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ひまわり畑  作者: otsk
30/51

バトン

 数週間が過ぎ、リレー小説のバトンはぼくに渡されていた。

 ゴールデンウィークは店長が忙しいというので、全員、全部駆り出されて、休日というものが全く味わえなかった。ついでと言っては、なんだけど、そこで春乃が誕生日だったから、向日葵の誕生日会よろしく、パーティを開いた。申し訳ない限りだが、店長のケーキ尽くしで半分悪夢のようなパーティだったように思う。本当にすまない、春乃。きっと、あれはケーキ屋の陰謀だ。

 ゴールデンウィークはそんな感じで過ぎ、迫っていたのは高校初のテストなわけだ。

「というわけで、勉強会なるものを開きたい」

 まあ、言い出したのは夕夜である。

「お前、勉強会がいかなるものか知ってるか?喋らない、遊ばない、食わない、出て行かないが基本だ」

「何のための勉強会だよ!?」

 無論、缶詰で勉強するためのものである。

「だいたいな、勉強会なんて言ったって結局遊び倒すのがオチなんだよ。お前がある程度できるならまだしも」

「な、数学と理科はできてるぞ。まだ、物理とか化学とか生物に分かれてない分俺には勝機がある」

「勝機?正気の間違いじゃないか?」

「すまん。言葉だと全く分からんから、書いてくれ」

 めんどいので流す。

「そういや、部長。3年ですよね。過去問とかないです?」

「捨てたわよ。そんなの。持ってたってかさ張るだけだし。ただ、私、理系科目は苦手よ」

「大丈夫っす。文系科目の傾向さえ教えてもらえれれば」

 今更だが、話してるのは文芸部部室。テスト週間なので、部活は中止となってるところも多いが、やってはいけないということではないので、こうして部室に集まっている。

 運動部は休止なので、半強制部員の豊山さんとなぜか向日葵も。

「向日葵。お前もテスト週間だろ?」

「お兄ちゃんに教えてもらおうかと」

 向日葵の成績は悪くはない。というのも、ぼくがテスト前にマンツーマンで教えているからだ。ぼくは別にやらなくても、普段からやってるので点数を取りこぼすことはありません。マンツーマンと言っても、ずっと教えるわけではないから、その間にやればいいだけの話だし。

「えっと……聞くのもなんですけど、皆さんのテストの成績ってどれくらいなんですか?同じ中学ですよね」

 一人、出身中学の違う豊山さんが聴く。まあ、ぼくの成績は前述の通りだ。

「日向だけは化け物よ。一度、脳の解剖を試みた方がいいレベルで」

「いや、そんなことしたらぼく再起不能になりますから。普通にテスト形式でいいよね」

「どれくらいですか?」

「一年の最初から三年の最後まで全ての科目で100点。人かどうか疑うレベル。中にロボットでも入ってんじゃない?」

「ひなえもんと呼んでくれてもいいぞ」

「あんたはそれが本望なの?」

 ノリで言ってみただけだ。別に四次元ポケットはついちゃいない。どこでもドアも出せないし、タケコプターで空を飛んだりもしない。

「そういや、どこでもドアってあのドアをくぐる時に一度、体が微粒子レベルに分解されて、反対側で再構築されるらしいね」

「なんかそれ聞くと使いたくなくなってきたわ……」

 ついでにハ○ー・ポッターの壁の通り抜けも、理論上可能らしい。

 理由としては隙間というのは完全に埋まらないものだから、人間の体もその隙間に合わせれば通り抜けることが可能だ云々。あくまで理論上だから、試しても痛いだけだぞ。

「タケコプターも、あれアニメだからあれでいいけど、実際に使ったら、タケコプターの回転量がすごすぎて、首がネジ切れるらしいぜ」

 そもそも、あの世界、少し不思議のレベルを逸脱してるからな。特に物理法則を無視しまくり。ドラえもんどうやって歩いてんだよ。浮いてんのに。地面蹴らないと、歩けないぞ。

「いつまで、ドラえもん談義してんのよ。確かに今だからこその楽しみ方があるかもしれないけど、今するべきことは?」

「「いかにしてドラえもんを生み出すか」」

 普通に叩かれた。ついでに言ったのはぼくと夕夜です。

「あんなポンコツロボ生み出す前に勉強しろ!」

「頭のネジが一本外れてて、耳かじられたからバックアップデータが取れてないからって、ポンコツ扱いは可哀想だ。あれでも、頑張ってぐうたら男を立派な人間にしようとしてるんだぞ」

「その頑張ってるロボはぐうたら男君が学校に行ってる間はネコに欲情してるんだけど?」

「…………」

 あれ?ドラえもん、実はかなり暇人?

