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後世の歴史好き

 机の上に一枚のメモがある。

 私は思わず手にし、読んでみた――――




 後世の歴史書(真贋問わず)より抜粋




 ●アンジェリカ

 女神の意思の代行者。魔王を倒せし者。勇者。

 山間部の村、騎士の娘として生まれる。

 学園在籍中に、女神により勇者として選ばれる。

 魔王討伐に同行した王子ヴィクトールと結ばれた。

 その討伐の旅は後に、多くの人の手により戯曲や小説などになり広まる。

 23歳の時、第一子テオドールを産む。

 38歳、流行病により死去。


 ●リーリア

 古代の魔王に対抗するために生み出されたもの。聖女。

 国境付近の村に拾われた後、魔王復活を望む魔族によって命を狙われる。

 魔族復活を阻止するため、その身を投げ出し女神降臨の奇跡を起こす。

 奇跡の代償として、リーリアはその生命を散らしたとされる。


 ●イレーヌ

 バッヘム侯爵夫人。

 戯曲「二人の聖女」にて主人公を苛める敵役の印象が付いて以降、勇者アンジェリカに関する創作物では敵役という扱いが多い。

 史実においては、討伐後の復興をいち早く成し遂げた名領主であり、当時の王太子妃やアンジェリカの相談役も務めた。

 騎士団長レオナルドを夫に持ち、一男一女をもうける。


 ●レオナルド

 バッヘム侯爵。

 勇者アンジェリカと同郷で、彼女から兄のように慕われていたという。

 聖女リーリアの一件後、王家の勧めでバッヘム家の養子になる。

 領地運営を妻に任せ、自身は騎士団の立て直しに尽力した。

 騎士団長を務めた後、学園での剣術指南役を再度任されることになる。


 ●リオネル

 銀の守護者。

 その剣の腕は並ぶものなし、と言われるほどだった。

 レオナルドの後に、騎士団長となる。

 創作物においては、何故アンジェリカの旅に同行しなかったかの解釈で意見が分かれる。


 ●ドミニク

 バダンテール侯爵。イレーヌの実弟。

 姉の結婚を機に、家を継ぐ。在学中に知り合った王女と、紆余曲折を経て結婚することになる。

 卒業後もヨハンとの付き合いは続いた。


 ●ヨハン

 天才魔術師。灰色の脳細胞。

 幼い頃から天才と言われ、様々な魔法を生み出した。

 その頭脳の冴えは、魔法以外の分野でも活躍し、天才の呼び名に相応しい人物だった。

 学園時代に知り合ったドミニクとの逸話の数々は、後世の創作物の格好の題材となっている。


 ●ヴィクトール

 苛烈大公。勇者アンジェリカの夫。

 勇者である彼女の為と思えば、残酷な手段も取ると噂された当時の王子。

 バッヘム侯爵夫人とは仲が悪かったらしく、彼の筆跡と思われる文献には度々彼女の名前と悪口がでてくる。

 戯曲「二人の聖女」は、彼の文献を参考に創作された。


 ●ケイン

 辺境医師。勇者の幼馴染。

 勇者アンジェリカと同じ村出身。心優しく、討伐の旅に於いては勇者の心理的なケアをしていたと言われる。

 討伐後は村へと戻り、医者としての道を歩む。

 彼が道中に書いた手記は、後世の勇者物語の基となっている。


 ●エーリヒ

 苛烈大公の右腕。苦労人。

 ヴィクトールとは幼少からの付き合いとされる。彼の失言癖に苦労させられたらしい。

 勇者の魔王討伐に加わった旅の一行の中で、もっとも長く生きた人。

 テオドールやその子の代まで教育係を務めることになった。


 ●ジャック

 バッヘム家の従者。

 リーリアを保護し、女神降臨の奇跡の場にまで立ち会った彼女の功績を間近で見続けた人。

 後に、一緒に働いていた侍女リアと結婚することになる。


 ●オリヴィア

 薔薇騎士。男装の麗人。

 貴族令嬢でありながら、男性にまじる形で騎士となった。

 女性騎士としてではなく、あくまで男性扱いを受けるよう男装をしていたと言われる。

 後に、騎士団長となったリオネルを公私共に支え続けた。





 ――――メモはここで途切れている。


小ネタその1。

後世の歴史好きの誰かのメモより。

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