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冬桜華(とうおうか)
その花は 真冬の しんしんと降り積もる雪の中でも 満開に咲き誇るという
奥深い山の 険しい岩肌を越え
爪先が掛かるだけの 断崖を抜けた先に まるで そこだけ 別世界であるような風景が現れる
そんな秘境の地に 天を目指す大木が 一年中 見事な花を咲かせる
標高が高い為 年中 深い雪に覆われる
天に近い場所は その大木の周りだけ なぜか ほんのりと暖かく 春の陽気に包まれる
鳥や 蝶や 蜜蜂たちが その大木に寄り添うように ささやかな営みを続けていた
ここは 小さな生き物たちの 楽園
ここに息づく者は 外界と閉ざされ 永遠に 出て行く事は 許され無い
ここに住む者たちにとっての 桃源郷
私も この花に魅いられた 一人
もう ここから離れられない
私は ここで 生きて行く
死ぬまで ここで 生きて行く




