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ひまわり畑  作者: otsk
18/51

ターゲット(3)

 かくして、岡崎祭の捜索は失敗に終わったわけだけども、まだ望みが潰えているわけではない。岡崎の知り合いに情報屋がいるという話だ。あんまり岡崎、岡崎言ってると分かりにくいから、マッドサイエンティストの岡崎は凛太郎にしておこう。変な奴というだけでマッドサイエンティストというのも大概かもしれないけど。あいつはそれだけの意味の分からなさを兼ね備えている。

 そして、朝食の場。

「今日は、情報屋に会いに行く」

「忙しいね。私も行く?」

「流石に文芸部に入ったのに活動らしい活動は全くしてないから、愛花は春乃と行ってくれ……今日は木曜日か」

 確か、ケーキ屋は定休日だ。ケーキ屋の休みって何やってんだろ?新作の開発とかかな。これで近所に繰り出して、野球でもやってたらオッさんの股間にボールをぶつけたい。恨みとかではなく、単にストレス解消。

「まあ、夕夜も連れてってやってくれ」

「うん。この調査はいつまで続けるの?」

「そりゃ、正体を掴むまでさ」


 ーーーーーーーーーーーーー


 三たび、職員室へ連行されていた。おかしい。今日は何もやってない。

「旭。お前、バイトやってるらしいな」

「はあ。学業に支障をきたさない程度なら可とありましたが」

「ちゃんと許可証取ったか?」

「そんなもんが必要だったんです?」

 まったく、と言った体で頭に手を当て、机の中からバイトの認可証の手続きの紙を取り出した。

「これだ。見たことないとは言わんよな?」

「ないです」

 バキィッ!

 頭から花が咲きそうなほどというか、火花が散りそうなほどの勢いで殴られた。痛い。虐待だ。体罰だ。訴えてやる。

 などと、抗議しようが無駄であろう。この人は圧倒的暴力を用いてぼくを口封じにかかるだろう。だから、あえてここは口を結んでおくことにする。

「まあ、見たことないわな。お前がサボったLHRで見せたものだ」

「じゃあ、ぼくが殴られるいわれがないじゃないですか」

「サボったことを棚に上げて何をぬけぬけと」

 見たことがないのが明白なのに、わざわざ見せつけて見てないと言ったら、殴られる。これはイジメだ。

「現に小牧と守山は提出してる」

「げっ。愛花あいつ言ってくれなかったじゃん」

「一応、出しに来たのは月曜だったか?その場で受理するし、管理は私がするからな」

「とりあえず書いとけばいいですか?」

「……実を言うと弥富もやってるという連絡を受けてるんだが」

「あいつも出してないんですか?」

「この高校も何を考えて、問題児二人を同じクラスにぶちこんで、私に任せるかね」

 教師から問題児扱いされました。この教師も教師で相当問題のある人だと思う。だけど、自分が問題児であることは若干ながら、微妙に、実のところ全くそんな気はさらさらないけど、自覚しているので流すのことにする。

「連絡事項とかもあるから、授業には全部出席しろ。皆勤だと大学進学、就職にも有利だぞ」

「大学ですか」

「どうした?お前の学力なら今からその辺の大学受験しても受かるだろ」

「買ってくれるのはありがたい限りなんですけど、うち父子家庭ですし、姉も奨学金で色々免除して大学行ってるぐらいなんで入れるか入れないかは問題ではないんです」

「妹はどうする気だ?」

「まあ、あと3年もすれば、ぼくが就職するとすれば、姉も働き始めるし、大学ぐらいには行かせてあげられるかと」

 別にぼく自身も将来にこだわりがあるわけではないし、いつかサラリーマンとしてあくせく汗を流しながら働いているんだろう。ぼくはそれで構わないし、向日葵には不自由がないようにさせてやりたい。

