表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわり畑  作者: otsk
15/51

初めての夜

 久々に運動をしたせいで、疲れたな。それでも、筋肉痛になる程ではないが、柔軟はしておこう。

 そう考えて、愛花に手伝ってもらってるのだが。

「うーん。うーん」

「愛花、押しが弱い。それじゃ、柔軟にならん」

「頑張ってるんだよ〜」

 確かに精一杯押してる……押してるのだが、如何せん、愛花に腕力を求めるのは間違ってたか。

 柔軟はそこそこにして、料理始めるか。

「愛花、晩御飯作るから、もういいよ」

「じゃあ、一緒に作ろ」

 二人並んで、台所に立つ。別にそんなに狭くないから、二人でも余裕があるぐらいだ。

「こうやってると新婚さんみたいだね」

「ぶほっ!」

 むせた。ぼくの彼女はいきなり何を言い放ちやがる。

 言われたせいで、急に意識をし始めてしまった。手つきが覚束なくなる。

「いっ」

「あ〜、ひなちゃん。大丈夫?」

「舐めときゃいいって」

「ダメだよ〜。ちゃんと、心臓より高くして、あっ、先に洗っといて」

 パタパタと台所から出て行く。あいつやる展開だから、ぼくの指ても咥えてくるかと思った。行動が読めない。テストに正解はあっても、女の子の心は男には正解は出せないような気がする。

 絆創膏を持って、怪我をしたところに貼っつけてくれる。少し血が滲んだけど、これで料理しても大丈夫だろう。

「愛花。あんまり変なこと言うなよ」

「キスしてあげようか?」

「料理中にやめてくれ……」

「料理中じゃなければいいと?」

 墓穴った気がする。

 変なこと言うなと言った先にこれだしな。これから先が不安だ。

「ひなちゃん、照れてる〜」

「あ〜もう!さっさと作るぞ!」

「は〜い」

 引っ張ってくタイプだと思ってたのに、思ってた以上に知りに敷かれるタイプかもしれない。こうもふりまわされてちゃあな……。

 ぼくは苦悶しているけど、隣ではテンポ良く包丁を動かしている。まあ、確かに新婚さんっぽい。ちなみにうちには愛花専用のエプロンを置いてある。何でって聞かれても、そういうもんとしか言えないけど。愛花が作ってくれることも多かったし。

 手を止めて、愛花の横顔を眺めることにする。料理をしてる彼女は楽しそうだ。

「…………ひなちゃん?」

「ん?」

「なんかついてる?」

「ああ、愛花はやっぱり可愛いって再認識してた」

「えっえっ……えっ?」

 わたわたと包丁持ったまま慌てて……って危ねえ!

「落ち着け愛花!」

「うわわわわわ」

 愛花の手首を抑えて、包丁をまず置かせる。こっちもこっちで、あまり迂闊なこと言うもんじゃないな。

「う〜〜〜。ひなちゃん、からかわないでよ」

「実際可愛いから」

「う〜〜〜。ひなちゃん!向こう行ってて!」

「はいはい」

 ふてくされた彼女の機嫌を損ねないためにも、ここは大人しく引き下がることにする。さっきは危うく殺人事件が起きそうだったけど。あのまま軽口叩いてたら、いつか本当に何か起きそうだ。料理の時に言うもんじゃないな。一つ学習をした。

 席に着いて、彼女の手料理を待つことにする。


 ーーーーーーーーーーーーー


「ごちそうさま」

「早い〜。もっと味わってよ〜」

「美味しかったから、早く食べ終わったという考えは持たないのか」

「なら、いいけど……」

 箸を咥えてうなっている。

「ぼく、先に風呂入ってくる。食器は水に浸しておけば後でぼくが洗っておくから」

「は〜い」


 ーーーーーーーーーーーーー


 イベントは起きませんでした。テンプレ展開はいつか起きるものと信じてリビングに戻る。

「すぅ〜。すぅ〜」

 ソファの上ですでに寝ていた。早すぎるだろ。入ってたの二十分あるかないかぐらいだぞ。

 しかも、制服のままで……。

「風邪引くぞ」

 春先だけど、すぐに目を覚ますだろ。タオルケットだけ被せて、他の家事をこなしておく。

 幸せそうに寝息を立てている。

 愛花と二人っきりで夜にいるのは初めてだな。いつも、向日葵と仲のいい姉妹みたいに寄り添って、寝息を立ててたんだ。その隣に妹の姿はない。愛花も愛花で寂しい気持ちはあるのかも……。

「ひまわりちゃ〜ん……むにゃ」

「夢で向日葵が出て来てんのかな」

  手をフラフラさせて、何かを探し求めてるようだ。

 ゴチッ。

 落ちた。ソファの上でフラフラさせてたから、寝相の問題だけど。

「うにゅ〜〜」

 頭をさすって、寝ぼけ眼をこすっている。目が覚めたか?

「むにゃ」

 寝た。目覚めないのかよ。

「こら、寝るだったら風呂に入ってからにしろ」

「むにゃ〜」

「………………」

 あれか?ボーナスチャンスか?テンプレがなかった代わりに、ここで回収しろと?

