夕夜の葛藤(3)
俺には一つ上の兄がいる。名前は弥富輝夜。成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能。何かをやらせれば何かしら結果を残すやつだ。俺はそんな兄の弟だった。
そりゃ、最初は憧れてて、目標だったさ。何でもできる兄はカッコよかった。頼ったら、解決してくれるし、正義感の塊みたいなやつだった。
でも、幼い心ながら、感じてたことはある。
親が兄と俺を比べながら育てていたことだ。優秀な兄だ。きっと弟も優秀な人材に違いない。弥富家の人間はそう思っていただろう。
ああ、一つ言い忘れていた。うちはそれなりの名家らしい。資産家というわけではないけど、地域では結構有名なんだと。人がいつも集まっている。
今はうちの話はどうでもいい。結論としては誰も俺なんか見てはいなかったという話なんだから。
話を戻そう。
俺はいつか兄みたいになる。そう考えていた。優秀なやつに憧れるのは小さい、何も知らない無邪気なやつの特権だと思う。何もかも知りすぎた大人では達観して、自分ができることだけをやろうとするのだから。
でも知ることになる。俺は兄みたいにはなれないのだと。素質が違いすぎる。俺はただ単なる、凡人に過ぎない。兄と同じことを繰り返しても、あいつに以上にできるのとはない。そう、感じたのは小学五年生ぐらいだったか。
あいつは地元の公立中学に行ったが、俺は私立中学に進むことにした。小学校では比べ続けられたから、別の中学へ行けばあいつと比べられることはない。
中学生活は退屈だった。あいつがやってなかったサッカーをやり始めたけど、周りが俺より下手なんだ。俺だって、中学から始めたばっかなのに、なんでこんなに差がつくのかね?その考えの結論に達するのに時間はそこまで要さなかった。
俺には才能がある。
周りも同調するように、周りより上手かった俺を囃し立てた。天狗になってたのかもしれない。俺はそれを鼻にかけ、肩で風を切るように歩いた。
そのせいか、先生や先輩から目をつけられることが多かった。先生は『すいません』と謝っておけば、許してくれる人が多かった。だから、先生はどうでもいい。問題は先輩の方だった。
どう考えても目立ってた俺は、たびたび呼び出されていた。告白だったらどんなに良かっただろうな。俺は舞い上がって二つ返事で了承していただろう。まあ、そんなことはなく、現代社会において未だにこんなことあんのかよと集団で囲まれたりすることがあった。
小突いてきたり、ツバ飛ばしてきたり、髪を引っ張ってきたり、暇なことやるやつもいるもんだと思ったけど、さすがに集団でやられると鬱陶しいし、ムカついてくる。後で正当防衛だと説明すればいいだろうとちょっかいをかけてきたやつらを全員倒してやった。俺の背はすでに170を越えていたから、あいてにそこまで臆することもなかった。
学校からその後呼び出しを受けて、説教をされた。親も呼び出しだ。うちの親は言ったよ。『弥富家の面汚し!お兄ちゃんを見習いなさい!』ってな。じゃあ、あんたは自分がやられてたら、やり返さないっていうのかよ。殴られっぱなし、やられっぱなしかよ。そりゃ、あんなクズを相手するのは俺も気が引けたさ。でも、ああいう奴らを黙らせるには力しかなかったんだ。あいつらは個人じゃ弱すぎるから、集団でつるんで、強くなったフリをする。そういうやつらを黙らせるには、圧倒的な力を見せつけるしかなかった。俺にはその道しかなかった。
この一件で俺の家での立場は最悪になった。親はほぼ無視同然。たまの連絡事項で話すぐらいになった。そんな中、俺の兄だけは言ってきたよ。『俺は夕夜の味方だ』って。言わされた感しかなかったな。家から勘当同然状態の俺に構ってる俺は偉いだろっていう感じだったよ。怒りしか湧いてこなかった。
「俺を見下してんじゃねええええ!!!てめぇはいつもそうだ!自分が人よりできるから、自分以外を下に見やがる!!違うか!?俺にはそうにしか見えねえ!!俺はてめえと比べ続けられてんだよ!てめえがいなくならない限り比べ続けられるんだよ!でも、いらないほうと言われるのは俺だ!だったら、比べられないぐらいどっか遠くに行け!!俺に構うな!!」
今になって考えれば、ただの八つ当たりだ。ここまではまだ良かったんだ。『俺が悪かった。すいません』って言えば済む話だったから。
決定的になったのは、二年に上がってからだ。




