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ひまわり畑  作者: otsk
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誕生日パーティー(3)

時間があると思ったけど、この時点で5時五分前。ぼくは向日葵の手を引いて走っていた。

「お兄ちゃん!そんなに急いでどうしたの?」

「……急ごうと思ったけど、あまり問題なかったな。ゆっくり行こう」

「何かあるの?」

「主役は遅れて登場するものだ」

「?」

また、疑問符を浮かべてそうな顔をしているが、妹は自分の誕生日を忘れているのだろうか。それならそれで、サプライズがあっていいんだけど。

「こんなに急いじゃ、せっかく向日葵と帰ってる意味がないな」

「そうだね〜。お兄ちゃん、校内一の人気者引き連れてるんだから、堪能しなくちゃ〜」

「そのうち闇討ちでもされそうだな」

「それを実行しようとしてる会はあるよ」

「マジかよ!?」

やっぱり恨まれてんな、ぼく。そりゃ、向日葵と仲良くなりたいなら、一番邪魔なぼくを消すのが手っ取り早い……。

「ちなみに首謀者は夕夜くんだよ」

「あの野郎ぶっ殺してやる!!」

あの野郎、んなもん作ってなにする気だ。やられたのにまだ、こだわるか。

「まあまあ。唯一の男友達をそう簡単に消しちゃダメだよ」

「ぼく、男からの人望薄いんだよな。なんでだろ?」

「自分の胸に聞いてみたら?」

「心当たりしかない」

「自覚症状はあったんだね」

そりゃ、校内一の人気者の妹に、可愛い幼馴染がいて、がさつだけどクラスの人望が厚い女子がいたら嫉妬の対象でしかないだろう。そんな中、夕夜だけは直接ぼくを懐柔しようと寄ってきたけど。

「まあ、私が側にいるのに闇討ちするような人はいないでしょ」

「だといいんだけど……」

妹は校内一の人気者であると同時に、極度のブラコンとしても認知されてるので、前はぼくに取り入ろうとする連中もいたといえばいた。大体聞かずに返り討ちにしてたから、そのまま立ち去る奴が多かったけど、夕夜だけはめげずに来たな。あいつの体力パネェ。

「向日葵着いたぞ」

「デート終わり?」

「今からも楽しいこと待ってるから」

「も、もしかして私の体を」

「狙わないから」

どんだけ狙って欲しいんだ。ぼくが狙うわけじゃないけど、まだ他の男なんかに狙わせるわけにはいかないな。

「向日葵は綺麗なままでいてくれ」

「実はもう……」

「嘘だろ!?」

「まあ、嘘だけど。お兄ちゃんがあそこまでやってるのに相手がいるわけないよ」

「だよな。ぼくの努力を無駄にしないでくれ」

「まあ、お兄ちゃんより魅力的な人がいるならね〜」

「えっ、いるの?そんなやつ」

「いや、いないから言ってるんだけど。それより、どんだけ自分に自信持ってるの?」

「言っただろ?向日葵の自慢のお兄ちゃんになるって」

「うん。自慢だよ」

向日葵がぼくに懐いててくれてよかった。これで「お兄ちゃん大嫌い!」なんて言われた日にはぼくは生きていけなくなるだろう。

「いつまでも、お兄ちゃんのこと好きでいてくれよな」

「うん?もちろん」

「あーもう!!いつまでやってるのよ!このアホ兄妹!」

いつまでも、家の前でうだうだしてたせいで、春乃が出てきてしまった。確かにこんな美味しいツッコミチャンスをこいつが見過ごすはずがなかったな。

「あれ?なんで春乃ちゃんがうちにいるの?」

「あ〜もう、戻れ戻れ。やり直しだ」

「さっさと入ってきなさいよ」

ぼくと向日葵を家の外に残して、春乃は中へ戻って行った。こうやって表してみるとだいぶおかしな状況だな。自分の家の前にいるのに閉め出されてるようにしか見えない。向日葵もなんで、取り残されたか分かってないようだ。

「なんで、私外にいるのかな?」

「そりゃ、外にいたのは最初からだからな」

だいぶ混乱してるようだ。早く中に入れてあげよう。

「大丈夫。鍵は開いてるから。ちょっと手違いがあっただけだ」

「手違い???」

「ほら、とりあえず入れって」

向日葵の背中を押して、家に無事帰還。と、同時に大量のクラッカー。

パンッ!パパパパン!!

