表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわり畑  作者: otsk
34/51

バトン(5)

 作戦決行日。事前準備は金曜から始まっているが、模試は土曜の午前中だ。意気揚々と運動をしてるやつらの姿も見られる。最も、この学校の1年で3年も受けるような模試を受けるのはぼくだけだ。

 前日に向日葵にどうしてもと引きとめられたが、普通に向日葵は部活があるので留守番。愛花を連れ立って学校に泊まることに。

 一応、部室に荷物は置いておく。管理は愛花だけど……超不安だ。

 うわー、とかきゃーとか言って、撒き散らしてそう。

 そこまでドジっ子だった記憶もないので、杞憂だと信じて、愛花を残すことにする。暇だったら、春乃か夕夜呼べよとは言っといたけど……ぼくは愛花の保護者か。一人じゃ何もできないほど子供でもあるまい。

 ぼくと部長は部室を出て、模試を受けに行くことにした。


 ーーーーーーーーーーーーー


「年貢の納め時だな旭」

「そのセリフそっくりそのまま返して、ホームランにしてやりますよ」

「口の減らんガキだ」

 あんたも大概、口の汚い大人だよ、と返そうと思ったが、返しても何にもなるまい。開始するまでの時間は持参した時計を見つめることとする。自分の教室だが、掲示物等々は全て外されており、時計も例外ではなかった。閑散としていて、自分の教室とは違う、異質の空間にも思えた。だが、普段から時計はしていたので、時間に困ることはない。

「なんだ?悪あがきもなしか?」

「いまさら足掻いてどうなるんです?動揺誘ってるなら、安い手ですね」

 待機してるのは教務主任のみ。美浜が問題用紙を持って来てくれるのだろう。

 ぼくは制服のポケットに入れた数本のシャーペンと芯の替え、二個の消しゴム以外何も持っていない。

「どうぞ。調べるなら今のうちですよ。携帯も、参考書も、机に出したもの以外何も持ってきちゃいない」

 カバンも全部部室だ。不要なものは全部排除した。懸念するとなれば、教務主任以外に繋がってるやつだが……。

 教務主任は軽く下打ちをし、貧乏揺すりを始めた。けん制しとくか。

「先生。貧乏揺すりはみっともないですよ。まあ、マナーの範囲ですが、まさか、大人にもなってそんなことも知らないとは言いませんよね。ああ、もちろん先生方やお偉いさんが集まるところではちゃんとやってんでしょうね。でも、下の立場であるぼくの前では平然とやる。人を見下してる証拠ですね。よく、そんなんで今まで教員やってこれましたね」

 それも、残り寿命はわずかだが。

「お前も、ある種そんなものだろ。テスト満点の秀才君」

「ぼくの場合は自らほとんど関わりを絶ってますからね。見下してるのとはまた違うんですよ。分からないなら、別に理解してもらわなくても構いません」

 一種の嫌な空気が教室に立ち込める。向こうにとっては居心地が悪いだろう。さっきからせわしなく足を組換えている。それを見て、少し面白がってるぼくも性格がいいとは言えないか。

