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ひまわり畑  作者: otsk
5/51

誕生日パーティー

翌日。朝四時半起き。朝食を作るためにぼくは目を覚ました。まだ、早いからと言って二度寝するなんてことはない。

「おはよ〜。お兄ちゃん」

「おはよ。向日葵」

五時半、向日葵起床。髪を盛大に乱れさせながら、フラフラと朝食の場にやってきた。

「向日葵。髪ボサボサだぞ。後で整えてやるから先に顔洗ってこい」

「う〜」

またフラフラと覚束ない足取りで洗面所へ向かった。

「よし、こんなもんか」

「う〜」

唸りっぱなしで戻ってきた。向日葵の前に朝食を並べて、席に着く。

「ほら、早く食べないと朝練遅刻するぞ」

「う〜ん」

いただきます、と半開きの目で手を合わせて食べ始める。寝るか食べるか、はっきりしてほしいが、寝てたら遅刻するので、半覚醒状態でも食べてるならそれでよしとする。

「向日葵、今日、帰りに兄ちゃんとデートするか」

「本当!?」

目覚めた。

「昨日、美浜が今日の練習は早めに切り上げるってさ。でも、お金ないからウインドウショッピングな」

「全然いいよ。久しぶりだね〜」

「そうだな。部活一生懸命だったし」

「なんでまた、今日早いんだろ?」

「あの人の都合だろ」

こちら側の都合だが、あの人も入ってるのであの人の都合でも差し支えはない……うん、ないな。

デートって言っちゃったけど、ケーキどうしよう。バレるかな。向こうに行かないようにして、夕夜に取りに行かせるか。それで行こう。

「どこか行きたいとこあるか?」

「ケーキ屋のおじさんに会いに行こ」

一番最悪のデートだった。

「いや、そこはやめとこう。あのオッさんに挨拶するならいつでもできるから。な?」

一応念押しに否定する。強情な子ではないので、変えてくれると助かるけど……。

「お兄ちゃん、なんか様子変だよ?」

「そんなことはないよ。商店街はちょいちょい行くから、別のところ行こう」

「まあ、お兄ちゃんが言うなら、それでいいけど……」

顔では平常心を装いつつ、内心ではほっとしておく。聞き分けのいい妹で助かった。これが姉だったら、強行で連れ去られていたところだろう。こんなことを考えてると帰ってきそうだけど、向こうの大学もまだ始まったばかりだろうし、それ以前にまだ渡ったところだ。あの姉に関してすぐにホームシックになることはないだろう。

「ほら、早くしないと朝練遅刻するぞ」

「わわ!本当だ!じゃあ行ってくるね!楽しみにしてるよ!」

「校門で待ってるからな〜」

バタンと扉は音を立てて閉まった。ふぅ。ぼくが出るまでにまだ時間があるな。デートプランを考えるか。

…………。

………。

……。

…。

午前七時半。そろそろ出ようか。高校は中学よりは、出席するべき時間は遅いのだが、それでも、ぼくは行かないといけない理由はある。

戸締りを確認して、家を出た。そして、隣の幼馴染の家に立ち寄る。早く出た理由は、寝起きの悪い幼馴染を起こすためだ。昨日は起こさなかったおかげで遅刻しかけたらしいし。かと言って、起こす義理があるかどうかと言われたら微妙なところだけど、昨日料理を作ってもらったし。味は厄日に当たったらしく、酷いものだったが、それはぼくのだけだしな。いつまで、言い訳をしてるんだろう。中学の時はいつも起こしてやってたし、これからも同じように起こしてやろう。

