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ひまわり畑  作者: otsk
51/51

初恋

「お兄ちゃん遅刻するよー!」


「もう、いっそのこと出ないという手もあるんだけど」


「もう、妹の晴れ姿なんだから祝ってよー」


「それもそうだな」


 午前7:40。新しく卸した高校の制服に身を包んだ向日葵がぼくを急かす。

 今日は向日葵の高校の入学式だ。親父は相変わらず海外飛んでて、姉もしょっちゅうこっちに戻るための軍資金もないようで、保護者はぼくが代役だ。ま、入学式は始業式の前日に行われるため、上級生で登校してるアホみたいなやつはぼくしかいない。


「もう、保護者なしでもいいだろ」


「もー。私だけいないなんて浮いちゃうじゃん」


「むしろ、兄が保護者やってるほうが浮いてると思うんだけどな……」


「じゃ、愛ちゃんも連れてこ」


「愛花はまだ寝てると思うぞ」


 よく考えれば、守山家のどちらかでもいいから頼んでおけばよかった。今更、後悔したところで何にもならないが。


「そうだな。せっかくだし愛花も一緒に行ってもらうか」


「起きるかな?」


「とりあえず突撃だ」


 靴をほっぽり出して、二階へ向かう。

 そして、窓を確認。

 よし、空いてる。

 守山家の空き部屋へ侵入成功。そのまま愛花の部屋へ突撃する。

 少し、扉を開いて、中を確認。ターゲットは寝ている模様。

 起こさないように、少しだけ開いた扉に体をねじ込み、愛花の部屋に侵入。

 やってること犯罪だな。これも今更だけど。


「愛花〜。朝だぞ〜。今日から学校だぞ〜」


「うぇ?うそ!昨日まだ一日あるって踏んでたのに!……あっ」


「おはよう」


 髪をボサボサにして目覚めた幼馴染。


「おはようございます……不法侵入でしょうか?」


「ちゃんと玄関から入ったぞ」


 嘘だけど。


「今日はどうして?」


「向日葵の入学式だ。親父がいないからぼくが保護者代わりに行くんだけど、よかったら一緒に行かないか?」


「私が行っていいの?」


「というか、向日葵にせっかれた。まあ、まだ寝てたいならいいんだけど」


「あとどのぐらい?」


「五分ってところかな」


「おやすみなさい」


「まあ、諦めるな幼馴染よ。どれ、着替えさせてやるから」


「自分で着替えるから出てけー!」


 幼馴染に蹴り出された。あんなに暴力的だったかな愛花。


「ひなちゃん、制服でいいかな?」


「新入生と間違われるかもしれんけど、ぼくも制服だしいいよ」


 ぼくの顔は知れ渡ってる話だが。おかげで学校生活は不自由だ。

 扉越しに会話しながら、バタバタと愛花は支度している。


「愛花。朝ごはんいる?」


「パン焼いといて!」


「はいはい」


 下に降りて、パンを焼き、さっとジャムを塗っておいてやる。

 そして、扉の前に待機。


「う〜髪が〜」


「ぼくが30秒で梳かしてやるから、その間にパン食え」


「30秒じゃきついよ〜」


 そう言いながらも懸命にもそもそとパンを頬張る。その間に神業テクで、瞬時に愛花の髪を梳かしてやる。ストレートじゃないから、途中で引っかからないように気をつけてやらなきゃいけないが、慣れたもんだ。


「よし、終わり」


「本当?寝ぐせついてない?」


「ほい鏡」


「1箇所立ってます」


「それチャームポイントじゃなかったんかい」


「そうでした」


 アホ毛の位置を整えて、家をで……れないなあ。


「もう。やっぱり屋根伝いに来たんでしょ」


「悪いけど、外に向日葵いると思うから、靴頼んでもらって」


「肝心なところで抜けてるんだから……」


 守山家の玄関で待機するはめに。

 時間を確認する。

 7時50分。走れば間に合うか。


「はい、ひなちゃん」


「ありがと。さて、行きますか」


「お兄ちゃん!どんだけ待たせるの!」


「悪い悪い。でも、ちゃんと起こして十分で支度終了。ここは褒めてもらいたい」


「調子いいんだから……」


 三人で並んで、道を歩く。もう、前みたいに愛花との距離はなくなった。自然に話せるようになったし、傷も癒えたと思う。でも、約束通り今日のこの日までお互い、告白するようなことはなかった。

