思い出の
リクライニングチェアに揺られ、縁側で一日の大半を過ごす。
目を閉じて穏やかな笑みを浮かべる。
はたから見れば、良い夢でも見ていると思われているのだろう。
リーンリーンと言う声は、もうこの耳には届かないけれど、秋になると必ず聴こえる鈴虫の声。それと同時に懐かしい人々の声も蘇る。
あなたと歩んだ人生を辿ってみる。若かった頃の張りのある笑い声。ハツラツとした姿。子ども達の甲高い声。あなたの笑顔。子どもと一緒になって駆け回っていた。
笑ったし怒ったし哀しかったし寂しかったし楽しかった。
一緒に色々経験してきた。そのたびに家族で乗り越えてきた。
今は穏やかに、穏やかに、時は過ぎていくだけ。
思い出の中を生きて行くだけ。
聞こえなくなった耳も、しわしわで骨ばった手も、年を重ねて手に入れた不自由な体も。あと何年付き合えばあなたは迎えに来てくれるのだろう。
止まったように静かに流れる時間。
世界から忘れられてしまったように時はゆっくりと流れるだけ。
ハラハラと枚散る葉。それを巻き上げる木枯らし。
時折夢で会うあなたと私は、出逢ったばかりの初々しい姿。
早く、
会いに来て。




