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後日譚な私

 これも婚活のうち。消費も未来の投資と思えば、安いもの。

 何度も心の中で呪文のように唱えながら、服を仕上げていく。

 こうして趣味でもある裁縫をしていないと、結婚祝いや出席のための諸経費で出ていく金額がすぐにでも脳裏を占め、悩ませる。

 魔王対策で散財し、復興に散財し、近隣の領主たちに低金利で貸しつけて。

 その上、今回の婚礼儀式で散財する羽目になるとは。

 取り敢えず、慣例に則れば先に目録だけだして、実物は日の良い日に改めて納める形だから直ぐ様蓄えがなくなるってわけじゃないけど。

 別に礼服の一着や二着は、大した額ではないのよ。

 趣味の裁縫のために今までコツコツ買い付けた布地コレクションは、店が開けるほどよ。仕立て料だけなのだから、高い工賃を払わなければいけない部分は自分でやればいいし。

 もっとも金を喰う母の支度は、母が父に会う可能性が高い首都、しかも婚礼儀式でなんてと拒絶反応を示して、引きこもってしまったので、考えなくてもいいだろう。

 代わりに私が、母に代わってバダンテール侯爵家の名代を努めなくては行けないのだけど。

 でも、注目は第二王子と勇者に向かうのだから、私は隣人たる人々と交友を深めればいいでしょう。

 それに、楽しみだってあるのです。

 レオナルド様の姿を久しぶりに見ることができますし、他国からの招待客の中には外伝や続編のキャラがいらっしゃるかもしれません。




 なんて、考えが甘かったのか。

 私は、今、酷い目に遭遇しているのです。

 婚礼の日より数日前に首都入りして、慣例通りに祝福の意を示しながら過ごしていた日々が、大変ながらもなんと平和だったことか。

 初日の夜に開かれた宴は、昼のパレードの興奮して寝込んだドミニクに代わり、不本意ながらリオネルをエスコート役として向かった。

 案の定というべきか、リオネルが注目を集めて必要以上に対応に追われることになった。

 様々な人と出会えたのは、今後のことを考えたらプラスなのかもしれないけど、第一目的である婚活につながるかは微妙な人たちばかりだった。

 皆様の中に、未婚の結婚適齢期な男性親族をお持ちの方はいらっしゃいませんか。と、思わず口に出したくなりましたよ。

 そんな、人様の幸せの門出を祝う席で、結婚相手を探すなんて薄情な真似をしていたせいでしょうか。

 婚礼の祝いが続く三日目。

 事件に巻き込まれてしまいました。

 死亡フラグを折ったことで、すっかり忘れていましたけど、ゲームには続編やスピンアウトな関連商品がありましたわけで。

 各キャラEDの後日譚も、小説になってたんですよね。

 本当に、ゲームに関連していることは、くっきりはっきり覚えているんですよ。どうせなら、もっと暮らしが楽になるような知識を思い出せればいいのに、現実とは思い通りにいかないものです。

 で、その小説と事件がどう関係があるのかというと、現在、私は小説の犯人に間違われているところなんです。

 俺様王子ヴィクトールの後日譚小説は、結婚直後に思い出の品がアンジェリカの部屋から盗まれてしまいます。そして、思い出の品をめぐり、王子と王子に恋する少女とアンジェリカの間に感情的な行き違いが生まれてしまうのです。まあ、結局はいっそう深い絆で結ばれましたって、オチなんですが。

 

「おい、聞いてんのか!?」


 ダンッと苛立たしげに、前に立つ俺様王子が床を踏み鳴らす。

 一般的な女性なら泣き出したくなるような、怒りに満ちた視線を向けられてます。

 私は、泣きませんよ。それどころか衝動にまかせて、魔法の一つや二つ、唱えないように理性を総動員しております。


「そのように、声を荒らげられずとも十分聞こえております」


 だいたい冤罪なのに、大人しく言うこと聞いていたら、我が家の家名に傷がつきます。

 私が弟たちと控え室から広間に戻る途中、ぶつかった少女が落としたブローチ。

 拾って届けようとしただけなのに、広間で勇者一行の男性だけで集まっている前を通ったところ、手にしたブローチを見た俺様王子に泥棒呼ばわり。しかも、驚きに立ちすくんだ私の腕を無理やり掴んで、連れてこられた部屋からは、弟たちは締め出され私の味方は誰もいないんです。

