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勇者と勇者の勇者たち  作者: 睦月山
第1章 嘘つき少女と最強の勇者と
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5.マレリウスによる出会いととある兄妹の話(1)

「隊長ってリギアさんのどうやって知り合ったんですかー」


 マレリウスが滔々と語りだしてしまう原因となったのは、そんなミクシュロメインの問いかけだった。

 二片内にある食堂での出来事だ。皆は五メートル近くある長テーブルの席についてそれぞれの昼食を摂っていた。マレリウスの目の前の席を陣取ったミクシュとロイドが興味津々と目を輝かせて話しかけるのはもはや恒例だが、この話題についてだけいつもあしらう(つもりが揶揄われている)マレリウスも今回ばかりは口元をにんまりとさせた。


「おい、ミクシュ。無礼だぞ。マレリウス様に対して……」

「隊長な、パトリ」

「隊長様に対して」


 マレリウスが、はあ……と諦めの溜息をついた。

 咎めたのは副隊長パトリツィーゾ・ウォークだ。真面目かつ厳格な副隊長は武の面で秀でていることはもちろんだが、学も礼儀もある男である。立場の柵にとらわれることなく、はきはきと意見する姿も良い。が、勇者マレリウスに些か過剰ともいえる尊敬の念を抱いていた。レオンや上の人々にとっては良い抑止力になっていると好評だが、当のマレリウスにとってはなんとも居心地の悪い話だ。

 パトリツィーゾは褐色の瞳でぎろりと一睨みし、ロイドとミクシュをいさめる。が、二人とも痛くも痒くもないようで笑ってわざとらしく肩をすくめた。


「けどそれは俺も聞きたいね」


 そこで話は収まるかと思われたが、皆の心を代弁した声がマレリウスの左隣から聞こえた。

 スープを優雅にすすって、視線が集まっていることに気が付き、にこりとしたのはは本来なら四片――魔導師協会か、王宮に居るべきレオン・レクトヴィンスだった。

 そのあまりの溶け込み具合にロイドが首をかしげる。


「ってかレオン様なんでここにいるんッスか」

「しーっ、ロイド。それ聞いちゃいけないことだよ」

「そうだぞ、ロイド。こいつには一緒にご飯を食べてくれる友達が俺ぐらいしかいないんだから」

「貴様ら……」


 片眉をひくり、とさせてレオンが低い声を出す。三人は示し合わせたように口に人差し指を当てて、しーっと合図した。パトリツィーゾは呆れた顔をするのみだ。


「で? 結局どうなんですか、たいちょー。確かにリギアさんってきれいですけど……結構性格きつそうですよね」

「お、やけに食いつくな、ミクシュ」


 揶揄かうことが大好きなミクシュだが、引き際は見極めている。一度引いた話を話題に戻すのは少し珍しいことだった。

 ミクシュは心の中で意地悪く笑ながら、心の底から不思議だ、という表現を顔に貼り付けて尋ねた。


「だって、隊長が好んで指名していた人たちとはタイプが違うじゃないですか。なんかもっと純情に見せかけた清楚系かつ従順系が好みだと……」

「ちょっとミクシュくん! この確信犯!」


 あの店のあの人も、向かいの店のあの人も……と指折りをして数えていくミクシュを慌ててマレリウスは止めに入った。ミクシュはロイドと顔を見合わせてケラケラと笑う。心底楽しそうな笑みだった。ロイドは水を一口飲み、一息つくとさらに話を続ける。


「隊長の好みってわかりやすいと思ってたんスけどね」

「そうだねー」


 ミクシュを同調して頷いた。マレリウスは頭を抱えて、呟く。


「このチビッ子腹黒コンビめ……」

「マレリウス様に失礼だろう、ミクシュロメイン、ロイド。大体隊長がそんな不健全なところに行くはず……」


 渋い顔をしているパトリツィーゾにロイドとミクシュはやれやれと首を振ってわざとらしく呆れを示した。


「全く副隊長の中での隊長は精霊か何かっスかー。夢見すぎっス」

「そうそう。どっちが不健全何だか分からないですよ。それに行かない方がよっぽど不健康です」

「ちょっと黙ろうな、チビッ子。そして隊長な、パトリ」

「……すいません、隊長様」


 ちっとも進まない会話にレオンは呆れた顔を見せる。


「なんとも生産性がないな。これだから筋力ばかりの剣術バカは……」

「うるさい、この軟弱もの。お前ら魔導師は筋肉なさすぎだろ」


 ピクリとレオンのこめかみに青筋が走った。


「僕らは理論を詰めることと、実際行使すること、二つやることがあるんだ。今までの独断専行のせいでろくに戦術論も学ばず、ようやく隊を任されたようなお前とは忙しさが違う」


