思い出の地(4)
また日は昇る。残り4日。
休暇取りすぎたな。現在火曜日。向日葵達が来るのは、金曜日の予定……になってるはず。
それまでに答え探しだ。なくしものを探してるという表現でもいいかもしれない。
なにをなくしてるかすら知らないままだけど。
女の子を女の子として見れない腐った精神?黙っとれ。
「ねむ……」
携帯の時計を見るとまだ、五時だった。慣れない寝床だから、寝付きがあまり良くないのか。それとも本格的に爺さん体質になりつつあるか。
今日はまだ姉さんは突撃してきてない。
「もう一度寝よう」
布団の中に潜る。
……………………。
「暑いわ!」
北の大地となれど、布団の中に潜り込めば暑い。一つ教訓ができた。旅館の布団って、親切なのか嫌がらせなのか知らないけど、夏場でもタオルケットとかじゃなくて、羽毛布団のような気がする。今『うもうぶとん』と打ったら、誤変換だった。よって羽毛布団は『うもうふとん』と読むのが正しいのか?それとも、今までぼくの認識が間違っていたのか?誰か教えて。
誰が教えてくれるわけでもないので、自分で暇つぶしがてら調べることとする。あっ、ぼくが誤読してたのか。皆うもうぶとん、うもうぶとん言うから、間違って認識してたじゃん。
ここまで、十分。暇すぎる。
本格的に行くべきか。逃げてるだけのあの場所へ。
結局考えはまとまらないまま、布団を片して、畳の上に横になる。畳気持ちいいや。寝るとアザがついてみっともないけど。
「ひな起きてるー!?」
姉が突撃してきた。朝から元気だな。昼、寝たまま起きないくせに。
「起きてるよ。また朝日見んの?夏だから北海道でも早いぞ。見に行くなら急がないと」
「いや、まあ朝日は明日見ますか。初日の出みたく、その日一日しか意味がないってものでもないし」
「割かしその人にとってその年初めて見る朝日ならわざわざ元旦に見なくても初日の出になるんじゃない?」
「いや、どちらにせよ一度は外に出るでしょ」
「外に出なきゃいいさ。日の出が見れる時間に起きれるまで」
「ひなよ」
「はい?」
「言ってることはかっこよさげだけど、ただのヒキニートよ、それ」
それがなにか。素晴らしいぜヒキニート!まあ、社会のゴミやらガンやら言う人いるからあまり声を大にしては言わない。そのヒキニートのおかげで助かってる事業もあるかもしれないし。それが誰が稼いでんのかって、親ですけどね。やっぱりゴミだわ、ヒキニート。ちゃんと就職先探そう。
「そういや、ひな。あんた成績いいって言ったわよね」
「まあ、授業に出なくても問題ないと言われるぐらいには」
「大学行く気とかある?」
「うーん。担任にも聞かれた。本来は三者面談とかするべきなんだろうけど、事情が事情だし。かといって、大学行ってまでなにかしたいことあるわけでもないし」
「でも、高卒だと働き口狭まらない?」
「国家公務員とか、大学出るべきだと思うけど。子供を二人養ってくぐらいの人生設計なら、地方公務員でも」
「公務員は確定事項かい」
安定職を私は所望します。……ぼく人付き合い苦手だしなぁ。特定の人としか付き合いできないようじゃ、就職はままならないかもしれない。
やばい、本格的にオッさんのところに頼むハメになるかもしれない。
「人付き合い少なくて、収入が安定してる仕事ない?」
「自分で探しーよ。お姉ちゃんはそこまで面倒を見る人じゃないのよ」
「頼むよ。このままじゃオッさんのところに頼むハメになるかもしれない」
「まず、大学出ようという気はさらさらないのね」
「向日葵がまだいるのに、男手のぼくがのうのうと大学行ってもな。やりたいことないし」
「高校は三年あるのだよ。ま、それでもやりたいこと見つからなければ、おじさんのところなり、公務員なり目指せばいいよ。でも、高卒の公務員試験は早いから気をつけなよ」
「そーさね」
働くにしても、明確な目的がなければ働く意義もないんだよな。向日葵のためって言ったけど、なんなら親父の稼ぎだけでも、向日葵に関してはこと足りる。向日葵だけにはお金の糸目をつけないとか言いやがってるし。でも、向日葵はちゃんと自分で色々設定して、わがままを言わない。向日葵、マジ天使。
「別に無理にひなが働こうとしなくてもいいのよ?ひなが高校卒業と同時に私も大学卒業するし」
