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ひまわり畑  作者: otsk
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旭日向の日常(4)

夕暮れ時の帰り道。夕日はなんだか、気持ちを寂しくさせる。そんなノスタルジックな気分になる……

「なにが、ノスタルジックよ。顔がにやけまくってるくせに」

「やっと解放されて向日葵に会えるんだ。これ以上嬉しいことはない。夕夜はちゃんと、プレゼント買ってから帰れよ?」

「金がないって言いませんでしたかね……」

「すいません。私もちょっと……」

「豊山さんは構わないよ。来てくれること自体がサプライズプレゼントだし。但し、夕夜は買ってこいよ?」

「何度も催促しないで!ちゃんと買ってくるから!というわけで、春乃付き合って」

「いやよ」

一蹴されてる。見えてた結果だけど。

「じゃあ、愛花ちゃん!」

「私も買っちゃったし……」

「豊山さん!」

「そろそろ電車の時間が……」

ぼくは夕夜の肩に手をおいて精一杯の笑顔で言ってやった。

「強く生きろよ」

「重すぎやしませんかね!?でも、中3の女の子が喜びそうなのが分からん……」

「しょうがないな。今からケーキの予約行くから、半分払え。それでチャラにしてやる」

「さすがお義兄さま〜!」

「だれが、お前の義兄になんてなるもんか!出直してこい!」

隙あらばこいつは……。誰か向日葵以外に貰い手いないかな。向日葵を誰かにあげる気なんてさらさらないけど。

「愛花〜。ケーキ買いに行くけど一緒に行くか?」

「私、向日葵ちゃんと遊んでる〜」

「じゃあ、帰るの少し遅くなるって伝えてくれ。ケーキ買いに行ったって言うなよ」

「らじゃー」

「じゃ、お前は付いてこい」

「へい、お義兄さま」

もう、ツッコミを入れるのも面倒になってきた。もっと、キレのあるボケを期待したい。

「というか、お前のボケが一辺倒すぎるんだ。もっと、ボキャブラリーを増やすか、レパートリーを増やせ」

「ツッコまれるたびに痛い思いをするのは俺なんすけど」

「もう、お前の存在自体ボケのようなものだろ。むしろ、誰かにツッコまれるために生きてるだろ。ちゃんと存在理由を果たせ」

「そこまで、言われること!?」

「明日、名誉挽回するなら、お前の存在理由を見直そう」

「よし、見てろよ。どっかんどっかん笑わせてやるからな」

やっぱりボケ担当だと思ったのは、きっとぼくだけじゃないだろう。

愛花、春乃、豊山さんと別れ、ケーキ屋へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーー


男二人で歩く、商店街。

「なあ、何が悲しくて男とこんなとこあるかにゃならんのだ?」

「うるさいぞ。ミトコンドリア」

「誰が、ミトコンドリアだ!……ミトコンドリアってなんだ?」

「調べてみろ」

ちなみに、体の細胞の一部である。ぼくも言ったもののイマイチ分からないから、後で調べよう。

「なんだろう……バカにされたのだけは分かるが……ミトコンドリアってなんだ……?」

「おい、そこのバカ。着いたぞ」

「せめて、名前で呼んでください」

「えっ、名前なんだっけ?」

「数十分前まで呼んでましたよね!?」

「自己紹介よろしく」

「弥富夕夜。今を生きる、青春しょ「すいませーん。誕生日ケーキ一つ予約お願いします。名前は向日葵で。あ、漢字でお願いします」

「聞いてくれよ!」

「お前の自己紹介を聞くよりも大切なことはいくらでもある。まあ、もう一度やってくれ。今度は聞いてやるかも」

「うし。聞いてろよ。俺、弥富夕夜。高校一年、15さ「あ〜、もう一回り小さいやつで、はい、ありがとうございます」

「聞いてくれよ!!」

「うるさいぞ。店に迷惑だ」

「誰のせいですかねぇ!?」

ぼくのせいなのだろうか。

「兄ちゃん、元気なのはいいが、店の中だし静かにな。そうだ、糖分が足りてねえんだ。一個買ってけ。端数はまけてやる」

「マジすか!」

