コワレガサ
世界のどこか 端の方
壊れた傘は 考えました
”新しい服に 着替えたら”
”また 愛してもらえるかしら”
傘は街に 尋ねます
街は からころ笑います
”そうさねひとつ 教えよう”
”君だけこっそり 教えよう”
傘はにっこり 笑います
街はからころ 笑います
*
街の教えを 抱きしめて
壊れた傘は 歩きます
”綺麗な服を 見つけなきゃ”
今日も傘は 歩きます
*
傘はある日 見つけます
それは綺麗な お花柄
”その服わたしに くださいな”
それはいいえと 言いました
”これは 私だけのもの”
”貴方にこれは 着られない”
花柄は破れて しまいます
”わたしのやり方が ダメなのね”
傘はしんみり 呟きます
教えを再び 胸に抱き
傘は今日も 歩きます
*
傘が次に 見つけたのは
まっしろ ひらひら 見事なレース
”わたしに分けて くださいな”
それはしゃらりと 振り向きます
”いいえ これはあげられない”
”これでは雨を 防げない”
レースは汚れて しまいました
”このやり方も ダメなのね”
教えをきちんと 巻き直し
傘はしょんぼり 呟きます
*
夜空みたいな 藍色は
”お前になど誰が 与えるか”
やっぱり汚れて しまいました
明るく無邪気な 水玉は
”いやよ いやよ 来ないでちょうだい”
擦れて破れて しまいます
”どうにもうまく できないわ”
教えを水玉で 綺麗に拭って
傘はがっかり 呟きます
*
街がにんまり 尋ねます
”服は 見つけられたかい”
傘は 涙を浮かべます
”ちっともうまく できないの”
”わたしはとっても 下手なのね”
赤くなった 裾を持ち
傘は途方に 暮れました
”せっかく教えて あげたけど”
”そう言うのなら 仕方ない”
傘から教えを 受け取って
街はひゅうと 手を振ります
壊れた傘は もう二度と
動くことは ありませんでした