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恋するゴーレム使い

恋愛物なら任せておいてください!

「はい依頼完遂の確認とれました」


 ハンターズギルドの受付嬢がニッコリと愛想笑いをする。


「ありがとう」


 受付嬢が差し出して来た私のハンターライセンスを受け取り、依頼料金も一緒に受け取る。


「素材の買い取りはいかが致しますか?」


「毛皮だけ手元に置いておきたいわ、後は換金したいのだけど」


「承りました。

 解体はこちらで行いますか?」


「お願いするわ、解体作業料金は差し引いておいてください」


「畏まりました。

 それでは明日以降のお引き渡しになりますので、お声がけください」


 討伐証明部位の他に、討伐依頼のあったモンスターの死骸を丸ごと持ち帰ったので、依頼料金プラスアルファのボーナスに、私も少しばかりニヤけてしまう。


「それでフィダカの町は初めてなんだけど、女性でも安心して宿泊できる宿を紹介してもらえるかしら?」


 受付嬢から紹介してもらった宿に向かう為、ギルドの建物を出て宿に向かう。


「行くわよ吟風」


 わたしの呼びかけに、ギルドの建物の屋根に顎を乗せてリラックスしていた子猫型ゴーレムが、クリクリとした可愛い目を向けこちらに駆けて来る。


「あのう……ゆきのめぐみ様」


 ギルドの受付嬢が建物の中から出てくる。


「はい?」


「これから出来るだけでいいんですが……巨大ゴーレムをギルドの建物を枕に寝かしつけるのはご遠慮願いたいのですが」


「ごめんなさい、これも自衛方法の一つなの」


「はぁ……」


 体長8メートル程の子猫ゴーレムを眺め、受付嬢は溜息を吐く。


「だって……あなた達ギルド受付嬢は、こんな小娘がギルドでチンピラに絡まれても、ニコニコ笑ってるだけでしょ? もうギルドの建物を破壊して怒られるのは、嫌なのよ……」


 受付嬢はピクリと顔を引き攣らせ、2年程前にピップの町で起きた、不幸な事故を思い出したらしい。


「その節は誠に申し訳ありませんでした」


「いいのよ、それよりも頼んで置いた件、くれぐれもお願いしますね」


 私の後を付いて来る子猫は、地響きを立てながら、愛くるしく尻尾を立てて付いて来る。


 宿屋に到着した際には、腫れ物に触れるかのように丁重に饗された。

 ギルドからの先触れが既に訪れていたのであろう。


 子猫の吟風を窓の外に待機させたまま、ベッドにゴロリと横になる。


 この世界に飛ばされてもう3年、元の世界の常識に囚われたまま、孤独に過ごしてきた。

 野蛮で命の重さの軽いこの世界、この世界に飛ばされる原因となる人形を作る能力だけで生きて来た。


 ガラの悪い神様が人形ばかりチマチマ作る様な、インドアな奴は要らないと、元の世界で神様に殺された。


 この世界の神様もあまり人間に興味が無さそうで、適当に放り出された。


 人形だけが私の友達で、人形だけが私の支えだった。


 ある日彼の噂を聞くまでは……。


 彼の噂を聞く度に、元の世界の温さと、優しさと、甘さが感じられた。


 よそ者の私が、よその世界で生きて行く内に偶に聞く彼の噂は、よそ者の彼の噂だった。


 会ってどうすると言う訳ではないけれど、会って一言でも話せたら、色々と吹っ切れそうな気がする。


 二度と帰れない元の世界の住人に会いたい……。


 女々しい事かも知れないけれど、元の世界の住人らしい彼に会う為の旅に出た。


 






 どすん! どすん! 寝ていたベッドがゆらゆらと揺れて、宿屋のあちこちで悲鳴が聞こえる。


「朝?」


「お客様! お客様?」


 ドアの外で宿屋の主人の声がする。


「おはよう吟風」


「にゃおん」


 ドアを開けると顔色の優れない宿屋の主人が、ドアの前に立っていた。


「ごごごごごごご……」


「ごご?」


「ゴーレムが暴れていますので、至急抑えてくださいませ、お客様!」


「ああ、暴れているのでは無くて、目覚ましのアラームよ? もう止めたわ」


「目覚める前に建物が倒壊いたします。

 何卒何卒お許しくださいませ!」


 朝から宿屋の主人を土下座させた挙句、宿屋を倒壊未遂の事件を起こしたと、根も葉もない噂話をギルドが真に受け、ギルドからお説教を受ける。


「ですから、ゆきのめぐみ様聞いてらっしゃるのですか?」


 ギルドの建物がぎしぎしと軋む。


「な……、やめてください! ゆきのさん!」


「ごめんなさい、私の感情がゴーレムに干渉する事で、表に待たせている吟風が……」


「もう……わかりましたから……」


 受付嬢が天を仰ぐ。


「それよりも」


「宿屋とギルドを倒壊させかけたのをそれ呼ばわりですか……」


「彼の足取りは解ったのですか?」


 受付嬢はキングヒグマの毛皮を丸めた束と、その他の素材買い取りの料金の入った巾着袋を手渡して来て、背中をぐいぐい押しながら、私をギルドの建物から押し出す。


「彼はここから北に向かった町で、何度か目撃されているそうです! て言うかそこが彼の発祥の地ですから、急いで向かって下さい」


 受付嬢が背中を押す。


「そう、わかったから押さないで、……あ」


 足元が絡まり転んでしまう。


「ひっ……」


「いたい……」


 受付嬢の顔が引きつる。


 その顔を見て身体の奥底から、何か獰猛な気持ちが湧き上がる。


「痛いの……」


 町の外から雷鳴が轟く様な足音が近寄って来る。

 目の前の子猫の背中が大きく弓なりに曲がり、身体の体積がみるみる増えて行く。


「だめよ、吟風、彗星、抑えて」


「いえいえ! 彼らじゃなくて、ゆきのさん! あなたが抑えてください!」


 町の外から大型バス二台分の大きさの狼が飛び込んで来る。

 

 ギルドの建物の横で大型バス二台分をも凌駕する大きさの虎が立ち上がる。


 一週間前から必要最低限の人間以外は、避難勧告を受けていたフィダカの町は火の海に沈んだ。


 





  ギルド最重要通達事項


 ギルド災害指定一級人物  ゆきのめぐみ


 巨大な狼の名前は彗星。


 巨大な虎の名前は吟風。


 ギルド災害指定一級人物  ゆきのめぐみの使役するゴーレムである。


 各ギルドによる、ゆきの予報なる出現予報を発し、即座に各町に避難勧告を発する事により、人的被害を最低限に抑える事をギルドの最重要課題とす。


 ゆきのめぐみ取り扱い説明


 1、メンタルが弱いので悪口は言わない


 2、メンタルが弱いので怖い顔をしない


 3、メンタルが弱いので怪我をさせない


 4、メンタルが弱いので大きい声を出さない


 5、メンタルが弱いので…………


よっぽどヒマだったら、続き書きます。

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