守山家のインターホンを押して、待つ。これで出てこれば、いいんだけどな。

一分経過。誰も出てこないので、上がることにする。

「愛花〜。学校行くぞ〜」

反応がない。そもそも、この家の両親はどこへ行った。娘残して、仕事に行ったか?そもそも隠れてるか。やりかねない。来る相手がぼくじゃなかったらどうする気だ。

愛花の部屋に辿り着く。

二回ノック。

……………。

返事がない。が、地味に目覚ましの音が漏れてる。まったく、目覚まし鳴ってるのに目覚めないのか。寝つきよすぎだろ。

部屋に鍵がついてるわけではないので、中に入ることにする。

「えへへ〜」

寝顔はものすごく幸せそうだった。何の夢見てるんだ。

「ほら、愛花。遅刻するぞ。早く着替えて、顔洗う」

「ふぇ?」

キョロキョロと顔を動かしている。声がする方を探してるのだろう。

「こっち。ぼくだよ」

「うわわわ!ひなちゃん!なんで!?」

「なんでも何も、もうすぐ時間だ。遅刻する気?」

「すぐ支度するから!待っててー!」

「パンでも焼いておくから、それくらいなら登校中にでも食べれるだろ?」

「分かったー!」

「きゃー!」

ぼくが部屋から出た後も忙しい幼馴染だった。その後十分ほどして、パンを咥えたまま、出てきた。

「ひなちゃん……時間見たらまだよかったよ……」

「思ったよりかは早く起きたからね」

「私が全然起きない子みたいじゃん〜」

「目覚まし鳴っても起きなかったし、事実だろ」

「鳴ってた?」

こいつは……。鳴ったことにすら気づいてなかったか。これじゃ、いつになったら自分で起きられるのか。

「お母さんいなかった?」

「ぼくが来た時にはすでにいなかった」

「まさか、お母さんにまで見捨てられたのか……」

「書き置きはあったけどね」

「なんて?」

「言いたくない……」

あれが先に愛花の目に止まっていたらどうなってただろうか。いや、でもその時点で起きてるからいいのか?どちらにせよ、ぼくはやる気はないからな。

「なにブツブツ言ってるの?」

「なんでもない。それより、早く食べちゃえよ。もうすぐだぞ」

「もうちょっとゆっくり行こうよ〜。まだ時間あるよ〜」

「時間が経ったら、人に目に留まるだろ」

「あ〜ひなちゃん照れてる〜」

「そんなことは一切ない」

「うう……ひなちゃんに嫌われた……」

「それもないから」

「じゃあ好き?」

「ここで言うの?」

「じゃあ、紙に書いたから、ここから選んで〜」

「まあ、それなら」

目の前に三枚の紙を出される。選択肢は、

好き

大好き

超大好き

「選択肢が一方的すぎるわ!!てか、いつのまにこんなの作った!!」

愛花から紙を取り上げる。

「素直になれない、ひなちゃんの気持ちを代弁した紙を作ってあげたのに〜」

「ああ、はいはい。好きですよ」

「やった〜」

無邪気に喜んでいる。こいつに関しては、恋愛感情なのか友達としてなのかよう分からん。

「ちなみに向日葵ちゃんは聞くまでもなく、即答で超大好きと、言ってくれました」

「そうですか……」

向日葵と愛花はベタベタだからな。こっちが嫉妬するほどに。特に妬いたところで何もならないけど。

向日葵と歩いていると、後ろから影が。

「愛花伏せろ!」

「えっ?」

バキッ。

ぼくの靴裏が確かな感触を捉えた。

「痛いな!何するんだよ!」

「ああ、悪い。痴漢かと」

「挨拶しようとしただけだよ!」

蹴ったくった相手は夕夜だった。いや、ぼくも確信していたからやったわけだけども。

「にしても、見事に靴裏の後がついたな。洗ってこいよ」

「誰のせいだよ!」

「ぼくのせいか?」

「俺が悪いの!?」

こうして夕夜が合流。隣でぶつくさ文句言ってたから、これなら愛花と二人で歩いてた方がよかった気がしてきた。

「相変わらず仲良いね二人とも」

「おかげさまで。お前も彼女の一人や二人……あぁ、悪かった」

「何に対しての謝罪なんですかねぇ!?」

こいつに彼女を作るだけの度量があるのなら、僕なんかと別れていただろう。それができずに、未だこうやってるのは結局のところ彼女を作れるだけの強さは持ち合わせちゃいないということだ。