 愛花のほうは度々告白されてたみたいだけど。


「向日葵ちゃん、制服姿可愛いね」


「スカート短くないか?」


「膝上5センチだよ。私で短いなら、皆もっと短いよ」


「膝下でも……」


「もう中学卒業したんだからこれも規定通りだし!」


 まあ、でも可愛いのは同意だ。

 学校へ向かう途中、二人の人影が前から現れる。


「よっ、日向。今日、入学式だっけか?」


「向日葵のな。あれ?夕夜、お前入学式からやり直せとか言われてなかった?」


「お前も春乃と同じようなこと言うのな……」


「追試頑張ったじゃない。主に私と日向のおかげだけど」


「お前らこんな朝っぱらからどうしたんだ?」


「今日は早番なのよ。私たち二人とも。あんたたち二人は……なんなの?」


「向日葵の保護者代理」


「俺も行っていい?」


「あんたはこっち来なさい。ただでさえ追試で休んでたんだから……」


「いでで。引っ張んなよ。じゃな!向日葵ちゃん!制服似合ってんぞ!」


「ありがと!」


 夕夜の耳を引っ張っていく、春乃を見送りながら向日葵に呟く。


「向日葵。本当にあいつでいいのか?」


「でも、他の人って言ってもお兄ちゃん認めないでしょ」


「当たり前だ。あっ、凛太郎なんかどう?」


 マッドサイエンティストだけど。


「誰それ?」


「前に話さなかったっけ。向日葵の好きなライトノベルの作者の弟」


「どんな人?」


「マッドサイエンティスト」


「急に興味がなくなってきたよ……」


「しかも凛太郎君。部長さんと付き合い出したとかなんとか」


「マジですか」


「まじまじ」


「………くそ。仕方ない。万歩ぐらい譲ってだが、夕夜で許可を出してやる……」


「お兄ちゃんも往生際が悪いよね。私が高校に上がるまでって言って、いざ上がったら上がったでこんなんだし」


 だって、夕夜だし。所詮夕夜。されど夕夜。


「そうだ。明後日誕生日だろ?夕夜に作ってもらおう」


「さんせーい!」


「どうした愛花?」


 少し考え事をしてるような様子の愛花を見て、ぼくは問う。


「ううん。何でも。早くいこ。入学式から遅刻するわけにもいかないでしょ」


「お、おう」


 二人で向日葵と手を繋いで、桜が舞い散る道を歩く。

 いい天気だ。

 学校にたどり着いて、挨拶してる先生がなんか変な顔してたけど、入学式のプログラムをもらって堂々と横を抜けて行く。


「なんか変な感じ」


「仕方ないな。在校生なのに入学式に参加しようとしてんだから」


「ひなちゃんは初っ端からサボってホームルーム遅刻したけどね」


「それを言うなよ……」


「向日葵ちゃんはこんなお兄ちゃんを見習っちゃダメだよ」


「もう手遅れだよ」


 そうですね。もう15年一緒だ。明後日で16年になる。


「ま、やるべきことはちゃんとやるよ。ちゃんと私を見ててよ。じゃ、私、教室に行かないとだから」


 じゃね、と手を振って駆け出した。

 あっ、躓いた。

 コケるかと思ったけど、体制を立て直してこっちに笑顔を向けた。

 それに対して二人で手を振る。


「私たちも体育館に行こっか」


「んー。まだ時間あるし、二年生の校舎に行こう。どうせ、誰もいないさ」


「もう、悪い子だな。委員長」


「元、だ。もう委員長じゃない」


「またやらされるかもよ」


「冗談じゃないやい」


 軽口を叩きながら、上履きに履き替えて階段を上ってく。


「なんで、後ろなの?」


「なんとなく」


「スカートの中見ないでよ」


「それを防ぐのと、ぼくだけ独占しようという理由で後ろに陣取ってる」


「やめてよー」


「冗談。愛花が嫌ならやらない」


「まるで私が許可を出せばいつでもやるような言い方……」


 何のことでしょうね。


「ひなちゃん」


「ん?」


「後で誕生日プレゼント買いに行こ」


「ああ。今度はちゃんと貯金したからな。買えるぞ」


「そうじゃなくて。まあ、向日葵ちゃんもだけど、ひなちゃんの」


「……ああ。忘れてた。向日葵のことばっか考えてたからな。向日葵と誕生日が一緒だったわ」


「今日が期限でしょ?もう、今日からは自分のこと考えていいんじゃないかな?」


「そうだな」


