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オリヴィア

「ああ」


「そうだな」


「いや」


「わかった」


 私がリオネルと会話すると、彼はこの四つの言葉位しか言わない。

 これより長く話しているのは、騎士としての名乗りの時か伝言を頼まれた時だ。

 だが、私が彼に嫌われているから、最低限の言葉をしか交わせていないのではない。断じて無い。

 同期の騎士は、私よりも彼と会話になっていなかったりする。一方的な感じではあるが、会話になっている分、私とリオネルは親しいといえる。

 隊長や先輩騎士にはもう少し増えるが、それも職務上のことで私的なことになるとやはり私かそれ以下だ。

 学園にいた時より会話が増えたのだから、学園の同級生よりも私のほうが彼に親しい。

 リオネルが騎士になってくれて、本当に良かった。

 彼が寡黙であることで、恋に興じる城の女性も軽々しく彼に近づくこともない。

 そんな彼の例外が、イレーヌ・バダンテール。現在王太子妃のお気に入りと言われている女性だ。

 結婚式での粗暴なヴィクトールの過ぎた冗談の被害者だが、その一件で王太子妃に気に入られたのだそうだ。

 ヴィクトールも結婚して落ち着くかと思えば、相変わらず騒動を起こすのが得意のようだ。

 その被害者のイレーヌへのお気に入り具合は、王太子の戴冠後、跡取りの居ないバッヘム領を下賜されるのではと噂が出るぐらいだ。久しぶりにあった父と兄の口に上るくらいだから、多分事実に近いのだろう。

 バッヘム領は、あまり知られていないが王家の直轄領以外でミスリル鉱山がある領地。今の当主がなくなり次第直轄領に戻す、または大公となるヴィクトールに与えるものだと父は思っていたようだ。

 だが、現状いくら荒れていても後々金の卵となる領地、いや内実を知らなくても領地の規模が単純に倍に近くなるそれを、魔王討伐に功がある者ではなく妃の茶飲み友達程度の貴族、それもまだ未婚の娘に与えるのか。

 外で口にすることはないが、噂を知るものの多くはその厚遇を訝しむ。

 勢いのある侯爵家の娘ならば、引く手あまたのような気もするのだが、持ち込まれた見合い話は全て断られているという。

 それともバダンテールは弟が継ぎ、新しい領土にて自身の母のように身分差のある男を夫に迎えるのか。

 他にも、王太子の側室になるのでは?とか、王太子妃の母国の王室に嫁ぐつもりでは?という噂もある。

 まあ、それも家の考えに反抗し、一介の騎士になった私が口をだすことでもない。

 私は私の個人的事情から、イレーヌに注意を払っている。





 夕刻の鐘が鳴る頃。

 時折、通路の隅でリオネルとイレーヌが二人、人目を避けるかのように会っているのを見つける。

 彼女と何を話しているのかは聞こえない。が、リオネルの口が珍しいくらい働くのは見て取れた。

 状況だけを考えれば逢引のようだが、二人の間に流れる空気はそんな甘いモノではないようだ。

 遠目で見ても分かるほど、イレーヌはリオネルを指さしたり、肩をすくめたりと彼を馬鹿にした仕草をする。

 リオネルが身分を弁えているからといって、調子に乗るにもほどがある。

 もっとも、彼が耐えているのに、通りすがっただけの自分が彼女に文句を言うのはお門違いだろう。だから、せめて私は彼に言うのだ。


「何かあったら私を頼れよ」


「……ああ」


 間が空いたのは、気のせいだろう。

 彼女はリオネルに用事がなくても、よく王太子のまだ幼い王子を伴って、騎士の訓練所に顔を出す。

 王子が剣術に興味を持ち始めたからなのだろうが、それはもう頻繁に顔を出す。

 いつの間にか、王子と彼女のための席まで設けられている。

 手の空いた騎士が王子に軽い手ほどきをしている間、彼女は編み物をしてすごす。

 騎士団にも女性は所属しているが、剣を握る手は彼女のようなたおやかさはない。だからか、私たちの前では平気で下ネタ言えても、彼女がいる時、彼らは物語の騎士のように澄ましている。

 そして、彼女が王子のために用意した菓子のおこぼれをもらって喜んでいる。

 どうせ、家の料理人に作らせたものなのに、そこまで喜ぶことか。

 リオネルもその場に居合わせると、もらうことが多い。

 きっと甘いモノが好きなのだろう。

 はて?あの店はテイクアウトが可能だったかな?