 開始十分前になり、美浜が入ってきた。

「旭は、筆記具、時計以外のものを全てしまって、カバンを机の下に……何も持ってきてないのかお前は」

「見ての通りです」

 制服のポケットを全て裏返して確認作業をする。何もないことを確認してから、模試の問題を配り始める。

 黒板にはすでに、各教科の時間割が書かれていた。

「午前中に終わるかと思ったけど、午後までかかるんですね」

「旭、私語は慎め。開始はチャイムが鳴るから、それと同時だ。終了の時間もチャイムで知らせる。質問は?」

「トイレに立った場合は?」

「監督官がついていく。その後のその科目の受験は認めん。他には」

「立って教室を出た時点で回収されるって考えればいいですか?」

「そうだ。戻ってきたら、受験してた席で時間が来るまで待機。他にはないか?」

「大丈夫です」

 チャイムが鳴り響く。

「では、始め」

 1科目は国語だ。


 ーーーーーーーーーーーーー


 昼休憩。昼食は各自ということで部室へ行く。もちろん、筆記具、時計は全て持ち帰る。壊されてたら、受験も何もあったもんじゃないからね。

「出来はどう?」

「まあ、教務主任が妨害してこないのを祈るばかりです」

「満点の自信はあるのね」

「各科目が終わるごとに美浜が持って行ってますから。その間、教務主任はぼくの監視してますし」

 トイレに行くぐらいで、特に目立った動きはない。

 というか、あそこまでしてカンニングとか言ったら、教育委員会ものだけど。すでにそれぐらいのことしてるし。

「そうだよ。教育委員会にかければよかった」

「でも、それじゃ旭君の気は晴れないでしょ?」

「まあ、その通りですが……」

 結局、自分の手で鉄槌を下さないと気が済まないのだ、ぼくは。だから、亜希ちゃんの時も、春乃の代わりにぶん殴ってやった。

「ひなちゃんは、根が優しすぎるんだよね」

「この子が?」

 愛花はぼくをそう評価してくれるが、付き合って日にちが浅い部長は訝しんでる様子。まあ、そう思われても仕方ない。ぼくも自分が他人に対して優しい人間とは思えないし。

「あとは英語だけよ」

「問題があるとすればリスニングだけですが……選択できましたっけ?」

「基本的にはリスニングに指定されてるから、リスニングを受験することになるでしょうね」

 筆記だけで済ますことができれば、それに越したことじゃなかったが、リスニングが入ると話は別だ。雑音を混ぜてくる可能性がある。無論、その場合は再テストを行うことが可能だが、その場合は美浜が警告するだろう。

「ひなちゃん、お昼ご飯どう?」

「ん、美味しいよ。作ってくれるとは思わなかったな」

 やることもなかったみたいで、家庭科部の調理室借りて、全員分の昼食を作ってくれていた。メニューはなぜか、パスタ。

「なぜ、パスタ?いえ、もちろん美味しいんだけど」

 無難にミートパスタ。それを食べている部長の口周りはミートで汚れている。子供みたいな人だな。

 愛花はそれを見て、ティッシュで拭っていた。

「あら、ありがとう。気遣いができて、料理上手な彼女がいて羨ましいわね。私、料理は苦手なのよ」

「この高校、家庭科の授業ないんですが、成績のほどは?」

「10段階で3だったかしらね」

 相当な成績のようだった。この人嫁に持つ人は苦労しそうだ。

「家事のできる旦那さん探してください」

「何よ。結婚は絶対しなくちゃいけないものではないわ。独身貴族を貫いてやるわ。一人の方が楽よ。結婚なら弟がやってくれるわ」

「弟がいるんですか?」

「ええ。ここの中等部にね。あなたの妹さんと同じ学年よ」

「へえ。どんなやつです?」

「なんか、人生を達観したかのような子ね……。……私より結婚が難しいかもしれないわ」

 中学生にしてすでに人生を達観するなよ、と思うが、ぼくも向日葵がいなかったら、そんな感じになってたかもしれない。いや、向日葵がいなかったら、ここまで勉強をしてなかったかもしれないから、無知のまんま過ごして、もしかしたら、今よりもっと交友関係の多い、ぼくが嫌悪してるような集団に自分も入っていたかもしれない。

 変なところで偏屈なのだ。そろって、バカ騒ぎができない。クラス会に誘われて行っても、隅っこの方でおとなしくしてるような感じ。目立ってるくせに、中心に立つようなことをしたくない、矛盾行為。

