邂逅
寒い季節に突入し、その日東京にはみぞれが降った。緋村蓮は傘をさして高校へ登校している。肩にギターケースを担ぎうつむきがちに歩く。赤い水玉の傘をさした少女が近づいて来る。クラス委員長の三島あずみだ。声をかけてきた。
「緋村君、おはよ。今日放課後、時間ないかな?」
「まさかデートのお申し込み?」
「その通り。は、冗談。相談が有るの」
「相談?学校じゃ不味いのかな?」
「クラスの子に聞かれたくないの。ファミレスで良いから」
あずみにはイジメを受けている時、世話をかけた。断る謂れはない
「良いよ。バイト代入ったから奢ってあげる」
「もう一人連れてくけど、それでもOK?」
「誰?僕の知ってる人かな?連れて来るのは構わないけど」
「部活の後輩。直接には緋村君知らないと思う。間接的に緋村と関係有るんだ。詳しくは放課後話す」
あずみは新体操部だ。蓮達の高校は強豪とは言えない。のんびりした雰囲気である。一日位休むのは五月蝿く言われ無いのだろう。二人は並んで校門をくぐった。
授業の間、間接的に関係有るという言葉が引っ掛かり少しだけ落ち着かない。あずみの部活の後輩、一年生の女子という事だ。一体どんな関係?さっぱり見当がつかなかった。放課後に成りあずみが呼び掛けて来る
「行こう。緋村君」
「うん」
二人は連れ立って教室を出た。校舎の出口で、髪の毛をツインテールにした小柄な下級生の女子が待っていた。その顔立ちに軽いデジャブーを感じて記憶の中のアルバムをめくり始める。誰かに似ている。誰だろう?
「三島先輩。緋村先輩」
ツインテールの下級生が呼び掛けて来る。
「真美ちゃん待った?じゃ、行こうか」
「はじめましてで良いのかな?」
「はい」
二人の呼び掛けに一言で答え着いてきた。蓮はあずみに訊く
「真美ちゃんっていうんだ。何真美ちゃん?」
「名字はファミレスでちゃんと挨拶する時に」
高校の最寄り駅の近くのガストに入った。流行りのJポップが流れている。三人は窓際のボックス席に座り、ケーキとドリンクバーをたのんだ。一年生がきちんと挨拶する
「村山真美です。三島先輩と緋村先輩のクラスメイトの村山伸一の妹です。緋村先輩には兄貴がご迷惑おかけしました」
「村山の妹!?」
蓮の心拍数がはね上がった。村山伸一は蓮が異能の力を発現させた時に焼き殺している。まさか家族と対面する事になるとは。そうか!村山に似てたのか。あの夏休みの日から忘れたくても忘れられない顔だ。炎に包まれ苦痛に歪む顔は何度も夢にみてる。動揺を悟られない様に訊く
「村山君の妹が僕に何の用かな?」
「兄貴家出したの知ってますよね。あれから4ヶ月何の連絡も消息も無いんです。何か知りませんか?」
「何で僕が」
「兄貴と最後に話したのが『緋村先輩ってかっこいい』『あの野郎』だったんです。その後誰かにメールしていた。メールの相手、緋村先輩じゃないんですか?」