「じゃあ、今の進路予定は就職、と。まあ、決定事項ではないし、考える時間はある。お前自身も高校だけじゃなくて大学で青春を謳歌しててもいいじゃないのか?」

「そういうもんですかね?とりあえず書いときます」

 美浜から紙を受け取り、必要事項を書き入れてく。

 記入欄にはバイト先。

「省略でいいですか?同じところですし」

「んなこと許せるか。ちゃんと書けちゃんと」

 仕方なく、『ケーキ花崗』と書いておく。ここを刑期とかにしておいたら、どう反応するだろうか。

 と、まあ、アホな考えは捨てて(やったら殴り倒されることが目に見えてるので。そんなチャレンジ精神は夕夜に全部やろう)普通に書いて、渡しておく。

「ついでに弥富の分も書いとけ」

「あいつはボランティアなんでバイトではないです」

「目に見えた嘘をつくな。よくもまあ、そんな平然と自分が楽したいがために嘘が出てくるな」

「ちっ」

「舌打ちしたか?ああん?」

「何でもないです。書かせてもらいます」

 教師に逆らおうとするとロクなことないね。皆も教訓として覚えておこう。逆らおうとすると、逆に脅迫されるからね。自分が楽な道に逃げようとすると返ってイバラ道だよ。

 少しの反抗心で『やとみん☆』と記入して渡したら全力で殴られた。この暴力教師め。一日何度人を殴れば気が済むんだ。

 そして帰る際に一応湿布は渡してもらえた。あの人の腕力は一般女性の平均をゆうに上回っている。頑丈なぼくだからいいものの……。いや、頑丈だからこそやられているのか?

 最後に殴られた頬に湿布を貼って、さすりながら情報屋がいるという、パソコン室。通称『情報の館』へ赴くことにする。誰がつけたかしらないけど、ぼくが中学時代からこの学校のパソコン室はそう呼ばれているのだ。


 ーーーーーーーーーーーーー


 二年生の棟。二階。パソコン室前。

 うちの棟にはなかったはずだけど、ここのパソコン室……というより準備室か。そっちのほうにわざわざ『情報の館』とプレートがある。情報処理部の部室とかかね。どうやら、正体はこれのようだ。隠れてるわけじゃないし、通称だけが出回っていてもおかしくない。誰かが面白半分で呼び始めただけだろう。

 電気が点いてなかったため、ノックをする。

 反応は見られない。

 ありがちな展開で鍵だけはあいていた。絶対居留守だな、こんちくしょう。

「すいませーん。誰かいませんかー」

 電気のスイッチが見当たらないため、とりあえず、暗闇の部屋に問いかける。まあ、でも言うほど暗闇でもない。カーテンの暗幕こそ閉められているが、パソコンの明かりが見える。

 どうやら、いるのは一人だけのようだ。

「あのー。岡崎凛太郎から聞いてきたんすけどー」

「…………」

 姿は見えているので、後ろに回って、肩を叩く。

「うわあ!だ、誰だ!」

 ガバっと、パソコンの画面を隠すような格好でぼくの方に振り向いた。

「いや、岡崎凛太郎から聞いてここに来たんですけど。連絡入ってないですかね?」

「あ、ああ。凛のやつからか……ごほん。取り乱して済まなかった。俺は情報処理部二年、部長、御剣玉石みつるぎぎょくせきだ」

「また大層な名前ですね」

「よく言われる。まあ、そこまで名前ほど大した人物ではないとだけ言っておこう」

「ぼくは……」

「旭日向だろう?」

 名乗ろうとしたところ遮られる。

「身長169cm体重53kg。家族構成、父、姉、妹。本人極度のシスコン。少しでも色目を使おうものなら、鉄拳制裁。ついたアダ名が『暴虐のシスコン兄貴』」

「初耳です」

 いつの間にそんな変なアダ名をつけられた。

「で、友人関係はほとんどいないに等しいが、幼馴染の守山愛花と非常に仲が良くここ数日に付き合い始めた、と。ついでに職員室への呼び出しは二回」

 三回です。と言おうとしたが、これは今の出来事だから情報が更新されてないんだろう。更新されるまで黙ってよう。

「なんすか、あんた。生徒全員分の情報でも扱ってんすか」

「基本的には凛から送られてくるものだけだ。あとは私的に気になった人物。教職員のは大概あるけどな」

「弱点とか載ってたり?」

「あるある」

「じゃあ、美浜先生の弱点教えてください」

「………………」

 黙り込んだ。

「その名前は出さないでくれ。去年、色々あってな。ようやく今年解放されたんだ」

 きっと、こんな怪しいことやってるから、コテンパンにされたんだろう。絵が浮かび上がる。逆に利用されてたんだろう。それで、あの横暴さか。合点がいった。

「それで、知りたいことって?」

「凛太郎から聞いてるだろ?」

「情報料だ」

「……何を望む?」

「君の彼女ともう一人いた女の子の胸のおおき……ぶぐぁぁ!」

 殴っといた。セクハラヨクナイ。

「こちとら先輩だぞ!」

「先輩でもやっていいことと悪いことぐらいありますよねぇ。ましてや、女の子のプライバシー勝手に調べて、人として恥ずかしくないんですか?ああ、恥ずかしくないですよね。平然とそういうこと聞けるんですから。まあ、これをネタに美浜にまた申告してもいいわけですけど」