「逆に一度会ってみたいですね」

「そう?まあ、止めはしないけど。会えるかどうかわからないわ」

「なんで?」

「まあ、人生達観しすぎて引きこもり気味なのよ」

「はあ」

「まあ、気味というだけで週に一度は出てきてるわ。その時は快活に笑い、飄々と周りを受け流し、周りの空気を掌握する」

「つまり、仮面を被ってると」

「そうね。あんなのはまやかし。本当はもっと、陰鬱で暗い子なのよ。一日中読書をしてれば十分みたいな。そんな子なの」

「今度会わせてください」

「今度、ね」

 その今度はいつか分からないけど、会ってみたいと感じた。何故だろうか。あまり個人に個人的に興味を抱くことはあまりないのだが。似たものの匂いを感じ取ったのだろうか。

「そろそろ時間よ。守山さん、よろしくね」

「任せてください」

 愛花に荷物の管理を任せて、再び模試へ向かう。


 ーーーーーーーーーーーーー


「旭、せめて口周りを掃除してからこい」

 どうやら、昼ごはんのミートパスタが付いていたようだ。ティッシュだけは持たせてくれたので拭き取っておく。

「最終科目は英語だ。筆記を行った後、リスニングをする。リスニングの際に大きな音などで、著しく聞き取ることが困難と判断した場合はリスニングだけの再試験を後日行う。質問は?」

「大丈夫です」

 リスニング中は校内放送が入らないように、スピーカーの音は消音となっている。確認したし、入れようとしてもぼくの位置からなら、それを確認することができる。

 チャイムが鳴った。


 ーーーーーーーーーーーーー


「これで、試験は終了だ。確認をするから、終えるまで待ってろ」

 3度目の確認作業。名前の点検とかだ。ぼくも確認した。美浜か教務主任が特殊能力でも持ってない限り、あの動作でぼくの答案をどうこうするのは不可能だ。

「さあ、運命のカウントダウンの幕開けだ」

 結果は一ヶ月後。終業式の日に返される。送られればもうこっちのものだ。あとは、それまでだな……。

 ぼくの、戦いが始まった。


 ーーーーーーーーーーーーー


「なぜ、私の後ろについてくる」

「いえ、今合宿中なのはご存知ですよね?まあ、ぼく文芸部なんですが、せっかくなんで教務主任のことも話に登場させたくて」

「ふん。どうせ、悪役だろう」

「生徒思いのいい先生役かもしれませんよ?」

 もっとも、登場させる予定はさらさらないが。

 なぜぼくが、このように付きまとってるかというと、まあ、逆に監視するためである。

 取材形式的にしたのは、夕夜いわく、「取材されてる、もしくは他人の目があるとなると心理的に良いことしようする」だそうで。あいつ、ケーキ職人より犯罪心理学とか向いてんじゃないのか?今度、話してやるか。

 もちろん、トイレまでついていく。小なり大なりついていく。さすがに個室まで入らないが。

 定時となり、帰宅準備をする。

「流石に早いんですね」

「残っていてもやることはないしな。仕事は若い連中がやったほうが効率がいい」

「なるほど。お勤めご苦労様です」

「まったく。嫌な日だ」

 言うまでもなく、車が見えなくなるまで見送ることにする。だが、あの人は市内というか、この近所が自宅のようだし、下手すれば徒歩でもいいレベルだ。健康に悪いぞ、じーさん。

