5話 雷鳴
嫌な沈黙が二人の間に降りる。
アルバの予想だにしない答えにフランは難しい顔をした。窓の外ではゴロゴロと雷鳴が轟く。その音が、やけに雰囲気を醸し出していた。ちかちかと暗い窓の外から光をちらつかせる。
突然、ドンッと一際大きな音が落ちる。
「…っ!」
音と同時にアルバの肩が大きく跳ねた。そのことにフランは驚く。
まさか、雷が、恐い…?
無表情なのは変わりないが、目を凝らしてよく観察してみればキャミソールのワンピースのせいでむき出しになっている細い肩が微かに震えている。先ほどから顔色も悪い。感情表現な苦手なのだろうと思っていたが、ちゃんと見ていればアルバはちゃんと感情を表に出している。
なんだか先ほど警戒心をむき出しにしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
フランは肩の力を抜き、表情を和らげた。それから、自分の隣をぽんぽんと手でたたく。
フランの行動がわからず、アルバは首を傾げた。
「恐いんだろ。雷。」
「え?」
「我慢してないで来いよ。隣。」
ちょっとだけ驚いた表情をするアルバ。仕方も無い。目の前の男は先刻、突然自分を殺そうとしていたのだ。そんな人物に突然優しくされたら、どうすれば良いかわからなくなる。
「でも……ひっ!」
再び大きな音が落ち、アルバは小さな悲鳴をあげた。恐くてどうしようもなくなったアルバは怪訝な表情を浮かべつつも早足でベッドへと近づく。ポスリと若干フランから遠い位置に腰掛け、膝を抱えた。
アルバからのあからさまな警戒心にフランは少し微妙な気持ちになる。仕方が無いとは思うけれども。
沈黙の中、フランは改めてアルバを見つめた。
どこを見ているのかわからない、朧げなシルバーの瞳。暗がりでも目立つ魅惑的な唇。腰まで流れる艶やかな黒髪。髪と同じ色のキャミソールワンピースから覗く白い肌は艶かしい。肩も、腕も、ワンピースの裾から惜しげもなくさらけ出されている長い足も、細い。そして魅力的だ。
まるで人形のような美しい女。
フランはフランで大佐という立場であり、富も、力もある。高い身長に美形というオプションも付けばその辺の女は放っておかないであろう。フランはモテる男だった。
今までたくさんの女に出会って来て、その中にも美しい女は何人もいた。だが、アルバほど人間離れした女は初めてだった。
ジッと観察していると、アルバは突然左手を持ち上げ、パチンと一つ、指を鳴らした。
それと同時に、壁に備え付けられているランプが明かりを灯される。
「魔女、って言ってたっけな。そういえば。」
ランプに灯された炎がゆらりと揺れた。
「魔女とか、まるでお伽噺みたいだな。」
"魔女"。この世界では異質な存在。フランは、不思議な気分になった。
「………うん。」
その夜、雷鳴を聞きながら二人は夜を明かした。