「夕夜、誰か好きな子は?」

「向日葵ちゃん」

「死ね」

「せめて、取り合ってください!!」

「あのな」

夕夜に諭そうとしたところにHR開始五分前のチャイムが鳴り響いた。

「はあ。ここまで来といて、遅刻扱いもなんだな。早く行くぞ」


ーーーーーーーーーーーーー


8時半、教室へ到着。

「どうしたの?息切らして」

「はぁ……はぁ……」

息を切らしてるのは愛花だけである。

「HRって、何分からだった?」

春乃は時計を見て確認する。

「40分からね。別に今日はレクリエーションだし急ぐ必要もなかったんじゃない?」

「チャイムに踊らされたか」

各々、席へ向かう。最初なので、名簿順である。それに咥え、男女混ぜこぜである。まあ、青山だとか、赤木だとかこない限りは、ぼくの名簿は大抵一番だけど、このクラスでも例外なく一番だった。隣には春乃。

「なんで、一番前かね。何もできやしない」

「する必要性がわからないんだけど。今日どうするの?」

「終わったら、ぼくの家に行ってくれ。五時には戻るようにする」

「みんなに言ってある?」

「あー、豊山さんに言ってない。放課後までに会う機会があったら、言っておいて」

「連絡先は?」

「ごあいにく」

「はあ、まったく。ほら、教えといてあげるから、自分でしなさい」

ため息つかれてしまった。しかし、高校一年生にして、お母さんみたいなやつだな。担任が来るまでに、連絡先を聞いておき、メールを送っておく。まだ、電源を切ってなきゃいいけど。

