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ひまわり畑  作者: otsk
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向日葵の決意(2)

 今でいうと、商店街なんて寂れてるイメージもあるかもしれない。大型のショッピングモールがあればそこで事足りるからである。

 それでも、こんな寂れかけてた商店街に一つのケーキ屋が入って、女子中高生の賑わう通りになったわけだ。

 それも今から十年前の話で、理由もぼくたちの世話がてら、近い方がいいというから移転しただとか。

 まあ、以前から馴染みの人は相変わらず来続けているけど。

「すいません。塩辛一つ」

「あいよ。いつもありがとね」

「塩辛しか買ってませんけどね」

「十分さ。ハハハ!」

 何というか、商店街の人は気さくな人が多い。人当たりがが悪ければ、商店街で店構えても誰も寄ってくれないというのもあるかもしれない。

 そして、ぼくは買った塩辛を摘まむことにする。

「おい」

「なんだ?塩辛欲しいか?やるぞ?」

「いや、要らねえけど……」

「愛花は?」

「私、苦手なんだよ」

「そういえばそうだ。誰かこの美味しさを共有してくれないかな」

「なあ日向」

「むご?」

「俺たちはケーキ屋へ向かってるはずだよな?」

「むごむご。……そうだけど?」

「そこは塩辛食いながら入っていいところなのか?それ以前にアイス感覚で塩辛を歩き食いしてるお前の神経はどうなってんだ?」

「店内で落とさなきゃ大丈夫だって。フタもあるし。案外気にしいだな」

「一応、食べ物を扱う店に行くわけだし。多少はな……」

 夕夜の意見も一理ある。

「だが、これを譲るわけにはいかない」

「ああ……はい。さいですか……」

「着いたぞ」

 妙に小洒落た外装で店は佇んでいる。だが、この外装を誰が考えたかは知らない。オッさんだったら、指差して笑うところだけど。

 中は、結構入ってるな。うん、いいことだ。

「やべ、緊張してきた」

「何を今更。愛花を見ろ」

「わぁ〜。ひなちゃん、買って買って!」

 バイトの面接だと言うのに、すっかり客気分だった。

「店員になれば、もしかしたら余り物が食べられるかもしれないよ」

「おお〜そうか。よし、頑張るよ」

 店員を呼びつけて、話を通してもらう。

「店長?ちょっと待ってて」

 奥へ引っ込んで、オッさんを呼んでくるそうなので、椅子に座って待つことにする。

「あと、二十分待ってくれだって。今、最後の行程やってるから」

「そうですか。じゃあ、愛花好きなの選んでいいよ。奢ってあげる。だけど、一つだけな」

「やった〜」

 とてとて、ショーウィンドウに走って、品定めをしている。ぼくの横には、ぼくの顔色をうかがうやつが一人。

「俺には?」

「何が面白くて、お前に奢らねばならん」

「このやろ、女の子ばっかりいい顔しやがって」

「悔しかったら、お前も女の子に奢ってみろよ」

「…………」

 自分の財布を確認している。

 そして、ため息をつく。

「32円しかない……」

 悲しすぎる所持金だった。

「駄菓子でも奢ってやれ」

「駄菓子奢られるぐらいなら、自分で買った方がいいだろ」

 その通りである。駄菓子奢られるほど自分には金がないと思われてる感じがするし。

「ひなちゃん、これ欲しい」

「うん。分かった」

 値段は420円。割とリーズナブルだと思うけど、ここしかケーキ屋は知らないため、他はどうか知らない。まあ、値段に見合うだけの味は保証できるからいいんだけど。

「彼女に奢ってあげるのかい?」

「ええ」

「なら、端数分はまけてあげよう。仲良くしなよ」

 愛花を恋人だと勘違いされたようだ。愛花は聞いてなかったようで、選んだ後もケーキを見ていた。

 このケーキ屋前にも端数まけてなかったか?大丈夫なのか。

 ケーキをトレイに乗せてもらい、頬杖をついて不貞腐れてる夕夜の下へ向かう。

「本当に愛花ちゃんの分だけかよ」

「ここで、ぼくの分も買うということをしてもよかったけど、さすがにお前が惨めだったからやめてやった」

「お気遣いありがとさん。……あのよ」

「ん?」

「お前、こんなこと繰り返してるから、向日葵ちゃんのプレゼント分の金が無くなったんじゃね?」

「…………」

 思い返せばそうだ。一度に奢る分は必ず1000円未満だけど、繰り返しやってけば塵積も形式で嵩んでいくはずだ。

「ついでにお前金があったなら、いくらぐらいのもの買うつもりだった?」

「向日葵、あんまり高いものだと気を使うから3000円ぐらいのものを……」

「あのケーキ代は?」

「あれは姉さんが金を振り込んだんだ」

「今、愛花ちゃんに奢ったのは?」

