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12 病み期到来

ほてほてと、知らぬ街の大通りを歩く。


空が青い。青くて、広い。

地球のものと瓜二つなこの空の下に、私の知る人は誰一人いない。知っている地もない。

この世界に、私は独りぼっち。



帰る場所なんて、ハナからないのにね。



勢いに任せて飛び出してきてしまった。

チラリと来た道を振り返ればまだ辛うじて先程いたレストラン(?)が見えるが、魔王が自分を追って来る様子はない。

こちらとは別の方角に向かって私を追って行ったか。もしくは私などに構わず、料理を食べ続けているか。……有り得る。

まぁついて来るなと言ったのは自分なんだけどさ。


小さく息を吐き、再び空を見上げる。


帰る場所なんてないことは、最初から分かっていた。次元が違うのだ。

この街を徘徊したからと言って、家に帰れるわけではない。

けど、理性でそう分かっていても、飛び出さずにはいられなかった。


怖かった。


見知らぬ異世界で拒絶されて、存在理由を見出せなかったことが。

丸裸で真夜中の海に放り込まれたような、そんな気分だった。

ただでさえこの世界との繋がりが、土台が、私にはないのに。その上世界を破滅へと導く存在とか言われて突き放されて、恐怖心を覚えないわけがない。

現に魔王の封印を解いてしまい、私の恨まれるべきポジションは確立しちゃったわけなんだけど。


昨夜の白装束集団を思い出し、ぶるりと身震い。


そうだ。すっかり忘れていた。

私は昨夜、人間にも殺されかけたんだった。

あの顔だけ美形の金髪野郎に堂々と公開処刑宣言をされたのを、偶然現れた魔物と、あの魔王のお陰で何とか回避したのだ。

っていうか、よくよく考えたら自分は追われる身なんじゃないか? 逃げてきちゃったわけだし。きっと今頃、金髪野郎たちは私と魔王を血眼になって探しているだろう。



ほんと、絶望的な状況ってのはこのことだよなぁ……。



はふぅと溜息を吐いた後、何となしに正面へ視線をやる。そして、私は凍り付いた。



し、白装束……!?



大通りの正面から神父さんのような教会関係者らしき男が2人、歩いて来ていた。

昨夜金髪野郎たちが着ていたのと、ひどく似通った白装束の服だ。

私たちを追って来た、奴らの仲間だろうか。

我知らず心臓が早鐘を打ち始める。


だいじょうぶ。だいじょうぶだ。落ち着け、私。

まだ奴らの仲間だって決まったわけじゃないし。

仮にそうだとしても、今は上着で制服は隠れているし、昨日あの森の中は真っ暗だった。最初に出会った金髪野郎とオッサン2人以外、私の顔はよく見えなかったはず。

私が魔王の封印を解いた、異界の人間だってことは分からない。ぜったい。……たぶん。


小さく深呼吸した後、極めて平静を装い、彼らが向かって来る方向へ歩を進める。

大丈夫とは分かっていても、顔は念のため伏せて――って、



げぇッ!?



靴、上履きのままじゃんかぁ! 視線を落とすまで全然気付かなかった。

いやいや、でも周りにこれだけ人がいるし。いちいち他人の足元なんて見ていないだろう。

だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょう…………



気付いたときには右向け右。

私は白装束の二人組とすれ違うより前に、右手に見えた薄暗い路地裏へとほぼ直角カーブした。

はい、逃げたとも言います。だって万が一ってこともあるじゃないか。私は慎重な女なのだ。チキンとでも何とでも言いやがれ。


数歩進み、大通りの喧騒が遠くなった頃合にチラリと後方を振り返る。

明るい大通りを、白装束の男二人が通過して行くのが見えた。私のことには気付いていないと思う。私はほっと胸を撫で下ろした。


しかしこれからどうしようか。

人通りの少ない……というか全く無い、両サイドの建物によって日光の遮られた道を進みながら考える。

魔王の元へ戻るのも、あんな態度をとってしまった建前し辛い。いや、それ以前に理不尽にぶちギレた私のことなんて忘れて、彼は既にこの街から去っているかもしれない。



あれ、もしかして今ヤバい状況……?



さあぁっとお腹の辺りが冷たくなるのを感じる。


あんな態度をとられたら、怒らない訳がない。っていうか、私だったら怒る。いや、怒るを通り越して呆れるだろう。そして呆れて私みたいなしょうのない奴なんて放っておいて、何処かへ行ってしまうかも。


どうしよう。


こんな知らない街に放置されちゃたまらない。

それ以前にここは異世界。道なんて到底分からないし、お金も無い。字も読めなければ、一般常識も分からない。加えて魔物や私を追う白装束集団の存在。命の危険に晒されることなんて常だ。

そんな地で、こんな小娘一人で生きていける訳がない。



戻らなきゃ。謝んなきゃ。



今度ははっきりと、そう思った。

保身的な考えだけれど、私が今頼りに出来るのはあの男だけ。今彼に見捨てられてしまったら、飢え死にか、魔物に殺されるか、果ては金髪野郎に首ちょんぱか。いずれにせよ、死という最悪のゴール地点が目に見えている。



許してくれるか、分かんないけど。まだあの店にいるかも、分かんないけど。



くるりと踵を返し、大通りの方へ向かって駆け出す。







――バンッ

「へぶッ!?」





全身に衝撃が伝わると同時に、脳裏には火花が散った。

一体なにが起こったのだろう。私はつい5秒程前までは大通りへ向かって走っていたと言うのに。それが今は薄暗い路地裏に倒れ込んでいる。加えて体の左半分がものすごく痛い。ズキズキ痛むぞ。こんちくしょーめ。



「すまない、無事か?」



ゴツゴツとした石畳に頬を寄せながら痛みに悶絶していると、頭上から声を掛けられた。

ちらりと視線を向けると、視界に入るのは自分の脇に佇む白い靴を履いた脚と開け放たれた扉。

嗚呼なるほど。この人がそこの家から出て来て、丁度扉の前に走って来た私がいたのか。んでもってクラーッシュってわけね。どんだけタイミング悪いんだよ自分。



「あ、はい。だいじょうぶです……ありがとうございま――」



私に激しい一撃を喰らわせた何者かが手を差し出してくれたから、お言葉に甘えてその手に自らの手を重ね合わせる。が、同時に私の脳内はフリーズした。

だって、その手の主の顔を見てしまったから。


襟足まで伸ばした金色のブロンドヘアー。

目鼻立ちの整った顔。

エメラルドグリーンの切れ長の瞳は、驚いたように見開かれている。

しかし次の瞬間、その瞳は鋭く歪められ、



「ッ……いたッ!?」


「漸く見つけたぞ。貴様、昨夜はよくもやってくれたな」



手首を掴まれ、私は男に無理矢理引き立たせられた。



なんということでしょう。


金髪野郎と、感動の再会。ぐはあ。


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