 辺りを見回す。


「どうしたの?」


「いや、視線を感じた。続きはうちでやろう。とりあえず体育館だ」


「まだ回ってないよ」


「いいから」


 愛かの手を引いて、体育館へ向かう。嫌な予感がした。

 変にスキャンダルにされるよか、ここは一度引くのが手だ。

 体育館に辿り着き空いてる席に腰をかける。


「よう、日向」


 隣はオッさんだった。


「愛花。まだ席は空いてる。他のとこに行こう」


「まあ待て。ここで会ったのもなんかの縁だ。一緒に向日葵の晴れ舞台見ようや」


「頼んでないのになんで来てんだよ。ケーキ屋はどうした」


「ふっ。甘いな。ケーキよりもベタベタに甘いな。夕夜と春乃ちゃんに任せてきた」


 だから早番なのかよ。最低だな。このオッさん。


「よし、ガラ悪い人がここにいると他の人に迷惑だからな。早く外に行こう。そうしよう」


「じゃあな、日向」


「あんたのことだよ!」


「ひなちゃんはカッコいいです!」


「なんだい二人して。向日葵の晴れ舞台を俺にも見せろよ」


「後で写真やるから。あんたはやるべきことをやってこい」


「ちゃんとやるべきことは済ませてきたぜ」


「全部ほったらかしてきたろ!」


「ひなちゃん。どーどー」


「ふぅー。ふぅー」


 愛花になだめられて、呼吸を整える。

 すると、いくらかの他の保護者の方が寄ってきた。騒ぎすぎたな。


「すいませ……」


「ケーキ屋さん!いつもケーキありがとね!今年の誕生日ケーキもよろしく頼みますよ!」


「おう任せとけ!」


「こんなの考えたんだけど、使えないかしら?」


「お、いいっすね。今度新作メニューで考えときますよ」


「うちの下の子もケーキ屋さんの野球チームに入りたいって言ってるんだけど」


「あ〜。うちは総合スポーツなんで、野球だけやってるわけじゃないんすよ。申し訳ないです。それでもいいならいつでも歓迎しますよ」


 なんか大盛況。

 オッさんはこっちを向いてドヤ顔してくる。ウザい。

 どっちにしろ、ここにいては邪魔だろう。


「愛花。まだ、向こうの方空いてるから、向こうに行こう」


「そうだね」


 そそくさとオッさんの鼻の下が伸びてる間に、席を移動した。

 そうこうしてる間に、新入生が入場してくる。

 全員入場し終わり、代表挨拶となる。


「新入生代表。旭向日葵」


「はい!」


 ええ〜。


「向日葵代表なのかよ」


「そうみたいだね……」


 少し離れたところで盛大にシャッターを切るバカが一人。

 無論、教師に注意を受けて、反抗したので追放されました。カメラだけは抜群のコントロールでぼくの手元に投げ渡された。


「こういうのって、入学テストで一番成績の良かった人がやるもんじゃないのか?」


「さあ?向日葵ちゃん有名だし。学校推薦の時から決まってたんじゃないかな」


「あいつ、一言もぼくに言わなかったぞ……」


「まあまあ。驚かせたかったんでしょ。向日葵ちゃんも」


「悔しいので、一枚撮っておいてやろう」


 そうして粛々と式は進んでいく。


 ーーーーーーーーーーーーー


「ふい〜。ようやく解放されたよ〜」


「お疲れさん。そこの看板で写真撮るか」


「三人で?」


「そうだな。ちょうどいいカメラマンもいるし。お〜い、オッさん!写真撮って!」


 木にもたれかかって、不貞腐れてたオッさんがいかにもガラ悪いですよオーラを撒き散らしながら、寄ってきた。


「おうおう。日向。俺を使おうなんざ、あと十年ははや……」


「おじさん。撮ってくれないの?」


「この指が擦り切れるまで撮ってやろう」


 どいつもこいつも向日葵に甘いし、弱すぎる。


「さっさと並べ。まだそこで撮りたいやついるからな。日向!向日葵が映らねえだろうが!」


 面倒なカメラマンだ。


「もういいよ。写真撮って」


「おう、いくぞ。ハイ、チーズ」


「えいっ!」


「ちょっ、向日葵!」


「きゃっ」


 ぼくたちより前に立っていた向日葵が少しかがんでぼくと愛花の腕を引っ張るもんだから、ぼくと愛花の肩が触れ合う。

 その瞬間にシャッターが切られた。


「中々いいでねえの。ほら、渡しといてやるから、現像は頼んだぞ。俺は機械は苦手だ」