「「向日葵ちゃん!誕生日おめでとう!!」」

「うぇ?え?え?」

「そういうこと。向日葵、誕生日おめでとう」

「私、誕生日だったっけ」

やっぱり忘れていたか。

「4月9日。正真正銘、向日葵の誕生日だ。ただ、親も向日葵なら夏につけろよって感じだな。今思った」

「さあさあ、上がった上がった」

「待ってたよ〜」

春乃と愛花に手を引かれて、慌ただしく上がっていく。ぼくはその姿を見ながら、ある一人の友人らしきやつの下へ向かう。

「よう。遅かった……でででっ!!」

そしてチョークスリーパー。

「お前、ぼくに言うことは?」

「心当たりが多すぎてどれか分からねぇ!」

「てめ、このやろ。何をそんなに企んでやがる!」

「企み?何のことだよ!てか……落ちる……」

ぼくの腕の中で落ちた。やべ、死んでないよな?ぼくの中のこいつは不死身なので、ほっといてもいつか復活してくるだろう。放置して、向日葵を祝ってやることにした。

「だから置いていくなー!」

「お前、最近復活早いな。完全に気絶してただろ」

「三途の川が見えたような気がする」

気絶してもこれだからな。めげないやつ。

「そういや、企みって何の話だ?」

「お前筆頭にぼくを闇討ちする計画立ててるらしいじゃないか?」

「お、お前……どこからそれを……」

「事実なのかよ!もう一度くたばれ!!」

「ぐはっ!」

またも倒れた。こうもすぐに倒れるとメチャクチャ弱い気がするな。ついでに決め手はサマーソルト。かっこいいよね、あれ。

「あれ?泡吹いてる」

「日向〜。まだ〜?」

春乃が様子を見に来た。どうしようこの状況。これだと、ぼく殺人犯だよ。

「何回やった?」

「二回。一回目はすぐに復活してきた」

「決め手は?」

「サマーソルト」

「あんたの身のこなしってすごいわよね。今度また見せて」

そのまま立ち去った。この死体を見て、まず決め手を聞きに来るところがすごい。理由如何にせよ、そのまま放置するのが、ぼくと春乃の常である。

「早く目を覚ませよ〜」

白目を剥いてたような気がしたけど、ちょっと見続けるのは怖かったので、やはり放置することにした。


ーーーーーーーーーーーーー


気を取り直して、今度こそ誕生日パーティー開始。

「というわけで、向日葵の誕生日パーティーを始めます!はい、拍手ー」

パチパチと控えめに拍手が上がる。

「ありがとうございました。で、質問」

「どしたの?お兄ちゃん」

「なんで先生いるんすか。仕事はどうしたんすか」

なぜか、席には美浜の姿。プレゼントだけの予定じゃなかったのか。

「堅いこと言うな、ハゲるぞ」

「いえ、父も祖父もフサフサなんでその心配はないと思いますが」

「ん?弥富はどうした」

「さっき死にました」

「そうか。私ぐらいしか追悼してやるやつはいないだろう。冥福を祈ってやる」

先生の中でも、夕夜の扱いはこんなもん。それより、帰って来る前から居たんだろうから、あいつが生きてることは百も承知だろう。ジョークの通じる先生である。

「それでは、プレゼント贈呈に入りますか」

「司会進行はお前がやるのか?」

「企画、司会進行、演出は兄であるぼくの役目です」

「お前ほど妹に尽くす兄は見たことないよ」

「最高の褒め言葉ですね」

当の向日葵といえば、そわそわしっぱなしで、プレゼントと聞いてキョロキョロしている。どこにあるか探してるんだろう。

ぼくはあることに気づき、愛花に耳打ちする。

「豊山さんは?」

「ひなちゃんがサプライズプレゼントって言ってたから、ひなちゃんの部屋で待機させてるよ」

「そう。プレゼント持ってきてくれた?」

「バッチシ」

「じゃあ、頼むよ」

「らじゃー」

耳打ちが終わると愛花は出て行った。その愛花を不思議そうに眺めながら、向日葵は惚けている。

「うむ。旭妹。私からプレゼントだ」

先に、先生から渡そうと考えたんだろう。でも、そのプレゼントはぼくが持っているので、渡せと顎で指示してくる。全く、この人来るんなら、自分で持ってこればよかったじゃないか。

