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ひまわり畑  作者: otsk
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旭日向の日常(2)

特に目立った人は見当たらなかっため、そのまま体育館で入学式。どうにも、入学式というのは無駄話が多い。校則は守って当たり前だというのに、それを守れだの、これからのあるべき姿の理想を語られたりうんざりだ。

(ふけよう……)

トイレを装って、並んでる列を抜け出した。

そもそも、中学の入学の際にあの校長の話は聞いている。別に大した高校でもないし、何か特殊開発でもしてるわけでもない。今更聞くこともないだろう。だが、抜け出したものの、適当に戻らないと、説教を食らうだろうしな……。どこか時間を潰せないだろうか。

「あそこに行くか」

向かった先はこの学校の屋上。鍵が掛かっていて普通なら入れないが、ぼくには関係ない。

カチャと音を立てて、扉は開いた。

入学式が時間通りに終わるとは考えにくいけど、あんな空間にいるよりは外で寝ていた方が有意義だ。時計もあるし、十分前には戻ればいいか。

「ふああ」

眠い。取り立てて不良学生というわけでもないけど、こういう行事的なことは嫌いだ。せめてもの新入生代表とかなら、残ってたかもしれないけど、ぼくにはそんなものには縁はない。今年は誰だったのかな……。

寝ようと寝転んだ視線の先に扉が開く音が聞こえた。ぼくは、先生だと困るので身をとっさに隠そうとしたが、身を隠すような場所はなかったので、結局立ち往生してしまう。いっそのことダイブしたらよかったかな。たぶん、ぼくの生命の保証がされないだろうけど。

その姿を見ると学生のようだった。なんだ、驚いて隠れる必要もなかったな。でも、ぱっと見じゃ、年上か同級生かは分からない。

「と、どうしたの?今、全校生徒は入学式の真っ最中だよ?」

ビッ、とぼくのほうを指差してくる。そりゃ、そうか。向こうから見たら、ぼくも入学式をサボってこんなところにいる奴だからな。その通りだけども。

「んー。このままいても埒があかないし、お互い自己紹介でもしよう。ぼくは旭日向。新入生、1年D組です」

「私は……」

口を開きかけた、目の前の女の子は自信がなさげに目を伏せる。どうしたものか。そうだ、趣味の話をしよう。もしかしたら、共通のものがあれば興味をひくかもしれない。

「君にはなんか趣味がある?ぼくは妹の成長記録をつけることだけど」

「い…妹の……?」

「そう妹。ただ、やらしい意味ではない」

「ほ…他にどう取れと……」

「う〜ん。これだと、ぼくがただ単なる変態にしかならないね。そうだ。明日、妹が誕生日なんだ。よかったら一緒に祝ってやってくれないか?」

「え。そ……そんな。よく知らないのに……。いいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。妹も賑やかな方が好きだからさ。ああ、都合が悪かったり、乗り気じゃなきゃ、無理にとは言わないよ」

「いえ……。もしかして、妹さんって、旭向日葵さんですか?」

「あれ?知ってるの?」

意外だ。確かに妹は部活でテニスをしていて、県大会常連者なので、この学校では有名である。ともすれば、テニス関係で知ってんのかな。

「はい。一度、対戦したことがあります。すごく綺麗なフォームでかっこよかったです」

「そうなんだ。知ってるなら、妹も喜ぶと思うよ」

「都合が合えば、行かせてもらってもいいですか?」

「うん。歓迎するよ」

「では、私はこれで」

ぺこりと頭を下げて、去ろうとしたが思い出したかのように振り返った。

「私、豊山綾とよやまあやって言います。1年E組です。よろしくお願いします」

そう言い残して、彼女は去って行った。豊山さんね……。帰ったら聞いてみるか。

「そういや、なんでこんなとこ来たんだろう……」

一つ疑問を残すことになってしまった。

「そうだ。ぼくにはまだやることがあった」

寝る前に、明日の妹の誕生日会の段取りを考えることにした。どうしたもんか……。


ーーーーーーーーーーーーー


「言い訳を聞こうか」

初日を終えて、ぼくは早速職員室に呼び出されていた。

「職員室って中学とあまり変わらないんですね」

「そんなことはどうでもいい。どうして、HR中に堂々と教室に入ってくる」

結局、ぼくは入学式中に戻ることはなかった。気づいたら10時過ぎ。とっくにチャイムもなり終わっていた。

「いやですね。腹を下しまして。あっ、あたた……」

「はあ。妹はあんなに真面目な子なのに兄はどうしてこうなんだ?ええ?旭ぃ?」

説教を受けてる先生は担任であり、テニス部顧問の美浜琴子みはまことこ。名前の通り女の先生だが口が悪いし荒いし、テニス部の顧問なのでぼくはあまりいい印象は持ち合わせていない。

