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続編な私


 もう使うことはないかな?

 そんな風に思っていた時もありました。

 今、再び前世知識を活用しなければいけない状況に陥りました。

 てっきり、私に関係するのはゲーム一作目だけだと思っていました。と、いうより目の前のフラグを折ることに必死で忘れていただけなのですが。

 しかし、なんという事でしょう。

 ゲームの続編、しかも事件の中心に思い切り介入してしまいました。

 不本意です。

 さて、現状に至るまでを軽く整理いたしましょう。

 でないと、今日はどうやら寝付けません。





 シリーズ二作目は正直言って、前作ファンからかなり叩かれた駄作です。

 乙女ゲーなのに攻略対象キャラが減っただけでなく、中盤の前作を超える鬱展開。ルート選択を誤ると、なんとも後味が悪いバッドエンド突入。ノーマルエンドも主人公が報われなさすぎで、二次創作では逆行、介入による断罪ものが主流になるという有様でした。

 肝心の話の内容はというと、前作の大団円逆ハーエンド後から二年後の世界。

 国境沿いの田舎に暮らす、昔の記憶が無い少女が、山崩れの後発見された遺跡調査に訪れた騎士団の道案内役をすることになったことから、物語は始まる。

 魔族から狙われることとなる少女と、彼女を守る仲間の逃避行。

 その旅の過程で、少女は自分の選択で親しくなった人を死なせ続ける。

 最終的に、少女を救うのは女神の力なのだけど、その代償は重い。

 ノーマルエンドでは、主人公は田舎に帰ることも仲間と暮らすことも出来ず、一人ひっそりと旅にでるという、本当にこれがノーマル?と問いたくなる有様。

 ああ、改めてストーリーを思い出すと、誰得なゲームだったと言えます。

 始まりの舞台となる国境付近の村は、王家の直轄領で、我が家の領土とは離れたところになります。

 本来なら、私が関与することなどよほど無理をしない限り、ありえない場所でした。

 主人公の不幸さに手を差し伸べたいと思うことは有りましたが、まだ何も始まっていない時点では主人公が誰なのか特定できない状況でした。

 言い訳ですね。

 私は我が身可愛さで、見捨てるつもりだったというのが一番正確な言葉でしょう。

 ですが、本来ならその村に調査に向かう騎士団、それを率いるはずの人間が、代わってしまいました。

 私が、調査の代表となってしまいました。

 ゲームでは前作キャラであるバカ王子が、騎士団を率いていたはずなのに。

 バカ王子はバカですが、王族としての教育は受けていますからそれぐらいはできるはずです。

 しかも、この任務、遺跡調査とは表向きで、このあたりで目撃された魔族の討伐が本当の狙いなんですよ。

 既に魔族が立ち去っていれば問題無いですが、いたら戦闘になります。

 バカ王子なら戦うのが得意ですから、適材適所ですね。

 なのに、なぜ私なのか。

 一応、戦闘訓練を受けたことがあると言っても、今はただの子守ですよ。

 実際に戦うのは騎士団の人々とはいえ、あんまりです。

 それはもちろん、まもなく王となられる王太子の決定によるものです。

 私に領土を下賜する為の、表向きな理由づけだそうです。

 これは、帰ったら彼の息子に肩車をねだらせて、毛根に深刻な打撃を与えるべきだと思いました。

 子守という立場を使って、親子の新しいふれあいを教えても文句は無いはずです。ええ、いい育毛剤を探しているなんて王太子妃からは聞いていませんから。最近、妹姫様からお兄様から加齢臭するって言われて落ち込んでいるのも、もちろん聞いていません。まあ、妹姫様に加齢臭って言葉を教えたのは私ですが。

 さて、率いられる騎士団の方たちの中には、前作キャラに当たる方が当然のように居ます。

 レオナルド様を隊長に、リオネルや男装の麗人オスカル様ことオリヴィア様など見目麗しい方ばかりです。

 その中に、続編の攻略キャラのフリッツの名前があったことが、私に続編を思い出させました。

 それでも、一度は死亡フラグを退けた私です。

 準備さえ怠らなければ、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせて、その任を受けました。

 大丈夫じゃなかったんですけどね。

 少女を道案内役にすることを断れず、遺跡の前では魔族の襲撃というゲームに似たイベントが起き、遺跡の入り口の崩落によって、騎士団は外と中に分断されてしまいました。

 せめて、ゲームの展開に沿う形になるであろう内部組には、ならないようにしたかったのに。

 魔族の攻撃から庇われる形で抱え運ばれたのが、内側でした。

 助けてくれたのはありがたいのですが、レオナルド様、出来れば外側が良かったです。

 結局、崩落後の内部に居たのは、ゲーム序盤のメンバーたる少女リーリアと少女の義兄ジャック、それにフリッツとオリヴィア様の四人に加え、私とレオナルド様とリオネルの計七名となりました。

