7話 苦手
朝食を済ませ、アルバとフランは静かにお茶を飲みながらくつろいでいた。そこに、先ほどまであった警戒心は無く、ゆったりとした和やかな空気が流れていた。きっと、お互い抱えている胸の内を伝えられたからだろう。
アルバはぼんやりとカップに入った紅茶を見つめながら、ふと疑問を抱いた。
「フラン。」
「何だ?」
「フランは、どうしてここに来たの?」
フランは窓の外にやっていた視線をアルバに向ける。アルバはまるで幼い子供のようなあどけない表情でフランを見つめていた。
アルバは一見大人っぽい外見をしているが、表情や言動に幼さ見え隠れしている。年齢不詳。魔女らしいなんてフランは思った。
「東の森にいる盗賊と魔獣の討伐のために飛ばされたんだ。」
「ここは東の森っていうの?」
「ああ。サディアス王国の東側に位置しているからな。」
頭の中でアルバは世界地図を思い浮かべてみたが、何も浮かんではこなかった。一般知識はあるが、この世界についての知識は皆無のようだ。
それを見かねてか、フランは苦笑をもらし「今度、地図見せてやるよ。」とアルバに約束した。
「フラン大佐!!!」
バンッとドアを蹴破るようなけたたましい音が館内に響く。ビクリとアルバは肩を跳ねさせたがフランは動じていないようで、何食わぬ顔で出入り口を見ていた。それでも騎士らしく、片手は刀の柄を握っている。
「フラン大佐!ご無事ですか!!」
男性の低い声が聴こえる。フランよりも低い声だ。
フランはよく知ったその声を聞き、刀から手を離した。
「ザン!」
声の主に向かい、フランは声をあげる。ザンとは、たぶん声の主の名前なのだろう。ザンと呼ばれるその男はフランの事を「大佐」と呼んでいたし、フランの部下なのだろうと推測する。アルバは冷静に解釈しながらフランを見つめた。
しばらく待つと、軍服を身に纏った背の高い男が室内にドタバタと入って来た。
「フラン大佐!ご無事で何よりです。」
「ザンこそ。他の奴らはどうした?」
「館の外にて待機しています。」
「そうか。」
そこで初めて、男はアルバに視線を向けた。アルバは椅子に腰掛けたままの姿勢で男を観察する。この男がザンという人なのだろう。
ザンはフランよりも幾分か背が高く、ガッシリとした筋肉質な体型をした男だ。高い位置で結われた銀の髪がゆらりと背に流れている。切れ長のグレーの瞳は鋭く細められていて、目つきが悪い。しかし、綺麗な顔立ちをしていた。フラン程甘さはないが、中性的な顔立ちをしている。
ザンはあからさまに怪訝な表情を浮かべた。
「こちらの方は?」
鋭い視線がアルバを突き刺す。居心地の悪さを感じながらもアルバはいつもの無表情でその視線を流した。
「アルバだ。この館で見つけて保護することにした。詳しいことは後で説明する。」
ジッとザンはアルバを見つめた。胸に妙なざわめきを感じる。ザンは普通じゃない何かアルバから感じていた。
「…訳ありですか。」
「そんなところだ。アルバ、こいつは俺直属の部下のザンだ。」
「サディアス王国騎士団、フラン隊所属のザン大尉だ。」
「………アルバです。」
ぽつりとアルバは言った。それにまたザンは顔をしかめる。あからさますぎる嫌悪だった。アルバもアルバでそんなザンを見て少し顔をしかめる。
この人、苦手だ。と初対面ながらもアルバは思った。