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伍の筋肉





 正直、予算など考えていなかった。それどころか所持金すら把握していない。確かチュートリアルを制覇した暁に幾らか貰ったような気がするが……忘れた。ここは大人しく確認するとしよう。


 “メニュー”オープン。そう念じると、私の眼前にホログラムが現れる。




【メニュー】


 ▽クエスト

 ▽マップ

 ▽ステータス

 ▽スキル

 ▽アイテム

 ▽フレンド

 ▽ログアウト




 いやはや、こういうところはゲーム要素が濃いね。だが、便利であることは確かだ。所持金などは、わざわざ明細書等を確認する必要もなく、ステータスを見れば直ぐに分かるからね。と、私はそのままステータスの文字を目で選択する。




【ステータス】


 名前:鬼塚剛天

 性別:男

 血統:霊〈鬼〉

 所持金:20,000(ゴルド)




 二万ゴルド(ゲーム内通貨だね。だいたい1ゴルド=1円くらい)か……厳しいね。先ほどの彼の言によれば、この店はオーダーメイドを中心に扱っているとのこと。となれば、当然商品も値が張ってくるはずだ。果たして二万で足りるかどうか。Mr.マリアに尋ねると、予想どおりの答えが返ってきた。



「ん〜……2万、ね……正直厳しいわ。うちは全行程が手作業だから時間もかかる。その上一点物のオーダーメイドだったら、どんなに安く見積もっても10万はかかるわね」



 やはりそうか……実に、実に残念だ。せっかくの機会ではあったが、ここは素直に戻るとしよう。なに、金を稼いだらいずれまた来れば良いさ。

 そう諦めて店を出ようとしたが、駆け寄ってきたMr.マリアに制止されてしまった。



「まったく、せっかちなオトコね。オーダーメイドだったら(・・・・)、って言ったでしょう?うちはね、オーダーメイドが中心なだけで、ちゃんと一般商品も売ってるのよ。値は少し張るけど、2万もあればだいたいのものは買えるわ」



 だから帰らないでちょうだい、と私の背を叩いて念押しするMr.マリア。君ってやつは……実に素晴らしい漢だ!

 ありったけの感謝を籠めて礼をした後、彼は店の奥に戻って行った。予算内の商品を幾つか取ってくるそうだ。


 そうして彼が持ってきた商品は、どれもこれも素晴らしいものだった。例えばこの真紅色のシャツ、肌触りは滑らかな上に引っ張っても全く千切れる様子がないほど丈夫であった。“ブラッドキャタピラー”とか言う魔物の素材でできているらしく、血を吸うと更に強度が上がるらしい。欠点として火に弱いことが挙げられるが、それでも十分素晴らしい品だ。Mr.マリアに値段を聞けば、「19,800ゴルドよ」とのこと。他にもこのシャツに負けず劣らず素晴らしい逸品が揃っていたよ。

 最終的に私が買うことにしたのは、予算二万ゴルドぴったりの値段であった、この黒のタンクトップだ。“カラーネア”と呼ばれる魔物の糸を使って作られたもので、高い耐久性と防刃の機能を持つ優れものだ。先の真紅のシャツのような特殊機能はないが、肌触りも悪くなく、これといった欠点もない。何より、タンクトップには筋肉がよく映える!目にした瞬間に買うことを決めた。



「あら、意外と堅実ね。特異より無欠がお好みかしら?」


「いやいや、性能も考慮したが、デザインが気に入ったのさ。実に素晴らしいタンクトップだ」


「それは最高ね!お兄さん、イイセンスしてるわ」



 はっはっは!気が合うね、Mr.マリア。出会った当初はどうなるかと考えたが……慣れとは恐ろしいものだね。私はもう、君と良い友人になれそうだと思っているよ。


 Mr.マリアに代金二万ゴルドを支払う。このあたりはゲーム要素なのか、念じれば代金が掌上に出現する仕組みになっている。一万ゴルド硬貨が二枚……うむ、確かに二万ゴルドあるね。



「お買い上げありがとうございまぁ〜す。サイズは自動調整機能が付いてるから問題ないはずよ。早速着てみたらどうかしら?」


「なるほど。では早速……」



 マントを外し、タンクトップに体を通す。その瞬間、魔法がかかったようにタンクトップが巨大化して私の身体を包むと、その大きさに合わせて縮小した。ううむ……なんという着心地の良さ。きつくもなく緩くもなく、丁度良い塩梅だ。



「あら、やっぱりお似合いね!良いオトコに磨きがかかったわ」


「いやいや、本当にありがとう。また来るよ」


「こちらこそどうも。次は依頼を待ってるわ」


「はっはっは!では、頑張って十万ゴルド貯めなくてはね」



 はっはっは!とお互いに声高に笑い合う。では、私はそろそろお暇しようか――



「そうだ、まだ名前を言っていなかったね。私の名は、鬼塚剛天!今後ともよろしく、Mr.マリア」


「そう言えばそうね!マリアも名乗っていなかったわ。マリド・ゴエティアよ。気軽にマリアちゃんって呼んでちょうだい。今後ともよろしくね、オニヅカさん♡」



 最後に握手を交わし、店を出る。


 そして数歩歩いたところで思い出した。






 ――道を尋ねるのを忘れていたことを。






 無論、私は全力で引き返した。





(変更)金曜ロードショーという名の策略に嵌り、執筆時間の確保が難しくなりました。誠に申し訳ない。次話は8月6日(土)を予定しています。

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