ぼくはカバンをリビングに放置していたので、探って取り出す。なんだろこれ。あんまり大きなものじゃなさそうだけど。

「向日葵。これが先生からのプレゼントだ」

「先生、いいんですか?」

「なに、日頃の礼と考えてくれ」

「ありがとうございます!開けていいですか?」

「構わんよ」

包装紙を丁寧に剥がして、中身を取り出す。

「テニスのガット?」

先生のプレゼントはテニスのガットだった。あの網の部分のアレ。消耗品なので、月一ぐらい、早ければ、2週間ぐらいで張り替えなければいけないものだ。故に、割とお金がかかる。中々、実用的なものをチョイスしたな先生。堅実的とも言えるか。

「お兄ちゃんすごいよ!最高級ブランドだよ!」

「ああ、学校をおど……こほん。学校で頼んで貰った」

学校側から経費で落としたのか。ていうか、この人学校のなんの弱み握ってんだよ。

「まあ、そういうことだ。県選抜のことも考えておいてくれ」

「先生、なかなか狡いですね」

「策略家と言ってくれ」

「向日葵、行きたくなかったから行かないでいいからな」

「おおぉ」

耳に届いてないようだった。喜んでるようだし、いっか。県選抜のことはまた今度話そう。

「ひなちゃん、ひなちゃん」

どうやら、愛花たちが戻ってきたようだった。

「というか、向日葵。サンタの格好スルーだったな」

「やっぱりひなちゃんが着ないと意味ないんじゃない?」

「背が伸びたせいで去年のは着れなくなっちゃったんだよな。もしかしたら、気づいてないだけかもしれない。そのままプレゼント渡してくれ」

「らじゃー」

「豊山さんも。向日葵と仲良くしてやってくれ」

「はい」

「向日葵、ぼくとみんなからのプレゼントだ」

「本当!?……その人は?」

「覚えてないかな?私、豊山綾です」

「ええ!!本物!?」

「何をそんなに驚いてんだ?」

「だって、豊山さんだよ?私、この人に負けて、豊山さんは全国大会に出てるんだよ?お兄ちゃん知り合いなの?」

そんなすごい人だったのか……。全国?