「すいませんでした。ただで情報やるんで許してつかーさい」

 情報+情報屋の脅迫ネタゲット。これで2年は情報に困らないな。

「でも、お前は彼女の胸の大きさ知ってるんだろ?」

「幼馴染であり、彼氏ですから。知ってて当然でしょう」

 知らないけど、見栄を張っておく。見た目的にはたぶんDじゃないかなあと勝手に想像してる。普通の彼氏って、彼女の胸の大きさを正確に知ってるんだろうか。

「えっと、岡崎祭だったか。どっかの地方のお祭りみたいな名前だな。なんかのラノベの作者だったっけ。今、アニメもやってる」

「そうです。この学校にいるって噂を聞いたんですけど」

「まあ、その情報をリークしたの俺だし」

「じゃあ、知ってんでしょう」

「いんや、知らねえ」

「お・し・え・ろ・や」

「知らねえもんは知らねえんだよ〜。俺にだって限界はあら〜。なんか、あとがきとか見てるとよ、なんとなく、学生ってことがわかる上にこの学校のこと言っているっぽいんだよな。明言はしちゃいないけどよ。こっちも調べてはいるんだけど、尻尾が掴めない」

 首根っこを揺らしながらだが、ちゃんと喋るあたりは偉いな。上級生相手にここまで傍若無人にやってるぼくもぼくだけど。

「結局何も掴めずか」

 てか、何の情報もないくせに、対価求めようとしてやがったのか。最低だな、こいつ。

「そういえば、他の部員は?」

「ん?ああ、隣いるぜ。ここは俺専用」

「何やってんですか?」

「俺はよー分からんがサバト的なものをやってる。時折『あいつを呪ってやるー』『あいつを闇討ちにしてやるー』って声が聞こえて、怖えんだこれが。あいつら、本当に俺のところの部員かよ」

 情報処理部というより、オカルト研究会とかそっちの類だろう、どう考えても。でも、この学校に同好会や研究会と言った、下部組織的なものは存在しない。だからこそなのだろうが、他の部活の名を借りて勝手なことをやってる奴がいるわけだ。

「さてと。先輩、情報ありがとうございます」

「なんか、面白そうなネタがあったら教えてくれ」

「あったらですけど」

「今からどうするんだ?」

「どうするんだって……」

 あなたのところの部員を全員闇討ちです☆。


 ーーーーーーーーーーーーー


 十分ほどで片付け終了。悪の根源は葬り去った。あそこまで徹底的にやっとけば変な気を起こさないだろう。なんだろう、人数で言えば40人ぐらいいたような。いかにもオカルトに詳しいです的なやつから、ぼくを殺るためだけに駆り出されたような体格のやつまで。そんなにぼくが憎いか。

 隣から、バタバタと扉が勢い良く開かれた。

「なんだ?今の断末魔は……ってぎゃー!」

「あなたのリアクションも大概面白いですね」

「そんで、なんでお前は傷一つないんだよ!」

「そりゃ、証拠を残したくないからです」

 指紋がつかないようにはめていた手袋をポッケに突っ込んでおく。

 数々の事件を校内で起こして、立証されないのは、大体、ぼく側は悪くないのと、証拠不十分と、相手側の口封じによるものである。良い子はマネしちゃダメだぞ。

「おのれ……旭……なぜ……我らのアジトが……」

 しかも、この会の首謀犯が目的人物と付き合い始めたし。でも、これいうと時間の問題とはいえ、今度はあいつが狙われそうだよな。黙っといてやるか。

 唖然としている、先輩に手を振って、ついでに倒れてる奴らの頭を一回ずつ足蹴にしていくことにした。


 ーーーーーーーーーーーーー


「これが、まあターゲット捜索の事の顛末」

「結局見つかってないんじゃん」

 あれから一週間後、ようやく腰を落ち着けて、部室に集まることができていた。夕夜のバイトも今日はないので、きちんと活動をしている……ハズなのだが。

「夕夜が本を読んでるとか天変地異の前触れとしか見えないよな」

「すっげぇ言われようだな俺」

「でも、実際、国語のテストは漢字以外はほぼ全滅で赤点同然だったじゃない。中学に留年制度がなくて良かったわね」

「というわけで、本を読んで読解力をつける」

「ラノベでつくとは思わんけど」

 エンターテイメント的な分野では面白い読み物だと思うけど、そこまで深く考えて読むものでもないと思う。小説の第一歩としてはいいか。マンガの延長戦みたいなものが多いし、こいつでも軽く読めるだろう。

