01
僕には、ユウキだけが全てだった。
幼い頃に両親を亡くし、僕とユウキは、2人だけになってしまった。
僕たち2人は、叔父の元に引き取られたが、叔父は僕たちを物として、いや、物以下として扱った。
…だが、我慢が出来た。ユウキが一緒だったから。
「またあのジジイ、僕たちのご飯用意してくんなかったな」
「うん、でもさ、こうやって嫌なことばっかあったらさ、後は良いことだけなんだって思うと、頑張れない?」
「相変わらずポジティブだなぁ、ユウキは」
「ナオキがネガティブなんだよ」
本当に、ユウキは良い奴だったんだ。ジジイからのイビリばかりの毎日で、唯一の癒しだった。
僕とユウキは、双子の兄弟だ。
ユウキが兄で、僕が弟。
兄だからか何なのか知らないが…ユウキは特にジジイからのイビられが酷かった。
僕の倍くらいの雑用を押し付けるし、ジジイの息子がやったことなのに、ユウキのせいにして、その度に虐待ともとれる行為を施した。
僕は度々、ジジイを殴りに行こうとした。
けど、ユウキが…。
「僕は大丈夫だから。何もしないでほしい」
…悲しそうな目をしてそう言われたら、どうすることも出来ない。
小さいが、僕たち用の部屋が与えられていた。ある時、夜中に目を覚ますと、ユウキの姿がなかった。
(ユウキ…?どこに行ったんだろう…トイレかな)
何故か胸騒ぎがしたので、様子を見に行ってみることにした。
トイレに行く途中、微かな声が、ジジイの部屋から聞こえてきた。
(ジジイと……この声はユウキ…⁉)
確かに、2人の声が聞こえた。
ジジイの部屋と廊下の間の壁は結構薄いのか、耳を澄ませば話の内容が丸聞こえだ。
「だからさっきから言ってるでしょう!ナオキには何もしないでください!僕が全て…全てやるから!」
「駄目だ」
「…何でですか。やる量は今と変わらないように…いや、それ以上やりますから!」
「…しつこいぞ」
乾いた音が聞こえてきた。
恐らく、ユウキが頬をぶたれたのだろう。
僕は、感情だけに任せて、部屋の中に入ろうとした。…が、ドアノブに手をかけたところでやめた。ユウキの悲しそうな目を思い出したからだ。
(それに、ここで入ったところで僕には何が出来る…?ジジイに殴られて終わりだ)
だが、ユウキが虐待を受けたのは、どうやら僕のせい…らしい。僕への待遇を良くするために、ユウキは自分の身を犠牲にしようとしていた。
「…なんで…そんなことすんのさ…バカユウキ…」
まだ、部屋の中からはぶたれる音が響いている。
…今日がたまたまなのだろうか?いや、ユウキのことだ、毎日頼みに行っているのだろう。恐らく、僕が今まで謎に思っていたユウキと僕への扱いの違いも、ユウキが頼み込んでのことなのだろう。
…決めた。明日の夜中、ここを出る。行くあてがあるわけじゃない。けれど、ここにいては、僕らは決して幸せにはなれない。
今までユウキが僕のことを守ってくれていたんだ。これからは、僕がユウキを守らないと。
僕は、部屋に戻る前に、台所へ行って、叔母さんがこっそりと隠している非常食や飲料水を持ち出した。
非常食とかなら、よっぽどのことが無い限り、盗ったのもバレないだろう。
これで、少しの間は食には困らないだろう。
少し量があったので、何度かに渡って、部屋に持ち帰った。そして、前にこの部屋を使っていたのだろうと思われる人のカバンの中に詰めた。
その時、静かにドアが開く気配がした。
「あれ?起きてたの、ナオキ」
「…うん。ちょっと、トイレに」
「えっ…と、トイレ…そ、そっか」
「ユウキ」
「な、何?」
僕はユウキの元に行き、ぎゅっと身体を抱きしめた。
「ここから逃げよう、ユウキ」
「えっ…?」
「…僕がユウキを守るから。絶対絶対、守るから。こんな場所から逃げ出そう」
「………やっぱり聞いてたんだね、さっきの」
困ったようにはにかむ姿に、俺はもどかしいような気持ちになった。
「…うん。逃げよう。僕も、ナオキを守りたいから」
「だからっ、僕が守るって」
「やーだ。お兄ちゃんに守らせなさい」
「もう十分に守ってもらってるよ」
両方が頬を膨らませながら、譲らない。その状態が可笑しくて、2人で笑い合った。
その夜は、外の世界を想像しながら眠った。今まで、外に出してもらえなかったから、まったく分からないけど、想像上の世界は、とても素晴らしいものだった。




