絶対敗北宣言からの………
戦いの基本は敵をよく観察する事。
幸か不幸か、オレは雑兵(NPC)に、何の違和感も無く溶け込んでいるから、鎧武者がオレに向かって突っ込んで来る事は無い。
まず思うのはカッケェ鎧。
いかにも戦国武将といったその鎧は、威風堂々としていて、兜飾りの『龍』一文字は見事としか言いようが無い。
凡之助「オレもあんな感じの鎧が着たいんだけどな〜。」
雑兵の格好は目立たなさすぎ。主人公だからもっと派手な奴がいいんだよね。
次に目を引くのは青白く光る薙刀だろう。
縦横無尽に振り回す薙刀は、元祖戦国無双オンラインのスキルを利用しているのか、雑兵(NPC)を宙高く舞い上げている。
凡之助「………あれ?さっきから回転斬りばっかりじゃね?」
本来、薙刀は突くも払うも自由自在。それなのに鎧武者は振り回してばかり。
ただ振り回すだけならば、長刀なり、斧なり、あるいは鉄球なんかで良いだろう。
よくよく見れば、縦横無尽に振り回している薙刀の軌道はワンパターンだという事に気がついた。
凡之助「………あ〜、まさかまさかの初心者さん?」
そう、武将といえど操作しているプレイヤーの技量が低ければ、本来の性能を引き出す事は出来ず。
凡之助「うーん。鎧で資金と重量を使いすぎて、長刀を買う事が出来なかったカワイソちゃんか。」
元祖戦国無双オンラインでは、初期資金を与えられて装備を整える。防具にその資金を割り振り過ぎれば武器は必然的に弱くなる。
重量についても同様。武具全体の総量が一定以下で無ければならない為、重い防具を着けてしまうと、武器は軽くなる。
凡之助「こりゃ、ひょっとすればひょっとこすると勝てるかもしれないっすよ。」
雑兵(NPC)に隠れるように鎧武者に接近し、スキルの終わるタイミングを計る。
凡之助「よ〜するに、縄跳びと一緒。腕が伸びきった瞬間を狙って〜………ココ!」
カキンッ!。
思いきり弾かれた。流石に重い鎧だけの事はある。
凡之助「なら、鎧の間を狙って行くしかないか。」
篭手、顔、脇、剣道だと反則になる足も狙っていく。
シュッ!ヒュン!ブスッ!ザッ!ガスッ!
ある程度はダメージを与えられたようだ。
さっきからダメージを与えてくる雑兵を倒そうとスキルを連打しているが、雑兵(NPC)に紛れている為、オレは無傷。
むしろ、スキルの使いすぎでスタミナが切れるのか隙が増えた。
凡之助「はいはい、お疲れ様でした〜。」
こうなってくれば、突き倒して終わりである。初戦は呆気なく終わってしまった。
凡之助「ひょっとこしなくても勝てましたわ。」
火男のように唇をすぼませてみる。
うーん、どう見てもマヌケ顔だ。こんな顔の雑兵にやられちゃうとか、鎧武者も可哀相だな。
くだらない事をしていると他の雑兵が話し掛けてきた。
雑兵「あんさん、武将さやっつけるどかなんぼしょっと〜!」
いあいあ、何弁なのかも分かんないから。まぁ、ニュアンスから褒めてくれてるんでしょ。
凡之助「この程度、朝飯前ってもんっすよ。」
雑兵「ほなら、あちきにおる武将さもやっつけてくれるべな?」
凡之助「おう!任しとけ!………ってまだ武将いるの?!」
どうやらこれで一面クリアーになる訳じゃ無いらしい。
雑兵が指差した先には馬に乗り槍を使いこなす武将の姿が。
凡之助「マジかぁ………。」
さっきの鎧武者より強そう。なんかもう逃げたいんだけど駄目かな?
雑兵達は何も言わず、瞬きもせずこちらを見ている。
………駄目ですよね。はいはい。行ってきますよ。
オレの物語はまだ休憩を挟めないようです。