 来た道からは出られないことが分かった後、私達は仕方なくモンスターが巣食う遺跡を探索し始めました。

 騎士が四人もいるのですから、非戦闘員のリーリアが戦う必要もなくすみました。

 怪我などを負った時の回復手段を持っているのが、私とフリッツしか居ない以上、戦いで無理をされても困ります。

 現在、私しか知らないことですが、リーリアは正確には人間ではありません。

 古代、当時の魔王に対抗するために生み出された戦闘型の人造人間です。昔の記憶は最初からなく、義兄のジャックに拾われた時に初めて起動したのです。

 そして、この遺跡や同じ目的を持って作られた施設に分かれて封印された、古代の魔王を目覚めさせる鍵でもあるのです。

 戦えば戦うほど、リーリアの中では鍵としての目覚めが始まっていくのです。

 そして、怒涛の鬱イベントラッシュ。

 さすがにそれがわかっていて、側にいるというのに放って置けるほど私は非道ではないつもりです。

 と、いうか古代の人達は、何を考えて封印したものを目覚めさせる鍵なんて用意していたのでしょうか。いい迷惑です。





 と、自分で自分を新しい死亡フラグに追い込む決意をした後。

 遺跡の内部で夜を明かさなければいけなくなった時、私は予想していなかった危機に遇してしまいます。

 何故、私はレオナルド様のぬくもりが感じられるほどの近さで、仮眠を取らなければいけないのでしょう。

 視界を閉ざせば、かすかな寝息さえ聞こえる距離です。弟に添い寝していた時でさえ、ここまでの至近距離はなかったです。

 理屈では、わかっているのですよ。

 仮眠を取れそうな場所が人数の割に狭いとか、交代で仮眠を取る順番を決めるくじで騎士とその他で別れて引いたとか、そのくじの組み合わせで私とレオナルド様がペアになったとか、騎士が外側でその他が内側になって寝る以上片側がペアの相手になるとかね。

 非常事態故致し方なし。不可抗力なんです。

 他意とか下心などないのはわかっているけれども、なんとも落ち着かない胸のざわめきで仮眠なんて無理です。

 野宿が無理とか、貴族の娘らしい理由ならまだマシだったのに。

 せめてリオネルなら、逆に開き直って抱き枕にしてやったのに。

 必死に眠気が訪れるよう目を閉じていますが、一向に眠れない。睡眠を誘う魔法はありますが、何が起きるかわからない状況で起きれなくなるのも困ります。

 現状から目をそらすために、回想などしてみたのも全くの無駄です。

 まだモンスターと対峙していた時のほうが、冷静で居られたのに。

 そうだ!深呼吸しましょう。そうすれば落ち着くはず。

 ……駄目でした。

 こんな至近距離で深呼吸なんてしたら、当然息が当たるわけで。

 不快だったのか、レオナルド様が身じろぐ気配を感じます。

 ええっと。手が。大きな手のひらが私の頭を撫でました。いや、多分ぶつかっただけです。

 自意識過剰ですよ、私。

 もう!偶然って怖い!!





 一夜明けて。

 ここが薄暗くて助かりました。きっと私の目の下には自己主張している隈があることでしょう。こんな場所で体調不良など、足手まといになるだけです。

 巣食っていたモンスターは予想よりは少なく、残りの探索は順調に進みました。後は、ほぼ一本道でしたしね。

 遺跡の崩れた先からつながる洞窟は、運良く外につながっていました。ゲームと同じです。

 そこが自国内だったら、もっと良かったのに。

 残念なことに、私達が出た場所は魔王復活以前、度々戦争をしていた敵国でした。

 下手に動こうなら、不法入国だけでも問題なのに、相手側に開戦の理由まで与えてしまう。

 ゲームではそれで戦争が始まりかけたのだから、笑えない話です。

 私はゲームで得ていた知識を元に、皆を説得し、身元や身分を証すものを隠し、村に向かいました。

 万が一と思い、換金できそうなものをたくさん身に着けてきておいてよかったです。この出費は経費として、絶対に王家から支払ってもらいます。

 さて、村に着き、宿で一休みをした後、私達は早速行動に移りました。

 このままこの国にいても、立場は悪くなる一方だったからです。

 



