表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

悪の女幹部は恋をしてカフェ店員になりました

私は秘密結社カタルシスの幹部、トリガー。

本名、導基(みちびき) (かなめ)

亜麻色のサラサラと指をすり抜ける髪、 見たもの全てが畏敬する赤い瞳。 ピンと伸びた背中。 悪の女幹部と呼ばれそうな感じだろう。


幹部の中でも有能な方だと自負している。 他の奴らは自らの力を過信したり、 天然なのか空回りしたりなんやかんやとヒーローと呼ばれる邪魔な連中に負けまくっている。

一方、私は負けなし。 作戦成功し続けてボスからの評価も良く、 私自身の願いのために着々と目標に近づいている。


そんな私は、 次の作戦に使える場所の下見に町を歩いていると……。


見つけた。

見つけたーー運命の人を!!


赤い髪が風で揺れる。 男性の短い髪が揺れるだけでこんなにも胸がときめくものか。

薄っぺらい体のようで鍛えているとわかるシャツから出た腕の筋肉。

そして私を写した青の瞳……!


うっかり隣まで近づいてしまっていた。彼が私の存在を見ていると思うと頰に熱が集まっていくような気がして、彼の腕の先、手に持っていたものに視線が行った。


真っ赤な林檎だ。


「あ、あの、素晴らしい目利きですね!」


なにを言っているんだ私!?

大丈夫だろうか、林檎は冬が旬だというのにこの夏真っ盛りな日に何言ってんだとか思われないか!?


「……貴方も、良い目を持っていますね」


引かれてなかった!!!!

良かった……!!



「最近は謎の組織のような奴らが悪さをして、気温までおかしくなったりしたから、林檎にも変化が起きていたので」


……たしかに、真っ赤な林檎が美味しくなかったりしたときもあったかもしれない。

いや、その前に。運命の人が心なしかしょんぼりしているような気がする。 待てよ、謎の組織ってカタルシスのことでは? 我が組織の誰かが運命の人をしょんぼりさせた原因及び食べた林檎が美味しくなかった原因……!? 犯人潰す。


…………


静かな店内に、キュッキュッと表現し難き音が鳴る。シンプルな木のテーブルを拭く。

ピカピカになったテーブルに、汚れがまだ残っていないかと左右上下を見回し確認。


よし。綺麗だと頷くと、甘い匂いを鼻が拾った。


今日は我が運命の人がアップルパイを作っている。

本日のケーキのメニュー内容だ。


だから私は運命の人、栄久(はるひさ) 光里(ひかり)さんとの出会いを思い出していた。

あの出会いから私は彼について調べ、彼の働くこのお店で働こうと思い、秘密結社では幹部の私が一般のカフェ店員となったのだ。なんとも健気な私である。


出会いから二週間。

こんなにも行動派だったのか…。


「どうしたのカナメちゃんぼんやりして〜。オレの溢れ出る魅力でときめいてるの?ふわふわ系女子の鑑みたいなカナメちゃんがイケイケ系なオレのこと好きなのは知ってるよ!」


「去れ」


接客に力を入れる係、神無月(かんなづき) (さとる)

チャラ男というのだろうか。ぴょんぴょん跳ねた茶髪に無駄によく笑う黄色い瞳。こいつとの会話は八割腹が立つ。茶々入れしたりする癖にテキパキと仕事は出来るので更に腹が立つ。


本日の鈍器、ピコピコハンマー。

腹が立った分、二回振り上げ、落とす。


「イタッ!ちょっと、ピコピコハンマーの威力かなコレ!?」


秘密結社幹部 トリガーの能力の軽い応用である。

愚か者に裁きを。


「ほらほら、要ちゃん、悟くん。お客さん来る前に片付け片付け!二人ともじゃれない」


美しき女幹部と名乗っても良いだろう艶やかな緑の黒髪、深い紫の瞳。小悪魔も裸足で逃げ出す悪魔的な魅力の女性が背中を押して促す。


羽尽(うつくし) 魅羽(みはね)さん。主にレジ付近待機。

なお秘密結社とは関係のない一般女性だ。 いたら魅力で負ける。悲しいことに。


ピコピコハンマーを物陰に隠し、椅子を拭き始める。魅羽さんはレジの確認、神無月は掃き掃除をしている。


甘い匂いが近づいて来た。厨房の方向を見ると、栄久さんが一口サイズにカットされたツヤツヤのアップルパイの乗ったお皿を片手に、もう一方の手にピコピコハンマーを持って立っていた。


あれえっ!?

たしかに、たしかに厨房付近の物陰に隠した……しかしまさか見つかるとは!よりによって栄久さんに!!


栄久さんは近くの壁側の席を掃いていた神無月にピコピコハンマーを見やすく持ち上げた。


「神無月、これ誰のか分かるか?」


「あっ、それ?カナメちゃんのだよ〜!」


いつもの軽い調子で易々と私の情報を売るチャラ男。

おのれ神無月……。


案の定「えっ、お前の?」と驚いた顔で私を見る栄久さん。

本日の鈍器は今まで隠し通せてきたのに。私のおしとやかキャラはここで終わりなのだろうか。廃れ行く暴力ヒロイン路線に行かねばならぬのだろうか。いや、諦めるのはまだ早いはず……!


「あの、それは、そう!虫退治用ピコピコハンマーなんです!」


「えっ」


「えっ」


二種類の意味での驚きをいただいたがここはもちろん栄久さんに答える。

玄関側から隠しきれていない笑いが漏れている。


「虫の出ないよう日頃から気を付けていますが、仮にもし、というときハエ叩きとかだとあまりにも生々しいと思って!ピコピコハンマーなら可愛げがありますから!」


「いや、それ可愛げない威力だったよね……?」


羽音が聞こえるような。


「なるほど」


「ふっ……あっははは!!もう!!」


耐え切れず一人で爆笑している人がいますが栄久さんが納得してくれて良かった。暴力ヒロイン路線は回避した。


その後、栄久さんの試食用アップルパイを食べた。

甘くて、サクッとしたそれは幸せが詰まっている。


カランカラン、と鳴り響く音。


「いらっしゃいませ!」


ここでの私は、カフェ ファンタズムの店員だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