財布を取り出して、値段分の小銭を取り出した。

「ついでに、誕生日ケーキの金も出してくれ」

「持ってけよちくしょう……」

ちなみに、ケーキ屋の店長は30代の渋めのオッさんである。顔馴染みで誕生日ケーキを買うのはいつもここである。

「いつもありがとな。日向。また、でかくなったか?」

「まあ、成長期ですし」

「俺のケーキのおかげだな!」

そんな胃のもたれる、食べ物で成長はしたくない。

「時に親父さんは?」

「海外を飛び回ってるよ。たまに顔を出してはまたどっかへ飛んでってる」

「まあ、なんかあったら頼っていいからな」

「なんか頼れるようなことあったっけ?」

「お前の親父がいない間、お前と向日葵ちゃんの面倒を見てたのは俺なんだけどな……」

「ま、さすがに自立してるって。なんかあったらいいに来るよ。ケーキは明日取りに来るから」

「またのご来店お待ちしてまーす」

営業スマイルでぼくたちを送り出した。どうでもいいけど、この人の営業スマイルは怖い。

「はあ……今月素寒貧だ……」

「それで、向日葵の笑顔が見れるんだ。安いもんだろ?」

「あの子は見るたんびに笑ってるみたいだけどね」

「向日葵のどこが能天気で、おっちょこちょいで、危なっかしい子だ!!」

「誰も言ってねぇ!」

「ま、そこが可愛いんだけど」

「めんどくせぇ……」

とにかく、これでケーキは手に入ったし……なんか、手が空いているような気がする。

「あー!プレゼント学校に忘れた!」

「何やってんだよ」

「というわけで取ってきてくれ親友」

「こういう時だけ親友を強調しないでくれませんかねぇ!?」

「仕方ないな……」

ぼくは夕夜と別れて、もう一度学校に戻ることにした。でも、プレゼントどうしよう……。持って帰ったらバレるよな。愛花の家にでも置いておくか。


ーーーーーーーーーーーーー


教室の中で一つポツンと置かれた紙袋の姿があった。誰も取ってなかったようだ。ぼくたちが最後に出てったのに取られるも何もなさそうだけど。

特に見咎めもなく、後にしようとした……が、そう上手くいくはずもなかった。

「旭、こんな時間になにをやってる」

担任の美浜だった。

「いえ、忘れ物したんで取りに来ただけです。他意はないですよ」

「忘れ物?その紙袋か」

「あ、はい」

そういや、紙袋って結構な大きさだよな。でも、そんなに重くないし、服かなんかだろうか。

「中身見せてみなさい」

案の定。しかし、そんなわけにもいかない。

ダッシュ一番。逃亡を図ることにした。

「説教なら後日受けるんで今日は見逃してくださーい」

「こら、やましいことがないならいいだろう。見せなくてもいいから、中身がなんかだけを言ってけ」

早速捕まった。なんなのこの教師。人の動きじゃなかったよ。仕方ないので、白状することにした。黙ってても事態は好転しないだろうと思ったからだ。

「はあ。妹の誕生日プレゼントですよ。ぼくがお金ないから、代わりに買ってくれたやつが今日学校で渡したんです」

「中身は?」

結局そこに行き着くのか?というか、何をプレゼントするか知りたいだけじゃないのか?

それ以前に中身の内容言ったら、それでよかったんじゃないの?

「いや、中身を言わずに渡されたんで僕も知りません。でも、開封しちゃったらプレゼントとして成り立たなくなるんで、それだけはやめてください」

「仕方ないな……いつだ?」

この教師は一体何を言ってるのだろうか。

「旭妹の誕生日だよ。いつだ?」

「明日……っすけど」

「よし。私からも何かやろう。お前にはあげる気などはさらさらないが、あの子には渡してやりたい」

「はあ……まあ……喜ぶと思いますよ」

「なんだ、その間の抜けた返事は。こんなこと、一生にあるかないかだぞ?感謝しておけ」

「ご厚意だけで結構です」

「まあ、冷たいことを言うな。それともお前にもプレゼントが欲しいのか?16連コンボという名の」

それは単なる暴力だ。なぜ、プレゼントを断っただけで、16連コンボなんて食らわないといけないんだ。しかも、この人のことだから、きっとバレないように腹を重点的にやるんだろうな。