 煽られたマレリウスがガタンと椅子から立ち上がる。


「はあ!? 戦術論学んだし! 無理やり椅子に座らされてお前の隣でやってただろ」


 マレリウスの反論をレオンは鼻で笑って一蹴した。


「ここ二百年分の書物だろう。しかも基本中の基本のやつだ」

「それで充分だって先生言ってたからな! この理論バカ」

「ば、バカとはなんだ! ぼくはマレリウスよりも数段頭が良い!」

「学間のことだけじゃねえからな! 性格とかだよ、バーカ、このバーカ!」

「ば、バカと言った方がバカだからな。お前の部屋の前に探知魔方陣をつけ足してやろうか!」

「へんっ、あんなので俺を止められるとでも……」

「マレリウス様……」


 勢いづいていたマレリウスの肩にぽんっとパトリツィーゾの手が乗った。


「外出申請をせずに外出を行っているような口ぶりですが……」

「あーえーっと。あれだよ、あれがあれで……」


 露骨に焦りだすマレリウスにレオンは勝ち誇った笑みをして食事に戻った。やはりレオンのほうが一枚上手だ。

 パトリツィーゾは確かに勇者マレリウスを心酔しているが、だからといってマレリウスを甘やかして過ごしているわけではない。むしろ逆だ。真面目なこの男は規律に厳しく、そもそもは奔放なところがあるマレリウスのお目付け役として副隊長として選ばれたのだから。


「そう言えば先日、夜に伺っていなかったことが……」

「あったけなあ、そんなこと」

「恍けないでいただけますか」


 まあまあ、と他人事のように宥めるマレリウスにパトリツィーゾは物も言えず、肩を落とした。


「色恋沙汰も結構ですが、仕事はこなしていただきますからね。それにしても……」


 パトリツィーゾは眉間に皺をよせ、難しい顔をする。


「私はそのリギアという女を見ていませんが、そんなに良いお人なのですか? ご出身は? 年齢は? どこでお知り合いになったのですか?」

「見合いかよ……」

「いったいどんなお方なのか審査する必要がありますので。もう少しマレリウス様にはご自身の立場を理解してもらいたいものです」


 マレリウスはむすっと顔で不機嫌を表す。自身の立場がわからないほど子どもではないが、生憎従順になれるほど素直ではなかた。本当のところ話したくはなかった。けど、話したい気持ちもあった。マレリウスにとってそれは大切にしまっておきたいような、みんなに見せびらかしたいような、そんな出来事なのだ。が、マレリウスはとうとうパトリツィーゾの「さあ、さあ!」という剣幕に仕方なく口を開いた。


「……出身は……知らねえな。田舎育ちとは聞いてたけど。年は俺より一個下だ。どこでって路地裏?」

「路地裏?」

「そう」


 分かりやすく眉をひそめたパトリツィーゾにマレリウスは頷いた。気に食わないとパトリツィーゾが苦々しい表情を作る。


「……そんなところをうろつく輩が勇者と釣り合うとは思えませんが……」

「うろついてたんじゃなくて連れ込まれて……?」


 脳裏にリギアの激怒した顔や罵声の数々が浮かぶ。

 あれって連れ込まれたんだよな……? と不安になってきた。

 そんな様子に気がつかず、ロイドは先を促す。


「で、どうやって仲良くなったん……仲良かったか、ミクシュ?」

「こら、ロイド。隊長の粘土質な心を殴らないの」

「仲良いからな! それに粘土質ってどんなハートだよ。ったくそんなに馴れ初め話が聞きたいのなら聞かせてやろう」


 ごほんっと場を整わせるため、一呼吸入れ、静かになった周囲を見回して、マレリウスは揚々と話し始めた。


「あれはあいつと出会ってから三日後のことだ……」


 出会った日に転ばされたり、殴られたり、つぶされそうになったり、変態と言われたことは割愛して話し始めた。



マレリウスは素直なバカでレオンは1周周ったバカです。

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