「ハーバードを現役合格で、現役のまま卒業とか、ぱないですね姉さん」
「私の場合は箔が欲しかっただけかもしんないし。東大行っても、日本じゃすごくても海外から見たら、低いのよね。東大って」
要するに、日本は学力が低いという話だ。マメで丁寧だという話なのに、頭は別にそこまで回っちゃいないのだ。事実、日本に見切りをつけて海外で職を探す人もいるぐらいだ。まだ、一握りではあるが。
「よし、決めた」
「何を?」
「アラブ当たりに行って、石油王になってくる」
「また途方もない夢だね〜。日本に輸出すれば稼ぎ放題よ。石油王になったら、私が結婚でもしてあげよう」
「嫁は向日葵」
「ひな、近親婚って知ってる?」
「それを言うなら姉さんも今言ってだだろ」
「私の場合は財産目当てだも〜ん」
最低だこの姉。もし、この人が石油王見つけても、全部話しておこう。この人、あなたの財産目当てですよ。他になにもする気ありませんよ。あなたの財力に縋って、のうのうとやる気ですよ。
姉のネガティブキャンペーンをしてもしょうがない。偏見かもしれないけど、ああいう人って、全部あげてでも結婚しそうだし。
「で、なんで姉さんはこんな朝早くから来てんだよ」
「暇なのよ〜。構ってよ〜」
「勉強しろよ」
「やだね。ひなこそやりなさいよ」
「ごあいにく、宿題は渡されなくてね。向日葵が持って来てくれるってさ」
「まったく、一週間も先に来る必要があったのかしらね?」
「ここは、向日葵に乗ってあげましょうや」
「なんだっけ?」
「ひまわり畑に行けって話だよ」
「うへ〜。あたしも行くの?」
「何のために来たんだよ」
「家族旅行よ。ひなしかいないけど」
忘れてたけどオヤジもいない。姉弟二人だけ。
「年一のこの時期だけだし、もっとも普通は二泊三日から三泊四日だけど」
「ひなはどんだけいる気?」
「向日葵が帰るまでだけど」
「それっていつよ?」
「さあ?」
「……………あんた旅費は?」
「せめてここに泊まる分だけは親父は出してくれると。まあ、ぼくが頼んでも出してくれなかったろうけど、向日葵が頼んだしな」
可愛い娘には甘いけど、可愛い息子にはとことん切り詰めてきます。可愛くない?そうですか。薄々感づいてはいますよ。
「親父はいつ来るんだっけ?」
「ひまと到着は一緒にするって。ひまのためなら仕事をいくらでも休むからね」
働けよ親父。稼ぎ口があるのはあんただけなんだよ。
「そういや、海外飛び回ってるけど、親父は何やってんだ?」
一年に数回、不定期に帰ってきては何か変なものを買ってくる。実用性は全くないないので、親父よ書斎だかなんだかに大抵のものは突っ込んである。ただ唯一、コアラの抱き枕だけ向日葵が気に入ったので有用に使っている。
姉さんにも放浪癖があって、アメリカに行ってからは何もないけど日本にいる間は北へ南へ旅に出てなんか買ってきている。姉さんの場合はご当地もののお菓子とかだからいいんだけど。
「さあ、親のやってることなんて知らなくても私たちは生きていけるわ」
「危ないことに足突っ込んでなきゃいいけどね」
「私たちに危害は及んでないし、そんなことはないと思うわよ」
「話がそれた。結局なにしに来たんだ?」
「そうそう、テニス。付き合ってよ」
「はい?」
ーーーーーーーーーーーーー
姉と一緒に件の市営グラウンドへ。使用許可さえもらえば、ただで使える親切設計。
「九時からじゃないか……」
「えー。電話して管理人叩き起こしてきてよ」
「そんな横暴な客は聞いたことねえよ」
現在はまだ七時。これでも朝ご飯食べてゆっくり来たつもりだが、まだまだ時間はある。日は昇ってるけど。
「走る?」
「昨日散々走った」
「そんなのひなだけじゃん。私、走ってないもん」
「じゃあ、朝の熱烈ラブコールでも送ってやるか」
「誰だれ?」
「唯一と言っていい男友達」
「ああ、夕夜君」
これで通じるところがすばらしい。
「ちなみに向日葵の彼氏」
「よし、私に貸して」
急に目の色変えんな。敵意むき出しだろ。
ぼくの携帯を奪い取って、即座に送信。
「何送ったんだ?」
「送り主不明でひとこと『死ね』と」
「あいつ、姉さんの素性知らないんだけどな……」
知らないまま、いきなり死ねと言われたあいつも哀れだ。
携帯に返信が来る。宛先不明で送ったんじゃなかったか?
件名:なし
お前、何かあった?