「お前に半分出させたから浮いたお金……」

「……………」

 冷たい目で見られる。どうしようか。何か打開策が欲しい。

「ひなちゃん。あ〜ん」

「あ〜ん。んぐんぐ」

 打開策……。

「あ〜ん」

「あ〜ん。んぐんぐ」

 打開策……。

「あ〜ん」

「あ〜」

「いつまでやってんだ!」

 夕夜がキレた。

「愛花ちゃん、俺にも」

「ゴメン、夕夜くん。今のが最後だった」

「ちくしょう……俺もあ〜んってやってほしかった」

 ただ単に嫉妬していただけだった。

 悔しがる夕夜をなだめてるとオッさんが来た。

「オッさん。名前なんだったっけ?」

「てめぇは何年この店に通ってんだよ……。店の看板と同じだ」

「確かアナフィラキシーさんだっけ?」

「んな、蜂の毒の症状みたいな名前してねぇよ!」

「アナゴさん?」

「フグ田く〜ん、って違う!なんでモノマネやってんだ!?」

「上手です〜」

「そ、そう?ありがとう」

 女の子には滅法弱い店長である。

「てか、名前は花崗だ!花崗!どうせ読めてなかったんだろ!」

「あれ、みかげって読むんすか。勉強になりました」

「そっちの兄ちゃんは素直だな。で、何の用だ?」

「この店でバイトをしたい」

「誰が?」

「この二人とあともう一人女の子が」

「採用」

「軽いっすね?!」

 即決だった。気前が良すぎる。

「日向はやらないのか?」

「ん〜。ケーキ作りを伝承しないなら、やれる範囲でやりますけど」

「お前はそんなにやりたくないか……」

「趣味の範囲なら構わないけど、オッさん本格的にやらせようとするもん。そこまでやる気はないよ」

「……時給弾むぞ?」

「やらせていただきます」

「結局金か!てめぇは!」

 元々、支給される金だけでは、生活をするだけで精一杯なのだ。あとは向日葵の遠征費だとか、向日葵のテニス用品ぐらい。ぼくのお小遣いは5000円。これじゃ、奢ってたら貯まらないし、向日葵のプレゼントも買えないわけだ。

「で、時給いくら?」

「700円」

「コンビニでバイトした方が高いわ。他を当たってください」

「冗談だ。900でどうだ?」

「手を打ちましょう」

 これで、週4日程度出て、5時間働けば、月で……やべすげえ稼げる。

「そんなに出して大丈夫すか?」

「割と繁盛してるからな。高校生のバイト代ぐらい大丈夫だ。っと、四人か。シフトはどうする?いつも足りてないからいつ入っても歓迎するが。ちなみに木曜は定休日だ」

「俺、その木曜日以外全部入っていいすか?」

「おっ?やる気だな。でも、それは労働基準法で禁止されてんだよな……」

「高校生のバイトに適用されるのか?」

「さあ?」

 でも、営業主のオッさんが言うんだから間違いではないだろう。

 オッさんこと花崗店長が夕夜を見て、聞く。

「5日だ。週5日までならシフトを入れられる。時間は22時までだが……うちはそもそも21時には閉店だしな。そこはいいか。時間は夕方の……日向、学校いつ頃終わる?」

「いつだっけ?愛花」

 そんなのいちいち覚えてないので、愛花に聞くことにする。

「ん〜。四時には終わるかな?だから早くても入れるのは五時からかも」

「じゃ、五時からだ。遅れる場合には連絡すること。いいな。じゃ、これで終わり。明日には日向に全員分のシフト言っておくから、そっちで聞いてくれ。いきなり明日来いなんてことは……もしかしたらあるかもしれんがそれは日向ぐらいだ。以上」

「お〜い。ぼくの予定は無視ですか〜?」

「向日葵に心配かけない程度のシフトにしてやるから」

 そう言い残して、立ち去ろうとした。が、夕夜がまだ呼び止めていた。

「あの……花崗さん。俺に、ケーキ作りを教えてもらえませんか?バイトに入ったら、閉店後の少しの時間だけでも」

 オッさんは特に驚きはしなかった。きっと、こう言うだろうと予測していただろう。頭を下げている夕夜の頭に手を乗せて、そのまま奥へ戻って行った。

「今の、どういう意味だ?」

「教えてやるってことだろ。頑張れよ」

「私も応援するよ〜」

 呆気に取られていたが、愛花に手を取られて正気に戻ったようだ。

「にしても、本気だったのな。お前が頭下げるなんて」

「ああ、言ったからにはやるぜ。……あいつも、流石にこれはやんねえだろ……」

 最後の呟きは、誰に対してなのか。ぼくたちに対してか、自分を誇示するためか。何にせよ、ぼくたちが口を挟むようなことではないことだけは確かだ。

「よし、決まったし、帰っか。日向、連絡よろしく!」

「ごめん、お前の連絡先知らない」

「前に教えただろ!」

「冗談だ。連絡が来次第、お前に伝えるよ」

「頼むぜ、本当に……」

 兎にも角にも、バイト先決定。


 ーーーーーーーーーーーーー


 時刻12:40。

 んー。マズイな。いや、まだ帰ってない可能性にかけてみるか?