送り終えるのと同時に扉が開いた。急いで、ポケットの中に携帯を突っ込んで、今日の予定を聞くことになる。

「えー。連絡はいってると思うが、今日はレクリエーションだ。クラスごとに体育館に行って、整列をしておくこと。後、旭は私のところへ来い」

名指しで呼ぶな、名指しで。周りが奇異的な目で見てるじゃないか。それでなくても、昨日、入学式初日から呼び出されてるんだから、若干噂されているというのに。

「あんた、何やったの?」

「特に何もやってない。個人的な用で呼び出されただけだよ」

「個人的な用?」

「先生も向日葵にプレゼントをあげたいんだと」

「へぇ〜」

「こら、そこの前二人。静かにしろ。連絡は以上だ。質問はないな?あっても一切無視する」

やはり、教師として最低だろこの人。

挨拶をし、おとなしく先生の元へと向かうことにする。

「ふむ。こうやって、私がお前に何か渡すと、私がお前にプレゼントしてるようだな。なんとかしろ」

いきなり無茶苦茶である。

「だったら、先生が戸締りして、みんなが出てった後にぼくのカバンの中へ入れといてください」

「なんか恥ずかしいな」

いい歳した人が今更こんなことで恥ずかしがらないでもらいたい。

「いや、よく考えたら職員室だ。また、後で渡そう」

「じゃあ、ぼくも行きますね」

「悪いな」

ようやく解放されて、体育館に向かうことにする。誰も待ってないあたりにぼくの人望の無さが伺える。すでに、他のクラスの人も行ったみたいで、廊下は閑散としていた。

だけど、曲がり角を曲がると見知った人影が。

「豊山さん」

「あっ、旭くん」

「豊山さんも遅れたの?」

「鍵を任されたので、みんなが出て行くまで待ってたんです」

チャリと教室の鍵を見せる。

「それでも、誰か待ってあげてもいいのにね」

「誰も、私のことは知らないですし」

「ぼくに至っては知り合いがいながら見捨てられたよ」

「ま、まあ……その時はその時で」

あはは、と苦笑しながら前を見据える。

「そうだ。今日の誕生日パーティーの連絡見た?」

「え、すいません。電源切ってたので見てないです」

「いや、いいよ。ここで言うから。五時から始めるから、用意しておいてくれる?家は愛花たちについて行けばいいから。あるいて、十分ぐらいのところだから」

「旭くんは……」

「ぼくは、放課後から向日葵の部活が終わるまで、待機。部活でも、見て回るよ。その後は時間まで、向日葵とふらついてるから」

「そうですか。分かりました」

「じゃあ、また後で」

「はい」


ーーーーーーーーーーーーー


レクリエーションと言っても、前半は学校案内だ。3年前からいるんだし、ふけようかな。

「あんた、またふけようとか考えてるんじゃないでしょうね?」

「だって、もうこの学校は隅から隅まで知ってるし、今更案内されたところでなんだ?って話じゃん」

「まったく、夕夜でさえちゃんといるのに……あれ?」

「夕夜なら、前の部活仲間とどっか行った」

「なんで、私の周りの男子は自由人ばっかなのよ!」

「ぼくに言われても……愛花は?」

「あそこで質問責め。あんたと歩いてきたから彼氏かなんかと勘違いされてんじゃない?」

「彼氏ではないが、好きかどうかと聞かれたら好きだというやつだしな。どう転んでも、ぼくは火の粉を被りそうだよ」

「いいんじゃない?公認のカップルってことにしとけば」

「ぼくに何のメリットがあるんだよ」

「愛花には余計な男が寄ってこなくなるでしょうね」

「そんなもんかね」

適当に聞き流しながら、愛花の様子を見守ることにする。女の子としてより、どちらかといえば保護者的感覚なんだよな。こんなこと言ったら、春乃にどつかれるから言うのは伏せておくことにする。

「じゃ、私も愛花いじってこよっかな。じゃね」

「あんまりいじめんなよ」

春乃とも分かれて、一人で歩くことにする。 やることないな……。


ーーーーーーーーーーーーー


「我が校は〜……」

生徒会長の部活の一通りの説明を聞いた後、各部活の紹介に入る。中高混じって、やる部活もあるが大抵は分かれてるので、紹介しているのは高校生ばかりだ。

運動部の紹介が終わって、文化系の部活の紹介に入る。運動部の紹介を端折ったのは、特に入る気はないからだ。かといって、文化系の部活に入る気があるかと聞かれると、そうです、とは言えないが、運動部よりは時間が取れる分入れる可能性はないわけでもないだろう。ぼくはテニス部に勧誘されてた気がするけど。

「うわあぁぁ……」

一人で悶絶することになる。向日葵と一緒に部活できるなら、それは嬉しいけど、家事のこともあるしな……。勉強との両立もきつかったし……。まあ、やるならやっぱり文化系か。しかし、何をやったもんかな。

見てる間に一つ気になる部活があった。部員は三年生の三人だけで、今年入らなければ廃部になるという部活だ。別に情に駆られたわけじゃないけど、候補としていれておくことにした。

「なんか、入りたい部活あった?」

体育館から出ると、夕夜から話しかけられた。

「入りたいというわけじゃないけど、気になるのはあった」

「なに?」

「文芸部」

「また、地味なのを」

「部員は3年だけって言ってたけど、実質活動してるのはたぶん、紹介してたあの人だけじゃないかな?三年生一人なら、コミニュケーション取りやすいだろうし、文化部なら時間に縛られることもないだろ?」

