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3 突拍子すぎる展開

” 異世界トリップ ”。


そんな言葉が脳裏に浮かんだ。と同時に頭の芯の辺りがジンと痛くなる。

そのような内容の小説は読んだ事があるし、今自分が置かれているこのおかしな状況も、その一言で全て説明がつく。

けど、まさか自分の身に起こるなんて思えないし、あまりにも話が突拍子すぎて頭の片隅では未だ今のこの状況が夢か何かではないかと疑っている。



「もう一度聞くが、貴様は異界から来たんだな?」


「……はぁ……信じたくないけど……」



金髪野郎のせいでくしゃくしゃになってしまった制服の胸元を直しながら、私は渋々答える。

どうしてこの男は私が異界から来た事に固執するのだろう。さっきも異界から来たのか等、やけにしつこく訊いてきたし。

確かに異世界人が突然現れるなんて、普通に考えたら大事件だけどさ。



「ん?」



両腕に感じた違和感に、私は金髪野郎から視線を外す。

いつの間にか両サイドにハゲコンビがいた。何やらいそいそと、私の両手首を後ろで縄か何かで縛り始めている。

なんだこれ。これではまるで、凶悪犯現行犯逮捕の瞬間じゃないか。

突然の彼らの行動を理解出来ず、私は取り敢えず金髪野郎を睨み付けた。



「……ちょっと。何で私縛られてるんですか?」


「貴様が” 預言の娘 ”の可能性があるからだ」


「預言の娘……?」



今も尚青ざめた顔でこちらを見つめている、小太りの男性が先程叫んでいた単語を思い出す。そういえばそんな事も言っていた気がする。

けど、預言の娘だと何故拘束しておく必要があるのだろう。

普通異世界トリップでの預言と言えば、世界を救う巫女の登場とか、そういうむしろ歓迎される設定だと思うのだが――



「――魔王封印100年の後、異界から一人の娘参じ、即ち破滅の道開かんと」


「?」



男性としては割と高めな声色で、金髪野郎は淡々と言った。

結局彼が何を言おうとしているのか理解出来ず、私は次の言葉を待つ。その間にも両手首は拘束完了されてしまった。



「……魔王封印の後の100年後、異界から一人の娘がやって来て、この世界を破滅へと導く。昔からセリナージャで伝わる預言だ。そして今年がその100年目になり、おかしな格好をした貴様が現れた。丸っきり預言通りじゃないか」


「ちょちょちょ、ちょっと待って!」



次々と話を進める金髪野郎に、私は慌てて待ったを掛けた。

今度は展開が急すぎる。



「預言の娘の意味は何となく分かったけど、破滅って一体なに? 私、そんな世界を滅ぼすような力持ってないし、第一トリップヒロインってもっとこう、救世主みたいのじゃないの!? 何でそんな――」



言っている事が支離滅裂になっている気はするけど、本当に考えがまとまらない。

魔王? 封印? 破滅?

世界を滅ぼす存在だから、私はこうして拘束されているの? 滅ぼすって、私生まれも育ちもただの一般人なんだけど。こんなただの女子高生が一体どうやって世界を滅ぼすっていうの?

新たに突き付けられた疑問符が、頭の中でぐるぐると回る。



「……貴様の言っている事はよく分からんが……とにかく、異界の者だと分かった以上野放しにはしておけん。さっさと連れて行くぞ」


「? 連れてくって、どこへ?」



捕獲された 宇宙人の如く、ハゲコンビに両腕を抱えられながら、私は尚も尋ねる。

既に歩き出そうとしていた金髪野郎はやれやれといった動作で振り返り、口を開いた。



「付近の最も大きな街だ。そこで貴様の公開処刑を行う」


「…………は!?」



言葉の意味を呑み込めず、私の思考は一瞬だけフリーズした。が、すぐにどすんと胸に先程の青年の言葉が重く圧し掛かる。



公開処刑……? 意味が分からない。



私の脳裏に資料で見た、市民革命のギロチン台が瞬時に浮かび上がった。

そんなの歴史の教科書や本の中での出来事だ。

大体預言とかそのような事情で、人一人の命が奪える訳がない。何かの悪い冗談に決まっている。

早鐘を打ち始める自らの心臓を叱咤して、私は目の前の金髪野郎を見上げた。そして全身の血の気がみるみるうちに引いていくのを感じる。



……違う。冗談なんかじゃない。この男は、本気だ。



彼の整った唇は一文字を結び、大きな瞳はしっかりと私を見据えている。冷たくも、温かくもない無表情。感情を含んでいないだろうその顔が、本当にこれから私を殺そうとしているのだと実感させた。



「行くぞ」


「! ちょ、ちょっと!!」



金髪野郎が再び踵を返し、歩き出す。それに合わせて、私を支えているハゲオヤジ二人も歩を進め始めた。突然歩き出すものだから足がもつれ掛けたが、両脇のオヤジに引き立たせられ、無理矢理歩行を促される。



「やだっ! 離して!」



無駄だと分かりつつも、私は身を捩じらせ、何とか二人から離れようと抵抗した。が、当然逃げられる訳もなくて。そのままずるずると、半ば引き摺られるようにして私はどこかへ連れて行かれる。


普通小説とかだと、最初は騎士や王子の類に出会って助けられたり保護されたりするのに。私はいきなり殺されちゃうわけ!?

常識に囚われて思考が置いてけぼりになり、焦りは生まれるがいまいち現実味が湧かない。



うそ。私、ほんとにこのままギロチン台で人生終わるの……!?



柄にもなく目頭が少しだけ熱くなり掛けたその時、





「キャアアァァァアア!!」





耳を塞ぎたくなるような女性の金切り声が森に響いた。



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