「あと、ぐうたら男君は一般男性よりかなりすごい特技を持ってるわ。一秒以内に眠りについたり、ガンシューティング得意だったり、あやとりが異常なほど上手だったり」

 ぐうたら男君、なかなか頑張ってるな。勉強しなくても、それ伸ばしていけば、何かしら大成するような気がしてきた。

「よし、今からやるべきことがわかった」

「分かった?なら、早く勉強を……」

「何か、特技を身につける」

 何かが頬かすめて行った。トッ、と軽い音が後ろから聞こえた。

 後ろを振り向くと、シャープペンシル。

「何の冗談かな……?」

「次は目よ」

「すいませんでした。真面目にやります」

 さすがにペン先で頬が切れることまではなかったが、普通に狙ってきそうなので謝っておく。こんなところで失明なんかしたくない。

「なあ、向日葵ちゃん。兄貴じゃなくて、俺に教わるという代替案はない?」

「お兄ちゃん学年トップだし……」

 これ以上ない理由だ。夕夜は恨めしそうにぼくを見る。ざまあみろ。

「向日葵ちゃん、自分でやる約束じゃなかった?」

「だって~。中学は今からが本番なんだよ。三年生での出来が行ける高校を決めるんだよ」

「えっ?向日葵ここに上がらないのか?」

「え?もちろん上がるよ」

 というか、付属中学なんだから、成績を気にすることもないような気がしてきた。

「分かってないな。お兄ちゃん。お兄ちゃんはいつもトップだったから分からないかもしれないけど、やっぱりいい点数を取って優越感に浸りたいのだ」

 やれやれといった感じに言うがぼくは100点以外の点数を取ってないから、分からん。これ以上の点数はないし。ただ、手違いで百点を超えるテストがあったならそれに限った話ではないけど……流石に中学ではないか。

「まあ、前に向日葵自身が断ったけど、ぼくは見てやる気満々だったからね。いいよ。中学の問題なんてお茶の子さいさいだ」

「頼りになるよ〜お兄ちゃん」

「何見て欲しい?」

「社会」

  暗記科目だろう。

「覚えるところが少なければそれだけ他の勉強に回せるし」

「家に帰ったら、ノート探してやる。まだ、去年のは残ってたはずだし。ぼくは確実に出るところしかメモしてない」

「おう、何という省エネお兄ちゃん」

「資源は有限だからな。無駄にしちゃダメだぞ」

  ぼくの場合はノートとかも小遣いから出してたので、むやみやたらに使えなかっただけだが。

「ひなちゃんのやつ、自分だけ読み取れればいいってやつだから、読みにくいかもよ?」

「あ〜」

  あ〜ってなんだ、あ〜って。納得するんじゃない、我が妹よ。

「私の見せてあげる。私のはひなちゃんのコピーノートなのです」

  自分で勉強してくれ。我が彼女よ。

「ありがと〜愛ちゃん!」

  美しき、女の子の友情。多分この中で一番仲のいい組はって言われたら、向日葵と愛花だと思う。

「で、俺たちのテストって何があったっけ」

「そこからかよ……」

  もうすでにテスト範囲も発表されていて、その紙も配布されている。

「あったっけ?そんな紙?」

「昨日渡されただろ」

「昨日?あ〜あれか」

  思い出したようだ。

「紙飛行機にして、どっか飛んでった」

  「よーし、愛花どこがわからない?」

「えっとね、数学のここだけど……」

「ひなえも〜ん。無視しないで〜。ついでにテスト範囲コピーさせてください!」

「部長。この部屋コピー機とかあります?」

  まったく勉強してる気配のない部長を見やる。何してんだ?この人は。

「まあ、流石に文芸部と言ったところね。あるわよ。片隅に置いてあるから、自由に使って」

  指を指して、また何かしだす。夕夜は大喜びで向かって行った。

「部長、何してんです?」

「…………勉強よ」

  嘘こけ。

「パソコンに向かって試験勉強してるわけないでしょう」

「ああ、うっさいわね。このお節介焼きシスコンドヘンタイ兄貴が」

「ぼく……なんかやったかな?」

  ここまで罵倒されること?

