ティーンコ、戦う
翌日、俺は今回の旅を共にする仲間と会うことになっている。
「姫様、いらっしゃいました」
「わかりました。タケシ様、参りましょう」
「うん」
マリアンコ姫はこの世界に不慣れな俺にとても優しくしてくれる。俺が勇者であり婚約者だからだろうか。そんなことよりも
(いいですねぇ…)
俺は後ろを歩きながらプリプリと動くそのお尻に釘付けにならざるおえない…。むしろ目を離すことができるだろうか、いやできない。
「どうしました? 辛い表情をされているように見えますが…。」
「え? あ、いや、ちょっと考え事をしていたんだ」
「私にできることがあったら何でも言ってくださいね」
「うん、ありがとう」
こっちを見られてることに全く気が付かなかった。なんていう魔力!尻力!
どでかいロビーに下りると男女二人組が立っていた。男の方は筋骨隆々のもろ力自慢系、女の方は褐色に黒い衣装をまとっている、スレンダー系だ。
「ようこそおいでくださいました」マリアンコ姫が挨拶をする。
「マリアンコ姫、ごきげん麗しゅう」マッチョメンが膝をつき丁寧に挨拶をする。
「お久しぶりです、マリアンコ姫」スレンダーウーマンもスカートの端をひらりと持ち上げる。
「こちらが勇者ティーンコとして召喚されたタケシ様です」
「初めまして、タケシです。宜しくお願いします!」
色々察してヤマトは付けないことにした。
「君が今回のティーンコか、よろしくな!」
「ティーンコ、初めまして」
「どうもどうも…あはは」
ダブルティンコいただきました。
マッチョメンが一歩前に出て、ムキムキの腕をガッと見せつける
「俺はヤサオ・ガリガリだ! ヤサオって呼んでくれよ!」
「優男!?」
「あぁ! ヤサオだ!」
「や、ヤサオ…」
「どうしたんだ?」
「え? いや、良い名前ですね!」
「俺にピッタリな名前だろ!?」
「お、おうふ。あ、あなたは?」
「私はブス・デ・ビッチと言います。ブスって呼んでね」
「ぶ、ブスさん、よろしく…」
どうやら俺は試されているらしい。突っ込むにも向こうは別にボケているわけじゃないから意味がないし…俺はあと何回心の中でセルフツッコミをやるんだろうか…。
「タケシ様、今日はこの4人で軽い討伐任務をこなしてお互いの力を見てみましょう」
「え、マリアンコ姫も一緒に来るんですか?」
「もちろん! 私も今回の旅に参加しますよ!」
「危険なんじゃ?」
「えぇ、わかっています。でも私は幼い頃から勇者をサポートできるよう魔法の鍛錬を積んできましたし、もし勇者が負けてしまったらこの世界は終わってしまうのですから、城にとどまっていることなど無意味です」
「なるほど…」
俺だけ頭の中お花畑じゃないか? ゲーム感覚でこっちに来ちゃったけど、戦えるんだろうか?嫌な予感がする…
「俺、魔法とか使ったことないんですけど…」
「そうなの? じゃあ、実践で教えるわ」
「わ、わかりました」
魔法はぶ、ぶ、ブス・デ、ブスデさんが教えてくれるらしい。あーめっちゃ言いづらい!なぜならすげー美人だから!
「じゃあ、さっそく行こうぜ!」
名前とビジュアルが真逆な男はやる気満々らしい。お、俺は勇者なんだ、きっと何か持っているに違いない!