「無駄に計算づくだね。確かに、紹介してた人、結構美人さんだったし、優しそうだったな。お前が入るなら、俺も入るぜ?」

「お前はいいや」

「俺たち友達だろ!?」

「朝、ぼくを見捨てて行ったやつに友達ヅラされたくない」

「次からは待っててあげるから〜。俺を見捨てないで〜」

「はいはい。あと、それ以前に文芸部ってなにする部活か分かってるか?」

「なにすんの?」

「お前は聞いてなかったのか」

「部長さん綺麗だな〜って、見てた」

一番アホな見方だった。

「本を読んだり、なにか物語を書いたりする部活だぞ?できるのか、お前に」

「…………」

悩んでいる。きっと、自分が本を読んだり、小説を書いている姿を思い浮かべているのだろう。

「いけるんじゃね?」

「マジかよ……」

こいつが何か創作してる様子がまったく思い浮かばない。

「愛と青春のサッカー少年のストーリーを書いてやるぜ!」

「漫研に入った方が無難だな」

「なんでだよ!超感動の大作を書いてやるぞ!」

「サッカーとかのスポーツの題材なら絵に起こしたほうが、躍動感が出るだろ」

「文芸部って漫画は書かないのか?」

「まあ、聞いてみればいいんじゃない?たぶん持参になるだろうけど。それ以前にお前、美術の成績は?」

「ふふふ。俺を見くびるな。体育しかできない能筋と思われちゃ困る」

「その体育は保健のテストが散々で4だけどな」

「俺は、実戦波だ」

その漢字も違う。なんだ?実戦波って。新しい技か?

「実戦も理論が分かってなきゃ意味をなさないけどな」

「で、何の話だっけ?」

「美術の成績だよ」

「ふ。2だ」

自慢する要素が微塵たりともない。せめて4を、とってから言ってくれ。

「甘いな、日向。著名な漫画家にも美術の成績は芳しくなかった人はたくさんいる。だから、必要なのは魂と話のクオリティさ!」

いいことを言っているが、そういうのはせめて、一本でも書いてからにして欲しい。

「で、書く気は?」

「さらさらないね」

なら、なぜ発案した。

「そういう日向は?」

「どうせ書くんなら、小説というか、創作物だからこそできる表現をやりたいな」

「へえ。例えば?」

「妹との純愛を書く」

「言うと思ったぜ……。そもそも、妹が恋愛対象の時点で純愛からかけ離れてると思うのは俺だけか?」

「だからこそだ。お互いが愛し合っていればそれで純愛だ。プラトニックな関係にしとけばいい」

「そうかよ」

「そういうお前は部活どうすんの?」

「まあ、いいだろ?」

「別に強制じゃないみたいだし、ぼくも取り立てて入りたいというわけじゃないし」

「でも、やりたいことはあるみたいな感じだけどな」

「せっかくの高校生活だし、なんもやらずに後悔はしたくないよね」

「そこであの文芸部だよ」

「あん?」

「これはまた今度な」

とうに教室に着いて、待機時間に話していたが先生が入ってきたので戻ることにする。

「今日はこれで終わり。まっすぐ家に帰れよ。号令……まだ、委員長決めてなかったな。旭やれ」

「ぼくですか!?」

「今日だけだ」

「……起立、さよなら」

さっさと帰ることにする。

「こらこら。そんなおざなりにするな。権限で強制的に委員長にするぞ」

「それだけは勘弁願いたいです」

「だろ?ちゃんとやれ」

もう一度、仕切り直し。クラスの奴らはまたかみたいな顔をしている。ぼくが悪いわけじゃないのに理不尽な気がする。

仕方ない。ここは一発やってやろうじゃない。

「起立!さようなら!」

「「さ、さよなら」」

気圧されたかのように、ちょろちょろと声が上がった。ちょっと、気持ちいいかも。

「いいじゃないか。その調子で頼むぞ。委員長」

肩に手を置かれ、そう告げられた。くそ、どうやったところでぼくが委員長をやるフラグは立ってたじゃないか。最初から断って春乃に押し付けときゃよかった。押し付けたら、押し付けたで「女子に押し付けるな」と結果的にぼくになっていただろう。なら、夕夜なら「あれには無理だ」。……先生の予想会話とぼくの考えが一致した。どう転んでもぼくに戻って来るのか。なんて、嫌なシステムだ。

