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ひまわり畑  作者: otsk
32/51

バトン(3)

 後日、『情報の館』へ行き、和平交渉の末、快く引き受けてくれた。サバトのほうもなくなったようで、安心。平和が一番。

「あたしは情報処理部部長の弱みを握ってるって話を聞いたんだけど……和平交渉どころか、一方的じゃない」

「ぼくが口を滑らさなければ、あの人の学園生活は保証されてるも同然だし」

「で、あんたの風評被害は一年を中心に漂ってるわけだけど」

 先日、大々的、掲示板に順位表が貼り出された。個票ももらえるが、総合的に見るから、こちらの方が早い。

「700点で日向が1位かい」

 無論、満点なのでそれ以外の順位はつけられない。ある可能性としては、名簿的な関係で、貼り出される順番が前後される可能性だが、『旭』なので、ほとんどの確率で、それもない。

「2位は春乃と」

 奇しくも1,2位はぼくたちで独占した。

「中学の時は『また負けたー!』って、怒ってたのにな」

「もう諦めたわよ。満点なんて真似はあたしには無理」

「綾ちゃんも8位だってよ。すげえな」

 豊山さんも、トップ10には入っていた。頭いいんだな。なんでも、そつなくやってる感じ。

「お前は?」

「………数学Ⅰ,Aと理科総合は満点だった」

「誰も点数聞いとらんわ。順位聞いてんだよ」

「夕夜は71位よ」

「また中途半端な……」

 うちの学校は1学年あたり250人ぐらい。まあ、真ん中より上。

「現国と英語は赤点回避が限界だった……。美浜に殴られた」

 担任なのに、現国でそんな点数取るからだろう。ちなみに現国、最低点数はこいつ。うちの赤点ラインは30点。夕夜は32点だったらしい。

「漢字と選択しか合ってなかった……」

 何故か、文章読めないくせに漢字だけはできる。

「愛花ちゃんは?」

「愛花は25位。お前より全然いいからな」

「やりました」

 ふふーん、と誇らしげにテストを見せる。出来なかったと言ってた英語も70を超えてたし、及第点である。

「お前、英語は?」

「40点……」

 あまりの出来なさに脱帽です。

「お前バイト辞めさせられるかもしれんぞ」

「そ、それだけは!次は、次こそは!」

「ぼくに縋り付くな。ぼくじゃなくて、美浜に言え」

 泣きついてきたが、やらなかったこいつが悪いので、あしらうことにする。そもそも理数系出来るなら、暗記だけの科目もできると思うけどな。

「部長は?」

「テストなんて、社会に出たら何の意味も成さないわ」

「悪かったのか?」

「悪かったんだな」

 ドスッ。

 ぼくと夕夜の間を一閃の銀色の刃が通り抜けた。ただのハサミだけど。

「日常の便利道具を凶器に変えないでください」

「私の成績を見てから言うのね」

 ご立腹な様子。面倒そうな仕草で個票を出す。

「900点満点で896点。トップよ……」

 春乃が感嘆の息をもらす。900点満点ってことは……。

「センター仕様?」

「そうよ。うちの学校からハーバードへ行ったアホみたいな頭脳の持ち主が先立って、進学校みたいになってるからうちは」

 誠に申し訳ないながら、それ、うちの姉です。

「まあ、この学校の教師が作るセンター仕様の問題も、センター過去問の類題だから、そこまで難しいものではないわ」

 しれっと言うけど、大したものである。ぼくが言っても、凄さが感じられない?じゃあ、全国模試1位を取った、デスノートの所有者が東大の問題を満点で合格したって言えば凄さが分かるかな?何?逆にアホっぽく聞こえる?『DEATH NOTE』なんだから直訳は『死のノート』じゃなくて『死の記録』とか、ちゃんと訳せって?note自体に、notebookと同じ意味の帳面の意味はもたないって?分かりやすいようにしてくれたんだから、そこは汲んであげよう。死に様はバカだと思ったけど。

「部長は文系でしたっけ?」

「そうよ。それは、国語、英語、数Ⅰ,A、数Ⅱ,B,日本史、現代社会、生物を私は選択。900点満点なのは国語と英語を200点で換算してるからよ」

  どおりでなんか200点とかあり得ないと思った数字があったわけだ。

「なんで、数学一問落としてるんです?」

「……気づかずに素通りした」

  割と間抜けな部長である。この人も、それさえなければ、満点取れてただろう。

「なんか、先輩も疑惑持ちかけられたりしました?」

「ええ、されたわよ。あのハゲに。頭が弱いから、とりあえず、英語で全部まくし立てたら、屈服したわ。あの程度でよく教員やってられるわね」

  その大半は暴言だったけど、と付け加える。確か教務主任は社会の担当だ。英語なん出来やしないだろう。そりゃ、有る程度は出来るだろうけど、日常生活に使えるほどではあるまい。