 かくゆうぼくも、愛花から借りてライトノベルを読んでる。本を読む時間なんてあまりなかったから、いいかもしれない。

 レッツ・ビバ・読書タイム。

「捜査はどうなったのかしら?もう終わり?」

「まあ、掴めない以上しょうがないですね。でも、おかげで面白いコネを手に入れましたし、闇討ちする会殲滅してきましたし」

「まあ……その……いいわ」

 歯切れ悪く、言葉を打ち切った。PCにまた向き合い、思索にふけっている。

「ネタが思いつかないんですか?」

「そうポンポン出てこれば苦労しないわ。……そうね、ちょうどいいわ。あなたたちに宿題」

 ぼくたち四人に向かって、ホワイトボードに書き込む。

『四人で一個、小説作ろう!〜リレー形式で私を楽しませろ〜』

 最後の自分の欲望しか表されてない。

「題材は?」

「それもあなたたちで考えるのよ」

「また、無理なことを……。ここにいるメンバーは誰も書いたことありませんよ。一人はマンガ描きたいって、最初言ってましたし」

「マンガ書きたいなら、ストーリー構成ぐらい考えられるでしょう。誰?」

 夕夜を指差す。当の本人は本を読んで笑ってるけど。

「あん?俺?」

「じゃあ、弥富君。大まかな構成と第一話書きなさい。そうね、小説の体をなすぐらいなら、一人二万文字と言ったところかしら。超えてもいいけど、最低ラインは二万で」

 二万……。大体いつも宿題で書いてた、読書感想文が800文字ぐらいか?最低でも、原稿用紙50枚……。作家ってすごいな。あれだけの文量を一人で書いちゃうんだぜ。200も300も。それを刊行ペースは分からないけど、早い人は3ヶ月程度で書き上げるのか。すごいなー。

「ぶっちゃけた話、完成すればいいから最初はメチャクチャでもいいわ。むしろ、はっちゃけるぐらいがちょうどいいわ。ラストが問題ね」

 視線はぼくに向けられていた。

 まあ、こうなるよね。うまいことまとめろっていうのは大体ぼくの役回りだ。

「やって見せましょう。完成はどのぐらいで?」

「一ヶ月後でいいわ。1人一週間で、50ページ書きなさい。誤字脱字は問わない。あと、ストーリーものなら、ちゃんと設定は一貫させること」

「ストーリーじゃないリレーってどんなのですか?」

「まあ、短編集みたいな感じね。話自体はそこで終わり。だけど、次書く人が設定を膨らませて書いたりするの。まあ、初めてだし、こっちのほうがやりやすいかもね」

 何だか楽しそうだ。まあ、問題は、バイトを週5日で入れてる夕夜がトップバッターで書き上げられるのかということだ。そもそもそれ以前に、

「夕夜、文の書き方ってわかるか?」

「んにゃ。全然わかんねー。小難しい言葉使っておけばそれっぽく見えるかな?」

「それは一番、馬鹿の書き方ね。素人はまず読みやすい文体を目指しなさい」

「読みやすい……具体的には?」

「異能力系統なんかはまず、設定を考えなきゃいけないから、無し。まあ、あなたが既存にとらわれない斬新かつ面白い設定を作ってくるならまだしも、無理でしょ?まあ、自分を媒体にして、コメディ調に書くのがやりやすいかしら。相手にも伝わるようにね。あと、リレーでバトンした人は前の人に設定を聞かないこと。読んで、『こういう設定なんだな』という想像をして書くの」

