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「苦しい?大丈夫?」


 優香の手が俺の背中を強くさする。


 口に当てたトレーに向かって胃からせり上がってきたものを吐き出そうとするが、結局何も出ない。

 ペッペッと唾を吐き出し、はー、と大きく息をつく。

 漸く悪心が治まってきた。

 手を枕元に伸ばし、ティッシュを探る。

 二枚取り出して、涙が滲み出た目元を押さえ、さらに二枚取り出して涎のついた口元を拭うとゆっくりベッドに身を委ねた。


「もう、大丈夫、だよ」


 口角を懸命に持ち上げてみる。

 うまく笑えただろうか。


「毎回、こんな感じなの?」


 優香の顔から血の気が引いていた。

 口元に当てた手が小刻みに震えている。


 優香には初めて抗がん剤治療直後の姿を見せた。

 末期がん患者と付き合うということがどういうことか理解してもらいたかったのだ。

 そろそろ別れた方がお互いのためだと思う。

 きっと俺は生きてこの病院を出ることはできない。

 たまたま付き合った男が余命幾ばくもない末期がんで、最期を看取らされるなんて、そんな女、不運でしかない。

 優香には別にもっとふさわしい男性がいるはずだ。

 そして、俺も命の残り火を賭してやりたいことがある。


「まあね。だいぶ慣れてきたけどね」

「知らなかった。すごく辛そう」

「仕方ないよ。これも延命のためだ」

「私、ちょっと……」

「ああ。いいよ。俺も少し眠りたい」


 優香は逃げるように病室から出て行った。


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