プロローグ
九歳年下の従弟であるエルバートの召還に応じてたどり着いた王城庭園の一角で、マリアベルは目を見張った。
待ち合わせに指定された東屋に従弟の姿がなかったからだ。
その代わりとでもいうようにそこには鮮やかな金髪に深い青の瞳を持つ青年――ツァルト国第二王子エリックの姿があった。
マリアベルは足を止め、これはいかなることかと考える。
エリックは第一王子エセルバートと双子であるが王位継承争いなどするつもりもなく、兄が王太子に指定される以前から将来は兄の治世を側で支えると明言している。
そのため兄弟仲も良好。兄殿下には頼りにされ、日々王太子とほとんど変わらない執務量をこなしていると聞く。
そんな方が優雅に庭園の東屋で休憩をするなど、まれなことではないだろうか。
しかも、マリアベルが従弟と待ち合わせた場所と時間に合わせたかのようにその場に居合わせるなんて、作為しか感じなかった。
立ちすくむマリアベルに気付いたエリックが「お久しぶりですね」と微笑んだことで彼女はそれを確信して、そして。
「早速ですが、マリア――そろそろ僕の妃になりませんか?」
さらりと告げられた言葉で愕然とすることになった。