 完全に見えなくなった後で、校舎へ引き返す。


 ーーーーーーーーーーーーー


「首尾は?」

「完璧ね」

 部長にはついでにボイスレコーダーを置いてきてもらった。美浜の机にあると分かり易すぎるので、音が拾えて、かつ、探られない、隣の先生の机に置いておいてもらった。

「すや〜」

「この子は何かしら?イタズラしてくださいって意思表示?」

 暇だったのか昼寝を貪っていた。寝れんくなるぞ。

「……可愛いわね」

 この人はこの人で、愛花にぞっこんの模様。害をなさないならそれでいいや。

「あ、よだれ垂れてる」

 もはや、お母さんの領域だった。なんだろ、愛花は母性本能がくすぐられる何かがあるんだろうか。春乃もそんな感じだし。

「えへへ〜」

 よだれを拭き取ってもらって、笑顔になる。夢的にはこんな感じかな。


 ーーーーーーーーーーーーー


「アイス〜」

「はむはむ」

「愛花、口の端に付いてるぞ」

「え?う〜ん。とれた?」

「そっちじゃない。取ってやるから、こっちむいて」

「えへへ。ありがと〜」


 ーーーーーーーーーーーーー


 一部自粛。

「なんか、妄想に浸ってなかった?」

「何のことやら」

 努めて平静を装う。欲情だけはしないようにしないと。

「シャワーとかどうします?」

「運動部のシャワー使えばいいわ。許可は取ってあるし。先に私たちが行って、帰ってきたら、旭君が行くのでいいでしょ」

「お約束展開は?」

「したら、カンニングよりそっちで汚名が広がることとなるわよ」

「自粛しましょう」

 夜になれば、残るのはぼくたちと宿直の先生だけだ。宿直の先生は学年主任。教務主任とはまた別。この人はぼくのことを気に入ってる(らしい)。成績がいいと、普通はこんな反応のはずだけど、教務主任はひねくれてるようで。

「夜まで暇ですね」

「かと思って、トランプ持ってきました」

「没収」

「きゃー」

「不要物持ち込むな」

「物語の題材が、トランプを使うんです」

「ならいい」

「やったー」

 いいのか、部長。そもそも、さっきまで寝ていたはずの愛花が起きていることに関してはスルーか?

「何書きたいの?」

 スルーのようだ。

「こう、命がけのゲームをトランプでやりとりするんです……スリルと大金と欲望が揺れ動くギャンブルチックな……」

「却下」

「なぜ?!」

 いや、当然だと思う。愛花は読んだことないかもしれないけど、有名どころの漫画で使ってる題材だし。しかも、書きたい題材ほぼ丸パクリだし。どこかで見てきたんじゃないかと。

「脳内お花畑恋愛小説から、作風変わりすぎよ」

「常にチャレンジを求めてます」

「あなたには確実にあってないわ……」

 どうにかして、そんなわけの分からない題材で書かせるわけにはいかないと、どうにかやめさせようとする部長。熱意が伝わったのか、愛花は折れた。

「う〜。ひなちゃん。ババ抜きやろ〜」

「二人じゃなかなか終わらないだろ。部長もやりません?」

「あなたたち、何のためにこの合宿やってるか分かってる?」

「さーせん」

 目が本気だった。

「とりあえず、教員の駐車場が確認できる位置にいます。一時間交代ぐらいで。交代する時連絡するんで、それでいきましょう」

「現時刻は……」

 18時を回ろうというところだった。

 ポケットの中の鍵を確認する。家の鍵じゃない。美浜から預かったものだ。一番最悪のパターンが美浜が教務主任と繋がってるというパターンだが……ないな。いや、あの人の場合、単にぼくの担任だからという理由でなく、ぼくに何かあった場合、向日葵に迷惑が被るからだと思う。ぼくより向日葵優先。いかに知り合いの中でぼくの地位が低いか分かるよね。

「暇だ……」

 窓の外の不審な車がないか眺めてるだけだから、本当にやることがない。ぼくは探偵業とかは向いてないな……。


 ーーーーーーーーーーーーー


 目立った動きはなく、夕食後。

「睡眠はどうする?」

「愛花は超健康児なんで10時ぐらいにはうつらうつらしてます」

「まあ、寝かせてあげましょう。無理やっこ付き合わせてるようなものだし」

 その愛花といえば、調理室へ食後の食器を洗いに行っている。

「こういう時が一番怪しいと思うんだけど……」

「まあ、証拠なら残りますし、そもそも鍵のついた机に入ってますし、スペアキーは美浜本人が持ってるそうです」

「マスターキーを旭君に渡すとはね」

「紛失した場合は、実費で自分で作れだそうです」

 今時の鍵って、二度と同じ型のやつが作れないようにしてるのも多いんじゃないのか?元が分からない以上、作り直すことは不可能に近い。失くさないようにしないとな。

「じゃあ、行ってきます。シャワーに行く時は、窓も扉も全部鍵を閉めてから行ってくださいね。シャワーが終わったら交代でお願いします」

「はいはい。シャワー行く時は連絡入れるわ」

 手を振って、ぼくは見送られた。

 結局、土曜日は特に何も起きなかった。思い過ごしかな。


 ーーーーーーーーーーーーー


 深夜帯は三時間交代で睡眠を取りつつ、部長と監視していた。

 そして、朝日が窓のカーテンの隙間から入り込む。

「もういっそのこと職員室に張り込まない?ふあ〜」

 寝不足か大きくあくびをし、体を伸ばす。

「で、この子は今だ寝ているわけだけども」

「すーすー」

 一緒に寝てたら問題があるのではないか?という意見も出たが。ぼくが、どうしようもなく根性なしと認定されていたので、離れてばいいということで許可をもらった。そもそも、ぼくが起きてる時に部長が寝て、部長が起きてる時にぼくが寝ているのだから、実際には愛花がどう感じるかぐらいなんだけど。