 カッカッカッと笑いながら、ガラの悪いケーキ屋は校門から去って行った。


「そうだ。向日葵。今からお前のプレゼント買いに行くけど欲しいものあるか?」


「今年はサプライズ無しですか」


「お兄ちゃんとプレゼント交換でもいいぞ」


「なんで?」


「なんで?って、向日葵、お兄ちゃん誕生日知ってるか?」


「ごめん、知らない」


「向日葵と同じ日だ」


「15年目。あと2日にして16年目にして驚愕の新事実!」


 マジで知らんかったんかい。お兄ちゃん、お兄ちゃん言ってくれてた割にはぼくの誕生日知らんかったのね。


「どうしよう。15年分のプレゼントあげた方がいいかな?」


「向日葵、そんな金ないだろ」


「う、うまい棒15本とか……」


 馬鹿にしてんのか、うちの妹は。


「まさかの15年分の積み重ねをワンコインで済むレベルで終わらす気か」

「え?待って?30×15で……あっと、本当。ワンコインで足りちゃう。素晴らしい」


「素晴らしくないわ!」


「じゃあ、何が欲しいのさ」


「タイムマシン」


「22世紀に行ってきてください」


「22世紀に行くためにもタイムマシンが必要じゃないか」


「ああ、お兄ちゃんがどんどんアホになってく……私こんなお兄ちゃん見たくないよ」


「待て待て、真面目に考える。うーん」


 欲しいもの……欲しいもの……。


「私の下着とか?」


「もらおうと思えばいつでももらえるし」


「待って。何?今の問題発言」


「気にするな」


 欲しいもの……欲しいもの……。


「彼女欲しい……」


「ゴメン。私じゃ叶えられない。それと告白だったら、ここじゃないところで。ロマンも何もあったもんじゃないよ。お兄ちゃん」


「そうだな。じゃあ、靴が欲しいな」


「なんで靴?」


「オシャレはまず足元から」


「なるへそ」


「というわけで、向日葵にもぼくと愛花からプレゼントを買ってやる」


「二人一緒?」


「愛花。お金大丈夫?」


「うーん。二人とも買うとなると、両方割り勘してくれるとありがたいです」


「じゃ、一個だな。じゃ、服買ってあげよう。いい加減、向日葵もジャージを卒業しなさい」


「いいじゃん。ジャージ」


「女の子がそれでいいのか……」


「お兄ちゃんにセンス云々言われたくないです!」


「まあ、いいや」


 こんな調子で、ぼくは靴を。向日葵は服を買った。これを冒頭に持っていけばグリム童話とかできそう。童話もへったくれもないけど。でも、あの類はバッドエンドが多いらしいよ。気になる人は原作読んで見てね。

 でも、ぼくの物語はハッピーエンドに持っていこう。


 ーーーーーーーーーーーーー


「というわけで、向日葵。留守番よろしく」


「よく考えれば欲しいラノベ10巻セットとかでも良かったような気がしてきた」


 買ってもらった服に早速着替えておいて何を言っているのやら、うちの妹は。でも、ラノベも出版社によってとかより、ページ数によるところが大きいしな。一律700円とかで買えるわけでもあるまい。

 そんな話は置いておいて、ぼくは愛花といつか向日葵に向日葵のルーツを話した丘へ向かうことにした。


「ここは?」


「見晴らしいいだろ。五年ほど前に見つけた。何か言いたいことがある時はここって決めてるんだ」


「私が初めて?」


「悪いが向日葵のほうが先なんだ。ま、向日葵に関しては誕生日プレゼントの意味だったんだけど」


 確かあの時は……言わんことにしよう。


「何か隠してない?」


「気のせいだ」


 なんでこう、無駄に鋭いんだよ。


「ふ〜ん?ま、いいけど」


「そうそう。詮索しないことが大切」


「何かあったんだ」


「やべ、やぶ蛇」


「もう……隠し事はしないんじゃないの?」


「隠し事はしたくなくても後ろめたいことはあるんだ」


「じゃあ、いっそのことぶっちゃっけちゃいましょう」


「怒らない?」


「内容いかんによります」


「……夕日が綺麗だな〜」


「話そらすなー!」


「いてっ」


 柵に腕を乗せてた後ろからチョップを食らった。でも、愛花なのでそこまでの痛みはない。春乃だったら顎打ちつけてただろうな。綾だったら、まずこんなツッコミはしてこない。