 一方的に王子の言い分を聞かされて、しかも周りの四人はそれに追従している状況。一つ反論しようものなら、軽くですが、小突いてきたりするんです。


「私を盗人とおっしゃるのですか?生憎盗みを働くほど、窮した暮らしをしておりませんが」


「人のものを盗んでおいて、開き直るか!!」


 あ、またこづかれた。しかも、落ちた髪飾り踏みましたよ、このバカ王子。

 仮にも魔王を倒した勇者の仲間ですよ。それが非武装の少女に手を挙げるなんて。

 おかげで、苦心して整えた髪はみっともなくほどけてきていますし、ドレスは袖のレースが破れてしまっています。

 ……最低ですね。

 現実逃避ぐらいさせてくれてもいいと思いませんか。

 



 さて、私がのらりくらりと返事をしながら、現実逃避をしているうちに事態は収束しました。

 全て、弟とその友人の天才少年のおかげです。

 そう、いつの間にかドミニクと天才少年ヨハン君は、親しい友人となっていたのでした。

 まあ、姉弟だからといって交友関係を把握しているものでもないのですが。

 私から引き離された後、二人はブローチを落とした少女を捕まえただけでなく、王子の泥棒発言でざわめく皆をなだめていた王太子夫妻へと、第二王子を諌めてくれるように話を持っていったというから凄い。

 私だったら、この短時間では、救出を成し遂げるどころか手段を思いつくのがやっとです。

 おまけに私のみっともない姿を人目につかないようにして、早々に帰宅できるよう手配までしてくれて。なんていい子たちなんでしょう。

 思わずぎゅっと抱きしめたら、そこはお年ごろな男の子、嫌がられてしまいました。

 でもお願いしたら、手はつないでくれました。片手ずつ差し出してくれたまだ幼い柔らかさが残る手が暖かくって、ほっとします。

 本当は少しの間だけでよかったんですが、結構傷ついていたんですね。優しさが伝わってきているみたいで、手を放したくありません。

 ドミニクはお願いしなくても、付き合ってくれそうですが。ヨハン君はどうでしょう。

 お礼を伝えるついでに、お願いしてみるだけしてみましょうか。


「助けてくれて、本当にありがとうございます。……もう少しだけ、このままでもいいですか?」


「……しょうがないな」


 そっぽを向いたまま、呟いたヨハン君。

 でも、ぎゅっと手を少し力を加えて握り返してくれました。

 何、これ、かわいい!!

 私にショタな趣味はないはずですが、あまりの可愛さにちょっとときめいちゃいました。

 お陰で、バカ王子に地味に削られていた元気もでてきました。

 ですから、帰宅する前に、王家へと手紙を渡してくれるように頼みました。

 内容は、といいますと。


『第二王子におかれましては、私のような盗人から祝いを送られても喜ばれないでしょう。ですから、この度の祝いの品はなかったこととさせて頂きます』


 です。

 結構、失礼な事書いてしまいました。喧嘩売っていますね。

 一度、目録とはいえ出した祝いの品を破棄することは、そのまま婚礼自体を否定していることになりますから。呪いをかけたと、いちゃもんをつけられても仕方のない行為です。

 もちろん、せっかくの平和の象徴となる夫婦ですから、破局しろ!!!なんてわずかしか思ってませんよ。

 まあ、向こうも侯爵とはいえ、現在、健全な運営を行えている数少ない領地持ちを侮辱したのですから自業自得です。

 これで、さらに私を咎めるのでしたら、何してやりましょう?

 他の領地から流れてきた大量の難民を、全員首都に送りましょうか?

 街道を封鎖しましょうか?

 国力の弱っているうちに、独立戦争しかけましょうか?

 まあ、実行に移すには良い手段ではないですが、夢想すると少しすっとしました。

 小説の犯人の少女のように、殊勝でも勇者を敬愛しているわけでもない私ですから、反抗しても当然でしょう?

 おまけに、今日の騒ぎのせいで、王家から厭われる私の婚活が困難になってしまったことでしょうし。

 ふふふ。

 おかしいですね。視界が滲んで前が見えません。

 



 翌日、城から私のもとに使者が来ました。

 時間がたってしまうと、昨夜の自分の軽率さに頭がいたいです。平和になったばかりだというのに、何故自分から死亡フラグを立ててしまったのやら。

 このままでは私だけでなく、家族にまで咎が及ぶでしょうからこの招待は渡りに船です。少しでも容赦してもらえるよう、謝ってしまいましょう。名代として来ていますが、まだ子供で通る年齢ですから、それを利用して子供の癇癪で押し通しましょう。

