~プロローグ~
私は『いい子』 私は『いい子』
私は『いい子』でなければいけない
私は『いい子』でなければいらない
誰かに必要とされたい
誰かに愛されたい
私をみてほしい
苦しい 苦しい
息苦しい日々に 世界に溺れる
ホントウノワタシヲミツケテ
***
或る満月の夜、月明かりに照らされて、闇夜の廃墟ビルの屋上に佇む女性が一人。
その端整な顔に表情はなく瞳に月だけを映し、肌は陶器のように白く美しい、その様はまるでこの世のモノとは思えない、生きた人形のようであった。
女性は、生まれて20年間絶えず『いい子』を演じてきた。
両親は、女性が生まれてすぐに事故に遭い、他界。
その後は、よくある三流ドラマのような展開であった。
親戚の家をたらい回しにされ、どこにも居場所がなかった。
いらない子、必要のない子であった。
しかし、容姿にはこの上なく恵まれていたため、親戚の叔父や従兄弟達は良くしてくれた。
勿論、下心に覆われた醜い厚意であった。決して善意などではない。
無理やり性的行為を強要されることも少なくなかった。
そのことが親戚の叔母連中にばれ、家を追い出されたこともあった。
それでも必死に、愛を求め、誰かに必要とされたくて
『いい子』の仮面を被り続けた。
演じて、演じ続けて女性は、或る日突然気づいてしまった。
知りたくなかった現実に。否、女性は知っていて尚、目を背けていただけであった。
頑張って、頑張って、必死に追い求めても
女性が求めるものは決して手に入らないと。
周りをどれだけ眺めても、20年間築きあげてきた
女性の世界は唯の有象無象の世界であったのだと。
表面上だけの親戚。表面上だけの友達。表面上だけの彼氏。
その表面下には、皆、醜い欲望、願望を隠して女性を利用しようとしていた。
目を背けていた現実に、目を向けてしまったことに酷く後悔した。
だが、もう遅い。女性の心は、仮面は壊れてしまった。
カシャン
割れた仮面はもう二度と戻らない。
涙も零れない。何の感情も湧かない。得意であった作り笑いさえも浮かばない。
仮面の壊れた女性は、まるで糸の切れた操り人形のようであった。
ただ誰かに愛されたかった。必要とされたかった。
不器用で可哀相な女性。
「『いい子』の私、ありがとう、そして、さようなら」
その言葉と共に一人の女性が闇夜へと消えた。
初めましてRicØと申します。皆様の素敵小説に触発され、連載初めて見ました。
誤字・脱字や拙い部分も多いかと思いますが、何卒よろしくお願いします!