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ひまわり畑  作者: otsk
20/51

夕夜の葛藤(2)

「じゃーな」

 俺はあいつらに背中を向けたままでを振った。

「戻りました〜」

「おう!そっちのオーブンのやつ下ろしてくれ」

「はい!」

 指示を受けて、ケーキのスポンジを置いていく。慣れたもんだ。一週間もやれば、自然に体が動くようなる。ただ、流れ作業で手を抜くことがないように慎重にやる。

「夕夜。顔が怖いぞ。いや、元からだが、なんかあったか?」

 ほっといて欲しいものだ。あいつみたいに整った顔をしてるわけじゃない。いや、俺だって悪くないんだろうけど、目つきが昔から……昔からじゃないな。たぶん、中学に上がってからだ。なんか、睨みつけてるみたいだと形容されて、遠巻きにされるようになった。サッカー部に入っていたから、その連中は付き合ってくれてたけど、内心は鬱陶しがってたかもしれない。

 今、顔が怖くなってるのは、自分が何かに追われてると感じているからかもしれない。

 何から?

 何からだろうか。

「まあ、お前も向日葵と付き合い始めたんだって?」

「ぶっ!だ、誰から!」

「そんなの一人しかいないだろ」

 日向のやろ〜。俺をどんだけネタにしてえんだあのやろ。いつか、学校中に広まってそうだぜ。

「大方、日向と愛花ちゃんがデートしてんの見て、自分もやってやりたいと思ってるんだろ。若いのはいいな」

 違う。きっとそんなことじゃない。俺とあいつは違う。やりかたは俺なりにやる。向日葵ちゃんも理解はしてくれる。でも、本当に俺なんかでいいのか?あんないい子が俺なんかを頼ってくれてる。俺なんかと付き合ってたら、変な噂立てられちまうんじゃないかな……。

 店長に言われたこととは違うから、話すことにする。作業しながらでも、話すことは可能だ。

「店長。俺、自分に自信が持てないんすよ。どうしても、あいつと比べちまうんです。比べる対象じゃないって分かってはいるんですけど。どうしても」

「なんだ。長くなりそうだな。終わってからにするか」

「はい……」


 ーーーーーーーーーーーーー


「ありがとうございましたー」

 最後の客を見送って、店じまいをする。

「まあ、これでも飲みながら話そうや」

「ありがとうございます」

 店内に設置された椅子に座り、話を始めることにした。

「で、何の話だったか?」

 ここで、それもどうかと思う。一から言わなきゃならんのか。

 まあ、整理するためにももう一度最初から話していこう。

「俺は向日葵ちゃんと付き合い始めました」

「まあ、そうか」

「でも、俺はバイトがあるし、向日葵ちゃんも部活だからお互いに忙しいんです。だから、日向みたいにデートしてやることはできないんす。まあ、そのことに関しては別に劣等感を感じることはないんです。向日葵ちゃんには理解してもらってる」

「それで?お前は何に劣等感を抱いてるんだ?」

「…………」

 俺は一呼吸おく。

「俺はあいつの代わりにならなきゃいけないんです。向日葵ちゃんと付き合うっていうのはそういうことなんです。比べることはないって頭で分かってても、体はあいつを越えなきゃいけないって落ち着かないんです。あいつはあいつの形で誰かを幸せにしようとしてる。俺はあいつに任されたのにそれができないんじゃないかって。今日、あいつらを見てて思ったんです」

「お前にとって、日向は超えるべき壁ってわけか」

「日向だけじゃないんです。俺には。いつも、俺の前には壁があったんです」

 これは、俺が物心ついた頃から今に至るまでの話。

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