「日向〜。行くぞ〜」

「ああ。……ぼく学校で向日葵待ってるから、先に家に行っててくれ。豊山さんも連れて行ってあげて」

廊下で、ひょこっとこちらを覗き込んでは目を逸らしている少女を指差して、指示をしておく。

「ああ、夕夜は家に行く前にケーキを取りに行ってくれ。さすがに覚えてるよな?愛花はプレゼントを持ってきておいて。春乃は、サンタ服をリビングの机に置いておいたから、着替えといて」

「結局あれやるのか……」

「向日葵のためだと思って」

「負けたもの。ちゃんとやるわよ。ただし、笑った日には次の日指がないと思いなさい」

「それはぼくじゃなくて、夕夜に言ってくれ」

春乃は夕夜を目で制していた。こいつ、なんかの戦闘マシーンじゃないの?

「じゃあ、綾ちゃん拉致って行きますか」

「拉致言うな。普通に連れて行ってあげろ」

「はーい。……あんたの家の鍵は?」

「ああ、じゃあ、愛花。預けとく。夕夜には渡すなよ」

「俺の信用無さすぎる!!」

「後、夕夜が向日葵の部屋に入ろうとしたら、最悪殺してでも」

「殺してでもなんすか!?」

「ぼくの部屋は好きに使っていいから」

「ん。じゃ、行きましょうか。後でね」

「愛花、料理も頼むよ」

「らじゃー!」

ウインクをしてドタバタと走り去って行った。


ーーーーーーーーーーーーー


さて、ぼくはといえば、学校で時間を潰さなければならない。一度、家に戻ってから、また学校に来るのは二度手間だしな。指示はしておいたし、多分大丈夫だろう。夕夜だけが気がかりだが。

「とりあえず、あそこに行ってみるか」

やってるか、どうかは不安な所であったが、生真面目そうな人だったし、部活紹介しておきながら今日は休みということはないだろう。

「えっと、文芸部、文芸部……」

校舎の文化部の棟を一つずつ見て回る。

「あ、あったあった」

教室を示すプレートに『文芸部』の文字。棟の端っこではあったがちゃんとあった。

まずはいるかどうか確認をする。が、姿は見えない。

「いないのかな……」

「あの、文芸部に用事ですか?」

「うおわあ!」

後ろから突然声がしたので、反射的に驚いてしまった。こっちが驚いたため、向こうも驚いたようだが、向こうはすぐに平静を取り戻して、笑顔で対応する。その人は鍵を持っていた。

「すいません。邪魔でしたね」

「いえいえ。あなたは?……ここで、立ち話もなんですね。中へ入ってください」

「はあ……」

促されて、そのまま中へ入る。

席に着いて、腰を落ち着けると、お茶が出てきた。

「わざわざすいません」

「いいんですよ。人が来るなんて滅多にないから」

ズズッ。お茶をすすりながら、入った部屋の中を見渡す。なんか、資料室をそのまま部室にしているみたいな空間である。別段、本の匂いが充満しているわけではないが、独特の匂いは感じる。

「では、自己紹介からしましょうか。私は3年A組の蔵次祀くらなみまつりです。文芸部の部長を務めています」

自己紹介は終わったようだ。ぼくの番か。

「1年D組の旭日向です。妹もこの学校にいて、テニス部に入ってます」

「あなたが旭くん?」

「知ってるんですか?」

3年の人にまで知られてるなんて、ぼくは一体何をやらかしたんだ。

「知ってるというより、さっき職員室に鍵を取りに行った時に小耳に挟んだの。成績優秀だけど、初日から入学式を途中でボイコットした子がいて、名前が旭だって」

「早速職員室の話のネタになってましたか。光栄の至りですね」

「そんなことで誇らしげに言われてもね。そうだ、ここの前に居たってことは入部希望?」

「迷ってるんですけどね。今日は時間があるんで、気になった部活を見に行こうと思って」

「他に気になった部活はあった?」

「気になってるというか、担任がテニス部顧問で妹も入ってるんで勧誘されてるんですよ。でも、時間があまり取れないんで、時間の融通が利く部活なら初めてみてもいいかなって」

