


 そのため母が違っても兄弟の仲は良好だったらしいのだが、ある時王女殿下が病に倒れた。

 そして彼女が遠方にて療養するようになった後に、マリアベルは王子たちの側にあることを許されたというわけだ。


 マリアベルは王子たちに初めて出会った時のことはもうおぼろげにしか覚えていない。

 新しい環境に慣れるのにとにかく必死の時期だった。


 慕っていた異母姉と急に離ればなれになった幼い王子たちと初めて身近で同年代の子供に触れたマリアベルは最初から良好な関係を築けたわけではなかったけれど、日々の積み重ねは確実に彼らの仲を深めることになった。


 兄弟のいないマリアベルにとって王子たちは弟のようなものだった。

 成長した今となっては二歳はわずかな年齢差だが、当時のそれは大きかった。幼い王子たちはマリアベルの目に可愛らしく映り、姉代わりと気負ったわけでもなくとも、ごく自然になにくれとなくお世話をして過ごした。


 しかし、王子たちはマリアベルは姉のような存在でいて姉ではないと、どこかで線を引いていたように思う。

 マリアベルは王子たちの語る「姉上」の存在の大きさを日々感じていた。

 周囲から愛され、離れていてもなお慕われる太陽のような王女殿下は、マリアベルの対極にいる存在のように感じられた。マリアベルがその場所にとって変わることはできなかったし、それも当然のことだった。


 だからといって、マリアベルは決して彼らから忌避されていたわけではない。

 はじめは戸惑いがちだった王子たちも、「新しい母上の連れてきた義理の娘」をそのうち家族の枠の中にそっと含めた上、信頼を寄せてくれた。


 国王の正室の嫡子である双子王子は幼くても様々なしがらみに縛られていた。側室の義理の娘というイレギュラーな彼女は彼らが本音をさらせる貴重な存在になれたのだった。


 その半分家族のような幼なじみに本気で求婚しているというエリックの発言は、だから信じがたい。

 何をどう考えても、彼らしいと思えない。


 二人の間にあるのは疑似家族めいた情ではないだろうか。何か特別な好意を向けられたことなどないとマリアベルには思える。


「――なにを、たくらんでおいででしょう」

 マリアベルは意を決して問いかける。不興を買うのは覚悟の上だ。

 エリックは恋だの愛だの浮ついた気持ちで自身の将来を定めるような人ではない。

「たくらむと言われるのも心外ですねえ」

 視線そらすようなことなくマリアベルの言葉を受け止めて、エリックはため息を吐く。ただ、瞬時にまさにたくらむように青い瞳をきらめかせた。

「何の裏もないかと問われたら、ありますけどね」


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