「それはこっちのセリフだ。なんだ?3年の時は大人しくしてたと思えば、高校初日から入学式ボイコットたぁ、やることが違うじゃない」

「いや、あれはぼくなりにあの入学式を受けることに対して考えた結果の反骨精神です」

「んな、己の持論は捨てろ。ぶっちゃければ、私もあの式に出る必要性は微塵たりとも感じないが、それでも困ることはある」

「はあ、なんでしょう?」

「私はお前の担任だ」

「そうですね」

「…………」

「…………」

「わからないか?」

今ので分かったらぼくはエスパーがなにかだろう。この力でテレビ出演が可能だ。

「まあ、端的に言えば私に火の粉がかかって大迷惑だという話だ」

恐ろしく自分本位な話だった。

「まあ、初日だし見逃しておいてやる。外で待ってる子がいるしな」

待ってる子?

「ほら、さっさと行った」

しっしっ、と厄介者払いをするかのように手を振る。実際に厄介者だけどさ。てか、最初から見逃すくらいなら、呼び出さないで欲しいですね。

呼び出された鬱憤を抱え込みながら、職員室を出た。別に職員室に入ること自体は慣れっこなのでどうってことない。で、待ってる子って……。

「もう〜。お兄ちゃん。待ったよ」

髪をショートボブにし、右側に髪を束ねている。背は女の子にしてはちょっと高めだろう。朝も見た美少女が立っていた。

「よ。向日葵。部活はよかったのか?」

「今日は入学式で先生たち出られないから中止だって。朝も言ったよ」

ぷ〜と頬を膨らまして、抗議する。

「お兄ちゃん。その紙袋なに?」

「え、ああ。これ?」

そういや、愛花にもらったはいいけど、中身を確認してない。さすがにあいつのことだし、変なものじゃないはずだけど……。

「あ、明日な」

「今じゃダメなの〜?」

「明日になったら分かるって」

「?」

疑問符が浮いてそうな顔だったが、促して帰ることにした。


ーーーーーーーーーーーーー


校門前にさしかかると何人か人影が。

「よっ、日向。ようやく解放されたか……。向日葵ちゃんも一緒?」

「こんにちは。夕夜くん。あっ、春乃ちゃんに愛ちゃんもいる。みんなおそろいでどうしたの?」

「向日葵ちゃん。ちょっとこいつ借りてっていい?」

「え〜?」

置いてくの?と無言で訴えられる。……ような気がする。ぼくとしても妹との下校なんてそうそうあることじゃないから、無下にしたくない……。

「明日好き放題にしていいから。今日だけ!ね?」

春乃が、念押しにぼくを連れ去ろうとしてくる。なんだ?ぼくは今からどこへ連れてかれる?