「いや、顔を始め、人体の急所の部分を的確に突いてやろう」

「あんたは教師としても人としても最低ですね!」

なんでこんな暴力教師が今日日教師になれたのか不思議だ。採用基準甘いんじゃないのか?それとも猫かぶって、上手く騙し通せたか。ぼくの見解なら両者である。

「なんか言った?」

「なんでもないっす。プレゼントなら、ぼくに直接渡してください。誕生日パーティーをサプライズでやる予定ですんで」

「なに?私も呼んでくれ」

「いや、教師が生徒の誕生日パーティーにいるって違和感しかないから」

「練習は早めに切り上げてやろう」

「マジすか」

「どうせ、お前が一緒に帰るんだろう」

「それはちょうど良かったです。明日終わるまでどうやって時間潰すか考えてましたから」

急にこの人の見方が変わってきた気がする。

「明日はレクリエーションだから、午前いっぱいで学校は終わりだな。昼から練習で……三時には終わるようにしよう」

「もう、練習始めるんですか?」

「午前中のレクリエーションは部活紹介も入ってるからな。いざ来てみてやってませんでしたじゃ、入る人も入らんだろう」

三時までって言ったけど、この人普段はいつまでやらせてたっけ。帰る方向が同じ子に一緒に帰ってもらってたから、いまいち時間の把握が微妙なところだ。お兄ちゃん悔しい。

「午前で終了なら普段は5時までやってる。なに、いじめじゃないぞ?中学で体を作っておけば、高校のメニューでも、へばらずについていくことができる。一年はちょっとキツイかもしれないがな」

ふふふ、となんか勝ち誇った笑みを浮かべている。ぼくだって、一学期間は所属していたんだ。それくらいは分かる。この人はぼくがついていけなくて辞めたと思ってるんだろう。ぼくをそんな根性なしと思われちゃ困る。

「全く、お前も何でやめるかね。私が嫌だったのか?別に練習についていけなかったわけじゃないだろう。現に体力テストでは、サッカー部だった弥富を抑えて総合はトップだ。何が不満だったんだ?」

ぼく、辞める時なんて言ったっけ。

「お前、辞める時なんて言ったか忘れてるだろ」

「記憶にないです。本当の理由は今でも覚えてますけど」

「『妹が馴染めるか心配で入りましたけど、大丈夫そうなんで辞めます』だぞ!?喧嘩売ってんの!?」

ああ、あの日のぼくもぶれずにちゃんと言ってたんだな。さすがぼく。惜しみない賞賛を送りたい。

「ったく。いくら、うちがそこまで強くないからって、レギュラーだった高校三年まで倒しておいて……。本当にそれが理由か?」

「そうですよ。それ以前に家のことはぼくがほとんどやってるんであまり時間がとれませんしね。妹にもそう言っておいたし」

「まだ、退部する時そっちを言ってくれた方がマシだったよ……」

今更、二年も前に言ったことを取り消そうとしても無駄だ。長くなりそうだし、そろそろ帰ろう。

「先生。日が沈みそうなんで、そろそろ帰ります。妹が心配してるかもしれないし」

「ああ、引き止めて悪かったな。……時にもう一度やる気はないか?」

「うちの姉が家にいたら考えてもいいですけど、今、海外の大学行ってますし、親父も海外飛び回ってますしね」

「そうか。まあ、よく思わない連中もいるかもしれんが、入りたかったらまた来い」

「どうも。あ、あと一つ」

「どうした?」

「一人、女子テニスに入るかもしれないんで、よろしくです」

「お前と一緒にいる二人のうちの子か?」

「いやいや、あいつらは基本的にやる気ないんで、今日知り合ったんですけど、豊山綾って子です。中学でもテニスやってたそうですし、もしかしたら、の話ですけど」

「豊山……」

「先生?」

「ん?ああ、すまない。覚えておこう」

「じゃ、失礼します」

思わぬ時間を食ってしまった。まだ、晩飯の支度してないし……愛花作っといてくれないかな。


ーーーーーーーーーーーーー


帰る前に守山家にお邪魔することにする。

「お邪魔しまーす」

「あら、日向くん。愛花は?」

「うちにいます。ちょっと置かせてもらいたいもんがあるんで、いいですか?」

「どうぞ。お菓子食べてく?」

「いや、まだご飯作ってないんで、置いたらすぐ帰ります」

「それは残念」

対応してくれたのは、愛花のお母さんである。うちとは家族ぐるみでの付き合いなので、なんかぼくも息子みたいな扱いになってるけど、この人はぼくと愛花をくっつけたいらしい。と、いう話を愛花から聞いた。