「そっか。ということは妹さんは中学生?」

「そうですよ。親が家にいないんで、ぼくが身の回りのことやってるんですよ」

「大変だね。わざわざ部活に入らなくてもいいんだよ?この学校強制じゃないんだし」

「せっかくの高校生活ですからね。なにか、新しいことをやりたくて。やるなら、自分から動いてくしかないじゃないですか。誰かと同じじゃ主体性なんてものはありませんから」

「いい心意気だね。でも、この部活でいいの?部員は三人いるって言ったけど、活動してるのは基本的に私だけだし」

「実を言うと、あんまり上下関係というか、多人数と関わるのが好きじゃなくて。ここなら、人数多くないけど、上との関わりが持てると思いまして」

「うんうん。私でよければ、いつでも相談に乗るよ。なんか、面接みたいになっちゃったね。旭くんは本とか読むほう?」

文芸部らしい話題になってきた。変に気取らなくても、この人なら受け入れてくれるだろう。

「そうですね。妹の借りて漫画を読むか、料理本を読んでるくらいですよ。でも、なんか自分で物語を作り上げてみたいです」

「そっか。実はこの部室、私の私物とか置いてあってよかったら読んでみて。歴代の文芸部員が書いたものもあったりするけど」

「文芸部の活動ってなにがあるんですか?」

「一応、文化祭に各々好きな作品を一つ作って、即売会をするの。こんな場所だからあまり売れないんだけどね」

ここで去年のことを聞くのはきっと地雷だろう。そこの部分は流しておこう。

「それって、グループでもいいんですか?」

「最近は人数が少ないから大体一作品になっちゃってるね。別に構わないよ」

「じゃあ、一緒に作りましょう。ぼく入部します」

「本当?ありがとー旭くん!」

手を取って、喜んでくれてる。勢いで入るって言っちゃったけど、大丈夫か?

「出てくるのは好きな時でいいよ。ここに来るのは時間を潰しに来てもらっても構わないから」

現に今もそういう感じだし、それで構わないと言うなら、時間も作って部活動ができるだろう。断る理由もないし、でも、ぼく一人か……。

「旭くん、友達とかは?」

「あいにく少ないです。でも、誰も部活入ってないんでもしかしたら入ってくれるかも」

「そう。文化部と運動部は兼部出来るから、そういう子もいいよ。でも……」

「?」

「やっぱりいないよね。去年は興味を持った子すらいなかったから」

はあ、とため息をついて顔を机の上に伏せてしまう。一人でこの部を支え続けてるから、文化部とはいえ、負担はあるだろう。

「あはは、後輩にこんな姿見せてたらダメだよね。せっかく入ってくれるんだもん。今日はこれからどうする?」

「えっと…時間は……」

二時を回ったところだった。まだ、時間はあるな。

「そうですね。今日はいつまでやってますか?」

「今日は三時までかな。予定があった?」

「妹の送りです。今日は三時に練習終わるんで。文芸部の活動って決まった日にちとかありますか?」

「週2〜3日かな。私は毎日来てるけど、できればそれぐらい出てくれると嬉しいよ」

「決まった日にちはないということですか?」

「そうだね。休みの日は休みだからそこは気にしなくていいよ」

「分かりました。……連絡先交換しときますか?」

「うん。じゃ、なんかあったら連絡してね」

「っと、もうこんな時間ですか。じゃあ、ぼくは行きます。もしかしたら、明日誰か連れてくるかもです」

「楽しみにしてるね〜」

旭日向、文芸部入部。ほのぼの系の部活なので、運動部なんかよりよっぽど居心地はいいだろう。別にあのテニス部が居心地が悪かったわけじゃないけど。向日葵が仲良くやってる部活だし。

「…………早く迎えに行くか」


ーーーーーーーーーーーーー


テニス部は美浜は弱いと言ってたけど、我が校では割と強いとこなので、専用コートがある。というより、美浜が赴任する前が弱かっただけであり、強くなったのはそれ以降だ。だからあの人は、学校側の評価は高い。ぼくの評価はすこぶる低いけど。