 

 過酷な旅でした。

 原作ブレイクもいいところな強行軍です。

 月日に換算するならば、わずか一ヶ月弱の間に様々なことが起きました。

 ゲームのような鬱イベントは起きませんでしたが、私の心臓に悪い出来事ばかりでした。

 例えば、国境を超えるために用意しておいた偽の身分証。

 偽と言っても、我が家の領土で正式に発行している印章を使用した身分証ですので、滅多なことではバレません。

 では、何が問題なのかといいますと。

 商家の若夫婦一行という設定にしていたために、私がレオナルドと夫婦を演じなければならなくなったのです。

 リーリアでは歳が足らないし、オリヴィアは女物の服が着れるか!と拒否した為です。別に私が率先して、レオナルドと仮の夫婦になったわけではないのです。

 なのに皆、それを後になってからかうから、変な噂が城に広まってしまいました。婚期が、更に遅れてしまうじゃないのと、文句を言いたい。

 それなりにお得な物件だと自分でも思うのですが、見合い話の一つも来ないみたいで。

 母はにこやかに、結婚なんてしないでいいわよと、言いますから、引き篭もりがちとはいえ現当主である母の伝手を使って相手を探すことも出来ないのです。

 残る出会いは、職場となった城内なのに!

 他には、野営の際に誰も碌に食事がつくれないとか、リオネルとオリヴィアの突撃脳とか、魔族の罠に引っかかってリーリアと二人きりで過ごす羽目になったりとか。

 別に私ばかりが苦労しているとは言いませんが、しなくていい苦労をしている気はします。

 無事に国に戻った時、肩の荷が降りてほっとしました。

 街による度に、状況を書いた手紙を送っていたので、死亡しているとは思われてはいませんでしたが。

 最後の手紙に書いた日付より遅れて、国境近くの村にたどり着けば、見知った顔が待ち構えていました。

 バカ王子を除く、あの時の方々です。

 色々と憎らしい方々のお出迎えでしたが、それでも戻ってこられた方の喜びが大きくてしかたありませんでした。

 貴族らしいやり取りなんて、危うく忘れそうでしたよ。

 最初のうちは、レオナルドを始め、騎士の皆は注意しても騎士の規範に則った接し方をしていたのに、終盤はくだけすぎで下町にいるかのようでした。

 騎士って少なからず脳筋なんですから。私はあなた達のお母さんじゃない!

 城内という、国内でもっとも守りに適した場所。

 私達が居なかった間に、国でも色々とあったらしく、騎士団の方々は早々に別の任へと向かいました。

 残された私たちはというと、襲撃してきた魔族のこともあり、城へと留め置かれることとなりました。

 ジャックとリーリアも私の側でしばらく過ごすことになり、慣れぬ環境に苦心しています。

 そう、今回のことでの、私の残る懸念はリーリアです。

 リーリアが古代の魔王の封印を解く鍵である限り、執拗にこちらを襲ってきた魔族以外も彼女を狙う輩が表れないとも限りません。

 ゲームでは、女神の奇跡によって救われた彼女。

 私ごときの力で、救えるわけがありません。

 かと言って、ここまで関わってきて放り投げれるほど、彼女に対し情が無いわけではなく。

 それに、下手を打てば、ようやく復興を始めた各国が、再び災禍に見舞われます。

 おまけに、ゲームの知識がある私以外にも、旅の道中でのことでリーリアの特殊性に、皆気づきはじめたはず。

 どうするのが、一番良いのでしょうか?

 悩みはつきません。



続編に介入した話。


●リーリア

「ゲーム」主人公

 あまりにも可哀想な境遇に、公式がヘイトと言われる始末。

 古代に作られた人型戦闘兵器。

 その身に、魔王の封印の鍵を宿している。


「本編」

 ジャックに拾われ、ようやく人並みの生活を送れるようになった精神年齢5歳。

 自分が人とは違うことに薄々感づいている。

 苦難の旅を共に過ごしたことで、イレーヌに懐く。

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