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弍の筋肉

 






 私は惚けていた。周囲にはどこまでも白色な空間が広がり、先ほどまでカプセルに押し込められていた体は解放され、手足は自由に動かせる。どうやら、私は既にゲームの中に入っているようだ。あまりにも自然であったために、眼前に表示された文章の発見に数秒を要するほどだったよ。




『プレイヤー000009821様。ようこそ、“Somnium(ソムニウム)Res(レス)”の世界へ』




 文によると、私は9821番目にこの世界に入った者らしい。つまりゲームを最初期に始める1万人の参加者のうち、9820人もの人間が私よりも先にキャラクターメイキングを済ませているということだね。確か本体の発売は1週間前だったはず……いささか早すぎやしないか?あと、これどうやって“キャラクターメイキング”を始めれば良いのかな?



 宙に浮かぶ文章を殴打してみるが触れられない。息を吹きかけてみても駄目だ。いっそ大声で叫ぶのも――おや、よく見れば右下に小さく『次へ』と表示されていた。はっはっは、これは恥ずかしいところを見せてしまったね。迷わず『次へ』の文字に触れる。



『キャラクターメイキングを開始します』



 文章が移り変わり、インナー姿の男が3Dホログラムに映し出された。

 212cmの高身長。そこそこの短さの黒髪をオールバックに纏めた彫りの深い顔に、日に焼けた薄褐色の肌。幾層もの筋肉が積み上がった分厚い胸板の下には金属もかくやと鍛えられた腹筋が整列し、手足の先に至るまで無駄なく筋肉が敷き詰められた鎧の如き素晴らしい肉体――間違えようもない。この最高に美しい肉体は、紛れもなく私だ。


 次いで体のパーツを弄る項目が大量に現れる。その数ざっと100個以上……あまりの多さに、反射的に『次へ』を押しそうになったのは不可抗力だ。私に非はない。流石にそのままではまずいと理性と筋肉で何とか押し留め、髪の色を暗めの金髪に。茶色の瞳を青い瞳に変えておいた。


 他に弄る項目もないので『次へ』を選択する。



『ゲーム内で使用する名前を入力してください』



 ふむ、名前か。ゲーム内で使用する名前ということは、普段の名前(鬼塚剛天)である必要は無いわけだ。しかし、私はたとえ一時と言えど、遠い先祖の時代から受け継がれてきた姓を捨てる気にも、両親から頂いた名を変える気も起きない。私の名は、後にも先にも“鬼塚剛天”ただ一つのみ!



『本当にその名前でよろしいですか?』



 うむ、よろしい。



『認証されました。続いて、初期の使用武器を選択してください』



 先の文章が消え、代わりに両手剣や片手斧、刀等、各種武器のリストが出現した。その数およそ20ほど。これは選ぶのに時間がかかりそうだ。


 試しに一番上の“両手剣”を選択すると、虚空から私の肩ほどまである大剣が出現した。これは所謂、ツーハンデッドソードというやつだね。昔、博物館かなんかで見たことがある。

 試しに振ってみたが、重さは感覚的には3kgほど。これならば片手でも余裕で振れそうだ。重心もブレづらいし、何より長さが丁度良い。他の武器もざっと見てみたが、“両手剣”以上のものはなかったので、そのまま決定。



『次に、スキル8つ選択してください』



 再び現れる長大な文字列。見ているだけで頭が痛くなりそうだ。ともあれ、選ばなくては何も始まらないので、上の方のスキルから順に読んでいく――――ふむ、『肉体美』……これは良さそうだ。――『鋼の肉体』……これも良さそうだね。――ふむ、『体術』か、良さそうだ。――『両手剣術』のスキルはもう獲得済みになっているね。――あとは……適当に、肉体を強化するスキルでも選んでおこうかね。――おや?



『ランダム』



 うっかりスキルのリストを一番下まで飛ばしてしまったとき、偶然にもこの文字を発見した。どうやらスキルをランダムで選択できる類いであるようだ。選べるスキルはあと2つ……就寝時間も迫っているし、残りのスキルは両方ランダムで良いか。


『ランダムスキルを2つ獲得しました。スキルが定数に達しました。スキル設定を終了します』


 どうやら、ランダムで決まったスキルは見られないらしい。当日までのお楽しみということだね。うむ、実に待ち遠しい。さて、これでキャラクターメイキングは完了だね。あとはログアウトをするだけ――――。



『次に、“血統”を選択してください』




 ……なに?そんな話は聞いていないぞ?



 


 私がキャラクターメイキングを終えられるのは、もう少しばかり先のことになる。






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