 実のところまだ、家には辿り着いていない。夕夜は走ってさっさと帰ってしまったが、ぼくと愛花は面倒なので歩いて帰ることにした。端から見るとデートしてるようにしか見えんかもしれない。愛花と二人だけってのは、まあちょこちょこあるけど、向日葵に断ってから行ってたしなあ。見られたらどうしよう。

「だったら、わざわざ一緒に歩くこともないじゃない?」

「お前を一人にしてみろ。あっちこっちフラフラ移動するから、どこで迷子になってるか分かったもんじゃない。それに2人でいる理由忘れてるだろ」

「あはは、私が連絡手段を持ってないからだったね」

 これを理由にいつも2人でいるのだ。いざとなったらそう言えばいいんだけど、どうにも後ろめたい。

「……そういや、向日葵、鍵持ってたっけ?」

「ひなちゃんが持ってるのだけじゃ?」

「しまった!向日葵ー!」

「待ってよ!ひなちゃん、速いってー!」

 ぼくは愛花の手を引っ張って走り出した。走れば三分ぐらいか?愛花の手を引いてるし、もう少しかかるかもしれない。

 やらかしたとは思ったけど、ここで立ちすくんでちゃいけない。

 今度からスペアキーをどっかに隠しておこう……。


 ーーーーーーーーーーーーー


 3分後自宅へ到着。

 かなりスピードを出したけど、愛花も着いてきてくれたようだ。

 家の前には、テニス鞄を背負って、佇んている少女が1人。

 本気でやらかした……。

「ひなちゃん。言い訳の前に、まずは謝罪だよ」

「お、おう」

 愛花に押されて、振り返った向日葵と向き合う。

「ひ、向日葵……ゴメン。何分待った?」

「ううん。五分も待ってないよ。お兄ちゃん、デートだった?」

「い、いや」

 微妙にしどろもどろになってしまう。向日葵はいつも通りの口調で話してるだけなのに、何でか、追い詰められている。

 そんなしどろもどろで怪しげなぼくを向日葵は待ってくれていた。

 人呼吸おいて、ちゃんと話すことにする。

「バイト。始めることにしたんだ」

「バイト?」

「ああ。前にお世話になってた、ケーキ屋のオッさんのところ。夕夜も一緒だったけど、あいつは走って帰ってった」

「だから、インターホン鳴らしても誰も出て来なかったのか……。まさか、お兄ちゃんが……愛ちゃん連れて……逢引でもしたんじゃないかって……」

 向日葵の目に涙が溜まっていく。やっぱり、やせ我慢してたのだ。どこまでも甘えん坊な妹はどこまでも心配性であるのだ。だから、先に家に帰ってる予定だったんだけどな……。

「向日葵置いて、どっかにいなくなるわけないだろ。まあ、今日のところは、ぼくが悪かった。別にデートしてたわけじゃないって。ぼくと愛花が一緒にいる理由は知ってるだろ?」

「うん……。でも、どうせお兄ちゃんのことだし、何か奢ってあげたんでしょ」

 口を尖らせて、自分も何か欲しいとアピールしてくる。うーん。ケーキ買ってくればよかった。

 そうだ。

「そんな向日葵にプレゼント」

「塩辛?」

「向日葵も好きだろ?」

「好きだけど……減ってない?」

「それ、ひなちゃんが途中で買い食いして……むぐぅ」

「余計なこと言わない」

「お兄ちゃん……。でも、ありがと。お昼ご飯まだでしょ?愛ちゃんも一緒に食べよ?」

「お腹ペコペコだよ〜」

 さっき、ケーキ食ったのにこいつの腹はどうなってる。女子の腹って、デザートは別腹って言うけど、牛みたいにデザート用と普通用の二つ胃があるじゃないかと思ってる今日のこの頃。 ちなみに牛の胃は四つ。

 人間のは生物学的に一つなんでしょうけどね。

「遅くなっちゃったしチャーハンにでもしようか」

「やったー!チャーハン!」

「愛花、家は?」

「そこ」

「そうじゃなくて、お昼ご飯用意してんじゃないかって」

 相変わらず、ボケボケの幼馴染である。うちの隣が愛花の家であることは百も承知だ。むしろ違う家族が住んでたら、ぼくは今までどこぞの家族と接してきたってことになる。

「…………まあ、いいよ。ひなちゃんの家で食べる」

「こらこら、せめて断ってからにしてこい。待っててやるから」

「は〜い」

  愛花が家に向かうが、立ち往生している。少しドアをいじってから、戻ってきた。

「開いてなかった」

「また、あの親は……。とりあえず、上がって」

「は〜い」

 ここ最近、ぼくに任せっきりにしてないだろうかあの守山家は。

 先に中に入って行った愛花を見て、ぼくも入ろうとすると、服の裾を掴まれて、立ち止まった。

「どうした?向日葵?」

「お兄ちゃん、後で話があるの。愛ちゃんも一緒でいいから、聞いてもらえる?」

「うん?ああ、分かった」

 向日葵が何を話すかは分からなかったけど、思ったより神妙な面持ちだったため、すぐに頷いておいた。

 さて、昼ご飯を作ろうか。





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