 私への評価は下がったままなのは、この際しょうがないですね。

 腫れた目を魔法で癒しながら、身支度を整えていたら両腕に絞められたような痣が出来ているのに気づきました。

 場所から言って昨日のバカ王子の馬鹿力のせいですね。思いっきり引っ張られましたもの。

 謝罪文を考えていたはずなのに、ついバカ王子への罵声が脳裏を占めます。

 気をつけないと、本人にあったら口をついて出てしまいそうです。そしたら、不敬罪で本当に取り返しがつきません。

 家族のために我慢、我慢。

 自分に言い聞かせるように、内心でつぶやいているうちに城に着きました。

 そこからは、祝いに賑わう表ではなく、奥へと人目を避けるかのように案内されました。

 まあ、昨日の今日ですから、堂々と表からとは行きませんよね。目立ちますもの。

 そして、通された部屋には、王太子夫妻がおられました。

 予想に反して、バカ王子とご友人たちはいらっしゃいません。

 儀礼に法った挨拶を交わしながら、疑問に思います。昨日のことで呼ばれたのに当事者の片方がいないとは。

 でも、よく考えれば祝いの主賓が居ないのはおかしいので、きっと表の賑わいにいることでしょう。

 そんな私の自問自答に気づき、王太子様が答えてくださいます。

 遠まわしな言い方を要約すれば、昨日の騒ぎをなかったこととして収めたいとのことでした。

 この祝いの式典の責任者は王太子様だそうで、自分の采配にケチを付けたくないそうです。

 ですから、昨日のことはその場に居た皆様には、バカ王子が祝杯が進みすぎた上での行き過ぎた冗談だということになったそうです。と、いうか、そうしたんだそうです。

 私は哀れ、その冗談に巻き込まれた被害者という体裁なので、昨日引き上げた目録だけでも元に戻して欲しいそうです。実際には、祝いの品は送らずともよいとのことです。

 他にも口裏を合わせるとか、台無しにされたドレスとか細かい取り決めがあったのですが、祝いの品にかかる予定だった金額を使わないですむという点が私に王太子の申し出を受けさせました。

 お金は大事です。




 と、バカ王子と勇者の婚礼の式典は、私にとって大変な目にあった忌まわしい記憶となりました。

 所詮、私は甘やかされて育てられた貴族の娘です。

 王となるために育てられた王太子の腹芸に、端から勝てるわけがなかったのです。

 あの日、バカ王子との事件処理の時、もっと慎重になっていればと悔やみます。

 湾曲表現で提示された案件まで、私は受け取ってしまったのです。

 それは、リオネルが守った街がある領地を治める貴族のこと。

 どうやら、私が折った死亡フラグは、その貴族の下に行ったらしく、現在100歳の大台にのる男性しか生き残っていないそうです。

 その男性も不治の病により、余命幾許もないとのこと。年齢を考えれば大往生ともいえますが。

 で、男性が亡くなると、その領地は慣例に則り、王家へと返納され、何かの折には貴族へと下賜されます。

 ですが、さんざん魔物に荒らされた領土を返されたところで、王家には旨みなどありません。

 以前のように戻る頃には、貴族に下賜することになり、費用だけが出ていくからです。

 今の段階の下賜も、厭われるだけで意味がありません。

 そんな不良物件を押し付ける相手を探していたところ、私が王太子の視界に入ってしまったのでした。

 祝いの品を納めなくていいといったのは、こちらの復興費用に当てろということだったのですね。

 実際に下賜されるのは、男性が亡くなられてからのことですが、それまでに下賜するだけに値する実績を私には積んでもらう、とのことです。

 そのうち、ちょうどいい仕事を与えるそうなので、それまでは王太子の4歳となる王子様の子守り役と王太子妃の話し相手として城に勤めることになりました。

 ちゃんと給金も支払われるそうです。

 傍から見れば、もの凄い厚遇ですよ

 いい迷惑ですね。

 でも断れないのです。

 バカ王子の時みたいに、反発するだけの気力も湧いて来ませんでした。

 降参です。


●ヴィクトール

「ゲーム」攻略難易度:難しい

 傍若無人な第二王子。大体のことが簡単に人並み以上にできてしまう為、出来ない者の苦しみがわからない。

 少々暴力的な面があり、素手の攻撃力No.1。

 親密度上昇イベントの多くが別のキャラと二者択一な選択肢なので、股がけプレイを困難としている。

 中の人同士が夫婦になったためか、公式イチオシのカップルである。


「本編」

 見事アンジェリカの心を射止めた幸せもの。

 ただ、アンジェリカのフラグ製造レベルが高すぎるせいで、未だ相思相愛でいる自信がいまいち持てずにいる。

 その不安が、周囲に暴力として表れたりするので、周りの人達を悩ませている。

 今回の事件のせいで、イレーヌとは修復が難しいレベルまで悪化してる。

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