邂逅2
「たしかにメール受けたよ。『あいつに色目使っただろう』って殴られた。それだけで後は知らない」
真実と嘘を織り混ぜて答えた。あずみが代わって訊く
「殴られたってどこで?」
「不良の溜まり場の廃工場。散々殴られて気失って起きたら居なかった」
又も真実と嘘の混じった返答しながら、村山が彼処まで逆上していたのは妹に色目使ったと思っていたためかと得心がいった。
「兄貴、緋村先輩殺したって勘違いして逃げたのかな。すぐにキレる癖にノミの心臓だから」
「それにしてもすぐにニュースになってないから気付くでしょう」
「慌てて逃げてトラブルか事故に巻き込まれたとか」
「真美ちゃん的には心配よね」
「はい。緋村先輩ありがとうございました。それと兄貴の暴力すいません」
「いいよ。君が謝る事じゃない。大した情報無くてごめん」
もう村山伸一が家に帰る事は無い。本当はそれを詫びたかった。心に鈍い痛みがはしる。そんな蓮に気付かずあずみは
「せっかくの緋村君の奢りだから、真美ちゃんケーキ食べちゃお。大会無いからウェイト未だ気にしなくて良いし」
「はい。そう言えばお二人って付き合ってるんですか?」
あずみは慌てて狼狽えている。蓮は上の空で聴き逃す。二人は異口同音に
「えっ」
と咄嗟に訊き返す。真美は意味深に頷き
「未だ只のクラスメイトなんだ。私にも希望有るかな」
と大胆にのたまう。これには蓮もあずみも驚いて又しても異口同音に
「ええっ。つまりそういう事?」
と確認する。真美は拗ねた様に
「さっきから二人息合ってますね。それに私が緋村先輩を好きって変ですか?」
蓮は不味いと思って
「未だ只のクラスメイトだけど此れから・・・」
あずみには悪いが真美にこれ以上深入りさせたく無くてそう言った。間接的に蓮にコクられた形のあずみは顔を真っ赤にしている。真美はあっけらかんと
「なーんだ。やっぱりそうか。三島先輩、緋村先輩からのプレゼントのブレスレットを、嬉しそうにずっとしてるしね。そうじゃないかと」
フラれた事など大したダメージではない風に言う。真美にとってはカッコいい先輩に少し憧れる程度のモノだったのだろう。蓮は此れからあずみとどう接していくべきか、新たな悩みの種が増えた。が、あくまでも真美に深入りさせない事が第一。あずみとは騙し騙し距離を探っていくしかない。
「真美ちゃん。村山君心配だろうけど気を落とさずに。三島さん、なんかどさくさ紛れでごめん。僕バイト有るからこれで。二人はゆっくりお茶してて。勘定済ましておくから」
これ以上墓穴を掘らない様に二人と別れるべくそう言った。ギターケース担ぐとカバンと傘を持ち席から立ち上がる。
「うん。頑張ってね。バイバイ」
「先輩ごちそうさまでーす」
二人が手を振ってくれる。レジで会計を済ましてガストを出た。みぞれは午前中に降り止み空は晴れている。冷たい風が肌を刺す。最寄り駅に向かう。バイト先へは電車と地下鉄を乗り継いで行くことになる。