「アホか、ぼくは……」

 合意も無しに、無理矢理やるほど落ちぶれちゃいない。ある意味では今日が同棲初日みたいなものだ。舞い上がってるだけだろう。

「そういや、愛花の下着とかもぼくが洗うのか……?」

 いきなり大きな問題にぶち当たった。

「とにかく、起こさないことには始まらんし。ほら、起きろ愛花〜」

 体を揺すると、何とか目覚めた。

「む〜。今何時?」

「22時」

「うわわ。寝すぎた。風呂入ってくる」

「うん。そうしてくれ。それから、その後で会議だ」

「?分かった」


 ーーーーーーーーーーーーー


 待つこと、一時間弱。いい加減眠い。女の子の風呂は長いからな……。愛花も例外じゃないし、慣れっこだけど。これでは、会議しようにも、あんま話せないような気がする。

「ゴメンね、ひなちゃん。お待たせ」

「ああ、すでにぼくは限界寸前だ……死ぬ……」

「わわわ!起きてひなちゃん!」

「そうだ。話すことがあったから待ってたんだ」

「一緒に寝るとか?」

「いや、それぐらいでわざわざ会議まで開かん。問題は洗濯だ」

「ひ……ひなちゃん。まさか、私の下着使ってあんなことやそんなことを……」

「ちっがーう!別にぼくは構わないけど、愛花は一緒に洗っていいのかってこと」

「構わないけど……ひなちゃんが洗う場合は……その……見るんだよね?」

「見なきゃ洗えんし、畳めんだろう」

「じゃあ、洗濯は私がするから!私の下着は部屋で干すから!」

「ああ……はい……。その方向でお願いします」

 剣幕に押されて、承諾。別にぼくは愛花に洗濯物を見られても恥ずかしいことはないから、だったら愛花に洗っておいてもらうか。

「でも、不可抗力は許してもらう」

「ひなちゃん、わざとやりそう……」

 実に信用がない。今まで積み上げてきた信頼と実績は何だったんだ?むしろ積み上げてきた経験が、この事態を生んでいるのか?おかしい。ぼくはそんなに疑われるようなマネをしただろうか。

「彼女の下着の柄を全部把握してるくせに……」

 それか。ていうか、それが全てか。とんだど変態だな。誰が、ぼくをそこまでど変態に仕立て上げたんだ?ぼく自身か。

 一緒に寝ようとはするくせに、下着とかは気にするんだよな。

 こいつの貞操帯の観念はどうなってるんだ?線引きしてるラインが分からん。とりあえず今は、

 一緒に寝る>下着を見られる

 まずこの認識でいいだろう。ぼくが男として意識されてんのかされてないのか。付き合ってるわけだし、男として見られてるんだろうけど……。

「とりあえず、洗濯機回して、朝に干せるようにしておこう。ちゃんと、干せる時間に起きるんだぞ」

「起きなかった場合は?」

「ぼくが愛花が穿いていた下着を確認することになる」

「うわぁ〜お……それが不可抗力というやつですか?」

「まあ……そうなるかな?」

「二人とも帰りが遅い時は?」

「部活があっても、19時までには戻って来れるし、バイトの時は行く前に先に家に寄ればいい。うちは商店街と学校の間に位置してるしな」

「そうだね。二人とも、同じ部活で同じバイトしてるんだし」

「二人で助け合って生活するんだ。まあ、分担は後日、追い追い決めていこう」

「うん」

「じゃあ、今日は寝るか」

「一緒に寝る?」

「お前は一緒に寝たいのか?」

「ひなちゃんの家に泊まる時はいつも、向日葵ちゃんと寝てたから、一人だと寂しいかなって」

  結局、こういう結末なのか。始まったばかりの序章だけどさ。エピローグオブプロローグというやつか?序章の終わり。

  でも、愛花との関係を一時の感情なんかで終わらせたくない。失いたくない。

「今日だけだぞ」

「え〜。けちんぼ」

「思春期の男と女がそんなにくっついてたら、いつか間違いが起こるぞ」

「起こらないよ。ひなちゃん、私を困らせるようなことしたことないもん」

  ずっと、隣にいた幼馴染。年数にすれば向日葵よりも長い年月寄り添ってた気がする。付き合うということをするまで、意識してなかったから間違いは起きなかったんだと思う。

  でも、今も大切にしたいという気持ちは変わってない。

  ぼくが変に欲情しなければいいか。

  向日葵が使っていた部屋へと向かうことにする。


 ーーーーーーーーーーーーー


「明日、何か出す宿題ってあったっけ?」

「んにゃ。出てなかったよ」

「そうか。ちょっと、狭いな」

「私がちっちゃくてよかったね」

  布団の中で丸まって、ぼくを見上げるように言う。

「向日葵ちゃんと比べて……どうかな?」

「いや、あの時は一方的に抱きつかれてただけだし、抱き枕かって」

「あはは。私、向日葵ちゃんと抱き合って寝てた。抱き合ってると、落ち着いた。幸せな気分になるんだ」

  人は何かしら温もりを求めている。心の拠り所となる場所なり、ものなり。

  向日葵がああやって抱きついてたのも、愛花と一緒の理由かな。

「じゃあ、ぼくは愛花をあやしながら寝るとしよう」

「む〜。人を子供みたいに〜。同い年のくせに〜」

「生まれつきはぼくのほうが半年以上早い」

「うわ、小学生的な理論を発動させてきよった」

「まあ、でも同い年でよかったよ」

「なんで?」

「学年が一つでも違ってたら、たぶんこんな関係になれなかったと思うから」

「そっか……。なら、私もちょっと早く産まれてよかったな……。違ってたら、ひなちゃんに恋心を抱くこともなかった」

  それを最後に黙ったままになる。

「愛花?」

  少し、間をおいて話しかけてみた。

  返事はない。

  代わりに静かな寝息だけがこぎみよく聞こえてくる。

「おやすみ。愛花」

  手は出さない。向こうとの取り決めだ。学生で責任なんて取れやしないしな。囃し立てられるかもしれないけど、ぼくらはそれでいい。

  愛花の頭を撫でて、ぼくも眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