「なら……いいですけど……」

ショボンと顔を伏せてしまう。全くなんでこいつらのために妹との時間を割いて一緒にいなければならん。

「じゃあ、またね〜。向日葵ちゃん〜」

「ちょっ、ぼくは了承してないぞーーーーー………」

ぼくの叫びも虚しく、校門前に広がるグラウンドにこだました。


ーーーーーーーーーーーーー


そしてまた教室へ。

「なんで、また教室へ戻らねばならん」

「まだ、明日の段取りを何も決めちゃいないでしょ?」

「ふ。ぼくを案ずるな」

「あら。さすがに抜け出しただけあって、何か考えたの?」

「一個も思いつかなかった」

ガタンと、春乃と夕夜が椅子から転げ落ちた。愛花は、ハハハと、苦笑いをしている。

「全く。女の子がそんな派手なリアクションとるなよ、パンツ見えてるよ」

起き上がり際にジャンピングキックを食らった。クリティカルヒット。

「ぐほぉ……」

「今見たことは忘れなさい」

「あい……」

相変わらず、加減を知らないやつだ。鳩尾に入ったため、プルプルしている。

「ひなちゃん。大丈夫?」

「うん……。でも、もう少し休ませて……」

「まあ、バカはほっといて私たちで考えましょ」

「あんたが原因でしょーが!」

「それだけ叫べる元気があるなら、大丈夫そうね。じゃ、早く案出しなさい」

「横暴だ……」

この女には慈悲というものは存在しないのだろうか。ぼくの扱いがぞんざいすぎる。いいじゃん、パンツ見たくらい。減るもんじゃあるまいし。

机の上でぐったりしてると、教室の扉がノックされる。

「誰かしら?」

「さあ、知らん」

「誰もあんたに聞いてないわよ」

さっきから、扱いがひどいです。

「あ……あの……こんにちは」

「ああ、君は……」

「知り合い?」

「入学式サボって、屋上にいたら会った」

「あんたはサボってなにやってんのよ」

「あんな式に出てる方が精神状態を疑うね、ぼくは」

入ってきたのは、豊山さんだった。

「まだ、帰ってなかったの?」

「いえ、忘れ物をしたので、取りに戻ったら話し声が聞こえたので……」

そういや、E組って言ってたっけ。隣だし、ぼくが見えたのか。

「そうだ。豊山さん。向日葵の誕生日会の話をしてたんだ。良かったら、案を出してよ」

「わ、私ですか?」

「まあ、せっかくだしさ」

「いいんですか?」

「いいよね?」

ぼくは三人に確認をとる。

「もちろん。あたし、小牧春乃。よろしくね」

「俺は弥富夕夜」

「ついでに知的生命体かどうか怪しい」

「知的生命体ですよ!」

「私、守山愛花。ひなちゃんと幼馴染なんだ〜」

夕夜を遮って愛花が自己紹介して握手をしてる。

「あ……私、豊山綾です」

「何か部活やってる?」

「へ、あ、はい。テニスやってます」

「へ〜。体、細くて綺麗〜。髪もさらさら〜。向日葵ちゃんもだけど、運動やってる人ってかっこいい〜」

「そ、そうですか?」

豊山さんは春乃のノリにあまりついていけてないようだ。というか、どちらかといえば人付き合いが苦手そうな感じだ。

「春乃。その辺にしときなよ」

「なによ。女の子同士のスキンシップに口を出すつもり?」

「お前はベタベタしすぎ。豊山さん困ってんだろ」

「あ……あの、大丈夫ですから」

「無理はしなくていいよ。嫌な時は突き放すのも、優しさだ」

「む〜。スキンシップが苦手な子もいるのか……。じゃあ」

キュピーン!と目を光らせ、今度は愛花のほうに走って行った。

「うりうり〜。愛花〜。あんたはここが弱いんやろ?そうやろ?」

なんか、親父化している。

「あははは!ひなちゃん助けて〜」

「今入ってたら、とばっちりくらいそうだで、我慢してくれ」

「そんな〜〜あははは!!」

その光景を豊山さんは心配そうに見ていた。

「大丈夫だよ。いつも通りだから」

「仲。いいんですね」

「あいつらは親友だからな」

「俺たちも親友だよな!」

「え?そうだっけ?」

「ひでえ!」

「少し……羨ましいです」

「豊山さんは友達とかは?」

「親の都合で転々としてましたから、あまり仲の良い友達ができなくて……。こんな性格ですし……」

「なら、ぼくたちがその存在になるよ」

「え?」

「豊山さんも、今日からぼくたちの友達だ」

「そうだよ〜。よろしくね。綾ちゃん」

「わ!」

愛花に抱きつかれて、 少し、驚いたような、困ったような、でも嬉しそうな顔を浮かべて、笑っていた。

「よし。じゃあ、どんどん案を出してくれ」

「お前がまず出せ!兄でしょうが!」

豊山さんが、ぼくの高校生活の一人目の友達だ。

まずは明日の誕生日会を考えないと……。

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