軽い討伐任務だと言う事で俺はウマナミだけ持って出かけることになった。
「どこに行くんですか?」
「あそこに森がありますよね、あの中にビッグバアルという四足歩行の怪物がいるらしいので、討伐しましょう」
「わ、わかった」
先を歩くヤサオとブスデに続いて歩く。城下町を抜け、外に出て少し経った時ハプニングが起きる。
ぷぅうぅ~~
「は!?」俺以外の3人の表情が険しくなる
「この音は?」
「城が危険なようです、急いで戻りましょう!」
「お、おい!」
3人が駆け足で場内に戻っていってしまった。俺も急いで追いかける。
「おいおい、なんだよこいつ…」
中に入ると、なんと石の巨人が城の城壁を破壊し中に侵入しようとしていた。あの音はそういう音だったってことね。
「ありゃあジャイアントゴーレムじゃねぇか!」ヤサオが叫ぶ
「まともな名前!? 違う違う、ジャイアント…ゴーレム!」
「おかしいわ、あんな大きな怪物が来たというのに気が付かなかったなんて!」
ブスデも驚きを隠せないようだ。
「あれ! あれ見てください!」マリアンコが指をさす方向、ジャイアントゴーレムの近くに羽の生えた黒い人影が見える。あいつが絡んでいることは間違いなさそうだ。
ジャイアントゴーレムの近くに辿り着くと、先に城の兵士が弓や魔法で攻撃しているが全く効果がなさそうだ。
「後は私たちに任せて、皆さんは下がってください!」マリアンコが叫ぶ
「おらおらぁ! 勇者ティーンコ御一行のお通りだぜ!」
「おぉ!」
ヤサオの一言で視線が俺に集まる
勇者ティーンコ!
ティーンコ様!
あの方が…ティーンコ
「わかったからそれ言うのやめてくれ!」走りながら辱められるなんてどんなプレイだ!
タッタッタ
「うわぁ…」
近くで見るとでっけ!高層ビルくらいあるぞ!これを今からやれってか!?
「ハハハハハ! 貴様が勇者ティーンコか」黒い人型の魔物が笑う。
「お前はなんだ!」
「私は魔王コカンの配下が1人、メチャ・フラチ。勇者ティーンコ、貴様にはここで死んでもらう!」
「こっち来てすぐ死ぬわけにはいかないんだよ、このドスケベ野郎が!」
「ふふ、何を言ってるのかわからないが威勢は良いようだな、行け!ジャイアントゴーレム!」
ぐぉおーー!
ジャイアントゴーレムが雄叫びを上げる。やべぇ、どうしよう…。
「みんな! ……え?」
後ろを振り返ると他の3人はリラックスモードだった。
「がんばれよー!」
「ティーンコ、任せたわ」
「がんばです!タケシ様!」
いやいや、そんな笑顔で見ないでくれよ。
「あの、手伝って欲しいんだけどー」
「俺たちがいたら足手まといになっちまうだろう!」
「えぇ、小さい雑魚ならともかく、でかいのと一騎打ちならティーンコだけの方が良いはずよ」
「がんばです!タケシ様!」
こいつら!!
「魔法!魔法どうやって打つんだ!? こんなでかくて硬そうな奴、剣で切るにはちとキツイぞ!」
「大きな声で叫ぶのよ! 声には魂が宿ると言われている。イメージして、叫べばいいの」
「なんだそりゃ!」
叫べば良いって、それだけかよ! まぁ確かに、ゲームでキャラがかっこいい技を叫んでるのに憧れてたけどさ!
思い出せ、中学生だったあの頃を! 友達とチャンバラしながら必殺技を叫んでいた頃を! 俺は剣を掲げ叫ぶ
「で、でいん!」
・・・
「ですよねー!」
魔法のまの字も出なかったんだけど!
「ティーンコ、魂がこもってないのよ、もっと心の底から声を出さないとダメよ」
ブスが腰に手を当てながら言う。腹立つー!
「魂? えぇと、ファイヤー!」
「サンダー!」
「ザケル!」
「かめはめ波!」
「まかんこうさっぱう!」
「ゴムゴムのピストル!」
「三千世界!」
ダメだ!出る気がしない!
「おいおいおい、何もでないではないかククッw」
フラチが俺を見下ろして嘲笑する。
「はぁ!?」
この時、何故か俺はあいつの顔にクソ上司を見た。人を舐め腐って見下して、自分は楽しくて仕方ないようなあの顔! なんで異世界にまで来てこんな事思い出さないきゃいけないんだよ!
「………………」
「どうした? かかってこないのか? この出来損ないの勇者」
カチンッ!
「で・き・そ・こ・ない…だと?
うるせー、うるせーんだよこの
ハゲゴブリンがぁ!!!!」
シューーー、ババババババババ!!てぃきゅーーん!!!
「あ、あれ? 俺今何したんだっけ?」
ブチ切れて一瞬意識が飛んでしまった。ぼやけていた視界がだんだん元に戻っていく。
「わお…」
目の前がきれいさっぱり消し飛んでいた。