 表向きは遺跡調査という、未だ魔王の影に怯える民に伏せる形で行われる魔族討伐。

 目撃例が多く、魔族と戦う可能性が高い今回。

その任務のトップがイレーヌなのは、それを任命した王太子の考えを疑ってしまう。

 学園にいた頃、同じ剣術の授業を受けていたような気がするが、印象に残らない程だ。下賜するための箔付けのお飾りにしても、ひどい任命だと思う。

 隊長のレオナルドがきっと実質的なリーダーなのだろうが、一体日々子守をして過ごす女性が、討伐にいかほどの役にたつというのだろう。

 そんな疑問は私だけでなく、任務に同行する騎士たち全員の脳裏に浮かんだのだろう。

 任務の邪魔をすることがあれば、何かしら穏当な理由をつけて帰ってもらおう。そう、具体的に話はしないが、皆似たことを考えていた。

 しかしそれは杞憂で、遺跡に向かう道中、彼女は貴族の娘らしい我儘や愚痴をいいだすこともなく、何かあれば隊長の意見を伺うという、呆気にとられるほど大人しいものだった。

 そうであれば、私達の懸念は、目撃された魔族へと向かう。

 魔族とは人形のモンスターの総称だが、弱いものでも他のモンスターを従えているという。厄介な存在だ。

 地表が削れたことで発見された遺跡とほぼ同じ時期に目撃がされているということは、遺跡を根城にしている可能性もある。

 近くの村を拠点に捜索することになるが、出来れば開けた場所で遭遇したい。

 どうも私は建物内での戦いは、狭く好きではない。

 遺跡への道案内役は、私より年下の兄妹だった。

 どうも、彼ら以上に遺跡のある付近に詳しく、案内できるだけの人間がいなかったらしい。

 村の様子をよく見れば、年寄りと女子供ばかり。若い男は、皆どこかに古傷を抱えている。

 魔王による災禍の後は、まだ色濃く残っているということか。

 イレーヌは兄妹に道案内をしてもらうことに、珍しく声を張り上げ反対していたが、他に人が居ない以上結局は折れることとなった。

 遺跡にて魔族と遭遇し、落盤から遺跡内に閉じ込められるというアクシデントがあったが、隊長とリオネルが一緒だったので心配などなかった。

 意外にもイレーヌはこの状況に多少の動揺はしたものの受け入れ、隊長の指示に素直に従った。

 外に出るまでの間、私はリオネルと共に先陣を任された。

 この一行の中で、一番の要人であるイレーヌは最も強い隊長が守るのが順当であるし、道案内の兄妹はフリッツがいれば、私達が駆けつけるまで持ちこたえるだろう。

 それに私はリオネルと組むと調子がいいのだから、これが最も良い配置だろう。





 敵国に不法入国という、予期せぬ事態が外には待っていた。

 最初、村を探そうとした時、騎士たる証を隠せと言われ、腹がたったものだがこうなってみると、彼女の慎重さゆえの発言が正しかった。

 村へたどり着き、予期せぬ状況に具体案が浮かばないうちに、イレーヌは自身の換金できる持ち物をさっさと売り払った。

 調査に向かうには無駄な飾りも、こういう時には役に立つものだ。

 こうして得た金を使い、彼女はどんどんと帰郷への手はずを整えていった。

 商家の一行になりすますという案で、私が隊長と夫婦を演じろと言われた時は困った。

 イレーヌとしては自身を奉公人とし、帰郷までの道中、交渉役をしたかったらしいが。だが、演技とはいえ、愛していない男性の妻になりたくなかったのだ。

 しかし、口に出していった言い訳は違ったが。


「私は騎士だ。未だ任務中であるのに女のなりなどできるか」


「ですが、私達の身元が偽りだと知られるわけにはいかないのですよ?」


 そんなやり取りを繰り返し、結局はイレーヌのほうが折れた。

 決め手としては、隊長が笑いながら。