「白状するよ。向日葵にキスされた」


「……え?」


「言葉通り」


「どこに?」


「ほっぺ。唇は愛花にとっておいてあげるとか言ってな」


「向日葵ちゃんも大概だったか……」


 まあ、大概だったと思う。お互いに。ようやく、どちらも兄妹離れ出来た……のだろうか。これからも一緒に住んでくことに変わりないし、二人暮らしだからお互いに助け合わなきゃいけないけど。

 今まではぼくの比率が多すぎたという話で結論は導き出されるだろう。もう義務教育ではないので、手はかからなく……なるのかどうかは知らない。結局、今まで通りに世話をするのだし。


「不安だ……」


「何が?」


「向日葵をあいつに任せるのが」


「まだ言ってたの?」


「いっそのことぼくの手で犯してキズものにしてから……」


「ていっ!」


「いて」


「向日葵ちゃんも子供じゃないって言ったのはどこの誰だったか思い出してよ」


 叩かれた頭をさすりながら、向日葵もぼくと同じように成長してることを考える。いや、向日葵はずっと成長してるんだ。成長してなかったのは……ぼくの方だ。


「もう、向日葵も子供じゃないもんな。好きにさせてやろう。今度はぼくが成長する番だ。日が沈む前に済ませたい」


 愛花に今度こそ、ぼくの正直な気持ちを伝える。16年間ずっと、隣にいてくれて、思いを伝えられて、それに応えられなくて、一度は離れてしまった。それでも、まだぼくを想い続けてくれて、今日、こうして一緒に歩いてきてくれた。

 あの時はまだ、恋というものを知ってなかった。一度経験して、今抱いてる気持ちが恋という意味の『好き』だという感情なんだろう。今だからこそ、それが分かる。

 目の前の幼馴染をゆっくり抱き寄せる。

 愛花は抵抗せずに受け入れてくれた。


「愛花。待たせてごめん。もう一度言う。一人の女の子として愛花が好きだ。だから、今こうやって抱きしめたかった。……受け入れてくれるか?」


 愛花のほうの力が少し強くなる。

 少し鼻をすする音が聞こえてくる。

 泣いてるのか?


「まだ……こっち向かないで。……こんな顔見られたくない」


「どんな顔だって愛花は愛花だ。ぼくの好きな愛花だ」


 少し体を離して、愛花の涙を拭ってあげる。


「うっ……うっ……」


「泣いてちゃ話せないだろ?愛花の返事、教えてくれ。ぼくでいいのか」


 愛花は袖口で涙を拭って、ぼくの顔を見据える。涙の痕は残ってるけど、いつもの表情に戻る。いや、少し硬いか。


「あ、あの……もう一度よろしくお願いします!」


「ああ。ありがとう」


 恋の意味を知らなかったぼくにとっては、多分これが本当の初恋だろう。でも、気持ちとしてはずっと昔から愛花のことが好きだったんだろう。近すぎて気づけなかったんだ。それか、誓いに囚われすぎて、感情を押し殺してたんだ。

 キッカケは一年前のあの日だ。あのタイミングで言って、勢いだけで付き合って、愛花を傷つけた。

 もう二度と、そんなことしない。

 今度はぼくからキスをした。ぼくからは初めてだ。

 愛花も拒まないでくれた。

 軽く触れるだけのものだ。


「もう、私待たないでいいのかな。苦しくて泣くようなことはもうないかな?」


「ああ。約束する」


「エッチなことは?」


「ひ、向日葵がいるし、まだ高校生だし……」


「えへへ。冗談。ひなちゃん、赤くなって可愛い」


「夕日のせいだろ」


「そういうことにしておいてあげますー」


  いたずらっぽく笑って、ぼくをからかう、もう一度ぼくの彼女になってくれた愛花。


「さ、帰ろう。今日は一緒にご飯食べよう」


「うん!向日葵ちゃんも待ってるしね」


  そう言って、手をつないで、夕日の差し掛かる丘を下ることにする。

  今度こそ、つないだ手を離さないように。

 

これにて、旭日向の物語は終わりです。

読んでくださってありがとうございました。

色々投げた感はありますけど、元々50話程度で終わらそうと思ってたので、最後駆け足でしたw

また、いつか恋愛ものが書けるといいな〜

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