 あくまで相談はなしで、前の人が書いたのを読んで続きを書くということか。前の三人……春乃はそつなくこなしそうだけど、あと二人不安だな……。

「部長。一ついいですか?」

「何かしら、弥富君」

「原稿を落とした場合は」

「ク・ビ♪」

 そんな楽しそうに言わないで欲しい。というか、今までもいたけど、これが原因で去ってたとかじゃないのかな。

「まあ、そんなことはもう言わないわ。今までにはそれで全員逃げられたから」

 当たってたよ。何も嬉しくない。ていうか、なんか、暗い過去を引っ張り出しちゃった気分。

「まあ、弥富君は忙しいって話だったわね。誰かこの三人以外で手伝ってくれそうな人は?」

「向日葵ちゃんは……向いてないな」

 どういう意味だゴラ。

「んー……綾ちゃんに頼んでみるか」

 お前はいつの間に豊山さんとそんなに仲良くなってるんだよ。

「綾ちゃん……豊山さん?」

「そっす」

 結局、豊山さんはテニス部に入りました。向日葵と仲良くやってるようで何より。そんなメールをちょいちょい送ってくる。

 仲のいい友達が増えるのは兄としても嬉しいんだけど、どんどんぼくの手から離れてく感じがして複雑な気分。まあ、そのために離れたんだけどさ。未練がましいか。

 パタンと本を閉じて、夕夜が立ち上がる。

「よしっ、俺も書いてみるか!俺主人公でいい?」

「何でもいいから、早よ書け。2日考えて無理そうだったら、豊山さんに頼んでみろ。原稿は早ければ早いほどいい」

 ぼくの書く時間が増えるから。

「次はどうする?」

「春乃とジャンケンして決めよう。ぼくが最後なのは確定してるし」

「待って。愛花が先の方が良くない?」

「どうして?」

「一緒に住んでるんだし、なんかの拍子に見られちゃう可能性もあるでしょ?そうするとこいつは次の展開を考えようとする。それじゃ面白くないわ。初めて見て、そこで発想を膨らませる。その方が面白いでしょ」

「そっか。愛花もそれでいい?なるべく見ないようにはするよ」

「まっかせてー」

 ポンと平均より大きめな胸を張って叩く。本当に柔らかそう……。結局、泣きつくことはしなかったからな……。頼めば……。

「ひなちゃん?」

「うわっ!いや、ぼくは何も考えちゃいない!」

「誰も疑ってないけど……」

「待って。あなたたち、付き合ってるだけじゃなくて、同棲してるの?」

「聞き間違えでしょう」

「じゃあ、こっちに聞くわ。守山さん、いい子だから教えてくれない?」

  ちら、とこっちを見る。言わないようにジェスチャーをする。

 こくん、と頷いて了承をする。一つ一つの動作がいちいち可愛い。

「家が隣なだけですよー。時々ご飯を作り行ってあげてるんです」

  よし、いいぞ愛花。

「ふむ。なら、あなたの胸に聞いてみましょうか」

「へ?え?」

  モミモミ。愛花の胸を揉みしだき始めた。

  やばい、羨ましい。まだ、ぼくもやったことないんだぞ。

  愛花のほうはくすぐったいらしく、体をくねらせて声を上げている。

「ひゃ!ちょっ!部長さん!ひ、ひなちゃん!助けて!」

「素直に白状すれば話してあげるわよ〜」

  酔っ払いの鬱陶しい絡みだ。なんか、近づきたくないけど、彼女の貞操が疑われるので、部長を引き剥がしにかかる。

「人の彼女に何してんすか」

  割と簡単に引き剥がせた。部長も大概軽い。

  掴んでたものがなくなった手をわきわきさている。どうでもいいけど、手つきがいやらしい。

「私より大きかったわ……」

  唖然としていた。悔しかったんかい。

  というか、第二の突撃用意がされそうだった。このままだと、愛花が可哀想なので、正直に話すか。

「部長。確かにぼくと愛花は一緒に住んでます」

「一つ屋根の下?」

「一つ屋根の下です」

「間違いは?」

「起こしません」

「主人公は貧乏甲斐性なし、根性無し、と」

「人聞き悪いわ!」

  学生なんだから貧乏だし、責任が取れないからやらないだけだっつうのに。この人は……。

「物語は事実を脚色して作り上げるのよ」

「ノンフィクションの物語でも作る気ですか?」

「あくまで主人公が旭君なだけよ。旭君、物語書くのに、面白い人材だもの。あれは破棄にして、幼馴染と妹の修羅場物語でも……」

  どこから取り出したのか分からないけど、メモ帳にカリカリなんかメモしてる。思いついた案を書き込んでいるんだろうか。猟奇的にも見えるけど、その姿は楽しそうだ。

 帰ってくるのが遅そうなので、今後の小説の日程を話し合って、解散。

 ちゃんと作れるんだろうか。

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