つーか、早えな
まあ、当然の反応だろう。ただ、ぼくも週に6日ぐらい考えていたことなので否定はしない。一日だけは許している。
件名:なし
今のは姉さんが送った。ぼくの本意であることは隠しておくが。ぼくが送ったものではないことはここに明言しておく
送信
件名:なし
お前も俺に死んで欲しいんかい
お前にそこまで嫌われてるとは思わなかったよ。じゃあな
このまま行くとマジで死ぬんじゃないだろうか。ヤバイぞ。ぼくが殺人教唆で捕まってしまう。なんとか繋ぎとめておかないと、向日葵に迷惑がかかる。
件名:なし
向日葵に迷惑がかかる。自殺は図るな
件名:なし
いや死なえよ?学校行く支度すんだよ。お前みたいにまだ休みじゃないんだよ
忘れてた。普通の高校生はまだ学校というものがあるのだ。昨日話してたのに。けど、仕事もしてない。学校も行ってない。やることは本当にないな。確かに姉さんとテニスをやるのはいい手段かもしれない。
最後に向日葵によろしくと送って携帯を閉じる。
「ラブコールは終わった?」
「思いっきり殺人教唆をしてたけどな。あんなんラブコールもくそもありゃしない」
「愛花ちゃんにはしないの?」
「……する時はちゃんと顔見てするから」
「じゃあ、今から私が連絡取ろう」
「最低だな!あんた!」
「大丈夫大丈夫。私の名前を書いて送っておくから」
本当だろうか。
再びぼくの携帯を取り、連絡を取る。
「にしてもあんたの連絡先寂しいわね〜」
「ほっとけよ」
「ジョーって誰?」
「商店街のスポーツ店の店員。オッさんに付き合わされた時に会った。外人だよ。少なくともスティーブンよりは日本語上手い」
「なんだ、石油王じゃないのか」
石油王が知り合いにいるやつがいたらぼくが知りたいぐらいだ。
「てか、その人と夕夜君、おじさん除いたら女の子ばっかりじゃん。いつの間にこんなに節操なしになった。お姉ちゃん悲しいよ」
えっと、男はもう二人いたと思うけど。凛太郎と某情報屋。あとは部長に綴さんに春乃に豊山さんにあとは愛花。向日葵と姉さんも入れると確かに男女比率としては女子の方が多い。
「部活での関係ばっかりだよ。そういう対象は愛花だけ」
「どうだかね」
別れた以上は何言われても仕方ない。
「ひな、部活なんてやってたんだ。何部?」
「文芸部」
「へぇ。なんか書いた?」
「黒歴史として後々後世に語り継がれるんだとさ」
「嫌な部活ねそれ」
「真面目にやってるって」
「で、部長さんが美人だったからそれに惹かれて入ったと」
「いや、入る時はすでに愛花と付き合ってたし」
「別れたけど」
いちいち傷をえぐってくるなこの姉。話さなきゃよかった。いつかバレるだろうけど。
「時間の融通が利くって聞いたから、運動部じゃなくてここ入ったんだよ」
「じゃ、文芸部の子はどの子よ」
とりあえず、カーソルを合わせながら説明していく。
「あと二人、女の子いるじゃない。この子達は?」
「一人は部長の知り合いでその人入院してたんだ。見舞いに行ってぼくも知り合った。もう一人は入学式サボってたら、会った。テニス部だから向日葵とも仲良くしてるよ」
「あんた昔から行事サボろうとするわよね」
「ちゃんと卒業式には出てるって」
「普通は出るものなのよ」
「普通の授業はおろか、学校すらサボってた姉に言われたくない」
「風が私を呼ぶのよ」
風が呼んでも、ちゃんと学校ぐらい行ってください。毎度単位ギリギリで進級してるし。
「テストにはちゃんと出たもん」
「まあ、過去のことはいいや。僕がどうこう言っても始まる話じゃないし」
「もう終わった話なのよ」
「……話しててもあまり時間すぎないけどどうする?」
「じゃ、徒歩であそこ行きましょうか」
「歩いてどんなもんだった?」
「ざっと、一時間ちょいかしらね。なるべく近い旅館があそこなのよ」
ちなみに一時間ちょいというのは旅館から歩いての話であって、市営グラウンドはその旅館から約30分の位置。プラスαで考えないといけない。
「あまり行きたくないんだけどな」
「最終的には全員で行くんだから。何のためにひまがあんたを早めにここによこしたと思ってんの?」
「そうだけどさ……」
早めに行って、気持ちの整理をつけるためだ。
「そこまでウジウジするように見えたかな」
「してたから送ったんでしょ」
容赦ない。でも、これぐらいキッパリ言ってもらった方が決心も付きやすい。
「今日の昼には行こう。それまでは姉さんの戯れに付き合うよ」
「よし!ウィンブルドン級の実力を見せるよー!」
プロに行け。