「スッキリした。誰かに暴言ぶつけるのはストレス解消になるわね」

「……で、何やってんですか?」

「原稿の誤字脱字のチェックよ」

「どこか投稿するんです?」

「投稿……じゃないわね。すでに連載して……ごほん」

  取り繕うように咳払いをする。

「あなたには、関係のないことよ」

「…………もしかして『岡崎 祭』って部長のことです?」

「………………違うわ」

  胡散臭すぎる。今のタメはいったいなんだ。

「自分の名前を違う漢字の読みしてんじゃないんですか?部長の名前祀でしょう」

  部長は観念したかのようにため息をついた。

「違う、っていうのは半分本当よ。半分嘘」

「どういうことです?」

「一緒に作ってる人がいるの。私はサポートだから、もう一人が本当の作者」

  御剣先輩の情報は正しかったようだ。この学校に原作者がいるという話。

「部長本当ですか⁉︎」

  食いついてきたのは愛花だ。絶賛大ファンなので、当然だろう。捜索を打ち切ったのに、思わぬ形で発見したようなものだ。

「でも、その一人はこの学校にいないわ。すでに卒業してる」

「所在とかは……」

「……彼女は基本的に人に会えないわ」

「どういうことです?」

「テストが終わったら話してあげる。今は、テスト勉強してなさい」

「はあ……」

  忙しいんだろうか。この時はその程度だった。

  そして、ぼくたちは決して少なくないテスト範囲の勉強を始めることにした。


 ーーーーーーーーーーーーー


 無事?テストは過ぎ去った。二名ほど沈んでたけど、愛花、ぼくが見ててあげただろ?

「辛い……英語は私には合わない……」

「まあ、最後の長文は読むの面倒だったけど」

  授業で使った文法と今までに出てきた単語しか使われてなかったから、覚えていれば普通に解ける問題だったけど……一般的に見ればそれは頭が良いというのか。でも、ぼくは別にフランス語とかイタリア語やらドイツ語が話せるわけでも、読めるわけでもない。知識以上のことはできない。やろうと思えばできるけど、それは無理して覚えるものでもない。

「私さ、ひなちゃんの彼女でいいのかな?」

「なに言ってるんだよ。ぼくの彼女は愛花しかいないんだ。他の誰でもない。愛花がいい」

「ひなちゃんがそう言ってくれるならいいけど……」

  うーん、と唸りながら、机の上で頭をゴロゴロさせている。

  そして、同じようにゴロゴロさせてるやつが一名。

「夕夜。そんなことしてても過ぎ去ったものは元には戻せないぞ」

「英語は分からん……」

「お前は日本語も怪しいだろ」

「日常会話には支障はねえ……」

  ツッコミにキレがない。

「ヤバいのか?」

「日本史と世界史は無理やり詰め込んだけど、英語は間に合わんくて、現代文に至ってはなに勉強すりゃいいか分かんねえだよ」

  なんか語尾の発音が訛ってる。どうでもいいや。というか、どこの田舎もんだお前は。

「まあ、現代文は製作者の性格の悪さが滲み出てたかな」

  うちの担任だけど。

「ぐうたらしてないで。日向、書き終わったの?」

「いや、まだ。期限は来週だろ?」

  テスト週間はさすがにいいと言われたので、実質書き始めるのは今日からだ。

「まあ、今から目を通しておいてもいいんじゃない?」

「そうするか」

  リレー小説のノートを開こうとすると校内放送の音が。

「なんだ?」

「どうせ、先生の呼び出しじゃない?」

『1年D組。旭 日向。旭 日向。至急職員室へ来なさい。繰り返す……』

  繰り返しますじゃなくて、繰り返すだからな。応じたくなくなる。投降しろってか。

「お前、またなんかやったのか?」

「同棲はバレてないと思うが……」

  だったら、愛花も呼ばれるだろうし。

「とりあえず行ってくる」

「面白い報告期待してる」

「お前も連れてってやろうか」

「ご遠慮〜」

  再び、机の上で頭をゴロゴロさせていた。愛花もそれにつられて、ゴロゴロさせている。なに?流行り?

  ぼくはまた、なんで呼び出されたか分からず、職員室へ向かった。


 ーーーーーーーーーーーーー


 呼び出したのは当然、美浜である。

「何か御用ですか?」

「御用だから呼び出したんだ。ここにお前のテストがある」

「はあ」

「どれも、クラスどころか学年トップだ」

「光栄ですね」

「カンニング疑惑が上がっている」

「はい?」

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