テニスコートに辿り着くと、美浜が入り口に立っていた。

「終わりましたか?」

「今着替えてるところだ。私は男子部員が覗きに行かないように見張ってる」

「ありがたいことですね。にしても、広くなりました?」

「ああ、去年の功績が認められてな。四つほどコートを増設した」

この人、裏で学校を仕切ってんじゃないだろうか。ぼくがいた時は、5コートぐらいだった気がするけど、10を超えている。最近じゃ、この学校にテニス部目当てで入学する生徒も多いとか。

「お前の妹すごいぞ。県選抜の選手に指定された。今日付けの情報だから、どうするかはあの子次第だけどな」

「そりゃ光栄です。……ということは、向日葵は一人で遠出をすると!?」

「まあ、そうなるな……。別に修学旅行とか行っただろ?」

「この学校の生徒ならぼくの影響下なんで妹は手だしされませんが、県外に出るとなったら話は別です。変な男が寄ってくるかもしれないでしょう!!」

「うん。お前怖いわ。確かに女の私の目から見ても、あの子は可愛いな」

「でしょう!なら、向日葵が行くなら、先生が付いて行ってください!」

「お前が行くという選択肢は排除してんのな」

「まあ、さすがに学校がありますし」

「そこは現実的なんだな。まあ、学校ごとに選手が出るなら教師は同行する。この部の顧問は私だし、私が行くことになるだろう」

「マジすか!先生!」

先生に感激しながら感謝をしていると、男子部員がぞろぞろと出てきた。そしてぼくを見つけるなり、

「旭さん!ちーっす!」

「それよりも、あの旭を手なずけてる美浜ちゃんは何もんだ」

「やべ、旭だ」

「俺この前、旭さんと喋ってたんだけど……」

「お前死んだな」

「合掌」

口々にぼくを見るなり、畏怖を感じてるようだ。

「おい。聞こえたぞ。誰だ向日葵と話して奴は!」

束になっていたテニス部員が体をどけて、一人の部員を指していた。

「ほう。お前か。名前は」

「ひい!さ、相楽です!」

「よっしゃ、一セットマッチだ!勝ったら許してやる!」

「わ、分かりましたー!」

コートの奥側へ走り去って、ラケットを取り出していた。あ、負けた時のペナルティ考えてなかった。

「負けたら……」

「お兄ちゃん!」

後ろから声が聞こえた。

「今日はデートじゃなかったの?」

「あ、悪い。変な虫がいたから潰すことを考えてた」

「もー。別に私が夕夜くんと話してても何も言わないのにー」

「あいつは人間ですらないからな」

「せめて、人間の扱いはしてあげようよ」

向日葵は制服を翻して、ぼくが試合を挑んだ、部員に向き直していた。

「ごめんね、相楽くん。お兄ちゃんこんなんで。話すくらいなら気にしないでね。ほら、いくよ」

「あ、向日葵!くそっ!向日葵に免じてお前は許してやる!向日葵が嫌がることをしたやつは一人残らず殺ってやるからなー!」

「物騒なこと言わないの」

向日葵に腕を引かれ、テニスコートを後にした。


ーーーーーーーーーーーーー


「で、どこに行くの?」

「そうだな。あそこに行こうか」

商店街は避けることにして、ちょっとした丘へ向かうことにした。

辿り着くと、日は傾き始めていた。でも、これから日は延び始めるだろう。

「こんなところ連れてきてどうしたの?」

「まあ、お金がないから。話したいこともあったし。ちょうどいいかなってさ」

「話したいこと?」

ここで言うのはフライングかもしれないけど、家で言うような話じゃないし、家に戻ったら、あいつらが出迎えてくれるだろう。予定時刻までの時間つぶしだ。

せっかくのデートだと思ってくれてたみたいだけど、話しておこう。

「向日葵……あのな……」


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