「ああ、その話は本当だ。私もお前に名前を聞いてからもしかしてと思ってな。かなり有名な選手だぞ」

美浜から紹介を受けて、かなり照れてる豊山さん。

「豊山。テニス部入るか迷ってるんだって?まあ、無理にとは言わないが、入ってくれたらかなりの戦力アップになる。考えてみてくれ」

「私も豊山さんと一緒にやりたい!」

「え……あ、はい」

「はいはい。これくらいで。次はぼくと愛花からだ」

結局、何を愛花はチョイスしたのか、ぼくは知らない。変なもんじゃないといいんだけど……。

「はい!向日葵ちゃん!」

「ありがとー!愛ちゃん!うわあ、サンタ服可愛い!」

やっぱり、気づいてなかったか。というか惚け過ぎだろ。まあ、喜んでるみたいだし、いいか。

「開けていい?」

「どうぞ、どうぞ」

「何かなー?」

さっきと同様丁寧に包装紙を剥がしていく。意外に几帳面というか、気にしいなやつである。

「ふおお。春物のワンピースとショートパンツだー」

「向日葵ちゃん。ジャージばっかりだし、女の子なんだから、オシャレしなくちゃ」

「……これセットじゃないの?」

「別々だよ?ひなちゃんと一緒に選んだの」

「…………?」

しげしげとぼくと愛花を見ているが、まだ、訝しんでるんだろう。ぼくに女の子ものの服の選ぶセンスはない。断言できる。これまでに、向日葵の服は姉さんが選んでたしな。

「まあまあ、せっかくだし今度の休みにでも着てみて。ほら、春ちゃんも」

扉の向こうで、こっちを見ていた。 さっき来てたのに、今更恥ずかしがってるのかよ。

「は〜る〜ちゃ〜ん。私も着たんだから、来なきゃ。ほら、向日葵ちゃんのためだよ」

「うう〜」

「わあ〜。春乃ちゃんも可愛い〜!」

「うわわっ!」

今度は春乃に抱きついていた。ゆくゆく抱きつくのが好きな妹だ。

「ほら、抱きついてないで。進まないだろ」

「あはは。ゴメンゴメン」

「春乃もプレゼントあるんだろ?」

「うん。はい、向日葵ちゃん。あたしから」

「ありがとー」

「あたしは髪飾りだよ。向日葵ちゃんはショートヘアだから、ゴムじゃなくてヘアピン」

「わあ、可愛い!付けていいかな?」

「うんいいよ」

パチっと、音を立てて、髪を尻尾のように束ねている右側と逆側にヘアピンを留めた。

「どうかな?お兄ちゃん」

「可愛いぞ。それなら、学校につけててもいいだろ。な、先生」

「私は髪飾りぐらいでとやかく言わんが、生徒指導は面倒だからな。学校につけてくのはやめとけ」

「ええー。先生、なんとかしてください〜」

「来年、私が生徒指導になったら改善してやろう。そういう話は出てるからな」

「やったー」

「ふぅ。娘がいたらこんな感じなのかな」

「先生、アテがあるんですか?」

「なんか言ったか?旭ぃ」

「いえ、何でもありません」

この反応を見るに相手はいなさそうだ。顔は整ってるし、探せばいそうなんだけどな。この性格さえ受け入れてくれる人探すのか。……キツそうだな。でも、慕われてるみたいだし、面倒見はよさそうだよな。あとは年次第か。この人にいくつだろう。30はいってなさそうだけど。