「そこまで夫にしたくない、と女性に厭われるとは。さすがに心が痛むので、席を外しましょう」


 なんて言われては、それ以上この件で揉めることは出来なかった。

 イレーヌが折れるのがもう少し遅かったら、私が妻役になっていただろう。

 一番揉めた配役が決まれば、残りも自然と決まった。

 私達騎士は雇われた護衛、兄妹は夫婦の世話をする従者。

 ロバを買い入れ、旅に必要な荷を揃えると、最初の村を出た。

 目指す関所は、若い夫婦が巡礼に訪れる地に近い場所。この設定の一行が通り抜けるには、一番不審がられない場所だった。

 村を出立した時点では、なかなかと思われた計画だったが、すぐにこの旅の難点が発覚した。

 できるだけ街によらないようにと考えた旅路。

 すでに料理となった品より、材料で運んだほうが嵩張らないと荷造りしたのだが。

 残念なことに、料理が出来るものが少なかった。

 私は今まで剣の腕を磨くことに血道をあげていたので、出来ない方に分けられる。騎士になるのに料理の腕は関係ないのだから、致し方ない。

 私と同じだけできないのは、道案内の少女とフリッツだった。

 リオネルと隊長、兄の方は狩ってきた獲物を捌くのと、簡単な煮る焼く位なら可能だった。

 町によるまで、侘しい食事が続く覚悟が皆の中で決まりかけていたのだが。

 意外なことに、貴族の子女でありながらイレーヌはこの中の誰より、いや比べるのもおこがましいほどの料理の腕を持っていた。

 少々変わってはいたが、少ない材料の中、十分に美味しいものばかりだった。

 リオネルも気に入ったのか、よくおかわりをしていた。

 少し気になったので、リオネルとイレーヌの料理のことで話した。


「俺も、バダンテールの家でしか食べたことがない」


「君の故郷はバッヘム領だろ?バダンテール家の料理など、一体どんな機会があれば口にできる?」


「……俺は、バダンテールの人間だが」


 珍しく長文で返事してくれたことに、気をよくしてかなり深いことまで聞いてしまった。

 気を悪くしたかもしれない。

 だが私は、私にとって重大な事実を知ってしまった。

 なんと、リオネルと彼女が異母兄弟だったとは。

 彼の口ぶりでは、兄弟仲は悪くないのだろう。

 さて、彼の横に立つ私をふさわしいと彼女が認めない場合、これでは彼女が口を挟む権利を持っていることになる。

 当主が、一族の婚姻や付き合いに口をだすのは別段おかしい行為ではない。そして彼女はバダンテールの次期当主。

 しかも次期王妃のお気に入りという人だ。

 一族に加わる可能性があるのに、口を挟むだけで済むわけがない。

 私の家は、バダンテールより格式がある為、気にする必要など無いかもしれない。

 だが、私は当主たる父に反抗した身。私個人は、一介の騎士なのだ。

 リオネルとの関係を今後も続けていきたいのなら、イレーヌを味方にするのが一番か。

 さて、どうやって彼女を味方にするべきか?



今回はオリヴィア視点。


●オリヴィア

「ゲーム」親友及びライバル

侯爵家令嬢で、騎士に憧れる男装の麗人。

外見はベル薔薇そのもの。

中と外のギャップの差がはげしい。

リオネルルートでのライバルキャラ。


「本編」

リオネルと同時期に騎士団に入団。

勇者一行ではないので、親の反対は激しかった。

剣の腕は確か。

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― 新着の感想 ―
オリヴィアがびっくりするくらいクズでびびった。 割と内心クズの多い話だけど、オリヴィアすごいな。
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