「旭君もそれくらいやればよかったのに」

「読み書きするのと、話すのではまた別問題なんですよ」

  ぼくの英語の発音は日本人発音なので、下手すれば聞き取られてしまう。流暢に話せるなら、その例にもれないけど……。まあ、ぼくにはぼくのやり方がある。

「ともあれ、やってみせますよ。わざわざ勉強し直すものでもないし」

「難しく見える問題も、難しく見せかけてるだけで、基本が分かってれば、紐解けるものだし。私も受けるし、勝負してみる?」

「ぼくが勝ったら?」

「もう一人の原作者に会わせてあげる」

「引き分けたら?」

「旭君、負けるという選択肢を持ち合わせてないのかしら?」

「テストみたいな勉強の点数が出るもので、意識さえしなければ自動的に100点を取ると言っておきましょう」

「私が今話してる目の前の子は人間かしら?」

「ひなちゃんはやると言ったら、絶対やります。座右の銘は『有言実行』なのです」

「まあ、あなたらしいかしら。でも、きっとあなた一人で受験することになるわ。あと監督官は複数人いると考えたほうがいいわね」

「でしょうね」

  三人はよく意味が分からないと言った顔で見ている。

「まあ、こういうこと。結局カンニングがないことを証明し、かつ、模試で満点を取らないといけない。そのためには、周りの受験者はなし。カンニングさせないために厳戒態勢を敷くんだよ」

「回収者は指定した方がいいわね」

「それもそうですね。教務主任に渡ったら、改竄される可能性がある」

「改竄って書き換えるの?」

「もっと合理的なのがあるだろ」

「何?」

「名前を消せばいい」

「なるほど……」

  模試の類は、名前を書いてなければいかに答えがあってようとも、0点扱いだ。まあ、一科目でも100点を逃せば、向こうの勝ちだから、あまり労力を必要としない。でも、他科目が100点なのに、一つだけ0点だと、それはどう考えても怪しまれる。一問だけ、解き忘れたと思わせるように消すのが自然だ。まあ、やらせはしない。

「回収は美浜先生にやってもらいます。さすがに向こうも、それぐらいの条件は飲むでしょう。そもそも、あの人は教務主任であって、そういうのの類は担任が管理するものです」

「教務主任という立場をかざして、あの人が点検するという事態になったら?」

「まあ、そうならないように手は打ちますよ」

  手札が多いほど、勝負には有利になる。あんな老害教師にやられるほど、ぼくは軟弱なつもりはない。

「軟弱どころか、強さだけで見れば、サイボーグだよな」

「いいじゃないか、それ。ぼくに風評被害を合わせたことを冥土の土産に持ってかせてやるよ」

「旭君は的に回したくないわね……」

「部長ほどじゃありません」

  現にこの人に、弱みを握られている。

「弱みと言えば、向日葵ちゃんのほうはいいのかしら?」

「あいつは学校の宝ですからね。ただ、テストでトップなだけなぼくより、よっぽど大切に扱われてますよ」

  明後日には、県選抜にも出場する。それにあいつは学校の人気者だ。向日葵が疑われるようなことはまずない。兄のぼくと違ってな。

「向日葵ちゃんの成績の方は?」

「ごあいにくなところ、勉強面はぼくと姉を引き継がなかったようで……」

「悪かったのね」

「いや、言うほど悪くは……」

  確か、30位ぐらい。中学は少し少なくて120人ぐらいだ。でも、ぼくが教えてなかったら、悲惨なことになってそうだ、マイシスター。

「守山さんは?」

「調べたところ、周辺で一番順位が良かったのは愛花です。真後ろのバカはほっといて。窓際なんで、右隣と前だけの可能性になりますが、両者とも100位程度でした」

「下手したら、弥富君のほうが疑われそうだしね」

  まあ、理数系だけできるやつもいるわけじゃないし、風貌だけみたら、夕夜のほうが疑われそうだ。だが、何故、教務主任はわざわざぼくを目の敵にする?