「愛花にも言っとかないとな……」

とりあえず、愛花の部屋に置いといて、守山家を後にした。なに勝手に女の子の部屋に上がってんだと言われそうだけど、それこそ今更なので、特に言い訳も何もしない。


ーーーーーーーーーーーーー


「ただいま」

ようやく帰宅することが出来た。予定じゃ1時ぐらいには着いてる予定だったのにいつの間にか6時手前だよ。誰のせいだか。

「おかえり〜」

リビングのほうから声が聞こえてきた。いつもなら、抱きつく勢いで迎えに来てくれるのに、お兄ちゃん寂しい。まあ、来ないということは何かやっているのだろう。

リビングに入ると、いい匂いがしてきた。今日は……

「魚の煮付け?」

「あたり〜。よく分かったね」

「伊達に料理を作ってるわけじゃないからね」

「ひなちゃんには負けないよ〜」

「はいはい。向日葵は?」

「ここにいるよ〜」

キッチンの下から声が聞こえてきた。死角になって、見えなかったのか。

「手伝ってるの?」

「うん。私もお兄ちゃんにばっか、作らせてて悪いな〜って思ってるから、教えてもらってるの」

「向日葵、お兄ちゃん嬉しいよ」

「うわ!マジ泣き!?そこまで感動するとこ!?」

妹の手料理が食べられる日が来るとは……。また、一つ夢が叶った。

「願わくは全部一人で作ってくれる日が来ることを祈ってる」

「なんか遺言みたいになってるよ、お兄ちゃん」

「そろそろ出来るからね〜」


ーーーーーーーーーーーーー


今日の夕食は、ご飯にお吸い物、カレイの煮付け。

「ひなちゃんのだけ隠し味入れてみたんだ〜。当ててみて〜」

愛花にそう言われて、一番最初に煮付けに手をつける。

「んぐんぐ……別に変わらな……なんか異常に甘い!何入れた!?」

見た目が変わらないから、普通に食ってしまった。マジで何を入れた?みりんとかじゃ、ありえない甘さがしたぞ。

「この甘さ……チョコか?」

「おおー正解〜」

「食べ物を粗末にするな!!」

油断も隙もあったもんじゃない。料理自体は上手なんだが、サプライズが酷すぎるのがたまにキズだ。

「というわけで、愛花食ってみろ」

「…………」

ダッ。

逃げられた。

「よし、じゃあ、向日葵、あ〜ん」

「あーん」

一口、謎の味がする煮付けを食べる。

「けほけほ」

むせ返った。

「愛ちゃん!何作ってるの!」

「この展開を期待していたのだ」

愛花のやつは手にデジタルカメラを持っていた。相変わらず変なところだけ用意周到だよな。

「〜〜〜〜///」

「向日葵ちゃん、顔を真っ赤にして〜。可愛い〜」

ほっぺをぐりぐりして、照れてる向日葵をいじっている。全く、こいつらのほうが姉妹みたいだよ。

「お兄ちゃん寂しい……」

「わ、私はお兄ちゃんも大好きだよ!」

「愛されてるね〜、お兄ちゃん」

「ぼくも大好きだ!!」

抱き合う兄妹と幼馴染。関係を知らない人が見たら、この光景はどうやって映るんだろう。少なくとも、ぼくは今幸せなので、どう見られてもいいです。

「さて、お互いの気持ちを確かめ合ったところで、食べよっか」

「あの煮付けは愛花が食べてくれよ」

「ちょっとありえない味だったよ……」

「ダメだったか……。また、別アレンジを考えるよ」

「何する気だよ」

「ハッピーホワイトパウダー!」

「あぶねえもんいれようとするんじゃない!」

「材料はハッピー○ーンの粉だよ」

「せめて、味見していいもんだったら出してください……」

なんで、幼馴染の料理を食べるのにこんな苦労してるんだ?月一ぐらいで創作料理というか、謎の味付けをしてくるから怖い。一方、

「うう……」

自分で自分の毒を食べてる幼馴染の姿がありましたとさ。

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