「なんだ、旭。まだ言いたいことあるのか?」

「言ったら殺されそうなんで、言いません」

「言われる前に殺るという手もある」

「ぼくに発言権を与えてください」

この先生ぼくのこと嫌いだろう。発言するまでもなく、口封じを講じる人はぼくの知りうる人ではこの人と姉さんぐらいだ。

「お兄ちゃん、夕夜くんは?来た時いたよね?」

「ああ、いたなそんなやつ」

「すでに過去の人にされてる!?」

未だに倒れてんだろうか。見に行ってやろう。

「………………」

返事がない。というより反応が一切見られない。屍のようだ。

「蹴っておくか」

「もう少し、慎重に扱ってくれませんかねぇ!倒れてる奴に追い打ちをかけるように暴力を振るうな!」

「なんだ、生きてたのか」

ぼくを闇討ちしようの会の首謀者なんだから、頭をやっとけばあとは散り散りになるだろうと考えたが、生きてたのか。生きてる限りは丁重にしてやろう。

ぼくは誠心誠意、最大限の笑顔で夕夜に告げた。

「さあ、参加費を払え」

「いつのまにそんなの設定しやがった!誰も払っちゃいないだろ!」

「みんなの分もお前が負担だ。一人頭五百円。えっと、ぼくに向日葵に、愛花に春乃に豊山さんに先生にお前だから………計3500円だ。よろしく」

「払えるか!馬鹿野郎ー!」

「冗談だ。向日葵が心配してるから、ほらプレゼント渡しに行くぞ」

「さすが向日葵ちゃん。天使やなー」

ったく、調子のいいやつだ。向日葵とのデート権付ければ、こいつならいくらでも払いそうだ。いかんいかん、妹を商売に使うなんて。

「ぼくは最低なやつだ……死のう」

「向日葵ちゃんー。兄貴が鬱になった」

「お兄ちゃん!?どうしたの?」

「ああ……向日葵、ぼくはいいお兄ちゃんだったかな……?」

「そんなの、お兄ちゃん以上のお兄ちゃんはいないよ!何があったの!?」

「それが……聞けて……よかった……」

落ちていく。深い眠りに……。

「まだ死ねるかー!」

「すげぇ、自己嫌悪で死にかけて復活した。お前、それで一芸が可能だぜ」

「ありがとう。お前が最初の客だぜ」

「おうよ!」

和解したところで、また戻る。

「というわけで、これがぼくと夕夜からだ」

「うわぁ!ケーキだぁ〜!」

「こいつが金がなかったから、ケーキがプレゼントだ」

「それでも嬉しいよ〜」

頬を緩ませて、ケーキの箱に頬ずりしている。

「はい。ケーキは後。料理は愛花が作ってくれたんだよな?」

「綾ちゃんも手伝ってくれたんだよ」

「は、はい。頑張りました」

「すごい豪勢だな。ありがとう」

「い、いえ。これぐらい、せっかく招待してもらったんですし」

「招待してケーキを運ぶしかしなかったやつもいるけどな」

「お前、あのおっさんの勧誘をかわしてきたんだぞ!褒めてくれよ!あれ絶対あっち系の人だって!」

「何言ってんだ。あの人は根性のありそうな人を見つけてはケーキ職人の後継者を見繕ってんだ。ぼくは誘われなかったからな〜。根性座ってると見られたんだろ」

「マジか……まだ、俺の腕も捨てたもんじゃないかな?」

「頑張ってみろよ」

「お兄ちゃん……いいの?そんなこと言って。お兄ちゃん誘われてたじゃん」

「あの人はぼくが断る代わりに代理がいるなら連れてこいって話だったからね。適任だ」

「もう……」

これでケーキ職人を立てることに成功。あの人なら一度捕らえたら、立派に育て上げてくれるだろう。不良少年の更生の第一歩だ。あの人も更生し損ねたような外見だし。

「じゃあ、冷めちゃう前にいただきましょう!いただきます!」

「「いただきます!!」」


ーーーーーーーーーーーーー


完食したところでお開きとなった。想像以上の量で大半をぼくと夕夜でたいらげていた。胃が……。

「ちょっとトイレ……」

「また?大丈夫?」

「あと3回ぐらいは……」

食事が終わってから五回目である。夕夜も同等の回数になっている。食い過ぎた……。

女子たちはというと……。

「やったー!宝くじ当たったー!」

「いいな〜。あたし、貧乏まっしぐらだよ」

人生ゲームに興じていた。ぼくと夕夜も参加していたが、お互いに死にかけなので、交代でやることにしたが……。

「また、両方抜けちゃったね」

「私たちで回しとこ。そりゃ」

「家を建てますか?だって。借金してもいいから買っちゃおうか」

かなり好き勝手なことになっていた。おかげて結婚と離婚をして、独り身となり、借金まみれで家を新たに買うという暴挙をしている。どんな人生だよ。結婚するまでの幸せ街道はどうした。

「そういや、時間いいか?」

戻ってきてそう告げていた。

「あ、泊まるって言っといたし」

「私も、友達の家に泊まるっていったら喜んでくれました」

「さすがに私は帰らんとな」

「先生がなに生徒に混じって人生ゲームに熱中してんすか」

ちなみにこの人はトップ街道を突っ走ていた。億万長者となり、高級住宅を建て、悠々自適と老後を過ごしてゴール。ぼくと夕夜のやつとは大違いだ。まあ、ゲームの中ぐらい夢を見させてあげよう。

「さて、私はお暇しようかね。楽しかった。みんな、夜更かしするなよ。あと、弥富によろしく」

「「さよーならー」」

まあ、酒は飲んでなかったし、割と教師らしかったかな。どうなるかと思ったけど、常識のある人だったし。……常識のある人なら生徒の誕生日パーティーに乗り込んだりしないという意見はこの際置いとこう。

「愛花は?」

「別に帰らなくても心配されないよ。どうせ、ひなちゃんの家にいると思われてるから」

「それでも、連絡は入れときなさい」

「は〜い」

すごすごと芋虫のように床を這って家電に向かった。自分の使えと思うかもしれないけど、愛花は自分の携帯を持ってないのだ。それゆえに大体行動がぼくと一緒になる。女の子一人だと危ないからお前がついて行けという姉からの進言です。おかげで幼少時から何をするにも一緒な気がする。ぼくのほうが愛花に合わせてた感じだけど。冷やかされることも多かったが、愛花と一緒にいるほうが楽だったし、向日葵もついてたから、一緒にいたほうが色々と好都合だったのだ。

「いやさ、愛花。スカートなんだからもう少し気を使えよ……」

サンタコスでミニスカなのであんな態勢じゃ見えてしまってる。

「ふぇ?きゃっ!」

スカートを押さえて、態勢を直した。

「うう。ひなちゃんのエッチ」

「今更だな。可愛いのだったし」

「うわ〜ん!」

「ほら泣かない泣かない」

「別にいいもん。ひなちゃんだし」

心の広い幼馴染だった。水色に白の水玉か……。

すると、頬と頭に岩を落とされたのような痛みと、ペンチでひねられてるような痛みが……。あれ?血が流れてない?意識が遠のいてく……。

最後に見えたのは心配そうに見てる、豊山さんの顔だった。きっと、頭は春乃で、ほっぺは向日葵だな……。

頭を殴って血を出させるってどんだけだよと思いながら、ぼくは気を失った。


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