 事実根性なしのせいで、同棲初日以来一緒には寝てない。何度かお誘いがあったけど、ぼくが恥ずかしいため、断っていた。これじゃ、根性なし言われてもしょうがないな。愛花は本当に、ただそばにいて欲しいだけなんだから。それ以上のことは望んではいない。

「そうね。取材と称して職員室にいさせてもらおうかしら。テスト終わったし、先生も少ないから、いさせてもらえるでしょ」

「荷物も移動させます?」

「そうね。はい」

 案の定、ぼくが全部持たされた。見えてた展開だけども。

「まあ、軽いもんですね」

「ちなみに私のところはカメラやら、精密機器が入ってるから、落としたりして壊した場合、実費で弁償してもらうわ」

「……部活動中の事故ということで保険が下りませんかね?」

「私たちの部の予算なんて雀の涙よ。あってないようなもんだわ」

 まあ、文芸部って基本的に紙さえあれば、必要なものはあまりなさそうだしな。必要経費も少ないのかもしれない。

「でも、紙代もバカにならないのよね。月々5000円ぐらい入ればいいんだけど……」

 言い止めて、何やら思案中。そして、名案が浮かんだとばかりに顔を綻ばせた。

「あなたたちのバイト代を一割部費に……」

「却下」

「けちんぼ」

 言うことは読めていたので、却下しておく。

「そういえば、愛花。今日休むこと言ってある?」

「うんー。店長が『日向だけ労基無視して一週間タダ働きさせるか……』とか、なんとかブツブツ呟いてたけど」

 二日休んだだけで、そこまでやらせんなよ店長。この前、遊びに付き合っただろ?というか、本来そこまで乗り気じゃなかったぼくに、強要するんじゃない。辞めてもいいんだぞ…………と思ったが、愛花がいるので、辞める時は愛花と一緒だ。愛花は結構客に声をかけられる。その時はぼくを呼べと言ってるので、全部対処に当たっているのだ。

「愛花、昨日大丈夫だったか?」

「うん。店長さんが『うちの娘に何か用か?』って、ものすごい剣幕で。凄いね。その後、ケーキ一人当たり十個追加で買っててくれた」

 オッさんパネエ。あの顔で睨まれたら、知人以外は何も言えなくなるな。それに加えてやたら、めったら強いし。ぼくは、目潰しと金的を集中的に繰り返して勝ったけど。オッさんは、もう二度とお前とはやりたくねえ、って震え声で漏らしてたな。喧嘩に正攻法を選んじゃダメだぞ。

「ここにいれば、誰が来たか分かるでしょ。いっそのこと堂々と美浜先生の机に座ってたら?」

「あの人に殺されそうな気がするんで、やめときます」

「じゃ、私は捜索がてら取材してくるわね」

 部長はカメラを取り出して、何処かへ去って行った。まあ、取材と言っても、人に話を聴くだけではない。風景の写真やらもその類だ。学校を舞台とするなら、どんな場所なのかという描写も必要となる。ちなみにうちは耐震工事がされてるくらいで、結界も貼られてないし、異世界の入り口もないし、何かが封印されてる部屋もない。変なもの生み出してる奴はいるけど。