「まあ、簡単な話よ。誰しも優秀な下は怖い。いつ自分の寝首をかかれるか分からない。だから、自分の方が上だと分からせるために、権力を用いるの」

「やっぱり大人って汚いっすね」

「どうして、自分がもっと優秀になろうという考えを持てないのかしら。理解に苦しむわ」

  概ね同意見だが、出来ない人から見たら、それは傲慢な話なんだろう。自分よりできる奴は怖い。それが、上なら徹底的に媚びるし、下なら徹底的に潰す。

「結果的にその首が絞められるのは自分自身ですがね」

「そうね。でも、気づいた時には手遅れなのよ。多分、あのハゲ三度目よ。引導を渡しなさい。一度目は……あなたのお姉さんね」

  二度目は部長。三度目は、ぼくと来たか。

「自分がいかに愚かしいか。負けたら、辞任するって言ったんでしょ?」

「どっちにしろ、あと2年そこらで退職でしょうけど。ぼくの知ったところではないです」

  喧嘩をふっかけてきたのは向こうだ。やりこめないと、ああいう類は、同じことを繰り返す。

「三度もやるとはね。三者三様にやり込められるだけなのに」

「お姉さんの時は?」

「姉は、中学の模試でも満点取ってましたからね。放浪癖のせいで見咎められたとかなんとか」

「何か、想像がつかないわね。あなたのお姉さん。私の二つ上だったかしら。あの人、生徒会長やってたからその姿しか分からないけど」

「さすがに出席日数が足りないと、卒業出来ないんで、3年の時は真面目に行くとか言ってた記憶が」

  薄ぼんやりと。生徒会長やってたなら、人望はあったんだろう。ゆくゆくうちの姉妹は、人に好かれる術を心得ている。ぼくは、欠落してるようだけど。

  ふと、一件メールが入る。

『頼まれた情報入手したぜ。あの…これでチャラに…』

  一言、無理とだけ返信する。

「じゃ、ちょっと用がてきたんで行ってくる。15分もあれば戻ってくるよ」

  そう言い残し、部室を出た。リレー小説はまだ完結してなかったが……。


 ーーーーーーーーーーーーー

「早いですね」

「ったりめえよ。まあ、前々から少し調べてたってのもあるけどな」

  言うまでもなく、調べてもらったのは、教務主任の弱み。まあ、さすがに聖職者らしく、汚職の類は見られなかったが、一人息子がいることが分かった。

「あ、こいつ……」

  どうやったか知らないが、その息子の顔写真もあった。

  亜希ちゃんを突き飛ばし、ぼくがぶん殴った中学生だった。

  どうやら、ぼくに突っかかってきたのは、ある種報復のようなものか。

  失敗したら、停学どころか退学かな。でも、今その報せが来てないところをみると、あの中学生は言わなかったんだろう。でも、怪我はしたから親であるこの教務主任には伝わったわけだ。でも、あいつは断ったんだろう。ぼくに処罰は下っていない。

  あれ、単体の考えで、考え得る策で、ぼくを悪役に仕立て上げようとしてんのか。

「性根腐ってんじゃないですかね……」

  多分、中学生のほうは更正したんだろう。親がこんなんなら、曲がるのは無理もない。同情するよ。これなら、放任で育てられた方がまだましだな。

「知り合いか?」

「ちょっと前に友人の妹が言われなく突き飛ばされたんで、ぶん殴っておきました」

  正当防衛ですよ、と言っておく。これ言わないと、ぼくが一方的にやっただけに聞こえてしまうからね。

「ははっ。お前、かっこいいな。俺が女なら惚れてるぜ」

「残念ながら、先輩が女でも、その時点で彼女いますんで」

「俺にも女の子紹介してくれよ」

「残念ながら、あなたのやってること見せたら、全員逃げますよ」

  「こればっかりは性分なんだよな……」

「凛太郎と仲良くやっててください」

「男だろうが!」

  叫んだ瞬間に、扉が開く。

「呼ばれた気がした」

「確かに名前は言ったが、特に呼んでない」

「つまらん。たま、持ってきたぞ」

「せめて、ぎょくに変えてくんない?ネコに思われるだろ」

  登録の名前を変えておこう。

『御剣玉石』→『ネコ(御剣玉石)』

「何変えてんだー⁉︎」

「いや、実際、ぼくのペットみたいなものですし」

「家に置いてもらっとけば、エサとかでもでんのか?」

「何言ってんです?ネコは自分で食料を見つけて狩り、自分で気まま寝床を探す生き物です。自分でやってください」

「この人でなし飼い主ー!」

「たま、さっさと使え。容器を回収しんとあかん。理科室の備品なんだ」

「何ですそれ?」

「お前に教えるわけにはいかないなー?」

「ふーん。お前の研究成果をネットを介して、全世界にWeb配信してやろうかしら」

「うおー!なんて恐ろしいことを平然と言いやがる!」

「こういうやつだ」

  ご理解いただきありがとうございます。

「おとなしく説明してくれればいいんだけど」

「端的に言えば、瞬間冷却装置だ」

  怪しげな薬品が入れられた、ペットボトル容器と、あと、なにこれ?

「俺のPCは高スペックだが、ゆえに熱も発生しやすい。気をつけないと、すぐぶっ飛ぶ。だから、長時間持続的に使えるようにすぐに熱を失わせる装置を考えた」

  どうやら、あくまでも試験台みたいだ。成功すれば実用化するんだろう。

  なんか、爆発オチが見えてきた。

「すみませんが、ここではない、もっと開けた場所で安全に注意して、ぼくの目が触れない場所でやってください」

「貴様、俺の実験が爆発オチすると踏んでるな?案ずるな。全部計算済みだ。爆発なんてそうそうするもんじゃない」

「ちなみに爆発オチは?」

「過去に4、5回ほど」

「なにか、弁解のほどは……?」

  黙り込む。この野郎。ぼくは離脱するぞ。

「先輩、ありがとうございました。それ、ツケで」

「なんか奢ってくれよ〜」

  出てったあと、一瞬、光った後、悲鳴が聞こえたような気がしたけど、きっとぼくは関係ないよね。ぼくは忠告しといたし。

  さて、部長と先輩の情報提供で裏が取れた。過去に二度、同じことをしていること。あからさまに私怨に走ってること。それも、情報として載っていた。コピーはすでにもらっている。あとは……あのオリジナルが爆発騒ぎで飛んでないことを祈るばかりだな。

  ぼくは、まだ執筆途中の原稿を書きに部室へ戻ることとした。

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