 部長を見送ってから、職員室の扉を開けた。部活があるところもあるのか、何人かの先生が座っていた。

「失礼します。文芸部1年の旭ですけど、取材したいんで、しばらくいさせてもらっていいですか?」

 先生たちは、それならと客用の椅子へ案内してくれた。これで侵入成功……愛花がついてきていない。

 入ってきた扉を見ると、おそるおそる跨ごうとしていた。

「はよ、来い!すいません、こいつも文芸部なんで一緒にお願いします」

「お、おねが、いします」

 切るとこがおかしい。まあ、緊張してるととってもらえたのか、優しく見守ってくれてるようだった。

「(ふう……職員室って緊張するね)」

「(ぼくは、愛花の行動に緊張せざるをえないんだけど……)」

 ぼくは何度も呼び出されて、入っているため、抵抗はなかったが、愛花は初めてだったのか、そわそわしてる。

「(愛花、トイレ行きたいなら、出てすぐだぞ)」

「(知ってるよ!というか違うよ!)」

 緊張感のまるでない会話。

 でも、ずっとここに座ってるわけにもいかない。取材とやらをやってみよう。手当たり次第に声をかけてみることにする。

「あの、すいません……」


 ーーーーーーーーーーーーー


 一通のメールがバイブで届いたことを知らせた。

 トイレに行き、内容を確認する。部長からだ。

 教務主任が来ているらしい。早いな。まだ、昼にもなっていない。

 昨日、合宿で学校にいることを言っているはずだ。何か来賓か?

 職員室に待機していることを伝え、戻ると、ちょうど入ってくるところだった。挨拶ぐらい言っても問題ないだろう。むしろ、いるってことを印象づけたほうがいい。

「先生、こんにちは。日曜に仕事とはどうされたんですか?」

「また、お前か……。今、お前の相手をしとる暇はない。少し、学校で会う人がいるから、来ているだけだ。お前こそ、何しとる」

「合宿中ですが、部室にこもってても事態が好転しそうにないので、職員室で取材を。先生もいいです?」

「私には昨日散々しただろう。特に言うことはないよ。君はそこの彼女と仲良くしてるといい」

 ぼくに付きまとわれるのはうんざりと言った様子で、自席に向かった。 会う人って、なんかお偉いさんか?教務主任ともなれば、そういうこともするんだな。校長ぐらいかと思ってた。

「素っ気なくされたね」

「まあ、昨日あの人が帰るまで、徹底的に後ろについて行ったからな。ぼくと関わるのは面倒なんだろ」

 一呼吸おく。人と会う約束なら、しばらくはいいだろう。

「部室へ戻ろう。昼ご飯食べたいし」

「そうだね」

 部長に部室に戻ることを連絡し、荷物を置いたあと、調理室へ向かい、昼食の用意をした。

 材料はどこにあるんだ?って、なぜか、愛花がぼくのところにレトルト食品突っ込んでいたというしかないが……。


 ーーーーーーーーーーーーー


 時間は過ぎ去り、夜。あの人も、仕事をするだけして、すぐに帰宅したようだ。部活している生徒も、昼過ぎには上がってたし、今度こそ残ってるはぼくたちだけということになる。

「合宿は時間決められてましたっけ?」

「最終下校時刻は8時だから、そこまでには帰らないといけないわね。そこから、月曜の朝まではどうすることもできないけど……残り時間はどうする?」

「まあ、そのためにボイスレコーダーですし、やってくるなら、自分の手でやりたかったってだけです。まあ、ここまで張ってればやれるもんもないですけど」

「鍵はどうするの?」

「月曜の登校時に返せばいいってことになってます」

「あと、一時間ね」

 今、7時を回ったところだ。

「すぐ帰れる準備だけしとけばいいか。忘れ物ないようにね」

「部長が一番忘れてそうですが……」

 割とおっちょこちょい。致命的とはいかなくても、何かしらやらかしてる人。それが、文芸部部長、蔵次祀。

 結局、何も起こらず終わりそうだ。

 明日、送付されるまでが、不安だが……。

 宿直の先生に挨拶をしてそのまま解散となった。もちろん、ボイスレコーダーの位置は確認しときましたとも。先生にあることに気づかれず、訪ねた時にさっと、取れるような位置に。

 合宿という名目もあって、部長は何やら、作品を作ってたようだけど、ぼくたちは基本的に遊び倒してました。以上、合宿 in high school の感想。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